- 著者: Zachary J. Smith, Changwon Lee, Tatu Rojalin, Randy P. Carney, Sidhartha Hazari, Alisha Knudson, Kit Lam, Heikki Saari, Elisa Lazaro Ibañez, Tapani Viitala, Timo Laaksonen, Marjo Yliperttula, Sebastian Wachsmann-Hogiu
- Corresponding author: Sebastian Wachsmann-Hogiu (Center for Biophotonics, University of California Davis, Sacramento, CA, USA)
- 雑誌: Journal of Extracellular Vesicles
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-12-07
- Article種別: Original Article
- PMID: 26649679
背景
エクソソームは、ほぼすべての細胞種から産生される直径30〜150 nm前後の細胞外小胞 (EV) であり、多胞体 (MVB) の内腔小胞が細胞膜と融合して細胞外に放出されることで形成される。近年、エクソソームは機能的なmRNA、miRNA、DNA、タンパク質、代謝産物を内包して細胞間コミュニケーションに関与することが明らかになり、免疫系の恒常性維持やがんを含む多くの病理に深く関与していることが示されてきた。例えば、Valadi et al. NatCellBiol 2007は、エクソソームがmRNAとmiRNAを輸送し、遺伝子交換の新規メカニズムとなることを報告した。また、Lazaro et al. Prostate 2014は、前立腺がん細胞由来エクソソームのサブポピュレーションにおける異なるgDNA含有量を示し、Melo et al. CancerCell 2014は、がんエクソソームが細胞非依存的なmiRNA生合成を行い、腫瘍形成を促進することを明らかにした。これらの研究は、エクソソームが多様な生物学的機能を持つことを示唆している。
エクソソーム研究の標準的手法はバルク解析に依存しており、差速超遠心法で単離した集団全体のプロテオミクス、NTA (nanoparticle tracking analysis)、ウエスタンブロット、PCRなどが行われてきた。しかし、これらの手法では集団平均の情報しか得られず、細胞内でのエクソソーム生合成時の積荷選択がどの程度精密であるか、また同一細胞由来エクソソーム間でも化学的不均一性があるかどうかは未解明であった。バルク解析手法ではこのような粒子間変動を捉えることは原理的に不可能であり、単粒子レベルの化学組成解析のための技術的アプローチが不足していた。この知識ギャップを埋めるためには、個々のエクソソームの化学組成を直接的に解析する手法が必要とされていた。
ラマン分光法 (Raman spectroscopy) は、ラベルフリー・非破壊的に試料の化学組成を同定できる手法であり、細胞、組織、ナノ粒子、液滴などの単粒子解析に適用されてきた。特にレーザートラップラマン分光 (LTRS: Laser Tweezers Raman Spectroscopy) は、強集束レーザービームで微粒子を光学トラップした状態でラマン散乱を共焦点検出するもので、サイズ数十〜数百 nmのエクソソームを個別に解析することを可能にする。先行研究として、同一グループが集合エクソソーム (複数個同時にレーザートラップ) のラマンスペクトルを測定したが、集団平均情報しか得られなかった。真の単一粒子レベルでのエクソソームラマン分光は本研究が初めてであり、エクソソームの不均一性を詳細に解析するための強力なツールとなることが期待された。従来のバルク解析では、エクソソームの多様な機能的役割を完全に理解するための情報が不足しており、特に個々のエクソソームが持つ微細な化学的差異が、その生物学的機能にどのように影響するかについては、深い知識ギャップが残されていた。
目的
レーザートラップラマン分光 (LTRS) を用いて複数のがん性・非がん性細胞株由来エクソソームを一粒子ずつ解析し、以下の点を明らかにすることを目的とした。(1) EV集団内の化学的多様性の実態と細胞株間・細胞株内変動のパターンを詳細に評価すること。(2) スペクトル変動の主因となる膜化学組成、特にコレステロール含量、リン脂質とコレステロールの相対比、および表面タンパク質の発現を同定すること。(3) 細胞株非特異的なEVサブポピュレーション構造の存在を確立し、これらのサブポピュレーションが細胞タイプ間で共有される生物学的機能を持つ可能性を検討すること。本研究は、エクソソームの不均一性を単粒子レベルで解明し、その機能的意義を理解するための基盤情報を提供することを目指した。これにより、エクソソームが細胞間コミュニケーションにおいて果たす多様な役割をより深く理解し、将来的には疾患診断や治療への応用につながる新たな知見を得ることを目指した。
結果
細胞株間および細胞株内のエクソソーム化学組成の顕著な変動性: 7細胞株由来エクソソームの平均ラマンスペクトルは細胞株間で顕著に異なり、特に700 cm⁻¹付近 (コレステロールエステルに帰属)、1,000〜1,100 cm⁻¹ (脂質C-C伸縮)、1,200〜1,300 cm⁻¹ (脂質CH₂変角)、1,600〜1,700 cm⁻¹ (タンパク質Amide I) 領域で明確な差異が認められた (Figure 3a)。700 cm⁻¹ピークは非がん性細胞 (3T3、IMR90) 由来エクソソームで特に高く、コレステロール含量の差を反映していた。単一粒子レベルでは、同一細胞株由来エクソソーム間でも粒子間の著しいスペクトル変動が確認された。この結果は、バルク解析では捉えられないエクソソーム集団内の不均一性の存在を強く示唆するものであり、各細胞株から測定されたエクソソームはn=10〜20 particlesであった。
主成分分析により膜化学組成に関連する3つの主要な変動軸を同定: PCA解析では、第1主成分 (PC7c1: 33%分散)、第2主成分 (PC7c2: 18%分散)、第3主成分 (PC7c3: 10%分散) の累積寄与が61%に達した (Figure 3d)。PC7c1のスペクトル形状は純コレステロールのラマンスペクトルと強く一致し、PC7c1スコアの増大がコレステロール含量の増加を反映することが示唆された。PC7c3はコレステロールとリン脂質の逆相関を反映し、リン脂質とコレステロールの混合スペクトルへのフィッティングでPearson r=0.82の高い相関を示した (Figure 4)。フィッティング係数から、PC7c3の増大はコレステロール/リン脂質の1:1モル置換比でのリン脂質増加を表すと解釈された。PC7c2は表面タンパク質発現に関連するスペクトル変化を反映し、そのスペクトル形状はトリプシン処理実験で得られた主成分PCTr2とPearson r=0.74の高い相関を示した。
細胞株非特異的な4つのエクソソームサブポピュレーションの存在: 階層的クラスタリング解析により、7細胞株由来のすべてのエクソソームは4つの明確なクラスタに分類された (Figure 3b, c)。クラスタ1はJurkat、SKOV3、A549のがん細胞由来エクソソームを主に含み、PC7c1・PC7c2の高スコア域に位置した。クラスタ2と3には非がん性細胞由来 (3T3、IMR90) エクソソームが排他的に含まれ、PC7c3低スコア域 (コレステロール優位な膜組成) に集積した。クラスタ4はクラスタ1と重複するがん性細胞由来エクソソームを含んだ。各クラスタが特定の細胞株に依存せず複数の細胞株からのエクソソームを含んでいること、また1つの細胞株から複数のクラスタのエクソソームが産生されることが確認された。非がん性細胞由来エクソソームはクラスタ1と4にほとんど含まれず、これらのクラスタが表す機能はがん細胞で優先的に用いられている可能性が示唆された。
トリプシン処理実験によるPC7c2の表面タンパク質発現への寄与: LNCaP由来MVとエクソソームの未処理 vs トリプシン処理サンプルのLTRS解析では、未処理状態ではMVとエクソソームのスペクトルが明確に区別されたが (主にPCTr1・PCTr2軸上で分離)、トリプシン処理によってこの区別が消失した (Figure 5c)。PCTr2は表面タンパク質除去 (ウエスタンブロットでCD9・CD63の消失を確認、Figure 2c) に対応したスペクトル変化を反映し、そのスペクトル形状はPC7c2と高い相関 (Pearson r=0.74) を示した (Figure 6)。これにより、PC7c2が表面タンパク質発現量を反映し (PC7c2スコア増大 = 表面タンパク質減少)、7細胞株間のスペクトル変動の主因の一つであることが確立された。この結果は、エクソソームの表面タンパク質組成がそのラマンスペクトルに大きく影響を与えることを明確に示した。
LNCaP細胞由来EVの特性評価とトリプシン処理の効果: LNCaP細胞から差速遠心分離法で単離されたMVとエクソソームは、NTAにより異なるサイズ分布を示した。MVはエクソソームと比較して平均サイズが大きく、これはDragovic et al. Nanomedicine 2011の報告と一致する (Figure 2d)。また、LNCaP MVとエクソソームのゼータ電位は、p=8×10⁻⁴の有意差が確認され、これらのEV集団が物理的に異なることを示唆した (Figure 2e)。トリプシン処理後、CD9およびCD63のウエスタンブロットシグナルは消失し、表面タンパク質が効果的に除去されたことが確認された (Figure 2c)。この結果は、PCTr2が表面タンパク質の変化を反映しているという仮説を裏付けるものであった。
PCAによる主要な化学的差異の定量化: PC7c1はコレステロール含量の増加、PC7c3はリン脂質とコレステロールの1:1モル置換比でのリン脂質増加を反映することが、純粋な化学物質のスペクトルとの比較とフィッティングにより定量的に示された。特に、非がん性細胞由来エクソソームは、がん性細胞由来エクソソームと比較してコレステロールが豊富でリン脂質が少ない傾向が認められた。この知見は、エクソソームの膜組成が細胞の生理学的状態によって大きく異なることを示しており、がん細胞の機能に特有の膜組成を持つエクソソームサブポピュレーションが存在する可能性を示唆する。
考察/結論
新規性: 本研究は、単一エクソソームレベルのラマン分光解析として世界初の報告であり、EVの化学的不均一性の実態を単粒子分解能で明らかにした。エクソソーム集団内に細胞株非特異的な4つのサブポピュレーションが存在し、各クラスタが複数の細胞種由来EVを含むという発見は、特定のEVサブタイプが細胞種を超えて保存された生物学的機能を担う可能性を示唆する革新的な知見である。これまで報告されていないこの知見は、エクソソーム研究の新たな方向性を示すものである。
先行研究との違い: 従来の枠組みでは各細胞株が固有のエクソソーム集団を持つと仮定されてきたが、本研究は生物学的機能が粒子レベルのサブポピュレーション構造と紐付いている可能性を新規に示した点で、これまでのバルク解析とは対照的な知見である。EVサブポピュレーション間の化学的差異が主に膜組成 (コレステロール含量、コレステロール/リン脂質比、表面タンパク質発現) によって説明されるという発見は、エクソソームの生物学的機能を制御する分子基盤として脂質ラフト関連の膜ドメイン構造が重要である可能性を提起する。
臨床応用: がん性細胞がクラスタ1・4に分類されるEVを非がん性細胞よりも多く産生することは、がん特異的な機能 (免疫抑制、腫瘍微小環境形成、転移前ニッチ形成など) にこれらのサブポピュレーションが関与することを示唆し、診断マーカーとしての潜在価値も有する。これは将来的なエクソソームベースのがん診断への臨床応用につながる可能性があり、臨床的意義は大きい。特に、単一エクソソームレベルでの解析は、より高感度で特異的なバイオマーカーの同定に貢献しうる。
残された課題: 技術的limitationとして、LTRS測定には1粒子あたり5分の積算時間が必要であり、高スループットには不向きである点が挙げられる。また、約100 nm以上の粒子を優先的にトラップする可能性があり、より小型のEVの代表性に制限がある。密度勾配精製なしでの測定ではタンパク質凝集体などの混入の可能性を完全には排除できない。しかし、2つの独立した実験デザイン (7細胞株実験、トリプシン実験) で主成分形状が高い相関 (Pearson r=0.74およびr=0.92) を示したことは結果の頑健性を支持する。今後の検討課題として、LTRSで分類したサブポピュレーション別に積荷・機能を解析することで、EVサブポピュレーション特異的な生物学的役割の解明が期待される。これにより、エクソソームの多様な機能とその制御メカニズムに関する理解がさらに深まるだろう。
方法
細胞株・EV単離: 7種類の細胞株からTEIR (Total Exosome Isolation Reagent) 沈降法でEVを単離した。これには、がん性細胞株としてA549 (肺がん)、Huh-7 (肝細胞がん)、SKOV3 (卵巣がん)、Jurkat (急性T細胞白血病)、Kasumi-1 (急性骨髄性白血病) の5種、非がん性細胞株としてIMR90 (肺線維芽細胞)、3T3 (マウス胚性線維芽細胞) の2種が含まれた。LNCaP前立腺がん細胞については、差速遠心法 (2,500 gで25分、次いで20,000 gで1時間 [微小小胞: MV]、さらに110,000 gで2時間 [エクソソーム]) で別途単離し、トリプシン処理実験に使用した。エクソソーム性は、ウエスタンブロット (CD63、CD9、TSG101、calnexin)、NTA、電子顕微鏡 (従来法TEM、クライオEM) で検証した。LNCaPエクソソームとMVのゼータ電位は、p=8×10⁻⁴の有意差が確認された。
単一エクソソームラマン分光 (LTRS): 自家製LTRS装置 (785 nm CrystalLaser、倒立顕微鏡IX-71、60×/1.2-NA水浸対物レンズ) を使用した。焦点体積は約1μm×1μm×3μmで、単一EVをトラップし、10フレーム×30秒 (合計5分積算/粒子) のラマンスペクトルを取得した。7細胞株実験では、各細胞株からn=10〜20 particlesを測定した。スペクトル処理は、コズミックレイ除去、Whittakerスムージング (Lagrangeパラメータ5)、バックグラウンド補正 (石英、PBS、TEIR試薬、5次多項式の非対称最小二乗フィッティング)、そして1,450 cm⁻¹ピーク面積での正規化 (総有機含量に対する各化学基の比率) を行った。これにより、化学組成の相対的な違いを評価した。
主成分分析 (PCA) と階層的クラスタリング: MATLAB組み込みのprincomp関数を用いてPCAを実行した。最初の10主成分スコアに基づき、Ward法 (ユークリッド距離) による階層的クラスタリングを実施し、各エクソソームを4つのクラスタに分類した。この解析により、エクソソーム集団内のサブポピュレーション構造を明らかにした。
トリプシン処理実験: LNCaP MVとエクソソームを0.25% トリプシン/DPBS (37°C、1時間) で処理し、表面タンパク質を消化した。その後、サイズ排除クロマトグラフィー (CL-2B Sepharose) で精製し、LTRSで解析した。CD9とCD63のウエスタンブロットにより、タンパク質除去の有効性を確認した。この実験は、表面タンパク質がラマンスペクトルに与える影響を評価するために実施された。LNCaP細胞は、EVクリアFBSを添加したRPMI-1640培地で培養された。EVクリアFBSは、110,000 gで20時間超遠心分離することで調製された。EVは、差速遠心分離プロトコルを用いて細胞培養液から単離された。具体的には、2,500 gで25分間遠心分離して細胞と大きなデブリを除去し、その後20,000 gで1時間遠心分離してMVをペレット化し、さらに110,000 gで2時間遠心分離してエクソソームをペレット化した。