• 著者: Tyson Smyth, Max Kullberg, Noeen Malik, Peter Smith-Jones, Michael W. Graner, Thomas J. Anchordoquy
  • Corresponding author: Thomas J. Anchordoquy (University of Colorado Denver, Anschutz Medical Campus, Department of Pharmaceutical Sciences, Aurora, CO, USA)
  • 雑誌: Journal of Controlled Release
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2014-12-16
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25523519

背景

エクソソームは、細胞間の天然のコミュニケーション機構として機能し、タンパク質、脂質、核酸などのカーゴを受容細胞に効率よく輸送する能力を持つことから、薬物送達ベクターとして大きな注目を集めてきた Valadi et al. NatCellBiol 2007。血液、尿、唾液、乳汁、胸水など多様な生体液から単離可能であること、患者由来エクソソームは免疫適合性が高いと仮定されていること、そしてそのサイズ (100〜150 nm) や膜構造がリポソームと類似していることから、既存のリポソーム開発で培われた知見がエクソソームのDDS (Drug Delivery System) 開発に応用できると期待された。実際に、いくつかの研究グループは既にエクソソームを用いて動物モデルで治療薬を送達する試みを行っている (Sun et al. 2010, Zhuang et al. 2011, Alvarez-Erviti et al. NatBiotechnol 2011, Ohno et al. 2013, Tian et al. Biomaterials 2014)。

しかし、エクソソームをDDSとして実用化するためには、静脈内投与後の生体内分布、循環半減期、腫瘍への集積効率、およびクリアランス機序を定量的に評価することが不可欠であった。リポソームは過去30年以上にわたりDDSとして徹底的に研究されてきたが、網内系 (RES) による急速なクリアランス、EPR (Enhanced Permeation and Retention) 効果の過大評価、および血管外浸透後の細胞取り込み効率の低さといった課題が臨床応用の障壁となってきた (Lammers et al. 2012)。エクソソームがこれらのリポソームの課題を克服できるかどうかは未解明であり、その独自の脂質・タンパク質組成が生体内動態にどのような影響を与えるかも不明であった。特に、エクソソームが「自己由来で免疫特権的」であるという仮説が提唱されてきたが、その真偽を検証するためには、特定のリポソーム製剤との直接比較による包括的な評価が不足していた。本研究は、これらの知識ギャップを埋めることを目的とした。

目的

本研究の目的は、非修飾腫瘍由来エクソソームの生体内動態と薬物送達効率を、特定のリポソーム製剤と比較しながら定量的に評価することである。具体的には、静脈内投与または腫瘍内投与後のエクソソームの生体内分布、循環半減期、および腫瘍集積効率を明らかにすることを目指した。また、エクソソームの急速なクリアランス機序における自然免疫系および補体系の役割を解明し、補体成分C5の関与を検証することも重要な目的とした。さらに、腫瘍内直接投与におけるドキソルビシン搭載エクソソームの腫瘍増殖抑制効果を評価し、リポソームと比較してエクソソームが腫瘍組織により長く留まる能力を持つか否かを検証することも目的とした。これらの知見を通じて、エクソソームをDDSとして実用化するための戦略的指針を確立することを目指した。

結果

非修飾エクソソームの静脈内投与後の急速な肝臓・脾臓捕捉: DIR標識4T1エクソソームをBalb/cマウス (n=6 mice) に静脈内投与後の光学イメージングでは、投与後1時間時点で既に肝臓と脾臓への強い蛍光集積が観察された (Figure 2)。24時間にかけて蛍光量は低下したが、これはDIRトレーサーの分解またはピーク集積が1時間以前に発生したことを示唆する。摘出臓器の蛍光解析でも肝臓・脾臓での高集積が確認され、腫瘍への有意な集積は認められなかった。

放射性標識実験 (111In) による定量的な評価では、PC3腫瘍担持ヌードマウス (n=5 mice) に111In標識PC3エクソソーム、MCF-7エクソソーム、PC:Cholリポソームを静脈内投与した結果、3種いずれも投与後3時間以内に循環血中の<5%のみが残存した (Figure 3A)。PC:Cholリポソームも同様の急速クリアランスを示し、その腫瘍集積量がほぼ2%/g以下という従来報告と一致した。PC3エクソソーム、MCF-7エクソソーム、PC:Cholリポソームの24時間後生体内分布プロファイルは類似しており、肝臓、脾臓、腎臓での高集積と腫瘍での低集積が共通していた (Figure 3B)。exoliposome (エクソソーム脂質抽出物から作製) の生体内分布も4T1エクソソームと同様のプロファイルを示した (Figure 2)。これらの結果は、エクソソームの独自の脂質・タンパク質組成が循環時間を延長させる効果を持たないことを示唆する。

腫瘍への集積効率は極めて低く、腫瘍の同種性は影響しない: PC3腫瘍担持ヌードマウス (n=5 mice) にPC3エクソソーム (同種) またはMCF-7エクソソーム (異種起源) を静脈内投与した比較では、PC3腫瘍組織への集積量はいずれも24時間後に投与量の<2%/gにとどまった (Figure 3B)。PC3エクソソームとMCF-7エクソソームの腫瘍集積量に有意差はなく、腫瘍と同じ細胞株由来のエクソソームが優先的に腫瘍へ集積することはなかった。腫瘍担持マウスと非担持マウスでのエクソソームの血中クリアランスおよび生体内分布にも有意差がなく (Figure 3C, 3D)、腫瘍が絶えず放出するエクソソームによってRESが飽和されるわけでもなかった。

また、400 µgの過剰投与では死亡例が発生した。DIR標識エクソソーム400 µgを静脈内投与した1例では投与後3分以内に死亡し、摘出臓器の蛍光イメージングで肺への集積が観察された (Figure 5)。これはエクソソームが肺毛細血管で凝集・閉塞することによる窒息と考えられ、安全域 (60 µg以下) の重要性を示すとともに、将来の臨床応用での緩徐注入の必要性を示す。

自然免疫・補体C5が急速クリアランスの主要メカニズム: Balb/c (免疫正常)、ヌードマウス (適応免疫不全)、NOD.CB17-Prkdcscid/J (自然免疫障害・C5欠損) の3系統のマウス (各n=3 mice) に4T1エクソソームを静脈内投与し、20分後および2時間後の蛍光イメージングで比較した (Figure 4)。Balb/cとヌードマウスでは20分から2時間にかけて肝臓・脾臓の蛍光強度にほとんど変化がなく、急速かつ完全なクリアランスが起きていた。一方、NOD.CB17-Prkdcscid/Jマウスでは20分〜2時間の間に肝臓・脾臓への蛍光集積が漸増した。すなわち、NOD.CB17-Prkdcscid/Jマウスではクリアランス速度が有意に遅延していた。

Balb/cとヌードマウスの差が認められなかったことは、適応免疫 (T細胞) の関与が主要ではないことを示す。NOD.CB17-Prkdcscid/Jマウスにおけるクリアランス遅延は自然免疫系の役割を示し、特にC5欠損が重要なことが示唆された。C5は終末補体活性に必須であり、RES細胞の化学走性促進および食作用増強に機能する。リポソームでも補体オプソニゼーションがクリアランスに関与することが示されており (Bradley et al. 1998)、本研究はエクソソームにも同様の機序が適用されることを示した。

腫瘍内直接投与ではエクソソームがリポソームより有効に腫瘍に留まる: 4T1エクソソームとPC:Cholリポソームを400 mm³の4T1腫瘍担持Balb/cマウス (n=4 mice) に腫瘍内投与した。1、12、24時間の経時光学イメージングで、エクソソームは24時間にわたって腫瘍組織に強く留まったが、リポソームの腫瘍滞留は著明に低かった (p < 0.05、Student t検定) (Figure 6A)。摘出腫瘍の定量解析でも、エクソソームの腫瘍あたり平均放射輝度がリポソームより有意に高かった (Figure 6C)。これは、エクソソームの脂質・タンパク質組成が腫瘍細胞との親和性を高め、リポソームより効率的に腫瘍細胞と会合することを示す。

ドキソルビシン腫瘍内投与治療効果の評価では、5 mg/kgのフリードキソルビシンが他の全群と比較して最大の腫瘍抑制効果を示した (Figure 7B)。1 mg/kgのフリードキソルビシン、エクソソーム-Dox、PC:Chol-Dox、SynExoLiposome-Doxはいずれもコントロールと比べ腫瘍増殖を抑制した。エクソソーム-Doxと同用量のPC:Chol-Doxを比較すると、エクソソーム-Doxが有意に強い腫瘍増殖抑制を示し (p < 0.05)、腫瘍内投与でのエクソソームの優れた細胞会合能を反映した結果となった。エクソソームからのドキソルビシン放出プロファイルはPC:Cholリポソームと類似し (3時間後に約45%放出、24時間後に約30%が内包維持)、SynExoLiposomeの方が安定性は高かった (Figure 7A)。

考察/結論

本研究は、非修飾腫瘍由来エクソソームの生体内動態を、リポソームとの比較という方法論を用いて初めて包括的に評価したものである。

エクソソームの生体内動態はリポソームと類似: エクソソームの血中クリアランスはexoliposomeやPC:Cholリポソームと類似しており、エクソソーム特有のタンパク質・脂質組成が循環時間を延長させないことを示す。この結果は、エクソソームが「自己由来で免疫特権的」であるというナイーブな仮説を否定し、エクソソームも結局は同等の速度でRESに捕捉されることを示唆する。特に、ホスファチジルセリン (PS) 受容体がマクロファージ表面に発現し、PS陽性エクソソームを認識・食作用することが知られており (Miyanishi et al. 2007)、PS含量が高いエクソソームにとってこれが主要なクリアランス経路の一つとなり得る。この点は、これまでのエクソソームの生体内動態に関する報告 (Takahashi et al. 2013, Lai et al. 2014) とも一致する。

自然免疫・補体系の重要性: NOD.CB17-Prkdcscid/Jマウスでのクリアランス遅延は、自然免疫系が非修飾エクソソームの主要クリアランスメカニズムであることを実証した。この知見は、リポソームで長年知られている補体介在クリアランスがエクソソームにも適用されることを示唆しており、PEG化などの表面修飾による補体回避戦略がエクソソームにおいても重要な設計方針となることが示唆される。ヌードマウスとBalb/cマウスで差がなかったことから、抗体介在性クリアランスの寄与は限定的であると考えられる。この新規な知見は、エクソソームと免疫系の相互作用に関する理解を深める上で重要である Thery et al. NatRevImmunol 2009Robbins et al. NatRevImmunol 2014

全身投与 vs 局所投与の戦略的含意: 静脈内投与では<2%という極めて低い腫瘍集積効率が示されたことから、非修飾エクソソームを全身投与の抗がん剤DDSとして直接使用することは現状では困難である。一方、腫瘍内直接投与では、非修飾エクソソームがリポソームより有意に有効な腫瘍滞留を示し、ドキソルビシン搭載エクソソームがリポソームよりも優れた腫瘍増殖抑制効果を発揮した。この結果は、外科的アクセスが可能な固形腫瘍への局所投与が、エクソソームDDSの現実的な臨床応用戦略として確立される可能性を示唆する。

残された課題とエクソソームDDS開発の方向性: 本研究の知見から、エクソソームを全身投与DDSとして実用化するためには、(1) PEG化やCD47発現などの「ステルス化」による循環時間の延長、(2) 腫瘍抗原を標的とするリガンド修飾による能動的ターゲティング、(3) 腫瘍内投与が可能な場合の局所送達戦略の採用、(4) 過剰投与による肺塞栓リスクの考慮 (少量分割投与・緩徐注入) という設計指針が得られた。特に、400 µgの過剰投与による急速な窒息死は、今後の研究者への重要な安全上の警告であり、静脈内投与量の厳格な管理が必要である。また、ドキソルビシン積載効率 (5% w/w) も治療効果を得るには不十分であり、より高い薬物積載技術の開発が残された課題である。これらの課題を克服することで、エクソソームDDSの臨床応用への道が開かれると考えられる。

方法

エクソソームの単離と標識: 4T1 (マウス乳腺癌)、MCF-7 (ヒト乳腺癌)、PC3 (ヒト前立腺癌) 細胞の培養上清から、逐次遠心法 (300 × g で10分、20,000 × g で20分、120,000 × g で2時間) とスクロース密度クッション (12%/30%/50%の3層) を用いてエクソソームを精製した。エクソソームのタンパク質含量はBCA (Bicinchoninic acid) タンパクアッセイで定量した。蛍光標識には親油性近赤外色素DIR (DiIC18(7)) を0.5% (w/w) の濃度で用いた。放射性標識にはインジウム111-オキシン (111In-oxine) を320 µCi/mgの比放射能で用いた。標識効率はPC3エクソソームで81%、MCF-7エクソソームで67%、リポソームで61%であった。

リポソーム製剤: 3種類のリポソームを調製した。(1) 4T1エクソソームの脂質抽出物から作製したexoliposome、(2) エクソソームの脂質組成 (PC/PE/PS/SM/Chol = 21/17.5/14/17.5/30 mol%) を模倣したSynExoLiposome、(3) 標準的なPC:Cholリポソーム (67/33 mol%)。すべてのリポソームは100 nmのポリカーボネートメンブランで押し出し成形し、NanoSight NS300でサイズを測定した。

担腫瘍マウスモデル: Balb/c、ヌードマウス (NU/J)、およびNOD.CB17-Prkdcscid/J (C5欠損) マウスの乳腺脂肪体に4T1細胞 (5×10⁴個) を移植した。ヌードマウスの脇腹にはPC3細胞 (2×10⁶個、Matrigelと1:1混合) を皮下移植した。腫瘍が約400 mm³ (投与時) または250 mm³ (PET/SPECTなど) に達した時点で実験を開始した。すべての動物実験はIACUC委員会の承認を得て実施された。

生体内分布評価: DIR標識サンプルはIVIS 200光学イメージングシステムで1、8、24時間後に生体内で撮影し、最終的に臓器を摘出して蛍光強度を定量した。111In標識サンプルでは、0.5、1.5、3、7時間後の血中サンプルと24時間後の臓器を採取し、ガンマカウンターで放射能を定量した。結果は注射量に対する割合 (%ID) または組織重量あたりの割合 (%ID/g) として表示した。血中総血液量はマウス体重100 gあたり5.5 mlと推定した。

免疫系依存性評価: 4T1エクソソームのクリアランスを、Balb/c (免疫正常)、ヌードマウス (適応免疫不全、NK/B/抗原提示細胞・補体は正常)、NOD.CB17-Prkdcscid/J (自然免疫障害、NK機能低下、補体成分C5欠損) の3系統のマウスで比較した。DIR標識エクソソームを静脈内投与し、20分後および2時間後の蛍光イメージングにより肝臓・脾臓への集積を評価した。

ドキソルビシン搭載と放出: ドキソルビシンはエクソソームに自然親和性で搭載され、約5±1 µg/100 µgエクソソーム (5% w/w) の効率であった。リポソームへのドキソルビシン搭載は、硫酸アンモニウム勾配法を用いて行った。ドキソルビシンの放出プロファイルは、FBS/PBS (50/50 v/v) 中、37 °Cで24時間インキュベートし、Sepharose CL-4B (Sepharose CL-4B) カラムで未放出ドキソルビシンを分離後、UV分光光度計 (エクソソーム) または蛍光分光光度計 (リポソーム) で測定した。

腫瘍内投与と治療効果評価: 4T1担腫瘍Balb/cマウスに、DIR標識4T1エクソソームまたはPC:Cholリポソームを腫瘍内投与し、1、12、24時間後に光学イメージングと摘出臓器の定量を行った。ドキソルビシン治療効果の評価では、4T1腫瘍担持Balb/cマウスを6群に分け、PBS対照、フリードキソルビシン (1 mg/kgまたは5 mg/kg)、ドキソルビシン搭載4T1エクソソーム (1 mg/kg)、ドキソルビシン搭載PC:Cholリポソーム (1 mg/kg)、ドキソルビシン搭載SynExoLiposome (1 mg/kg) を腫瘍内投与 (day 7、11、15) し、腫瘍体積を経時的に測定した。統計解析にはStudent t検定を用いた。