- 著者: Jung-Ah Cho, Dong-jun Yeo, Hye-Youn Son, Hyun-Wha Kim, Dae-Sun Jung, Jae-Kyun Ko, Jason Soonju Koh, Yong-Nyun Kim, Chul-Woo Kim
- Corresponding author: Chul-Woo Kim (Department of Pathology, Tumor Immunity Medical Research Center and Cancer Research Institute, Seoul National University College of Medicine, Seoul, Korea)
- 雑誌: International Journal of Cancer
- 発行年: 2005
- Epub日: 2004-12-17
- Article種別: Original Article
- PMID: 15609328
背景
エクソソームは直径 40-90 nm の微小な膜小胞であり、多小胞体 (multivesicular body; MVB) の内膜出芽によって生じる内腔小胞が、MVBと細胞膜の融合を介して細胞外に放出されることで形成される。歴史的には、網状赤血球の成熟過程における不要な膜タンパク質の排出機構として発見されたが Harding et al. JCellBiol 1983、Pan et al. JCellBiol 1985、その後の研究により、免疫細胞を含む多様な細胞種から分泌され、細胞間情報伝達を担うことが明らかになった Thery et al. NatRevImmunol 2002。特に、B細胞由来のエクソソームが抗原提示能を有することを示した Raposo et al. JExpMed 1996 や、樹状細胞 (dendritic cell; DC) 由来のエクソソームが腫瘍抗原ペプチドを提示して細胞傷害性Tリンパ球 (cytotoxic T lymphocyte; CTL) を活性化し、マウスの確立腫瘍を退縮させることを示した Zitvogel et al. NatMed 1998 などの先駆的研究により、無細胞がんワクチンとしての応用が期待されてきた。
しかしながら、DC由来エクソソームを治療に用いるアプローチには、患者ごとに自己腫瘍から同定済みの特異的腫瘍抗原を調製する必要があり、その利用可能性が極めて限定的であるという課題が存在した。一方、腫瘍細胞自身もエクソソームを自発的に分泌しており、これらが共通の腫瘍拒絶抗原を提示して交差防御免疫を誘導しうることが Wolfers et al. NatMed 2001 により報告された。これにより、腫瘍由来エクソソームが主要組織適合遺伝子複合体 (major histocompatibility complex; MHC) の型を一致させる必要のない、汎用性の高いがんワクチンとして機能する可能性が示唆された。
しかし、特定の標的腫瘍抗原を遺伝子工学的に搭載した改変エクソソームが、実際にMHC非依存的な抗腫瘍免疫応答を誘導できるか、またその詳細な分子機構やin vivoでの有効性については未解明な部分が多く、実用化に向けた知見が不足していた。特に、多くのがん種で過剰発現し、不完全な糖鎖修飾を伴うことで高い免疫原性を示すヒトMUC1 (human mucin-1; hMUC1) 糖タンパク質を標的とした、エクソソームベースのデリバリーシステムを構築し、その治療効果を検証する研究はこれまで手薄であり、実用的な開発に向けた大きな gap が残されていた。このように、遺伝子改変技術を用いた抗原特異的エクソソームワクチンの有効性とMHC非依存的な免疫誘導能の確立には、依然として不十分な点が多く、基礎的知見の不足が実用化への障壁となっていた。
目的
本研究の目的は、遺伝子工学的手法を用いて特定の標的腫瘍抗原を搭載した改変エクソソームを構築し、それがMHC非依存的な抗腫瘍免疫応答を誘導できるかを検証することである。具体的には、ヒト膵臓由来のhMUC1遺伝子を、MHC型 (MHC haplotype) が異なる2種類のマウス腫瘍細胞株であるCT26 (mouse colon carcinoma cell line, MHC型: H-2d) およびTA3HA (mouse mammary carcinoma cell line, MHC型: H-2a) に安定導入し、これらの細胞から分泌されるエクソソームの表面にhMUC1が適切に提示されるかを特性解析する。さらに、得られたhMUC1搭載エクソソームが、骨髄由来のDCを介して抗原特異的な脾細胞の増殖およびインターフェロンγ (interferon-gamma; IFN-γ) の産生をin vitroで誘導できるかを評価する。最終的には、BALB/cマウスを用いたin vivo腫瘍接種モデルにおいて、自己 (同系) および同種 (MHC非適合) のhMUC1搭載エクソソームが、hMUC1発現腫瘍の増殖を特異的かつ用量依存的に抑制できるかを実証し、MHCマッチングを必要としない新規の無細胞がんワクチンとしての有用性を確立することを目指す。
結果
hMUC1遺伝子導入による安定発現株の樹立と細胞内局在の確認: FACS解析により、hMUC1遺伝子を導入したCT26-MUC1およびTA3HA-MUC1の細胞表面にhMUC1が安定して発現していることを確認した (Fig 2a)。共焦点顕微鏡観察では、細胞内のhMUC1がMVBマーカーであるCD63およびLamp2と強く共局在し、黄色蛍光を示した (Fig 2b)。この共局在パターンは、hMUC1が多小胞体 (MVB) の内腔小胞、すなわち将来のエクソソームにソーティングされていることを示唆している。一方、小胞体 (ER) マーカーであるCalnexinとの共局在は部分的であり、hMUC1が主にエンドソーム経路に局在することが示された。この細胞内局在の解析は、遺伝子導入されたhMUC1が細胞内で適切にプロセシングされ、エクソソーム形成経路に移行していることを証明する重要な知見である。本実験では、安定発現株の樹立のために、n=3 replicates の独立したクローン選択プロセスを実施し、最も発現効率の高いクローンを以降の実験に使用した。
精製エクソソームの形態観察およびタンパク質組成の特性解析: 差速超遠心法により精製したペレットをTEMで観察したところ、直径 100 nm 未満の脂質二重膜構造を有する典型的なエクソソーム様小胞が多数同定された (Fig 3a)。Western blot解析では、精製されたエクソソーム画分において、小胞体マーカーであるCalnexinが完全に陰性であり、細胞内小器官の汚染がない高純度な回収が実証された (Fig 3c)。一方で、エクソソーム特異的マーカーであるTsg101およびCD81、ならびに熱ショックタンパク質Hsc70が強く濃縮されていた Thery et al. JImmunol 2001。さらに、MHC class I分子および導入したhMUC1抗原は、細胞ライセートと比較してエクソソーム画分において顕著に高発現していた (Fig 3d)。スクロース密度勾配遠心法では、hMUC1がTsg101陽性分画 (密度 1.13-1.19 g/ml) と完全に一致して検出され、エクソソームへの選択的搭載が証明された (Fig 3e)。本解析は、n=3 replicates の独立した精製バッチを用いて再現性を確認した。
エクソソーム表面におけるhMUC1とHsc70の共局在とトポロジー解析: hMUC1およびHsc70のエクソソーム表面における提示状態を明らかにするため、トポロジー解析を実施した。ラテックスビーズを用いたFACSアッセイ (n=3 replicates) において、エクソソーム結合ビーズは抗MUC1抗体および抗MHC class I抗体に対して強い蛍光シフトを示し、これらの分子がエクソソームの膜外側に露出していることが示された (Fig 4b)。対照的に、細胞表面で高発現しているCD44はエクソソーム表面で検出されず、膜タンパク質の選択的ソーティング機構の存在が示唆された Escola et al. JBiolChem 1998。さらに、PBSバッファー (膜構造が維持された状態) 中で抗MUC1抗体を用いて免疫沈降を行ったところ、Hsc70が共沈降した (Fig 4a)。しかし、界面活性剤を含むRIPAバッファーを用いて膜を溶解した条件下では、この共沈降は消失した。抗Hsc70抗体を用いた逆の免疫沈降でも同様の結果が得られ、Hsc70がエクソソームの表面においてhMUC1と物理的に近接して提示されていることが確認された (Fig 4a)。この結果は、Hsc70が脂質二重膜を介してエクソソーム外側に露出しているという新規のトポロジーを示している。
in vitroにおける樹状細胞を介した抗原特異的T細胞免疫応答の活性化: 精製したhMUC1搭載エクソソームが免疫細胞を活性化できるかを検証するため、BM-DCを用いた共培養アッセイを実施した。CT26-MUC1で免疫したBALB/cマウスから調製した脾細胞に対し、CT26-MUC1由来エクソソーム (20 µg) をパルスしたBM-DCを作用させたところ、非搭載エクソソーム (CT26由来) と比較して、脾細胞の有意な増殖活性化が認められた (p ⇐ 0.012) (Fig 5a)。驚くべきことに、MHC型が異なる異種細胞株由来のTA3HA-MUC1エクソソームでパルスしたBM-DCも、同様に脾細胞の増殖を有意に誘導した。さらに、ELISA法によるIFN-γ産生量の定量において、CT26-MUC1およびTA3HA-MUC1由来のエクソソームパルス群は、対照群と比較して有意に高いIFN-γ分泌を誘導した (p ⇐ 0.012) (Fig 5b)。この活性化は未免疫マウスから採取したナイーブ脾細胞では観察されず、改変エクソソームがDCを介して抗原特異的なTh1型免疫応答を強力に誘導することがin vitroで実証された。本アッセイは、n=3 replicates の独立した実験で同様の結果を得た。
in vivoにおけるMHC非依存的なhMUC1特異的腫瘍増殖抑制効果: in vivoにおける抗腫瘍効果を評価するため、BALB/cマウス (n=6 mice/group) に各種エクソソームを皮内接種して免疫した後、CT26-MUC1細胞を皮下接種した。hMUC1非発現の親株CT26細胞をchallengeした実験では、CT26-MUC1エクソソーム投与群において腫瘍成長への影響は認められず、抗腫瘍効果がMUC1特異的であることが確認された (Fig 6b)。一方、CT26-MUC1細胞をchallengeしたモデルにおいて、自己由来のCT26-MUC1エクソソーム免疫群は、対照群 (PBSまたは非搭載エクソソーム) と比較して、腫瘍体積を約 2.0-fold 有意に抑制した (p < 0.05) (Fig 6a)。さらに、MHC不適合である異種TA3HA-MUC1由来エクソソーム免疫群においても、自己由来と同等の約 2.0-fold の腫瘍増殖抑制効果が認められた (p < 0.05)。用量依存性の検討において、自己由来エクソソームでは 4 µg および 20 µg の両用量で同等の抑制効果が得られたが、異種TA3HA-MUC1エクソソームでは低用量 (4 µg) の方が高用量 (20 µg) よりも強い腫瘍抑制効果を示すという逆用量応答が観察された (Fig 6c)。これは、TA3HA細胞におけるhMUC1の高度な糖鎖修飾パターンが免疫原性に影響を与えた可能性を示唆している。また、脾細胞の増殖活性化アッセイにおいて、CT26-MUC1エクソソームパルス群は対照群に比べ約 1.5-fold の増殖率向上を示した。
考察/結論
先行研究との違い: 従来の樹状細胞由来エクソソームを用いたがんワクチン研究では、患者個別の腫瘍抗原の同定や調製が必要であり、製造コストや技術的ハードルが高いという課題があった。これに対し、本研究は腫瘍細胞株から分泌されるエクソソームに標的抗原を搭載するアプローチを採用しており、自己のAPC (antigen-presenting cell) を直接利用する先行研究と異なり、MHCマッチングを必要としない汎用性の高い無細胞ワクチンの構築が可能であることを示した。同種および異種のMHC型を持つエクソソームが同等の抗腫瘍効果を示した事実は、MHCの制限を超えたがん免疫療法の可能性を提示している。
新規性: 本研究は、遺伝子工学的に標的腫瘍抗原hMUC1を導入した腫瘍由来エクソソームが、in vivoにおいてドナーのMHC型に依存せず、抗原特異的なT細胞免疫応答を活性化して腫瘍増殖を抑制することを本研究で初めて実証した。また、免疫沈降実験により、熱ショックタンパク質Hsc70がエクソソームの表面においてhMUC1と物理的に共局在しているという新規のトポロジーを明らかにした。Hsc70がエクソソーム外膜に露出していることで、APCの受容体を介したエンドサイトーシスが促進され、効率的な抗原提示が行われるというメカズムは、これまで報告されていない極めて独創的な知見である。
臨床応用: 本研究の成果は、がん免疫療法における「既製品 (off-the-shelf)」としての無細胞ワクチンの開発に直結する。臨床的意義として、患者ごとの自己腫瘍組織の採取や個別調製が不要となるため、治療の標準化と製造コストの大幅な削減が期待される。特に、hMUC1は肺がん、乳がん、膵臓がんなど広範な上皮性がんで過剰発現しているため、本システムは多様ながん種に対する共通の治療プラットフォームとして臨床応用できる可能性を指し示している。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究における抗腫瘍効果が予防モデル (腫瘍接種前の免疫) で検証されたものであるため、すでに形成された確立腫瘍に対する治療モデルでの有効性を検証することが挙げられる。また、長期的な免疫記憶の持続性や、再チャレンジに対する防御能の評価も必要である。さらに、TA3HA-MUC1エクソソームで観察された逆用量応答に示されるように、糖鎖修飾パターンの違いが免疫原性に影響を与えた可能性の詳細な解明や、臨床グレードの改変エクソソームを大量かつ安定的に精製するための技術プロセスの確立が、今後の重要な limitation および研究方向性として残されている。
方法
安定細胞株の樹立: 42回のアミノ酸タンデムリピート配列を含むヒト膵臓MUC1遺伝子 (hMUC1, accession no. J05582) を、レトロウイルスベクターpLXINのBamHI部位にクローニングした。パッケージング細胞株PA317にこの構築物を導入し、G418 (geneticin) 選択下で培養してウイルス粒子を回収した。このウイルス上清を用いて、MHC型H-2dのマウス結腸癌細胞株CT26、およびMHC型H-2aのマウス乳癌細胞株TA3HAにそれぞれ形質導入を行った。1 mg/mlのG418を含むDMEM培地で選択培養を行い、hMUC1を安定発現する細胞株CT26-MUC1およびTA3HA-MUC1を樹立した。
エクソソームの精製と特性解析: 牛血清由来エクソソームをあらかじめ超遠心により除去した 10% FBS (fetal bovine serum) 含有培地で細胞を培養し、その上清を回収した。差速超遠心法 (300gで5分、1,200gで20分、10,000gで30分、100,000gで1時間) により段階的に遠心し、最終的に得られた100,000gのペレットをPBS (phosphate-buffered saline) で洗浄してエクソソーム画分とした。さらに、2.5 Mから0.25 Mのスクロース不連続密度勾配超遠心法を用いて精製度を高めた。精製エクソソームは、透過型電子顕微鏡 (transmission electron microscopy; TEM) による形態観察、およびSDS-PAGE (sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis) とWestern blot法により解析した。抗体には、抗MUC1、抗Hsc70 (heat shock cognate protein 70)、抗Tsg101 (tumor susceptibility gene 101)、抗CD81、抗Calnexin、抗H-2Kd、抗H-2Dd抗体を用いた。共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて、MUC1とMVBマーカー (CD63、Lamp2) および小胞体 (endoplasmic reticulum; ER) マーカー (Calnexin) の細胞内共局在を評価した。また、アルデヒド/硫酸塩ラテックスビーズにエクソソームを結合させ、フローサイトメトリー (fluorescence-activated cell sorting; FACS) 解析により表面分子 (MUC1、MHC class I、CD44) を検出した。さらに、PBSまたはRIPA (radioimmunoprecipitation assay) バッファー中で免疫沈降を行い、MUC1とHsc70の物理的相互作用を検証した。
in vitro免疫細胞活性化アッセイ: BALB/cマウスの骨髄細胞から、GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor, 20 ng/ml) およびIL-4 (interleukin-4, 20 ng/ml) を用いて6日間培養することで骨髄由来樹状細胞 (bone marrow-derived dendritic cell; BM-DC) を誘導した。このBM-DCに対し、各エクソソーム (20 µg) またはMUC1ペプチドを4時間パルスした後、マイトマイシンCで30分間処理した。あらかじめ放射線照射したCT26-MUC1細胞で2回免疫したBALB/cマウスから脾細胞を調製し、パルス済みのBM-DCと48時間共培養した。細胞増殖はMTS (3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-5-(3-carboxymethoxyphenyl)-2-(4-sulfophenyl)-2H-tetrazolium) アッセイにより測定し、上清中のIFN-γ産生量はELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) 法により定量した。
in vivo抗腫瘍試験: 5〜6週齢のBALB/c雄マウス (n=6 mice/group) を使用し、不完全フレンドアジュバント (Incomplete Freund’s Adjuvant; IFA) と混合した各種エクソソーム (4 µgまたは20 µg) を皮内接種して免疫した。初回免疫から21日後に、1 × 10⁵個 of CT26-MUC1細胞または親株のCT26細胞を皮下接種した。腫瘍接種後10日目から、キャリパーを用いて腫瘍の長径 (A) および短径 (B) を2〜3日ごとに測定し、腫瘍体積を (A × B²)/2 の式で算出した。
統計解析: 実験群間の有意差は、paired Student’s t-test、unpaired Student’s t-test、またはWilcoxon signed rank testを用いて算出し、p < 0.05 をもって統計学的に有意と判定した。