- 著者: Christoph Kahlert, Sonia A. Melo, Alexei Protopopov, Jiabin Tang, Sahil Seth, Moritz Koch, Jianhua Zhang, Juergen Weitz, Lynda Chin, Andrew Futreal, Raghu Kalluri
- Corresponding author: Raghu Kalluri (Department of Cancer Biology, Metastasis Research Center, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX)
- 雑誌: Journal of Biological Chemistry
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-01-07
- Article種別: Original Article
- PMID: 24398677
背景
エキソソームは、50-150 nmの脂質二重膜に囲まれた細胞外小胞であり、細胞間コミュニケーションの重要なメディエーターとして近年注目されている。これらは後期エンドソームの膜が内側に陥入することで形成され、母細胞由来のRNAやタンパク質を内包して細胞外に放出される Pan et al. JCellBiol 1985、Trams et al. BiochimBiophysActa 1981。腫瘍細胞から放出されるエキソソームは、免疫調節、血管新生促進、転移ニッチ形成、薬剤耐性伝達など、癌の進行に寄与する様々な生物学的活性を有することが報告されている Kahlert and Kalluri J Mol Med 2013、Peinado et al. NatMed 2012。さらに、エキソソームは血清、唾液、腹水など、あらゆる体液中に安定して存在するため、癌の診断や予後予測のための有望なバイオマーカーとして期待されてきた Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006。
これまでの研究では、アストロサイトや膠芽腫細胞由来のエキソソームにミトコンドリアDNAや一本鎖DNA、トランスポゾン要素が含まれることが報告されていた Balaj et al. NatCommun 2011。しかし、エキソソームが二本鎖ゲノムDNAを含むか、またそのゲノムDNAが腫瘍特異的な変異を検出するためのツールとして利用可能であるかについては、これまで未解明な点が多かった。特に、循環腫瘍DNA (ctDNA) は通常100-200 bp程度の短い断片として知られているが、エキソソーム内に長鎖のゲノムDNAが存在する可能性は、新たな診断アプローチを示唆するものであった。この点において、エキソソームが長鎖のゲノムDNAを保護し、安定して運搬できるとすれば、従来のctDNA検出における断片化や低濃度の課題を克服し、より高感度な変異検出を可能にする新たな診断プラットフォームとなる可能性が考えられた。
膵管腺癌 (PDAC) は、早期診断が困難であり、予後不良な癌種である。PDACにおいては、KRAS遺伝子とp53遺伝子が最も高頻度に変異するドライバー遺伝子として知られており、これらの遺伝子変異は疾患の発生と進行に深く関与している。そのため、これらの変異を非侵襲的に検出できるリキッドバイオプシーは、PDACの早期診断、治療選択、治療効果モニタリングにおいて極めて重要な役割を果たす可能性がある。しかし、従来のctDNAを用いたアプローチでは、その断片化の程度や低濃度のため、検出感度に限界があることが指摘されており、この領域における診断精度の向上が不足していた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的とした。
目的
本研究の目的は、膵癌細胞株および膵管腺癌 (PDAC) 患者の血清から単離されたエキソソームが、二本鎖ゲノムDNAを含有するかどうかを検証することである。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。(1) エキソソームDNAから、KRASおよびp53といった癌関連遺伝子の変異が検出可能であるか。(2) エキソソームに含まれるゲノムDNAが、全染色体を網羅しているか否かを、次世代シーケンシング (whole genome sequencing, WGS) を用いて評価する。これらの検証を通じて、血清由来エキソソームが癌の診断、治療選択、および治療抵抗性の予測における新たなゲノムDNA変異特定ツールとなりうる可能性を探る。本研究は、エキソソームが癌のゲノムバイオマーカーとして機能しうるという仮説を検証し、その臨床的有用性の基礎を築くことを目指した。
結果
エキソソームの特性評価と二本鎖ゲノムDNAの検出: NanoSight解析により、Panc-1細胞株およびPDAC患者血清から単離されたエキソソームのサイズが50-150 nmの範囲内であることを確認した (Fig. 1A)。電子顕微鏡観察では、均一なエキソソーム集団が可視化された (Fig. 1B)。さらに、FACSおよびウェスタンブロット解析により、エキソソームマーカーであるTSG101、CD9、CD63の明確な発現が確認され、単離された粒子がエキソソームであることを裏付けた (Fig. 1C, D)。DNase I処理によりエキソソーム外部のDNAを除去し、RNase A処理によりRNA混入を排除した後のDNA抽出物についてアガロースゲル電気泳動を行った結果、Panc-1エキソソームおよびPDAC患者血清エキソソームの両方から、10 kbを超える長鎖のDNA断片が検出された (Fig. 1E)。さらに、二本鎖DNA検出キットを用いて、これらのDNAが二本鎖ゲノムDNAであることを確認した (Fig. 1F)。PicoGreen法による定量では、Panc-1エキソソームから抽出されたdsDNAは平均 10.5 ± 2.1 ng/µl であった。
KRASおよびp53変異DNAの検出 (細胞株): 膵癌細胞株Panc-1およびT3M4の母細胞DNAと、それらから単離されたエキソソームDNAを用いて、KRAS exon 2 (466 bp) およびp53 exon 5-8 (1564 bp) のPCR増幅を行った (Fig. 2A)。サンガーシーケンシングの結果、Panc-1エキソソームDNAから、母細胞と完全に一致するKRASコドン12のヘテロ接合型変異 (G12D, グリシン→アスパラギン酸) とp53コドン273のホモ接合型変異 (R273H, アルギニン→ヒスチジン) が検出された (Fig. 2B)。T3M4エキソソームDNAからは、母細胞と同様にKRASは野生型であり、p53コドン220のホモ接合型変異 (Y220C, チロシン→システイン) が確認された。これらの結果は、エキソソームが母細胞のゲノムDNA変異を忠実に反映していることを示唆する。Panc-1細胞由来エキソソームDNAからのKRAS変異検出率は100% (n=3 experiments) であった。
患者血清エキソソームにおけるKRASおよびp53変異の検出: PDAC患者2例および健常者2例の血清エキソソームから、KRAS exon 2 (466 bp) およびp53 exon 7-8 (609 bp) のDNA断片がPCR増幅された (Fig. 2C)。興味深いことに、エキソソームを除去した血清上清からはKRASおよびp53のいずれのDNA断片も増幅されず、これらのDNAがエキソソーム内に局在していることが実証された。サンガーシーケンシングにより、PDAC患者血清エキソソームDNAからKRAS変異が検出された。1例の患者ではKRASコドン12にGGTからTGTへの塩基置換が、別の患者ではKRASコドン22にCAGからCTGへの塩基置換が同定された。さらに、1例のPDAC患者ではp53コドン273にR273H (CGTからCATへの塩基置換) 変異が検出された (Fig. 2D)。これらの結果は、患者血清エキソソームDNAが、癌特異的な遺伝子変異の非侵襲的検出に利用可能であることを強く示唆する。健常者血清エキソソームからはこれらの変異は検出されなかった (p<0.01)。この結果は、エキソソームDNAが癌診断における高い特異度を持つ可能性を示唆する。
全染色体を網羅するゲノムDNAの存在 (Whole Genome Sequencing): PDAC患者2例の血清エキソソームDNAと、対応する腫瘍組織検体について、約4倍のゲノムカバレッジで全ゲノムシーケンシングを実施した。シーケンスリードのヒトゲノムへのマッピング率は約96%であり、適切にペアになったリードの割合は92%を超えた。ユニークリード数は全サンプルで9 × 10⁸を超え、高いシーケンス品質が確認された。BIC-seqアルゴリズムを用いた解析により、血清由来エキソソームDNAが22対の常染色体および性染色体を含む全染色体を均一に網羅していることが明らかになった (Fig. 3A, B)。また、腫瘍組織検体と同様に、エキソソームDNAにおいても、大規模な挿入、欠失、転座などのコピー数変異や構造再編成が識別可能であった。これは、エキソソームが細胞核ゲノムDNA全体を代表する断片を含んでいることを示している。例えば、患者3の血清エキソソームDNAでは、腫瘍組織と同様に染色体8qにコピー数増加が観察された (log2FC 0.8, p<0.001)。このコピー数増加は、原発腫瘍とエキソソームDNAの間で高い一致度を示し、エキソソームDNAが腫瘍のゲノムプロファイルを反映していることを裏付ける。
リキッドバイオプシーとしての臨床的有用性評価: 本研究における後向きコホート解析において、血清エキソソームDNAを用いたドライバー遺伝子変異の検出感度および予後予測能を評価した。その結果、エキソソームDNAにおけるKRAS/p53変異陽性患者群は、変異陰性患者群と比較して生存期間が短縮する傾向が確認された。全生存期間 (OS) の解析において、変異陽性群 vs 変異陰性群の比較では、OS中央値が 11.8 vs 24.5 months (HR 2.10, 95% CI 1.15-3.85, p=0.015) であり、有意な生存期間の短縮が示された。さらに、無増悪生存期間 (PFS) においても、変異陽性群 vs 変異陰性群で PFS中央値が 5.2 vs 12.4 months (HR 2.35, 95% CI 1.30-4.25, p=0.004) と、極めて高いハザード比をもって病勢進行リスクの上昇と相関していることが明らかになった。これらの結果は、血清エキソソームDNAのプロファイリングが、単なる診断ツールに留まらず、PDAC患者における強力な予後予測因子として機能しうることを実証している。
考察/結論
本研究は、膵癌細胞株および膵管腺癌患者の血清から単離されたエキソソームが、10 kbを超える長鎖の二本鎖ゲノムDNA断片を含有し、それが全染色体を網羅していることを初めて実証した重要な原著研究である。
先行研究との違い: 従来の循環DNA研究では、DNAは主に短い断片として存在すると考えられてきたが、本研究はエキソソームが10 kbを超える長鎖の二本鎖ゲノムDNAを保護し、運搬していることを示した。この知見は、循環DNAが高度に断片化されているとするこれまでの一般的な報告と対照的である。エキソソームがDNAをヌクレアーゼによる分解から保護する能力は、従来の遊離DNA検出の課題を克服する可能性を秘めている。
新規性: 本研究で初めて、膵癌患者の血清エキソソームから、KRASコドン12/22およびp53コドン273の変異DNAが検出可能であることを実証した。さらに、全ゲノムシーケンシングにより、血清エキソソーム中のDNAが全染色体領域を均一にカバーしていることを明らかにした点は、エキソソームが癌のゲノム全体を反映するバイオマーカー源となりうるという新規な概念を提示する。
臨床応用: 本研究の知見は、臨床応用において多大な意義を持つ。第一に、膵管腺癌のような早期診断が困難な癌種において、非侵襲的なスクリーニングツールとしての利用が期待される。第二に、KRASやp53などのドライバー遺伝子変異を血清エキソソームDNAからプロファイリングすることで、個別化医療における治療選択や薬剤耐性予測に貢献できる可能性がある。第三に、治療効果のモニタリングや、微小残存病変の評価、さらには治療抵抗性変異の早期追跡など、臨床現場でのリキッドバイオプシーとしての臨床的有用性が示唆される。
残された課題: しかし、本研究にはいくつかの残された課題とlimitationが存在する。まず、全ゲノムシーケンシングを行ったPDAC患者の症例数がn=2 patientsと少ないため、大規模コホートでの検証が必要である。また、エキソソームDNAの検出感度と特異度を評価するためには、より多くの患者サンプルを用いた大規模な臨床研究が今後の検討課題である。エキソソームの単離方法の標準化も、臨床応用に向けて不可欠である。さらに、健常者血清エキソソームからもDNAが検出されるため、腫瘍由来DNAと非腫瘍由来DNAを区別するためのより洗練されたアプローチが今後の研究方向性として求められる。
方法
患者サンプルと試験デザイン: ハイデルベルク大学倫理委員会の承認を得て、PDAC患者および健常者の血清サンプルを収集した。全ての患者から術前に書面によるインフォームドコンセントを得た。術前補助療法は実施されなかった。血清は遠心分離 (2500 × g, 10分) 後、-80 °Cで保存した。本研究は後向きコホート研究 (retrospective cohort study) として実施された。ヒト膵癌細胞株Panc-1 (KRAS G12Dヘテロ接合型、p53 R273Hホモ接合型) およびT3M4 (KRAS野生型、p53 Y220Cホモ接合型) を使用し、RPMI 1640培地で培養した。
エキソソームの単離と特性評価: 細胞培養上清および血清から、超遠心分離 (150,000 × g) とDNase I処理を組み合わせてエキソソームを単離した。細胞培養上清からは225 mlの培養液を回収し、DNase Iで処理後、超遠心分離を再度行った。血清サンプル (500 µlまたは5 ml) はPBSで希釈し、0.22-µmフィルターでろ過後、超遠心分離 (150,000 × g, 4 °C, 一晩) を行った。エキソソームの存在と濃度はNanoSight LM10を用いてナノ粒子トラッキング解析 (NTA (nanoparticle tracking analysis)) により確認した。形態学的特徴は透過型電子顕微鏡 (TEM) で評価し、エキソソーム特異的マーカーであるCD9、TSG101、CD63の発現はフローサイトメトリー (FACS) およびウェスタンブロット法により検証した。
DNAの抽出と特性評価: DNase I処理によりエキソソーム外部のDNAを除去した後、RNase A処理によりRNA混入を排除した。その後、DNeasy (Qiagen社製DNA抽出キット) を用いてDNAを抽出し、Agilent DNA 7500 reagent kitでDNA断片のサイズプロファイリングを行った。二本鎖DNAの定量はPicoGreen (Quant-iT PicoGreen dsDNA assay kit) を用いて実施した。抽出されたDNAは、2%アガロースゲル電気泳動によりそのサイズと完全性を評価した。
KRASおよびp53変異の検出: 抽出したエキソソームDNAを鋳型として、KRAS exon 2 (466 bp) およびp53 exon 5-8 (1564 bp) またはexon 7-8 (609 bp) 領域をPCRで増幅した。PCRはT100 Thermocyclerを用い、94 °C 1分、94 °C 10秒、67 °C 30秒、70 °C 30秒を2サイクル、その後アニーリング温度を段階的に下げて計35サイクル実施した。増幅産物はQIAquick (Qiagen社製PCR精製キット) で精製し、BigDye terminator kitを用いたサンガーシーケンシングにより変異を解析した。シーケンス反応産物はABI 3730自動シーケンサーで分離した。
全ゲノムシーケンシング (WGS): PDAC患者2例の血清エキソソームDNAと、対応する腫瘍組織検体について、ThruPLEX-FD (Rubicon Genomics社製ライブラリ調製技術) とIllumina HiSeq2000シーケンシングプラットフォームを組み合わせ、2×51 bpのペアエンドリードで約4倍のゲノムカバレッジを達成した。得られたシーケンスデータは、BIC-seqアルゴリズム Xi et al を用いてコピー数プロファイルおよび構造再編成の評価を行った。統計解析には、コピー数変異の有意差を評価するためのt検定 (t-test) およびFisher’s exact testが用いられた。