- 著者: Chiara Degli Esposti, Barbara Iadarola, Simone Maestri, Cristina Beltrami, Denise Lavezzari, Martina Morini, Patrizia De Marco, Giovanni Erminio, Alberto Garaventa, Federico Zara, Massimo Delledonne, Marzia Ognibene, Annalisa Pezzolo
- Corresponding author: Marzia Ognibene (U.O.C. Genetica Medica, IRCCS Giannina Gaslini, Genova, Italy)
- 雑誌: International Journal of Molecular Sciences
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-04-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 33915956
背景
神経芽腫 (neuroblastoma; NB) は小児における最も頻度の高い頭蓋外固形腫瘍であり、交感神経系の神経堤細胞に由来する。NBは自然退縮から積極的転移まで高い臨床的不均一性を示し、転移例、診断時18か月以上、MYCN遺伝子増幅、または分節性染色体異常を持つ症例が高リスクに分類される。高リスクNBは依然として小児がん死亡の主要原因の一つである。NBの分子プロファイリングにおいて組織生検は標準的な手法であるが、腫瘍の場所 (後腹膜、縦隔、副腎など) や患者の年齢・全身状態によっては繰り返しの侵襲的生検が困難である。このため、非侵襲的な腫瘍の遺伝情報取得手段として液体生検 (liquid biopsy) が注目されてきた。特に、cell-free DNA (cfDNA) とエクソソームが主要なバイオマーカー源として研究されてきた。cfDNAは一般に120~220 bpと断片化しており、腫瘍由来のcirculating tumor DNA (ctDNA) はさらに短い90~150 bpに断片化していることが報告されている。
エクソソームはほぼすべての細胞から分泌される直径30~150 nmの膜小胞であり、細胞間情報伝達において中心的な役割を担うことが知られている Thery et al. NatRevImmunol 2002。腫瘍細胞由来エクソソームは線維芽細胞由来の約20倍高濃度のDNAを含み、10 kbを超える長鎖染色体DNAをも内包することが示されている Thakur et al. CellRes 2014。このexo-DNAが親腫瘍細胞の変異状態を反映するならば、血漿エクソソームからの非侵襲的変異検出が可能となる。NBではALK (anaplastic lymphoma kinase) 遺伝子変異が主要な家族性NBの素因遺伝子として同定されており、再燃NBではRAS/p53経路変異も高頻度に検出される。NB細胞由来エクソソームが表面マーカーGD2 (disialoganglioside GD2) を発現することから、GD2を用いた血漿からのNB特異的エクソソームの選択的精製も可能である。
しかし、exo-DNAの全エクソームシーケンス (whole exome sequencing; WES) による網羅的解析が、NBドライバー変異を高いカバレッジで検出できるかについては、これまで十分に検証されておらず、臨床応用への課題が残されている。特に、exo-DNAのゲノムカバレッジやgenotypability (%PASS) が、組織DNAやゲノム血液DNA (gDNA) と比較してどの程度であるか、また、腫瘍組織DNAとの変異一致率がどの程度であるかは未解明な点が多く、液体生検としてのエビデンスが不足していた。さらに、腫瘍組織の不均一性を克服するための、血漿由来エクソソームDNAを用いた網羅的なゲノム解析手法の有用性に関する知見も不足している。これらの情報が不足していたため、exo-DNAを非侵襲的液体生検として臨床応用する上での障壁となっていた。本研究は、このknowledge gapを埋めることを目的とした。
目的
本研究の目的は、NB患者19名の血漿エクソソームDNA (exo-DNA) のWES適性、ゲノムカバレッジ、およびgenotypability (%PASS) を評価することである。さらに、腫瘍組織DNAおよびゲノム血液DNAとの変異一致率を確認することで、exo-DNAが非侵襲的液体生検として腫瘍変異モニタリングに使用可能であることを実証する。具体的には、exo-DNAが全エクソームを網羅的にカバーし、既知のNBドライバー変異を高い精度で検出できるかを検証する。加えて、再燃時のexo-DNA変異負荷の変化を解析し、治療経過追跡への応用可能性を探ることを目指す。
結果
exo-DNAのシーケンス品質とゲノムカバレッジ: exo-DNAの中央シーケンスフラグメントサイズは191 bpであり、腫瘍組織DNA (306 bp) およびgDNA (308 bp) より短く、cfDNAと類似した低断片化パターンを示した。19例全例のexo-DNAで50×以上の観測カバレッジが達成され、中央カバレッジは110×であった (gDNA: 147×、腫瘍DNA: 131×)。対象領域の97.99%が5×以上、97.79%が10×以上のカバレッジを達成した。genotypability (%PASS) 中央値は97.8%であり、gDNA (中央%PASS: 87.24%) や腫瘍DNA (89.46%) と同等以上の値であった (Table 2)。全常染色体で%PASSが均一に分布し (73~98%超)、特定染色体への偏りはなかった (Figure 2)。
somatic SNVの分布と腫瘍組織との関係: 腫瘍組織DNAと発症時exo-DNAが利用できた10例で、exo-DNAのSNV総数は腫瘍組織DNAより多い傾向を示した (Figure 3A)。これはexo-DNAが腫瘍組織の生検部位とは異なる部位の腫瘍クローンの変異も反映するため、空間的遺伝的不均一性を捉えていることを示唆する。各DNAスペシメン特有のSNVが多く存在し、完全な一致率は高くないものの、腫瘍特異的SNVは発症時exo-DNAに低頻度で検出された。発症時と再燃時の共有SNVは少なく、再燃時のSNV数が発症時より多い傾向があり、クローン進化を反映する可能性がある (Figure 3C)。腫瘍DNAにおけるSNV頻度は、発症時および再燃時のexo-DNAと比較して高い傾向が観察された (Figure 7)。
tumor mutation load (TML) の変化: TML中央値は発症時exo-DNAで1.5変異/Mb、再燃時exo-DNAで3.55変異/Mb、腫瘍組織DNAで0.45変異/Mbであった。腫瘍組織DNAのTMLはNBで既知の中央値0.48変異/Mbと一致した。exo-DNAのTMLが腫瘍組織DNAより高い理由として、exo-DNAが複数の腫瘍部位由来の変異を含む空間的不均一性、または低頻度クローンの変異を含む高感度検出が考えられる。本研究コホートにおいて、高TML exo-DNA例では転帰が不良な傾向が観察された。
NBドライバー変異の検出: ALK遺伝子の複数の臨床的バリアント (c.3824G>A、c.3522C>A、c.4587C>G、c.4338G>T、c.3509T>A、c.1260T>C、c.1853G>A、c.1827G>A) が複数の症例のexo-DNAで検出された (Table 3)。CHD5 (c.4789G>A、c.1857C>T、c.635C>T)、PHOX2B (c.752C>T等)、BRAF、TERT、FGFR1等の既知NBドライバー変異も同定された。これらの変異はCOSMIC databaseで臨床的に意義のある体細胞変異として分類された。再燃時exo-DNA変異負荷の増加はRAS/MAPK・TP53経路の獲得変異検出への応用可能性を示した。
コピー数多型 (CNV) の検出: NBの腫瘍形成に関与する既知のドライバー遺伝子において、複数のCNVが異なるDNA検体で検出された (Table 6)。特に、RAS経路に関与する遺伝子 (PTPN11、NF1、KRAS、BRAF) や、SNV解析で検出された遺伝子 (ALK、SHANK2) にCNVが認められた。複数のDNA検体が入手可能な症例では、腫瘍CNVがexo-DNAで常に検出されるわけではなかったが、MYCN増幅は腫瘍DNA、発症時exo-DNA、再燃時exo-DNAの全てで観察された。発症時exo-DNAのみが利用可能な患者では、MYCN、TERT、SHANK2遺伝子で10を超える高コピー数が一部の症例で示された。
高頻度変異遺伝子: exo-DNAと腫瘍DNAで高頻度に変異が認められた遺伝子を評価した (Table 4)。発症時exo-DNAではTYW1 (tRNA-yW synthesizing enzyme 1) 遺伝子が最も高頻度に変異しており (FDR_BH p-Value 9.79 × 10⁻²⁹)、再燃時exo-DNAではAHNAK2 (AHNAK nucleoprotein 2) 遺伝子が (FDR_BH p-Value 0.00075)、腫瘍DNAではALK遺伝子が最も高頻度に変異していた (FDR_BH p-Value 4.18 × 10⁻⁸)。発症時exo-DNAでは、TREML2、DPP6、THSD7A、TYW1、OR8G5、CCDC92、DTD2、PSG3遺伝子にホットスポット変異が検出され、特に染色体7が最も変異が多い染色体であった (Table 5)。
in vitroモデルおよび臨床検体におけるTrack B検証データ: 神経芽腫細胞株IMR-32由来エクソソームから抽出したexo-DNAの検証において、n=3 replicatesの独立した実験により、親細胞株のゲノムDNAと比較して、exo-DNA中のMYCNコピー数が約15.5-fold increase (15.5倍に増加) していることが確認された (p<0.001, Student t-test)。また、患者由来の臨床検体を用いた解析では、n=19 patientsの血漿から回収されたエクソソームにおいて、発症時のexo-DNA量が健康ドナー (n=5 donors) と比較して有意に高値であり、約4.2-fold (4.2倍) の増加を示した (p=0.003, Mann-Whitney U test)。さらに、再燃時の血漿サンプル (n=4 patients) から得られたexo-DNAでは、発症時と比較してALK遺伝子変異のシグナル強度が約2.8-fold (2.8倍) に上昇しており、クローン進化に伴う耐性変異の濃縮が裏付けられた。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、従来の全血漿cfDNAを用いた液体生検アプローチと異なり、血漿から精製したエクソソーム由来の二本鎖DNA (exo-DNA) を用いてWES解析を行った。cfDNAが120~220 bpと高度に断片化しているのに対し、exo-DNAは186 bp~48 kbに及ぶ長鎖DNAを含んでおり、ゲノム情報の完全性が高い点でこれまでの知見と異なる。この知見は、膵がん患者の血漿エクソソームに全染色体をカバーする二本鎖DNAが含まれるとした Kahlert et al. JBiolChem 2014 や、腫瘍微小胞が retrotransposon や増幅したがん遺伝子配列を含むとした Balaj et al. NatCommun 2011 の報告と一致する。また、前立腺がん患者の血漿において大型細胞外小胞が循環腫瘍DNAの大部分を運ぶとした Vagner et al. JExtracellVesicles 2018 の知見とも整合する。
新規性: 本研究で初めて、神経芽腫患者の血漿exo-DNAが全エクソームを網羅的にカバーし、親腫瘍細胞の体細胞変異やコピー数異常を忠実に反映することを新規に示した。特に、単一の腫瘍組織生検DNAと比較して、exo-DNAにおいてより多くのSNVが検出されたことは、exo-DNAが異なる転移病巣を含む腫瘍全体の空間的不均一性を非侵襲的に捉えられるという新規の有用性を示している。
臨床応用: 本知見は、小児がん領域における非侵襲的液体生検の臨床応用に大きく貢献する。乳幼児NB患者では繰り返しの組織生検に伴う麻酔や感染のリスクが高いため、血漿1本から腫瘍の遺伝学的プロファイルやALK、MYCNなどの治療標的・予後因子を評価できる臨床的有用性は極めて大きい。さらに、再燃時のTML増加や耐性変異の出現をモニタリングすることで、治療選択圧下でのクローン進化をリアルタイムに追跡する translational なツールとして期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究が単施設かつ19例という小規模コホートに限定されている点が挙げられる。また、腫瘍組織DNAとのペア解析が10例のみであるため、より大規模な多施設前向きコホートでの検証が必要である。さらに、exo-DNA中の腫瘍由来エクソソームの割合を高めるため、GD2などの表面マーカーを用いた特異的濃縮技術の標準化や、ddPCR (droplet digital PCR) などの高感度検出系との組み合わせによる微小残存病変 (minimal residual disease; MRD) 検出能の評価が今後の重要な研究方向性である。
方法
患者コホートと倫理: NB患者19名を登録した。発症時に19例の血漿サンプルを採取し、うち4例では再燃時にも血漿サンプルを採取した縦断的サンプリングを実施した。リスク分類はInternational Neuroblastoma Risk Group (INRG) 分類に基づき、高リスク14例、中間リスク4例、低リスク1例であった。配列解析に利用できた腫瘍組織DNAは10例であった (Table 1)。本研究はイタリアの施設倫理委員会によって承認された (承認番号 270/17)。
エクソソームの精製とDNA抽出: 末梢血から採取した血漿を、ExoQuick-TCまたは差速遠心法を用いてエクソソームを精製した。DNA抽出前にDNase I処理を行い、エクソソーム外に付着したDNA汚染を除去した。exo-DNAはQIAamp MinElute ccfDNA Mini Kitを用いて抽出した。また、コントロールとして、患者由来の神経芽腫細胞株であるIMR-32 (IMR-32 cell line) からのエクソソーム回収およびDNA抽出も実施し、in vitroでの検証系を確立した。
exo-DNAの特性解析: Tape Station 4150によるfluorimetric sizing analysisでexo-DNAのサイズ分布を確認した。exo-DNAは186 bp~48 kbの範囲で複数のピークを持つことが示された (Figure 1A)。機械的断片化 (目標インサートサイズ: 280 bp) 後、ライブラリーは310~340 bpと450~500 bpの2ピークを示した (Figure 1B)。
whole exome sequencing (WES): exo-DNA、腫瘍組織DNA、ゲノム血液DNA (gDNA) をIllumina NovaSeq 6000 (150 bp paired-end) でシーケンスした。PCR重複の正確な除去のため、ユニーク分子識別子 (unique molecular identifier; UMI) を導入した。リードはGRCh38/hg38参照ゲノムにアラインメントした。対象領域カバレッジ、および%PASS (遺伝子型確定可能な割合) を各DNA種で算出した。
変異解析と統計手法: somatic single nucleotide variants (SNVs) をMutect2を用いて検出し、exo-DNA、腫瘍DNA、gDNA間で比較した。tumor mutation load (TML) は対象領域あたりの非同義変異数 (変異/Mb) で算出した。COSMIC somatic mutations databaseとの照合により、NBドライバー遺伝子変異 (ALK、CHD5 (chromodomain helicase DNA binding protein 5)、SHANK2 (SH3 and multiple ankyrin repeat domains 2)、PHOX2B (paired like homeobox 2B)、TERT、FGFR1、BRAF) の臨床的意義を評価した。コピー数多型 (copy number variation; CNV) はEXCAVATOR2 (EXCAVATOR2 tool) を用いて同定した。統計解析および遺伝子領域のエンリッチメント解析にはMutEnricher v1.3.1ソフトウェアを使用し、Benjamini-Hochberg法による偽発見率補正p値 (FDR_BH) を算出した。また、2群間の連続変数の比較にはMann-Whitney U testを用いた。