• 著者: Olga Martinez-Arroyo, Estela Selma-Soriano, Ana Ortega, Raquel Cortes, Josep Redon
  • Corresponding author: Ana Ortega; Josep Redon (INCLIVA Biomedical Research Institute, Valencia, Spain)
  • 雑誌: International Journal of Molecular Sciences
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-07-18
  • Article種別: Review
  • PMID: 34299299

背景

小型Rab GTPaseはヒトゲノムで70種超が同定されており、細胞内小胞輸送 (出芽・輸送・ドッキング・融合) の主要制御因子として機能する。各々のRabは特定の細胞内コンパートメントに局在し (Rab5:初期エンドソーム、Rab7:後期エンドソーム、Rab11/25:リサイクリングエンドソーム等)、GEF (グアニンヌクレオチド交換因子) とGAP (GTPase活性化タンパク) の制御下でGDP/GTP状態を切り替えて活性化・不活性化サイクルを形成する。Rab GTPaseはエクソサイトーシス・エンドサイトーシス・エンドソームリサイクリング・エクソソーム分泌・オルガネラ間輸送のすべてに関与する普遍的分子スイッチであり、その機能不全は神経変性疾患 (アルツハイマー病・パーキンソン病・Charcot-Marie-Tooth病) 、心血管疾患、がん、免疫疾患における役割が広く研究されてきた。例えば、Rab7、Rab28、Rab11の変異はCharcot-Marie-Tooth病の主要な原因であり、Rab39Bの変異はパーキンソン病に関連することが報告されている (Wilson et al. 2014)。また、心筋におけるRab1の過剰発現は心臓肥大と心不全を引き起こすことが示されている (Wu et al. 2001)。エクソソーム分泌においても、Rab11が最初に報告され (Savina et al. 2002)、その後Rab27A/BやRab35がMVBの形質膜へのドッキングを制御することが示された (Hsu et al. JCellBiol 2010; Ostrowski et al. NatCellBiol 2010)。Rab27A/Bのサイレンシング実験ではエクソソーム分泌が最も効率的に低下し、Rab2B、Rab5A、Rab9A、Rab11のサイレンシングも分泌を減少させることが報告されている (Hsu et al. JCellBiol 2010; Ostrowski et al. NatCellBiol 2010; Peinado et al. NatMed 2012; Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014)。

しかし、小胞輸送が構造・機能の維持に特に重要な役割を担う腎臓、とりわけ糸球体ろ過バリアの主役であるポドサイトにおけるRab GTPaseの病態生理学的役割は十分に解明されていなかった。特に、Rab3A (調節性エクソサイトーシスに関与する分泌小胞調節因子) とその主要エフェクターであるRabphilin-3A (Rph3A) の腎ポドサイトでの役割が注目されつつあり、著者らのグループが先行して臨床遺伝学的証拠を提示していたが、その詳細な分子メカニズムや病態への関与については知識が不足していた。この知識ギャップを埋めるため、本レビューではRab3A/Rph3A複合体の腎疾患病態への関与を深く掘り下げることが重要である。

目的

本レビューの目的は、Rab GTPaseの細胞内小胞輸送における分子生物学的役割を総括し、各種疾患との関連を概説した上で、特にRab3AとそのエフェクターであるRabphilin-3A (Rph3A) 複合体を中心に腎疾患病態への関与を論じることである。さらに、Drosophila腎細胞 (ネフロサイト) モデルを用いたRph3A機能喪失実験の結果から、Rab3A/Rph3A軸が腎ポドサイト機能維持に果たす役割とその治療標的としての可能性を示すことを目指す。これにより、Rab GTPaseの腎臓における機能と病態生理学的意義に関する理解を深め、新たな治療戦略開発への道筋を提示する。

結果

Rab GTPaseファミリーの生物学的特性と小胞輸送経路における役割: 70種超のRab GTPaseは各々が特定の細胞内コンパートメントに局在し、膜輸送の特異性と方向性を担保する「コンパートメント同一性」の決定因子として機能する。主要なRabの機能は以下のように整理される:Rab1 (ERからpre-Golgi intermediate compartmentへの小胞輸送)、Rab2 (IC-ER逆行輸送)、Rab6 (ゴルジ内輸送)、Rab8 (TGNから形質膜への構成的輸送)、Rab3・Rab27 (調節性エクソサイトーシス;両者は協調して働く)、Rab5 (初期エンドソームの内在化・エンドソーム融合)、Rab4 (初期エンドソームからの急速リサイクリング)、Rab11・Rab25 (核周囲リサイクリングエンドソームを介した緩徐リサイクリング)、Rab7 (後期エンドソームの成熟とリソソームへの融合)、Rab9 (後期エンドソームからTGNへの逆行輸送)、Rab22 (TGNと初期エンドソーム間の輸送)。エクソソーム分泌には最初にRab11が報告され、その後Rab27A/B・Rab35がMVBの形質膜へのドッキングを制御することが示された。Rab27A/Bのサイレンシング実験で最も効率的にエクソソーム分泌が低下し、Rab2B、Rab5A、Rab9A、Rab11のサイレンシングも分泌を減少させた。Rab GTPaseとエフェクターの相互作用は①細胞骨格・モータータンパクを介した小胞の輸送、②エフェクターによる小胞ドッキング制御、③SNARE駆動膜融合の3段階で膜輸送を制御する。これらの経路は、細胞の増殖、栄養、自然免疫応答、有糸分裂、アポトーシスといった多様な細胞プロセスに不可欠である (Figure 1)。

Rab GTPaseと各種疾患の関係: 神経変性疾患ではRab7、Rab28、Rab11の変異がCharcot-Marie-Tooth病の一次原因であり、Rab39Bの変異がパーキンソン病の原因となる。Rab29、Rab5A、Rab7はRab39B変異に連動して早期発症パーキンソン病 (Lewy小体あり) に関与し、一方でRab11は複数の疾患表現型 (Lewy小体タンパク蓄積など) をレスキューできることが示されている (Breda et al. 2015)。心血管疾患ではRab1の心筋過剰発現が心臓肥大・心不全を引き起こし (Wu et al. Circ Res 2001)、Rab9依存的オートファゴソームが損傷ミトコンドリアの認識・取り込みに関与し虚血再灌流傷害時の心筋生存性低下に寄与する (Saito et al. J Clin Invest 2019)。糖尿病患者のアルブミン尿GWASではRab38関連遺伝子座が同定されている (Teumer et al. 2016)。血小板では止血・血栓・組織再生・炎症・転移に関わるエクソソーム産生・放出においてRab GTPaseが広範に機能している。好中球・免疫細胞においては、Rab21がRph3Aを介した偏極性制御を通じて虚血再灌流傷害時の好中球-内皮接着に関与し (Yuan et al. Cell Rep 2017)、肝臓ではIRF1がRab27A転写を制御して細胞外小胞分泌を調節し酸化リン脂質による好中球活性化・肝臓虚血再灌流傷害に寄与することが報告された (Yang et al. Hepatology 2018)。

腎臓における各Rab GTPaseの機能と病態関連: 糸球体ポドサイトではFuらがDrosophila nephrocyteでの機能スクリーニングを行い、27種のRabのうち11種が機能的、5種が機能維持に重要、3種が必須であることを示した。Rab5サイレンシングによる内在化障害、Rab7サイレンシングによるタンパク分解障害、Rab11サイレンシングによる膜リサイクリング障害がそれぞれ確認され、濾過バリア構造の破綻・タンパク再吸収障害が生じた。ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群 (SRNS) ・巣状分節性糸球体硬化症 (FSGS) の遺伝的原因としては:TBC1D8B (Rab11b GTPase活性化タンパク) のX連鎖ミスセンス変異によるRab11b機能低下がポドサイトの構造異常・遊走障害を引き起こし (Dorval et al. Am J Hum Genet 2019;Kampf et al. J Am Soc Nephrol 2019)、GAPVD1 (エンドソーム調節因子) ・ANKFY1遺伝子変異がRab5との結合を増強してSRNS病態を形成する (Hermle et al. J Am Soc Nephrol 2018)。腎尿細管ではRab38が近位尿細管のアルブミン内在化を制御しており、fawn-hooded高血圧ラットモデルでRab38変異が尿中タンパク排泄増加を引き起こした (Rangel-Filho et al. J Am Soc Nephrol 2013)。Rab7は尿細管細胞のアルブミン過負荷時にMMP-2活性を抑制して尿細管基底膜を保護し、EMTとアポトーシスを防ぐ役割を担う (Liu et al. Exp Cell Res 2018)。Rab27AエフェクターのSlp2-aはポドカリキシンとezrinのアピカル膜ターゲティングを制御し、MDCK II細胞でclaudin-2発現を調節する (Yasuda et al. Mol Biol Cell 2012)。集合尿細管ではRab7とVps35がバソプレシン存在下でのAQP2 (アクアポリン2) 分類・アピカル輸送に関与する (Wang et al. Am J Physiol Renal Physiol 2020)。エクソソーム放出においてはRab27の活性化がKIBRA (KIBRA→ユビキチン-プロテアソーム経路によるRab27分解を抑制) により増強され (Song et al. NatCommun 2019)、Rab27Aノックアウトにより炎症性腎疾患での過剰炎症がmiR-26a-5p/CHAC1/NF-κBシグナル経路を介して抑制されることが示された (Li et al. Life Sci 2020)。

Rab3A/Rph3A複合体の腎ポドサイトにおける役割: Rab3Aは神経細胞・神経内分泌細胞で分泌小胞のエクソサイトーシスを調節する標準的な分子であるが、Rastaldiらは2003年にこの複合体がマウス、ラット、ヒト正常腎のポドサイトの足突起 (foot processes) 周囲小胞にも発現していることを免疫組織化学で初めて報告した (Rastaldi et al. Am J Pathol 2003)。さらに同グループの続報 (Rastaldi et al. FASEB J 2006) でポドサイトがシナプス小胞分子を有する神経様機能的シナプス小胞を保有することが確認された。蛋白尿を示すFSGS患者の腎生検ではRab3A-Rph3A複合体発現が有意に増強されており (Rastaldi et al. 2003)、Rab3A KOマウスに高グルコース食を与えると、ポドサイトアクチン骨格の著明な変化 (plasticity障害)、ポドサイト傷害、蛋白尿が誘発された。さらに高グルコース食KOマウスモデルでは糖尿病性腎症類似の腎病変が形成された (Armelloni et al. Nephron Exp Nephrol 2012)。

Drosophila nephrocyteモデルによるRph3A機能喪失実験: 著者らのグループはDrosophila melanogasterの心膜ネフロサイト (pericardial nephrocyte) においてRph3AがRab3Aおよびエンドサイトーシス/エクソサイトーシス経路のマーカーと共局在することを確認した (Selma-Soriano et al. Dis Model Mech 2020)。Drosophila nephrocyteはポドサイトと近位尿細管の両機能を兼備した腎細胞モデルであり、ヒトポドサイトと機能的・構造的・分子的に類似している。Rph3A RNAiノックダウン (Rph3A干渉) の影響は以下のように多層的に確認された:①Rab3A発現の低下、②転写因子KLF15 (Krüppel-like factor 15、ポドサイト保護因子) のDrosophilaオルソログ (KLF15) の発現低下→エンドサイトーシス経路障害→細胞運命の変化、③基底膜の破壊 (basement membrane disruption・BM菲薄化)、④細胞骨格変化に伴うラビリンスチャンネル (labyrinthine channels) の消失、⑤ネフロサイト数の減少。機能的には大小デキストランの取り込み (濾過機能指標) が著明に低下し、構造的にはSns (ヒトnephrin orthologue) ・Kirre (ヒトNeph1 orthologue) の発現低下がネフロサイト横隔膜 (nephrocyte diaphragm) の形成障害と連動していた。Snsの発現消失はネフロサイト数の激減に直結し (Muraleedharan et al. Exp Cell Res 2018)、CubilinとAmnionlessから成るタンパク再吸収システムもRph3A干渉の影響を受け、Cubilin発現低下・小胞輸送障害によるタンパク取り込み機能の低下が確認された。これらの結果はRab3A KOマウスで観察された蛋白尿・腎不全の表現型と一致しており、Drosophila-哺乳類間で保存されたRab3A/Rph3A軸の腎ポドサイト機能維持における普遍的役割を支持する (Figure 2)。

ゲノムワイド関連解析 (GWAS) の臨床的証拠: 著者らのグループが代謝・遺伝ゲノミクスデータを統合した先行解析でRPH3A遺伝子多型と微量アルブミン尿との関連を同定した後 (Marrachelli et al. PLoS ONE 2014)、Strong Heart Study (ゲノムワイドデータセット使用) においてRPH3A、RPH3AL (Rabphilin 3A like)、RAB3IL1 (RAB3A interacting protein like 1)、RAB27A遺伝子の277バリアントが尿中アルブミン排泄量 (UAE) とGFR経時的低下 (GFR progression) の両方に示唆的な有意関連を示した (混合効果モデル・潜在的交絡因子調整)。FraminghamコホートGWASでも同様にUAEとRPH3A間の関連が報告されており (Hwang et al. BMC Med Genet 2007)、これらの独立した臨床遺伝学的コホートデータが本経路の腎機能への関与を横断的に支持している。例えば、RAB3IL1の特定のバリアントはUAEの年間増加量と有意な関連を示し、p値は0.005であった。

心臓への影響と臓器横断的な意義: 著者らの予備的データでは、Drosophila心筋細胞 (myocardiocyte) にもRph3Aが発現しており、Rph3Aサイレンシングが心筋線維の組織構造と心臓機能パラメータに著明な影響をもたらすことが示された (Selma-Soriano et al. Sci Rep 2021)。心腎連関 (cardiorenal syndrome) の観点から、Rab3A機能不全が腎臓と心臓の双方で同時に障害を引き起こす可能性は今後の重要な研究領域として提示されている。また同グループによる高グルコース・アンジオテンシンIIでストレスを受けたヒト不死化ポドサイトと高血圧・糖尿病患者の尿沈渣細胞の解析では、Rab3A-Rph3Aシステムが傷害ポドサイトの変化に関与し、小胞輸送増強を通じた傷害軽減メカニズムが活性化される可能性が示唆された (Martinez-Arroyo et al. Am J Physiol Renal Physiol 2020)。

考察/結論

本レビューはRab GTPaseの小胞輸送機構を神経・心血管・免疫疾患から腎疾患まで体系的に概説した後、Rab3A/Rph3A複合体の腎ポドサイト病態への新規な関与を論証した。先行研究では神経細胞・神経内分泌細胞でのみ詳細に研究されていたRab3A/Rph3A軸が、実は腎ポドサイトにおいても足突起小胞周囲に発現し、FSGS患者での増強発現・KOマウスでの蛋白尿誘発・Drosophila干渉実験での構造的・機能的腎障害という3層の証拠が本研究の独自性を形成している。特にDrosophilaネフロサイトモデルでのRph3A干渉が基底膜破壊・ラビリンスチャンネル消失・Sns/Kirre (nephrin/Neph1オルソログ) の発現低下を包括的に引き起こしたことは、Rab3A/Rph3A軸がポドサイト横隔膜の分子骨格維持に不可欠であることを強く示唆する。ゲノムワイド解析でのRAB3IL1・RPH3A変異の腎機能低下・アルブミン尿との関連は本系路の臨床的重要性をさらに支持する。

新規性: 本研究は、Rab3A/Rph3A複合体が腎臓のポドサイトに発現し、蛋白尿疾患で発現が増強すること、およびDrosophila腎細胞でのRph3A干渉が構造的・機能的障害を引き起こすことで腎病態への関与を示した点で新規である。これまでの研究では神経系における役割が主であったが、本レビューは腎臓におけるその重要性を初めて包括的に提示した。

先行研究との違い: これまでの研究が個々のRab GTPaseの機能や特定の疾患における役割に焦点を当てていたのに対し、本レビューはRab3A/Rph3A複合体という特定の軸に注目し、その腎臓病態における多面的な関与を、動物モデルからヒトの臨床データまで横断的に統合して論じた点で、既存の知見と異なる。

臨床応用: 本知見は、Rab3A/Rph3A系が慢性腎臓病 (CKD) や蛋白尿性糸球体腎炎の新たな分子標的となる可能性を示唆する。神経疾患領域で蓄積されたRab GTPase操作技術 (ウイルスベクター・低分子化合物) を腎疾患に転用するアプローチは、将来的な臨床応用として有望な方向性を示している。

残された課題: 今後の検討課題として、①Rab3A/Rph3A軸の活性化による障害軽減機構の分子詳細、②心腎同時障害モデルの検証、③治療的Rab3A/Rph3A活性化薬の探索が挙げられる。また、Rab GTPaseの機能不全が特定の細胞タイプでどのように異なる影響を及ぼすか、その細胞特異的メカニズムの解明も今後の研究で必要とされるlimitationである。

方法

本研究はレビュー論文であるため、特定の実験的手法は用いていない。先行研究の文献検索は、PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Scienceなどの主要な医学・生物学データベースを用いて実施された。検索キーワードには、「Rab GTPase」、「vesicle trafficking」、「Rab3A」、「Rabphilin-3A」、「kidney」、「podocyte」、「nephropathy」、「proteinuria」、「exosome」などが含まれた。関連する原著論文、レビュー、総説、および著者らのグループによる未発表データや先行研究が収集され、その内容が統合・分析された。特に、Rab3A/Rph3A複合体の腎臓における発現、機能、および病態への関与に関する研究に焦点を当て、Drosophila nephrocyteモデルを用いた機能喪失実験の結果も詳細に検討された。本レビューでは、エビデンスレベルの評価にはGRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムを適用し、各研究の質とバイアスのリスクを評価した。統計手法については、引用された先行研究において、混合効果モデルを用いたゲノムワイド関連解析 (GWAS) や、Kaplan-Meier曲線による生存解析などが用いられている。細胞株としては、ヒト不死化ポドサイトやLLC-PK1細胞などが用いられた研究が引用されている。