- 著者: Daisuke Hoshino, Kellye C. Kirkbride, Kaitlin Costello, Emily S. Clark, Seema Sinha, Nathan Grega-Larson, Matthew J. Tyska, Alissa M. Weaver
- Corresponding author: Alissa M. Weaver (Vanderbilt University Medical Center)
- 雑誌: Cell Reports
- 発行年: 2013
- Epub日: 2013-11-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 24290760
背景
エクソソームは直径 30-150 nm の小型細胞外小胞であり、タンパク質やRNAなどの機能性カーゴを搭載し、細胞間コミュニケーションにおいて重要な役割を果たす。これらは多小胞体 (MVE: multivesicular endosome) が細胞膜と融合する際に細胞外に放出される。がん細胞においては、エクソソームの分泌量が正常細胞に比べて著しく増加することが報告されており、腫瘍微小環境の改変、血管新生の促進、免疫応答の抑制、そして転移の促進といった攻撃的な挙動に寄与すると考えられている Peinado et al. NatMed 2012、Bobrie et al、Yang and Robbins (2011)。しかし、がん細胞におけるエクソソーム分泌がどの細胞内部位で、いかなる分子メカニズムによって厳密に制御されているかについては、ほとんど不明な点が多かった。特に、エクソソームのドッキングおよび分泌部位が細胞膜上でどのように特定されるかは未解明であった。これまでの研究では、Rab27a、Rab27b Ostrowski et al. NatCellBiol 2010、Rab35、およびTBC1D10A-C (TBC1 domain family member 10A-C) といったMVEのドッキング因子が同定されているものの Hsu et al. JCellBiol 2010、これらの因子が細胞膜上の特定の部位とどのように連携するかの詳細は不足していた。
一方、インバドポディアは、浸潤性がん細胞が形成するアクチンに富む特殊な形質膜突起構造であり、細胞外マトリックス (ECM: extracellular matrix) を局所的に分解することで細胞浸潤を促進する。MT1-MMP (膜型マトリックスメタロプロテアーゼ1) などのECM分解プロテアーゼがインバドポディア部位に選択的に集積・分泌されることは既に示されていたが、その輸送経路の詳細、特にエンドリソソーム経路との関連は未解明であった。後期エンドソーム/リソソーム (LE/Lys) のv-SNAREであるVAMP7 (vesicle-associated membrane protein 7) がMT1-MMPのインバドポディアへの輸送に必要とされることから、MVEを含む特殊なエンドリソソームコンパートメントがインバドポディアへの貨物配送に関与する可能性が示唆されていた。しかし、エクソソーム分泌とインバドポディア形成・機能との直接的な機能的連関、特に両者の相互作用ががん細胞の浸潤能にどのように影響するかについては、包括的な理解が不足していた。この知識ギャップが残されており、がんの浸潤・転移メカニズムを解明する上で重要な課題であった。
目的
本研究は、がん細胞におけるエクソソーム分泌とインバドポディア形成・機能との間の未知の相互作用を解明することを目的とした。具体的には、以下の3つの主要な目的を設定した。
- MVEとインバドポディアの空間的・時間的相互作用の可視化と特性評価: エクソソームを内包するMVEがインバドポディア部位に動的に動員され、ドッキングする様子を、電子顕微鏡およびライブイメージング技術を用いて直接的に可視化し、その相互作用の特異性を評価する。特に、CD63やRab27aといったエクソソームマーカーとインバドポディアアクチンマーカーとの共局在を詳細に解析する。
- エクソソーム分泌とインバドポディア形成・機能の機能的連関の双方向的解析: エクソソーム分泌を阻害する因子 (Rab27a、Synaptotagmin-7 (Syt7)、Hrsのノックダウン、セラミド合成阻害剤GW4869) がインバドポディアの形成、安定化、およびECM分解活性に与える影響を評価する。同時に、インバドポディア形成を阻害する因子 (N-WASp (Neural Wiskott-Aldrich Syndrome Protein) 阻害薬Wiskostatin、Tks5ノックダウン) がエクソソーム分泌に与える影響を解析する。さらに、精製エクソソームの添加がインバドポディアの形成率、寿命、およびMT1-MMPの分泌に及ぼす影響を調べることで、両者の間の正のフィードバックループの存在を検証する。
- エクソソームががん細胞の三次元浸潤を制御するメカニズムの解明: ヒト頭頸部扁平上皮がん (HNSCC) 細胞および乳がん細胞 (MDA-MB-231) を用いて、三次元マトリックスにおける細胞浸潤がエクソソーム分泌経路に依存するかどうかを評価する。特に、Rab27aノックダウンが3D浸潤能に与える影響を解析し、エクソソームがプロテアーゼ依存的な浸潤を媒介する基本的な役割を果たすことを明らかにする。
結果
MVEのインバドポディア部位への動的動員: 電子顕微鏡による薄切片解析では、Transwellフィルター上で培養したSCC61細胞が形成したインバドポディア様突起に隣接して、MVEおよびMVE含有LE/Lysハイブリッド小器官が明確に観察された (Figure 1A)。免疫蛍光染色では、CD63 (エクソソームマーカー) がアクチンリッチなインバドポディアパンクタおよびECM分解スポットに共局在した (Figure 1B)。ライブ共焦点ムービーでは、GFP-CD63およびGFP-Rab27a陽性の管状小胞構造がインバドポディアパンクタに動的に接触・取り囲む挙動が確認された (Figure 1C, D)。定量解析では、細胞の約50%でインバドポディアとエクソソームマーカーの安定的共局在がTIRF顕微鏡で観察され (n ≥ 10 cells, 3回以上の独立実験)、Rab27a KDによってこの安定的共局在が有意に減少した (p < 0.001) (Figure 1I, J)。これらの結果は、インバドポディアがMVEの特異的なドッキング部位として機能することを示唆する。
Rab27a、Syt7、Hrsノックダウンによるエクソソーム分泌とインバドポディアの同時抑制: Rab27aノックダウン (shR27-1) により、SCC25-H1047R細胞におけるエクソソーム分泌が対照 (shLacZ) 比で著明に低下した (NTA定量、p < 0.01) (Figure 2C)。同条件下でインバドポディア依存的ECM分解面積 (% cell area) とインバドポディア数/細胞がそれぞれ有意に減少した (p < 0.001、n > 53 cells/condition, 3回独立実験) (Figure 2E, F)。Syt7ノックダウン (shSyt7-1, -2) でも同様にエクソソーム分泌とインバドポディア活性が低下した (Figure 2E, F)。また、ESCRT (Endosomal Sorting Complexes Required for Transport) 経路 (Hrs KD) およびセラミド経路 (GW4869 5 μM) の双方をそれぞれ単独阻害した場合も、エクソソーム分泌が著明に減少し (n = 3 experiments) (Figure 3A)、インバドポディア数とECM分解面積がそれぞれ有意に低下した (p < 0.001、n > 51 cells/condition) (Figure 3C, D)。Hrs KDとGW4869を同時に適用した場合も、エクソソーム分泌、ECM分解、インバドポディア数への効果は各単独処理と同程度であり、相加効果はなかった (Figure 3A, C, D)。これはこれら2経路がエクソソーム生合成において同一経路上で機能することを示唆する。
精製エクソソームによるインバドポディア誘導とMT1-MMP分泌促進: SCC25-H1047R shLacZ細胞にGFP-CD63陽性エクソソーム 2 × 10^6個を添加し、ライブイメージングを行った。添加後1時間以内にはde novoインバドポディア形成率に有意な変化はなかったが、1時間後から形成率の有意な増加が認められた (成長因子存在下・非存在下の両条件で確認、p < 0.05、n > 13 cells/condition, 3回独立実験) (Figure 2J)。また、エクソソーム処理によってインバドポディアlifetime (形成後の持続時間) も有意に延長した (p < 0.05) (Figure 2K)。一方、マイクロベシクル (MV) 分画は同様の効果を示さなかった。ライブTIRF解析では、Rab27a KD細胞においてMT1-MMP-pHLuorin陽性インバドポディアの割合が対照と比較して著明に減少しており (p < 0.05) (Figure 2M)、エクソソームがインバドポディア部位へのMT1-MMP分泌を媒介することが示された。
インバドポディア阻害によるエクソソーム分泌の抑制とPI3K活性化による増強: N-WASp阻害 (Wiskostatin) でN-WASp依存的インバドポディア形成を阻害した場合、エクソソーム分泌が対照 (DMSO) 比で約70%低下した (p < 0.01、n = 3 experiments) (Figure 4C)。Tks5ノックダウン (shTks5-1) ではエクソソーム分泌が約80%減少した (p < 0.01、n = 3 experiments) (Figure 4C)。逆にPI3K活性化変異 (H1047R) を持つSCC25-H1047R細胞では、空ベクター対照 (SCC25-Control) と比較してエクソソーム分泌量が6.5倍増加した (NTA定量、p < 0.01、n = 3 experiments) (Figure 4D)。これらのデータはインバドポディアの形成能がエクソソーム分泌の主要な規定因子であることを示している。
3D浸潤のRab27a依存性: MDA-MB-231細胞を用いたInverted Matrigel invasion assayでは、Rab27a KDがshLacZ対照に比べて3D浸潤指数 (>30 μm侵入細胞の蛍光強度、shLacZ中央値で正規化) を有意に低下させた (p < 0.05、n = 3 independent experiments duplicate) (Figure 4F)。広域プロテアーゼ阻害剤GM6001もほぼ同等の浸潤抑制を示し、この3D浸潤がECM分解依存性であることを確認した。またMDA-MB-231細胞でもRab27a KDおよびHrs KDによりインバドポディア活性が有意に低下した (p < 0.001、n > 45 cells/condition) (Figure 4G)。3D Matrigel中でのMDA-MB-231ライブイメージングでは、長い突起先端にCD63 (エクソソームマーカー) とアクチンの共局在が確認され (Figure 4E)、DQ-コラーゲンIVアッセイでもCD63/アクチン陽性突起先端でのECM分解が可視化された (Figure S4C)。
考察/結論
本研究は、多小胞体 (MVE) 由来エクソソームの分泌部位としてインバドポディアが特異的かつ必須の役割を担うことを初めて実験的に証明した点で、細胞外小胞 (EV) 生物学および腫瘍浸潤機構研究において重要なマイルストーンとなる論文である。
新規性: 本研究で初めて、インバドポディアがCD63陽性およびRab27a陽性のMVEの特異的なドッキング・分泌部位として機能することを明らかにした。また、エクソソーム分泌とインバドポディア形成・機能が相互に促進し合う正のフィードバックループを形成し、がん細胞の浸潤能を駆動するという新規メカニズムを同定した。これは、エクソソームが単なる細胞外シグナリング媒体としてだけでなく、プロテアーゼ輸送体としても機能し、インバドポディアの成熟とECM分解に直接寄与するという、これまで報告されていない知見である。
先行研究との違い: 従来、MT1-MMPなどのプロテアーゼはゴルジ体-エンドソーム経路でインバドポディアに輸送されると考えられていたが、本研究はエクソソームがこの輸送の重要な媒介経路であることを示した点で、これまでの理解と異なる。Rab27a KDによるMT1-MMP-pHLuorin陽性インバドポディア割合の減少は、エクソソーム分泌がインバドポディア部位へのMT1-MMP送達に直接寄与していることを示している。また、Ostrowski et al. NatCellBiol 2010はRab27a/bがエクソソーム分泌の異なるステップを制御することを示したが、エクソソーム分泌の特定の細胞内部位は特定されていなかった。本研究はインバドポディアという構造的・機能的に確立された部位がその特定の「出口」として機能することを初めて明示した。T細胞の免疫シナプスでのエクソソーム分泌に関するMittelbrunn et al. NatCommun 2011との類似性も言及されており、特定の細胞接触部位でのエクソソーム集中分泌という概念が普遍的である可能性を示唆する。
臨床応用: 本研究で示されたエクソソーム—インバドポディア正のフィードバックループは、がん細胞の浸潤性を自己増幅させるメカニズムとして機能する。PI3K H1047R変異によるエクソソーム分泌の6.5倍増加は、腫瘍でしばしば活性化されるPI3K経路が、インバドポディア形成促進を介してエクソソーム分泌を増幅させるメカニズムを示す。これは、がん細胞の浸潤能を高めるPI3K経路の下流エフェクターとしてエクソソーム分泌増強が機能することを意味し、エクソソーム分泌経路やインバドポディア形成を標的とすることが、がんの浸潤・転移を抑制する新たな治療戦略の開発に繋がる可能性があり、臨床的意義は大きい。
残された課題: 今後の検討課題として、インバドポディアとMVEのドッキングに関わる直接的な分子機構 (ホスホイノシチドやエキソサイスト複合体など) の詳細な解明が残されている。また、エクソソームカーゴのうち、インバドポディア形成誘導に重要な特定の分子の同定も必要である。in vivoモデルでのインバドポディア—エクソソームループの寄与度の定量評価、および臨床腫瘍サンプルにおけるこのフィードバックループの活性化程度を検討することも重要である。さらに、ESCRT経路とセラミド経路がエクソソーム生合成において同一経路上で機能するという本研究のデータ (同時阻害で効果が加算されない) は、一般的に「独立した2経路」とされてきた概念を再検討させるものであり、この点の分子基盤の解明も今後の研究方向性の一つである。
方法
細胞モデル: ヒト頭頸部扁平上皮がん (HNSCC) 細胞株であるSCC61およびSCC25細胞、ならびに乳がん細胞株MDA-MB-231を使用した。SCC25細胞には、空ベクター対照 (SCC25-Control) およびPI3K触媒サブユニットの活性化変異H1047Rを安定発現させた株 (SCC25-H1047R) を用いた。SCC25-H1047Rはインバドポディア形成モデルとして確立されている。
インバドポディアアッセイ: 蛍光標識フィブロネクチンコーティングゼラチン基質プレート上に8 × 10^4細胞を播種し、18時間培養した。細胞を固定後、コルタクチンおよびF-アクチンを免疫染色し、ECM分解スポットとの共局在を示すアクチンパンクタをインバドポディアとして定量した。ECM分解面積は、MetaMorphソフトウェアの閾値ツールを用いて蛍光フィブロネクチン画像の暗い穴の領域を解析し、細胞面積に対する割合として算出した。
エクソソーム単離と定量: 細胞をOPTI-MEM培地で48時間培養し、馴化培地を回収した。エクソソームは、2,000×gで15分間遠心して細胞残渣を除去した後、100,000×gで3時間超遠心することでペレットとして得た。このペレットをPBSに再懸濁し、再度100,000×gで3時間超遠心して精製エクソソームを得た。精製エクソソームはPBSに再懸濁し、NanoSightナノ粒子追跡解析 (NTA: Nanoparticle Tracking Analysis) を用いて細胞数当たりのエクソソーム数を定量した。
ライブイメージング: GFP-CD63またはGFP-Rab27a (MVEマーカー) とtdTomato-F-Tractin (アクチン/インバドポディアマーカー) を安定発現する細胞を共焦点顕微鏡 (0.97秒/フレーム) およびTIRF顕微鏡 (2.8秒/フレーム) でライブ観察した。MT1-MMP-pHLuorinを安定発現する細胞を用いて、インバドポディア部位での外膜露出MT1-MMP (分泌) を可視化した。インバドポディアの形成率と寿命は、90秒間隔で90分間、広視野蛍光顕微鏡で画像をキャプチャし、新規形成されたF-Tractin陽性パンクタの数と持続時間を解析した。
ノックダウン実験: lentiウイルスベクターを用い、shRNA (short hairpin RNA) でRab27a (shR27-1, -2)、Synaptotagmin-7 (Syt7; shSyt7-1, -2)、Hrs (shHrs-1, -2)、Tks5 (Tyrosine Kinase Substrate with five SH3 domains; shTks5-1, -2) をノックダウンした。ノックダウン効率はウェスタンブロットで確認した。
化学阻害剤処理: インバドポディア形成を阻害するためにN-WASp (Neural Wiskott-Aldrich Syndrome Protein) 阻害薬Wiskostatinを、セラミド合成を阻害するためにGW4869 (5 μM) を使用した。これらの薬剤は、以前に効果的であり、オフターゲット効果や毒性が最小限であることが確認された濃度範囲で試験した。
3D浸潤アッセイ: Inverted Matrigel invasion assayを実施した。MatrigelをTranswellインサートに重層し、フィルターの外面に5 × 10^4細胞を播種した。72時間後、Hoechst染色を行い、共焦点顕微鏡で30 μm以上浸潤した細胞の蛍光強度を侵入指数として定量した (n = 3独立実験、各条件でduplicate)。広域プロテアーゼ阻害剤GM6001 (10 μM) を用いて、浸潤がECM分解依存性であることを確認した。
統計解析: SPSS PASW Statistics 18およびGraphPadソフトウェアパッケージを用いて統計解析を行った。データはKolmogorov-Smirnov検定で正規性を評価した。非正規分布データ (インバドポディアデータ) はKruskal-Wallis一元配置分散分析後、Tamhaneのpost hoc検定で解析し、中央値と箱ひげ図で示した。正規分布データ (エクソソーム、ウェスタンブロットデータ) は一元配置分散分析後、Bonferroniのpost hoc検定またはStudentのt検定で解析し、平均 ± 標準誤差 (SEM) で示した。p < 0.05を有意差ありと判断した。