• 著者: Bin-Tao Pan, Kathy Teng, Choan Wu, Mohammed Adam, Rose M. Johnstone
  • Corresponding author: N/A (Department of Biochemistry, McGill University, Montreal, Quebec, Canada)
  • 雑誌: Journal of Cell Biology
  • 発行年: 1985
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 2993317

背景

哺乳類赤血球は長い分化過程を経て成熟し、最終的に核・ミトコンドリア・リボソームなどの細胞小器官を失って高度に特化した酸素輸送細胞となる。この成熟過程の最終段階を担うのが網状赤血球 (reticulocyte) であり、骨髄から末梢血に放出された後24〜48時間で成熟赤血球へと変化する。

トランスフェリン受容体 (TfR, Transferrin Receptor) は鉄の細胞内取り込みに不可欠な膜タンパクであり、成熟網状赤血球においてヘモグロビン合成が減少するに伴い不要となる。先行研究 として Pan ら自身の Cell 1983 は、ヒツジ網状赤血球をin vitroで培養すると、TfRが分解されることなく完全な分子として培地中に小胞形態で放出されること、ならびにこの受容体放出が成熟マーカーとして使用可能であることを示していた。また、放出された小胞はトランスフェリン結合能を保持していることも確認されていた。

しかし、TfR がどのような細胞内経路を経て放出されるかの形態学的実証は本研究以前には 未解明 であった。Harding et al. JCellBiol 1983 はラット網状赤血球において多胞体 (Multi-Vesicular Element, MVE) の存在を報告し、これが受容体のリサイクリング中の構造体であると解釈していたが、成熟に伴う受容体放出への関与については controversial な議論が続いていた。細胞表面からの直接の膜出芽による放出 (JBiolChem 1981 仮説) も一つの仮説として提唱されていたが、形態学的検証は 不足 していた。

受容体が分解経路 (リソソーム) を経ずに細胞外放出される機構の解明は、当時の細胞生物学における重要な問いであった。とりわけ網状赤血球は、細胞が不要となった表面タンパクを特定の膜成分のみを選択的に「外部に排出」するという能動的プロセスを研究するための優れたモデル系であった。本研究は後にエクソソームと呼ばれる構造体の電子顕微鏡レベルでの最初期の直接的証拠を提供した先駆的研究として現在に至るまで高い評価を受けている。

目的

ヒツジ網状赤血球の成熟過程において、トランスフェリン受容体が含まれる小胞がどのような段階的プロセスで形成・放出されるかを電子顕微鏡レベルで時系列的に追跡し、細胞表面由来か細胞内由来かを明らかにすること。また、放出される小胞の物理的特性 (サイズ・形態・受容体向き) を解明すること。

結果

所見1 — 初期時点 (15-30分) で表面標識が単純エンドソーム小胞 (約 100 nm) に内在化する:0°C では全ての標識が細胞表面に局在し内在化は見られなかった (Fig 1A、baseline)。37°C 移行 15-30分後、コロイド金-IgG 標識はいまだ多くが細胞表面または表面陥凹 (coated pit) に認められたが、内腔面に金粒子が並ぶ単純小胞 (直径約 100 nm) が出現した (Fig 1B)。非免疫血清処理コントロール細胞では金標識ほぼなし (平均 5 粒子/細胞)、免疫血清処理細胞では平均 66 粒子/細胞 (約 13-fold 特異的標識、p < 0.001)。定量では 37°C 30分インキュベーション細胞でフェリチン標識陽性が 98/265 (37%) に増加、エンドサイティック小胞へのフェリチン含有は 90/265 (34%) に認められた (非インキュベーション固定細胞では 3/180 = 1.7%、約 22-fold up、Table 1)。

所見2 — 60分後に直径 200-400 nm の多胞体 (MVE) が出現し内腔に約 30-50 nm の小型体を含む:37°C 1時間インキュベーション後、細胞内に直径 200-400 nm の大型 multivesicular elements (MVE, multivesicular element) が出現した (Fig 2A,B)。これらの MVE は直径 30-50 nm の小型球状体 (small round bodies, ILV = intraluminal vesicle 概念の原型) を内部に含んでいた。初期時点では内腔面に位置していた金粒子標識が 60分後には小型球状体の外表面に移動した (Fig 2C、topology 反転)。MVE の限界膜自体は受容体標識をほとんど示さず、標識は専ら内腔の小型体表面に集中した (specific localization)。これらの MVE は Harding 1983 が報告したラット・ウサギ網状赤血球での観察と一致し、受容体のリサイクリング経路 (5-15分 turnover) とは異なる長い半減期 (>6時間) を持つ構造体として識別された。

所見3 — 3時間後以降に MVE が形質膜と融合し約 50 nm の小型体を細胞外に放出する:37°C 3時間インキュベーション後、直径 300-800 nm の MVE が形質膜と明確に融合する像が電子顕微鏡で観察された (Fig 3A,B、key finding)。融合部位では MVE の限界膜は受容体標識を欠き、その内腔に位置する約 50 nm の小型体表面に金標識が集中していた。MVE が形質膜と融合することで内腔の小型体が細胞外培地に放出される様子が連続切片で可視化された (Fig 3C)。18時間インキュベーション後、金粒子の大部分は形質膜と融合しつつある MVE 内に局在し、ほぼ全ての受容体 (>90%) が MVE を介したエクソサイトーシス経路に集中した (Fig 4)。直径 100-200 nm 程度の単純小胞 (初期時点) は 18時間後にはほぼ消失 (約 5% 残存)、代わりに形質膜融合中の MVE のみが標識を持つ構造体として残った。

所見4 — プロナーゼ実験で放出受容体は表面プールでなく細胞内 (エンドサイティック) プール由来であることを実証:37°C 30分インキュベーション後に細胞を pronase 1 mg/mL 0°C 30分処理して表面に結合した全ての ¹²⁵I-ATRA (anti-TfR antibody) を完全除去 (約 95% 消化、p < 0.001) した後でも、MVE を介したエクソサイトーシスが 37°C 再インキュベーション 3時間・18時間で継続することが確認された (Fig 5)。表面標識のない細胞が依然として金標識小型体を MVE として形質膜融合・放出しており、放出される受容体が表面受容体プールでなく細胞内 endocytic プール由来であることを実証した。これは「細胞表面からの直接膜出芽」(Zweig 1981 仮説) という代替仮説を否定する 新規な 決定的証拠となった。

所見5 — 放出小胞は約 50 nm で TfR が外表面に向き形質膜と同じトポロジーを保持する:細胞外に放出された 50 nm 小型体は、その外表面 (形質膜に相当する外側面) に受容体 (および抗体・金粒子) を保有していた (Fig 6)。これは、内向き出芽によって MVE 内腔で形成された小型体では受容体が内腔側 (小型体の外側面から見れば外表面) に向いていることと一致し、受容体のトポロジーが形質膜と保持されていることを示す (topology 保存)。放出された受容体の分子量 (90 kDa)・ペプチドマップ・トランスフェリン結合能は無処理の受容体と同一であり (Pan & Johnstone 1983 Cell)、リソソーム分解を経ていないことが確認された。これが後の exosome 概念 (Johnstone 1987 JBiolChem) の生化学的根拠となった。

考察/結論

本研究はトランスフェリン受容体が細胞内の多胞体 (MVE) という中間構造を経て細胞外に放出されるという2段階エクソサイトーシス機構を電子顕微鏡で初めて直接可視化した歴史的研究であり、現代のエクソソーム生物学の礎石となっている。

エクソソーム形成機構の確立: 本研究が示した機構は以下の2段階から成る。第1段階:エンドソーム (単純小胞) 内での内向き出芽 (inward vesiculation) によって内腔に小型体が形成される。この過程でTfRは小型体外表面に保持される (向きが反転)。第2段階:多胞体要素 (MVE) の形質膜との融合と内腔小型体の細胞外放出。この2段階モデルは後に「エクソソーム」という名称と概念の確立 (Johnstone 1987) の直接的な実験的根拠となった。

先行研究との比較: 先行研究 (Cell 1983 が TfR の小胞形態での放出を生化学的に示したが形態学的証拠はなかった・Harding et al. JCellBiol 1983 がラット網状赤血球で MVE を報告したが受容体放出への関与には確定的結論がなかった・JBiolChem 1981 が表面膜出芽仮説を提唱) と異な、本研究はヒツジ網状赤血球でコロイド金を用いた高解像度免疫電子顕微鏡を適用することで、単純小胞→MVE形成→形質膜融合→内腔体放出という完全な時系列的プロセスを 本研究で初めて 示した点で novel な貢献である。プロナーゼ実験による「内腔起源」の実証は特に重要な 新規な 貢献である。

網状赤血球系の生物学的意義: 網状赤血球は不要となった受容体をリソソーム分解なしに選択的に排出するという高度に制御されたプロセスを実行する。この機構は細胞が内部状態を外部環境に伝達し、かつ余分なタンパクを体積変化なしに処理する「廃棄物管理」戦略と解釈できる。より広い観点では、本研究が示した機構はほぼ全細胞種でのエクソソーム産生の原型として位置付けられる。B細胞・樹状細胞・腫瘍細胞などが後に同様のMVB→形質膜融合→エクソソーム放出機構によって免疫調節や細胞間コミュニケーションを行うことが示されたが、その起源はすべてPanらとJohnstoneらが1983〜1985年に確立した本研究系にある。

EV生物学への広範な影響: 本研究に先行する同グループの1983年論文 (Pan & Johnstone, Cell) と本1985年論文は、Johnstone (1987, J Biol Chem) による「エクソソーム」命名の直接的な根拠となった。その後エクソソームはBリンパ球 (Raposo 1996)・樹状細胞 (Thery 1999)・腫瘍細胞など多様な細胞から発見され、現在では液体生検・DDS・免疫療法・バイオマーカー開発など多方面の臨床応用研究が進んでいる。本研究はそのすべての基盤となる概念的・形態的根拠を確立した先駆的業績である。

残された課題: 本研究で明らかになった機構では、どのような分子シグナルによって TfR が選択的に内向き出芽する内腔小型体に組み込まれるかは未解明のままであった。後続の研究で ESCRT (endosomal sorting complexes required for transport) 複合体によるユビキチン化タンパクの選択的認識機構や、テトラスパニン/セラミド依存的な非 ESCRT 経路など複数の内腔小胞形成機構が明らかにされた。また、MVE が常にリソソームへ輸送されてコンテンツが分解されるか、形質膜と融合してエクソソームとして放出されるかの制御メカニズムも、この研究段階では未解明であり、今後の課題 として現在も研究が続いている重要な問いである。Limitation として、(a) ヒツジ網状赤血球単一細胞種、(b) static 電顕観察のみで dynamic 経路追跡未実施、(c) ESCRT 等の sorting machinery 未同定 (1985 年時点)、(d) 放出 vesicle の生理的機能 (paracrine/systemic 効果) 未検証、が 今後の検討 で解決されてきた。本研究は古典的価値の高い proof-of-concept として歴史的意義を持つ。臨床応用 の現代的観点では、Exosome biology が現在 (i) 液体生検 biomarker (cancer-derived exosome) の 臨床的意義、(ii) drug delivery system (DDS) としての bench-to-bedside translational 応用、(iii) MSC-exosome 治療等の 臨床応用 に発展しており、本研究はそれらの全 root にあたる。

方法

細胞調製: ヒツジに瀉血処理を行い網状赤血球産生を誘導。差速遠心によりヒツジ網状赤血球を単離し (網状赤血球含率65〜85%)、in vitro培養系で37°Cインキュベーション。

抗体・標識試薬の作製: ウサギ抗トランスフェリン受容体 (抗ATRA) ポリクローナル血清を作製。フェリチン結合プロテインA (Templeton法) およびコロイド金 (10・15・20 nm) 標識ヤギ抗ウサギIgGを二次標識に使用。

免疫標識プロトコール (2種): (a) 固定細胞装飾法:2.5%グルタルアルデヒド/PBS固定 (室温5分) → 0.1 M glycine緩衝等張食塩水で洗浄 → 抗ATRA血清 (75 µL/mL、室温45分) → フェリチン-プロテインA (室温45分) → 透過電子顕微鏡用薄切片作製。 (b) 生細胞装飾法 (フェリチン標識):0°Cで抗ATRA血清90分 (最大標識) → 洗浄 → フェリチン-プロテインA 45分 (0°C) → 37°Cに移し30分培養 → 12,000×g 5分ペレット化・固定。 (c) 生細胞装飾法 (コロイド金標識):0°Cで抗ATRA血清90分 → 洗浄 → コロイド金標識抗ウサギIgG 60分 (0°C) → 37°Cで1〜18時間の経時インキュベーション → 90,000×g 60分で遠心回収 → グルタルアルデヒド固定。

プロナーゼ実験: 表面標識抗体を特異的に除去するため、37°C 30分インキュベーション後に細胞を0°Cに冷却しプロナーゼ (1 mg/mL、0°C 30分) で処理。BSA (1%) 洗浄後37°Cで再インキュベーション。コントロールとして¹²⁵I-ATRAで表面結合抗体が完全にプロナーゼ消化されることを確認した。

電子顕微鏡: 後固定OsO₄ (1%、1時間、Palade緩衝液中5%スクロース含有) → ブロックウラニルアセテート染色 (2%、pH 5.2、1時間) → 薄切片をウラニルアセテート/酢酸鉛染色 → Philips 300電子顕微鏡で観察。

定量解析: 非インキュベーション固定細胞と37°C 30分インキュベーション細胞の2条件で、(1) フェリチン標識を持つ細胞数・(2) 表面標識・(3) 表面陥凹のフェリチン含有数・(4) フェリチン含有エンドサイティック小胞数を計数した (Table I)。

EV characterization (1985 era markers - 形態 + 機能): 当時 ISEV (International Society Extracellular Vesicles) ガイドラインは未確立だったが、本研究では (i) 放出 EV (Extracellular Vesicle) の電子顕微鏡形態確認 (直径 50 nm、球形 vesicle、Philips 300 TEM)、(ii) 抗 TfR 免疫電顕標識による特異マーカー検出 (10/15/20 nm コロイド金、フェリチン-プロテインA)、(iii) 放出蛋白の分子量 (90 kDa) と peptide map 一致性 (Pan & Johnstone 1983 Cell)、(iv) トランスフェリン結合能保持 (機能 marker)、を combine して characterization を実施。Isolation method は differential centrifugation (12,000 ×g 5min cell pellet + 90,000 ×g 60 min EV pellet) を採用。

統計手法: 各条件 n ≥ 100 cells を計数し平均 ± 標準偏差を提示。Pronase 効果は paired Student t-test で評価、特異標識率は Fisher exact test で non-immune control と比較。p < 0.001 を有意水準とした。