- 著者: Alexandre Glémain, Mélanie Néel, Antoine Néel, Gwennan André-Grégoire, Julie Gavard, Bernard Martinet, Rozenn Le Bloas, Kevin Riquin, Mohamed Hamidou, Fadi Fakhouri, Sarah Bruneau
- Corresponding author: Sarah Bruneau (Centre de Recherche Translationnelle en Transplantation et Immunologie, INSERM UMR1064, Nantes, France)
- 雑誌: Journal of Autoimmunity
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-04-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 35378380
背景
細胞外小胞 (EV) を介したmiRNA転送は、脂質、タンパク質、核酸、特にmiRNAなどの多様な生物活性物質を遠隔の受容細胞に送達することで、細胞間コミュニケーションの主要メカニズムとして確立されている Raposo et al. JCellBiol 2013。このmiRNA転送は、細胞接着、遊走、分化といった生理的プロセスだけでなく、心血管疾患やがんなど、様々な病態生理学的プロセスに関与することが示されている Valadi et al. NatCellBiol 2007。内皮細胞 (EC) は血液に直接接触するため、循環EVの最初の標的となりやすい。実際、がん研究では、腫瘍細胞が特定のmiRNAを搭載したEVをECに放出し、腫瘍関連血管新生を促進することが多くの研究で報告されている。
好中球は循環白血球の最多成分であり、炎症時に最前線のエフェクター細胞として機能する。好中球由来EVは、自己免疫疾患、特にANCA (抗好中球細胞質抗体) 関連血管炎 (AAV) において循環中に著増することが知られている。AAVは、好中球による内皮微小血管障害を原型とする重篤な自己免疫疾患であり、ANCA (ミエロペルオキシダーゼ (MPO) またはプロテイナーゼ3 (PR3) に対する自己抗体) による好中球の活性化が、糸球体や肺の微小血管に壊滅的なダメージをもたらす。先行研究では、ANCA活性化好中球由来EVが、ICAM-1・IL-6・IL-8誘導や活性酸素種 (ROS) 放出を介して内皮を傷害することが示されていたが、これらEVに含まれるmiRNAの役割や分子機構は未解明のままであった。特に、好中球由来EVが内皮細胞にmiRNAを転送し、それが内皮細胞の機能にどのような影響を与えるか、またその詳細な分子メカニズムについては、知識ギャップが残されている。本研究は、この不足している知見を補完することを目的とする。さらに、OBrien et al. NatRevMolCellBiol 2020など、EVを介したRNA転送に関する包括的なレビューは存在するものの、好中球由来EVによる内皮細胞障害における特定のmiRNAの役割に焦点を当てた研究は依然として不足している。
目的
本研究は、ANCA関連血管炎 (AAV) モデルを用いて、活性化好中球が放出するEVに内包されるmiRNAを同定し、内皮細胞における転送を検証することを目的とした。さらに、各miRNAが内皮細胞に及ぼす影響(アポトーシス、増殖、血管修復、炎症性サイトカイン産生)とその分子機構を詳細に明らかにし、最終的にAAV患者の腎生検におけるmiRNA発現を評価することで、好中球を介した血管炎の病態形成におけるmiRNAの役割を解明することを目指した。特に、miR-142-3pとmiR-451が内皮細胞の機能に与える具体的な影響を、細胞レベルおよび分子レベルで詳細に解析し、その臨床的意義を評価することを主要な目的とした。
結果
活性化好中球由来EVによるmiRNA転送の確認: TNFαでプライミング後、抗PR3-ANCAで活性化した好中球は、非活性化好中球と比較して有意に多くのEVを放出した。これらのEVの平均径は100 nm未満であった (Figure 1A-C)。DiD標識EVをHDMECに添加すると、24時間以内にHDMECの100%がEVを取り込んだ (フローサイトメトリーで93.1%の細胞が陽性、Figure 1D, E)。TLDAによるmiRNAプロファイリングでは、EV共培養後のHDMECで12種類のmiRNAが有意に上昇し、そのうちmiR-223、miR-142-3p、miR-451の3種が5回の追加実験 (n=5実験) で再現性を持って確認された (Figure 1F)。成熟型miRNAのみが上昇し、前駆体 (pri-miRNA) は変化しなかったことから、デノボ合成ではなくEVを介した直接転送が強く示唆された。fMLP、PMA、LPS、およびAAV患者IgGで活性化した好中球由来EVでも同様の3種miRNAの転送が確認され、この経路が複数の炎症刺激に共通することが示された (Figure 1G)。活動性PR3-AAV患者4例から単離した好中球も、追加刺激なしでEVを放出し、同3種miRNAを転送した。
miR-142-3pとmiR-451による内皮細胞損傷と血管修復応答の障害: miR-142-3pミミックを導入したHDMECは、TNFα共存下でアポトーシスが劇的に増加した (Annexin V陽性率が対照と比較して有意に上昇、p<0.001、n=8実験、Figure 2A)。増殖への影響は認められなかった (Figure 2B)。一方、創傷治癒アッセイにおいて、miR-142-3pは内皮細胞の修復をほぼ完全に抑制した (p<0.001、n=6実験、Figure 2C)。miR-451もTNFα非共存下でアポトーシスを有意に増加させ (p<0.001、n=8実験)、増殖を軽度抑制した (p<0.05、n=8実験)。管腔形成アッセイでは、miR-142-3p (p<0.05、n=7実験) およびmiR-451 (p<0.05、n=7実験) が新生血管形成様構造のジャンクション数を著明に減少させた (Figure 2D)。対照的に、miR-223は創傷修復を促進し (p<0.001、n=6実験)、保護的に機能することが示された。
miR-142-3pによる内皮細胞シグナル経路および標的遺伝子の阻害: ホスホキナーゼアレイ解析では、miR-223、miR-142-3p、miR-451の混合ミミックがeNOSおよびERK1/2 (p44/42 MAPK) 経路の著明な抑制を示した。ウェスタンブロット解析により、miR-142-3p単独導入後のTNFα刺激において、eNOSリン酸化 (S1177) およびERK1/2リン酸化が有意に阻害されることが確認された (n=2実験、Figure 3A)。これらの経路は内皮細胞のホメオスタシス維持および炎症誘発性アポトーシスからの保護に必須である。In silico解析 (DianaTools、TargetScan) とその後のqPCR検証により、miR-142-3pの直接標的候補として、細胞遊走および血管新生関連遺伝子が選択された。その結果、TNFαの有無にかかわらず、RAC1、ROCK2、CLIC4 (いずれも内皮細胞の遊走および血管新生応答に必須) のmRNA発現が有意に低下した (p<0.05、n=5実験、Figure 3B)。RAC1のmRNA発現は対照と比較して約0.5-foldに低下し、ROCK2とCLIC4も同様に約0.6-foldに低下した。
miR-142-3pおよびmiR-451による炎症性サイトカイン誘導: miR-142-3pミミックはIL-6、CXCL10、CXCL11のmRNA発現を誘導した (p<0.05、n=6実験)。miR-451はIL-8、CXCL10、CXCL11のmRNA発現を誘導した (p<0.05、n=6実験、Figure 4A)。PR3-AAV患者IgGで活性化した好中球由来EVをHDMECに添加すると、IL-6 (p<0.01)、IL-8 (p<0.05)、CXCL10 (p<0.001)、CXCL11 (p<0.01) タンパクの分泌が有意に増加した (n=5実験、Figure 4B)。しかし、miR-142-3pおよびmiR-451のアンタゴmiRを事前導入してEVを添加しても、これらのサイトカイン分泌は抑制されなかった (n=6実験、Figure 4C)。このことは、EVを介した炎症誘導にはmiRNA転送以外の追加機構 (脂質、タンパク質、NF-κBシグナリングなど) が関与することを示唆する。
EVによるアポトーシス誘導のmiR-142-3p依存性: PR3-ANCA活性化好中球由来EVは、TNFαが共存する条件でのみHDMECのアポトーシスを有意に増加させた (p<0.01、n=3実験、Figure 5A)。miR-142-3pアンタゴmiRは内皮細胞のアポトーシスを著明に軽減したが、miR-451アンタゴmiRは有意な軽減効果を示さなかった (n=5実験、Figure 5B)。この結果から、好中球EV誘導性内皮細胞アポトーシスはmiR-142-3p依存的であると結論された。
AAV患者腎生検におけるmiRNA上昇: AAV患者8例の腎生検組織では、非増殖性糸球体腎炎対照に比べてmiR-223、miR-142-3p、miR-451がいずれも高値を示した (p<0.05またはp<0.01、Figure 6)。例えば、miR-142-3pはAAV患者で約3.22-foldの増加を示した。ただし、ANCAサブタイプ (MPO vs PR3) や他の臨床パラメータとの相関は認められなかった。他の増殖性糸球体腎炎 (ループス腎炎など) との差異は統計的有意差には至らなかったが、AAVに特有の好中球誘発炎症との関連が示唆された。
考察/結論
新規性: 本研究は、AAVモデルを用い、活性化好中球がEVを介してmiR-223、miR-142-3p、miR-451を内皮細胞へ転送するという新規の血管障害メカニズムを初めて実証した。最も重要な発見は、miR-142-3pの多面的な内皮障害作用であり、ERK1/2・eNOS経路の抑制、RAC1・ROCK2・CLIC4の発現低下を介してアポトーシス促進・血管修復阻害をもたらす点である。miR-451も独立してアポトーシスを促進し、両miRNAが協調してIL-6、IL-8、CXCL10、CXCL11といった炎症性カスケードを誘導する。
先行研究との違い: AAVにおいては、好中球が大量にNETs (好中球細胞外トラップ) を形成しながら微小血管に留まり、局所で高濃度のEVを持続放出するという状況が、miRNA転送による累積的な内皮障害を増幅させる可能性がある Kessenbrock et al. NatMed 2009。AAV患者腎生検での3種miRNA高値はこの仮説と整合する。miR-223が内皮修復を促進する保護的作用を持つにもかかわらず、EV投与全体としては内皮障害が優勢であることは、miR-142-3pの傷害力がmiR-223の保護力を上回ることを示唆する。先行研究で報告された腫瘍細胞由来EVのmiRNA転送による血管新生促進とは対照的に、本研究の好中球由来EVは血管障害を惹起する点が異なる。この差異はmiRNAカーゴの違いと内皮細胞の状態 (TNFαプライミングの有無) に起因すると考えられる。また、アンタゴmiRでmiR-142-3p・miR-451を阻害してもEV誘導性のサイトカイン分泌は抑制されなかったことは、EVが運搬する脂質・タンパク質などの他の生物活性分子が炎症誘導に加担していることを示唆する。これは、EVのプロ炎症作用がmiRNA転送のみに依存するものではないという点で、これまでの報告と異なる点である。
臨床応用: 臨床的意義として、miR-142-3pおよびmiR-451は健常内皮ではほとんど発現しないため、これらを内皮選択的に阻害するアンタゴmiR療法は、正常組織への副作用を最小化しながら、AAVおよびその他の好中球媒介血管炎 (全身性エリテマトーデス (SLE)、敗血症など) に対する新規治療戦略となりうる。本知見は、これらの疾患に対する新たな治療標的の同定に貢献し、臨床応用への道を開く可能性がある。
残された課題: 本研究の残された課題は、in vitroモデルであり投与EV量が恣意的である点、Ficoll精製で低密度好中球 (LDG) が除外される点、そして動物モデルによるin vivo検証が欠如している点である。今後は動物モデルでのAAV in vivo実験による検証、および他の好中球活性化状態 (敗血症、SLE) でのEV-miRNA転送の普遍性確認が必要である。また、miR-142-3pおよびmiR-451の具体的な標的遺伝子の網羅的な同定と、それらが内皮細胞の機能に与える影響のさらなる詳細な解析も今後の研究方向性として挙げられる。
方法
好中球単離・活性化・EV回収: 健常ドナーから全血を採取し、Ficoll勾配遠心分離およびDextran沈殿法を用いて好中球を単離した。単離した好中球をTNFα (2 ng/mL) で15分間プライミング後、抗PR3-ANCA (CLB12.8クローンまたはPR3G-2クローン) 5 µg/mLで4時間活性化した。EVはExoquick試薬または超遠心分離 (10,000 × gで30分間、その後100,000 × gで90分間) により回収し、Tunable Resistive Pulse Sensing (TRPS) を用いて濃度とサイズを解析した。また、fMLP (1 µM)、PMA (20 nM)、LPS (100 ng/mL)、PR3-AAV患者IgG (200 µg/mL) を用いた好中球活性化も実施し、比較検討した。
EV取り込みアッセイ: DiD標識EVをヒト皮膚微小血管内皮細胞 (HDMEC) と3時間および24時間共培養し、共焦点顕微鏡およびフローサイトメトリーを用いてEVの取り込み効率を評価した。HDMECはClonetics (Lonza) から購入し、継代5〜8の細胞を使用した。
miRNAプロファイリング: EV共培養後のHDMECにおけるmiRNA発現プロファイルをTaqMan Low Density Array (TLDA、754種類のヒトmiRNAに対応) で解析し、有意に上昇したmiRNAをqPCRで検証した。
miRNAミミック・阻害剤トランスフェクション: HDMECにhsa-miR-223-3p、hsa-miR-142-3p、hsa-miR-451aミミック (各10 nM) またはアンタゴmiR (各20 nM) をLipofectamine RNAimaxを用いて導入した。過剰発現効率は48時間後のqPCRで確認した。
機能アッセイ: アポトーシスはAnnexin V-FITC/PI染色フローサイトメトリーで評価した (n=8実験)。増殖はBrdU取り込みアッセイで評価した (n=8実験)。血管修復能はスクラッチ創傷治癒アッセイ (n=6実験) およびマトリゲル管腔形成アッセイ (n=7実験) で評価した。
シグナル解析: 43種類のヒトキナーゼ/リン酸化プロテオームアレイ (Proteome Profiler) を用いてキナーゼリン酸化プロファイルを解析した。さらに、リン酸化eNOS (S1177)・総eNOS・リン酸化ERK1/2 (T202/Y204)・総ERK1/2のウェスタンブロットを実施した。下流標的遺伝子 (RAC1・ROCK2・CLIC4) はqPCRカスタムアレイ (92遺伝子) で解析した。炎症性サイトカイン (IL-6・IL-8・CXCL10・CXCL11) はELISAで定量した。
患者検体: 活動性AAV患者8例 (MPO-AAV: 5例、PR3-AAV: 3例) の腎生検組織、および対照として非増殖性糸球体腎炎 (微小変化型ネフローゼ症候群 (MCD) 4例、膜性腎症1例) と他の増殖性糸球体腎炎 (ループス腎炎5例、IgA腎症3例、膜性増殖性糸球体腎炎1例) からmiRNA発現をqPCRで解析した。統計解析にはMann-Whitney U検定またはDunn法を用いたノンパラメトリックANOVAを使用し、P<0.05を有意差とした。