• 著者: Sonia A. Melo, Hikaru Sugimoto, Joyce T. O’Connell, Noritoshi Kato, Alberto Villanueva, August Vidal, Le Qiu, Edward Vitkin, Lev T. Perelman, Carlos A. Melo, Anthony Lucci, Cristina Ivan, George A. Calin, Raghu Kalluri
  • Corresponding author: Raghu Kalluri (University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-10-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25446899

背景

エクソソームは50-140 nmのナノ小胞であり、タンパク質、mRNA、miRNAを脂質二重膜内に含み、がん細胞を含む多様な細胞から分泌されることが知られている Thery et al. NatRevImmunol 2002。近年、エクソソームは細胞間コミュニケーションの重要なメディエーターとして注目されており、その内容物を通じて標的細胞の生理機能や病態に影響を与えることが示唆されている Simons et al. CurrOpinCellBiol 2009。乳がん患者血清のエクソソームレベルは健常者に比し高いことが複数報告されており (Logozzi et al. 2009; Taylor and Gercel-Taylor 2008; O’Brien et al. 2013)、エクソソームmiRNAが受容細胞の遺伝子発現を制御する可能性が示唆されていた Valadi et al. NatCellBiol 2007。しかし、成熟miRNAが遺伝子サイレンシングを発揮するには、Dicer/TRBP (TARBP2)/AGO2 (Argonaute 2) からなるRISC (RNA-induced silencing complex)-Loading Complex (RLC) によるpre-miRNAのプロセシングとRISC組み込みが必須である。単鎖miRNA単独ではRISCへの取り込み効率が極めて低く、エクソソーム由来miRNAが実際に機能するためにはRLC構成因子の存在もしくは受容細胞内のプロセシング機構が必要と考えられた。HIV感染細胞のエクソソームやMVBs (multivesicular bodies) にDicer/TRBP/AGO2が共局在するとの断片的報告はあったが (Narayanan et al. 2013; Shen et al. 2013)、がんエクソソーム固有のmiRNA生合成能と腫瘍形成への寄与は未解明であった。特に、エクソソーム内でのpre-miRNAから成熟miRNAへの細胞非依存的なプロセシング能力については、その分子機構を含め、詳細な検証が不足していた。この知識ギャップが、エクソソームを介したがんの進展メカニズムの理解を妨げていた。

目的

本研究の目的は、がん細胞由来エクソソームに含まれるmiRNA機構タンパク質 (Dicer/AGO2/TRBP) と前駆体pre-miRNAの有無を同定し、細胞非依存的pre-miRNAプロセシング能力、標的細胞のトランスクリプトーム変化、および非腫瘍性上皮細胞を腫瘍化する能力を体系的に検証することである。加えて、Dicerのエクソソームへの選択的輸送を媒介する分子機構を解明することも目指した。最終的には、これらの知見がエクソソームを標的とした新規診断バイオマーカーや治療法の開発に繋がる可能性を探ることを目的とした。

結果

がんエクソソームにおけるmiRNAの選択的富化と細胞非依存的成熟: 乳がん細胞株 (MCF7, MDA-MB-231, 4T1) 由来エクソソームは、正常細胞株 (MCF10A, NMuMG) 由来エクソソーム (normosome) に比し、miRNAが全体的に富化されていた (Figure 1C)。特に転移性MDA-MB-231および4T1由来エクソソームでは、非転移性MCF7由来エクソソームよりも顕著なmiRNA富化が認められた。がん細胞自体の総small RNA量は正常細胞より低い傾向にあり、エクソソームへの選択的なmiRNA包装が示唆された。無細胞培養72時間後、がんエクソソーム内miR-10a/10b/21/27a/155/373の平均fold changeはMDA-MB-231由来エクソソームで17.6倍、MCF7由来エクソソームで4.5倍、4T1由来エクソソームで13.2倍と有意に増加した (Figure 1F)。対照的に、normosomeでは成熟miRNAの増加は認められなかった。この成熟miRNAの増加は、同時にpre-miRNAの有意な減少と逆相関していた (Figure 2B, 2D)。例えば、MDA-MB-231エクソソームではpre-miR-10bが72時間で約0.5倍に減少する一方で、成熟miR-10bは約15倍に増加した。この結果は、がんエクソソームが細胞非依存的にpre-miRNAを成熟miRNAへとプロセシングする能力を持つことを明確に示している。

RISC-Loading Complex (RLC) 構成因子の内包とCD43を介したDicer輸送: Dicer、AGO2、TRBPの全てがMCF7、MDA-MB-231、4T1、67NR由来のがんエクソソームで検出されたが、MCF10A、NMuMG由来のnormosomeでは検出されなかった (Figure 3A, 3F, 3G)。免疫沈降実験により、がんエクソソーム内でDicer-AGO2-TRBP複合体が形成されていることが確認された (Figure 3J, 3K)。Dicer抗体によるエクソソームのプレ処理は、pre-miRNAから成熟miRNAへの細胞非依存的な変換を阻害した (Figure 4F, 4G)。質量分析により、MDA-MB-231エクソソームに特異的にCD43が同定され、CD43がDicerと物理的に結合することが示された (Figure 4A)。CD43のsiRNAによるノックダウンは、Dicerのエクソソームへの取り込みを消失させ、Dicerが細胞内に蓄積することを引き起こした (Figure 4B, 4C)。逆に、MCF10A細胞にCD43を過剰発現させると、Dicerが細胞内でCD43と結合し、エクソソームへと分泌されるようになった (Figure 4D)。この結果は、CD43がDicerのエクソソームへの選択的輸送アダプターとして機能することを示している。MVBマーカーであるHrs、BiG2、TSG101との共局在もMDA-MB-231細胞で確認され、DicerがMVBを介してエクソソームに輸送される経路が示唆された (Figure S3H)。

がんエクソソームによる標的細胞のトランスクリプトーム改変と腫瘍形成誘導: MCF10A細胞をがんエクソソームで処理すると、PTENやHOXD10など、既知のmiRNA標的mRNAがDicer依存的に抑制された (Figure 6C, 6D)。Dicerアンチセンスまたは阻害抗体で処理したエクソソームではこの効果が消失した (Figure 6F)。がんエクソソームの標的細胞は、わずか数時間から24時間で大規模なmRNA変化 (Spearman相関の低下) を示し、mRNA抑制が迅速かつ効率的であることが明らかになった (Figure 6B)。MCF10A細胞をMDA-MB-231または4T1由来エクソソームとプレインキュベートし、免疫不全マウスに皮下移植すると、8週で腫瘍形成が認められた (MDA-MB-231エクソソーム処理群で100%、4T1エクソソーム処理群で80%、n=8 mice/group)。対照的に、Normosome処理群では腫瘍形成は認められなかった (Figure 6I)。Dicerノックダウンまたは抗Dicer抗体中和エクソソーム処理群では腫瘍形成が有意に抑制され (p=0.005)、Dicer依存的であることが示された (Figure 6I)。さらに、乳がん患者の血清由来エクソソーム処理によってもMCF10A細胞の腫瘍形成が確認されたが、健常者血清由来エクソソーム処理では腫瘍形成は認められなかった (Figure 7H)。乳がん患者血清エクソソームにはDicer、pre-miRNA (pre-miR-10b, pre-miR-21)、および成熟miRNA全てが検出されたのに対し、健常者血清エクソソームには欠如していた (Figure 7F, 7G, 7I)。これらの結果は、がんエクソソームがDicer依存的に非腫瘍性細胞の形質転換を誘導し、腫瘍形成を促進する能力を持つことを強く支持する。

考察/結論

本研究は、がん細胞由来エクソソームが「細胞非依存的miRNA生合成装置」という独自の機能を有することを本研究で初めて実証した。これまで、エクソソーム内のmiRNAは受容細胞内で機能すると考えられてきたが、本研究はこれと異なり、エクソソーム自体がRLC構成因子 (Dicer, AGO2, TRBP) とpre-miRNAを協調的に包装し、エクソソーム内部でpre-miRNAから成熟miRNAへのプロセシングを完結させる能力を持つことを示した。この新規な発見は、エクソソームを介した細胞間コミュニケーションの理解を大きく進展させるものである。

新規性: 特に、CD43が腫瘍特異的なDicerのエクソソームへの動員アダプターとして機能するという新規のメカニズムを同定したことは、エクソソームのmiRNAプロセシング機構に関する理解を深める上で重要な知見である。このCD43を介したDicer輸送は、これまで報告されていない特異的なメカニズムであり、がんエクソソームの機能的特性を決定する上で中心的役割を果たすと考えられる。

先行研究との違い: 多くの先行研究がエクソソームによる成熟miRNAの輸送とその標的細胞への影響に焦点を当てていたのに対し、本研究はエクソソーム内部でのmiRNA生合成という、より上流のプロセスに注目した点で対照的である。この機構により、がんエクソソームはPTEN、HOXD10など腫瘍抑制遺伝子のmRNAを標的細胞で迅速にサイレンシングし、周囲の正常細胞にoncogenic field effectを及ぼす新たな「腫瘍細胞間・腫瘍-間質間コミュニケーション」のパラダイムを提示した。

臨床応用: 本知見は、Dicerのエクソソーム検出が乳がん診断バイオマーカーとしての潜在性を持ち、Dicer中和抗体、CD43-Dicer相互作用阻害、pre-miRNAデコイによる治療戦略の基盤を提供するなど、臨床応用への道を開く可能性がある。特に、乳がん患者血清エクソソーム中のDicerとpre-miRNAの存在は、非侵襲的な診断法開発の有望なターゲットとなる。

残された課題: 残された課題として、CD43に加えてTRBP・AGO2の選択的包装機構のさらなる詳細、がん種間でのRLC包装パターンの差異、エクソソームを介した正常上皮から腫瘍への変換がin vivo自発的腫瘍形成でも生じるか、ヒト多中心性乳がんやfield cancerizationにおけるエクソソーム機構の寄与、などの検証が今後の検討課題である。また、エクソソームのmiRNA生合成が、受容細胞のmiRNA経路とどのように協調・競合するのかについても、さらなる研究が必要である。

方法

エクソソーム分離と特性評価: 乳がん細胞株 (MDA-MB-231、MCF7、4T1、67NR) および正常乳腺細胞株 (MCF10A、NMuMG) の培養上清、ならびに乳がん患者血清から超遠心分離法 (ultracentrifugation) でエクソソームを回収した。回収されたエクソソームは、透過型電子顕微鏡 (TEM)、原子間力顕微鏡 (AFM)、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA)、光散乱分光法 (LSS) を用いて粒子径 (平均104-112 nm) と形態を評価した。また、エクソソームマーカーであるCD9、CD63、TSG101、flotillin-1の存在を免疫ブロットおよびフローサイトメトリーで確認した (Figure 1A, 1B, S1D, S1E)。アポトーシス小体や細胞破片の混入がないことをMTTアッセイ、TUNELアッセイ、フローサイトメトリー、cytochrome C免疫ブロットで確認し、純粋なエクソソーム調製物であることを担保した。

miRNAプロファイリングとRLC検出: エクソソームのmiRNAコンテンツを評価するため、miRNAアレイとqPCRを用いて24時間および72時間の無細胞培養後のエクソソームmiRNA変化を測定した。特に、miR-10bとmiR-21の成熟をNorthern blotで確認した。RLC構成因子であるDicer、AGO2、TRBPの存在はWestern blotで検出された。また、6種類のpre-miRNA (pre-miR-10a/10b/21/27a/155/373) の存在をRT-PCRで確認した。細胞外RNAの混入を除去するため、RNase処理を施した。Dicer、AGO2、TRBPの共免疫沈降実験により、がんエクソソーム内でのRLC複合体形成を検証した。

Dicer輸送機構の解析: 質量分析により、MDA-MB-231エクソソームに特異的に存在するタンパク質としてCD43を同定した。CD43のsiRNAによるノックダウン実験および過剰発現実験を行い、Dicerのエクソソームへの輸送におけるCD43の役割を評価した。DicerとCD43の物理的相互作用は免疫沈降法によって確認された。MVBマーカーであるHrs、BiG2、TSG101との共局在もMDA-MB-231細胞で確認された。

miRNAプロセシングの機能評価: Dicerノックダウン細胞由来エクソソーム、または抗Dicer抗体もしくは抗TRBP抗体をエレクトロポレーションで導入したエクソソームを用いて、pre-miRNAから成熟miRNAへの変換能力の変化を評価した。さらに、合成pre-miRNAをエクソソームに導入し、そのプロセシング効率を検証することで、エクソソームのmiRNA生合成能を直接的に評価した。

腫瘍形成能の評価: MCF10A細胞へのがんエクソソーム処理が標的細胞のトランスクリプトームに与える影響を全mRNAアレイで定量した。PTENやHOXD10などの既知miRNA標的遺伝子の発現を免疫ブロットとルシフェラーゼレポーターアッセイで評価し、miRNAによる遺伝子サイレンシング効果を検証した。免疫不全マウスへのMCF10A+エクソソーム移植により、腫瘍形成をin vivoで評価した (n=8 mice/group)。Dicerノックダウンまたは抗Dicer抗体中和エクソソーム処理群との比較により、Dicer依存性を確認した。乳がん患者血清由来エクソソームについても同様の腫瘍形成能を評価した。統計解析にはt検定および一元配置分散分析 (ANOVA) を用い、p<0.05を有意差とした。