- 著者: Rebecca A. Dragovic, Christopher Gardiner, Alexandra S. Brooks, Dionne S. Tannetta, David J.P. Ferguson, Patrick Hole, Bob Carr, Christopher W.G. Redman, Adrian L. Harris, Peter J. Dobson, Paul Harrison, Ian L. Sargent
- Corresponding author: Ian L. Sargent (Nuffield Department of Obstetrics and Gynaecology, University of Oxford, UK)
- 雑誌: Nanomedicine : nanotechnology, biology, and medicine
- 発行年: 2011
- Epub日: 2011-05-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 21601655
背景
細胞が放出する細胞外小胞 (EV: extracellular vesicle) は、アポトーシス小体 (直径500nm〜3μm)、マイクロベシクル (直径100nm〜1μm)、ナノベシクル (エクソソーム; 直径30〜100nm) の主に3種類に分類される。これらEVは多様な膜タンパク質、細胞質タンパク質、mRNA、microRNAを搭載し、細胞間コミュニケーションにおいて中心的な役割を果たすことが知られている。生理的には止血、血栓形成、炎症、免疫応答、血管新生に関与し、病理的にはアテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、子癇前症、血液疾患、炎症性疾患、糖尿病、がんなど多様な疾患で循環EVレベルの上昇が報告されており、診断・予後バイオマーカーとしての応用が期待されている。例えば、Thery et al. NatRevImmunol 2009は、EVが免疫応答のメッセンジャーとして機能することを詳細にレビューし、その生物学的意義の広がりを示唆している。また、Cocucci et al. TrendsCellBiol 2009は、マイクロベシクルが単なる細胞死の副産物ではなく、細胞間情報伝達の重要な担い手であることを強調している。さらに、Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006では、エクソソームの分離と特性評価に関するプロトコルが確立され、EV研究の基盤が築かれた。
しかし、当時のEV測定技術には根本的な限界が存在した。電子顕微鏡 (EM: electron microscopy) は形態観察に優れるものの、定量性に乏しく試料調製が煩雑であるという課題があった。ウエスタンブロットは粒子数やサイズの情報を与えず、酵素結合免疫吸着測定法 (ELISA: enzyme-linked immunosorbent assay) は全小胞を捕捉できず可溶性抗原との区別も困難であった。従来のフローサイトメトリー (アナログ機器または第一世代デジタル機器) は、約300nm以下の小胞 (エクソソームを含む) を検出できないという重大な課題を抱えていた。Orozco et al. Cytometry Part A 2010はフローサイトメトリーによるマイクロパーティクル解析の限界を指摘し、特に小型EVの検出における不足を強調している。原子間力顕微鏡 (AFM: atomic force microscopy) はサイズ分布や数の測定を可能にするが、極めて労力集約的であり、ハイスループットな解析には不向きであった。動的光散乱法 (DLS: dynamic light scattering) は液中の生体小胞を測定できるものの、大粒子への測定バイアスと混合粒子の分解能不足という根本的欠点を持つ。これらの既存技術では、ナノスケールのEVを個別にリアルタイム測定・定量・表現型同定できる新手法の確立が強く求められていたが、その技術は未確立であった。このような背景のもと、本研究は、これらの課題を克服し、EV研究の進展に貢献する新たな解析法の開発を目指した。
目的
本研究は、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA: nanoparticle tracking analysis) をヒト胎盤由来小胞および血漿に適用し、以下の2点を目的とした。第一に、NTAによるマイクロベシクル・ナノベシクルのサイズ測定と濃度定量能力を評価すること。これは、従来の測定法では困難であった約50nmまでの小型EVの検出と定量が可能であることを実証することを意味する。第二に、NTAに蛍光標識抗体を組み合わせた表現型同定技術を初めて開発・実証すること。これにより、特定の表面抗原を持つEVサブポピュレーションを特異的に識別し、そのサイズと濃度を同時に解析する能力を確立することを目指した。これらの目的を達成することで、EV研究における既存の技術的限界を克服し、疾患バイオマーカーとしてのEVの可能性を広げる新たなツールを提供することを目指した。
結果
NTAによる粒径分解能と濃度定量性の実証: NTAは、100nmと300nmのポリスチレンビーズの5:1混合物において、2つのピークを明確に分離して検出した (それぞれ約100nmおよび300nmに検出) (Figure 2A)。この結果は、DLSの多分散サンプルの分解能不足という欠点をNTAが克服できることを実証した。100nmビーズの濃度測定では、1×10⁸〜8×10⁸ particles/mLの範囲で測定値と実際の濃度の間に良好な直線性が得られた (Figure 2B)。多分散サンプルでは大粒子の散乱強度が高いため過大評価が生じる可能性があるが、小粒子 (約100nm) の測定には問題がないことが確認された。NTAソフトウェアは、ブラウン運動の確率的性質により生じるピークの重なりを補正する機能を持つが、本研究では細胞由来小胞のサイズ分布に関する仮定を避けるため、この補正は適用しなかった。この実験では、n=5 replicatesで測定を行い、平均値と標準偏差を算出した。
胎盤小胞のサイズ分布:NTA・EM・フローサイトメトリーの比較: EMによる超遠心ペレットの直接計測では、胎盤小胞は20〜600nmの多分散サイズ分布を示し、ピークサイズは100〜140nmであった (Figure 3A, 3C)。NTAによる同一サンプルの解析では40〜600nmの分布が得られ、ピークは約250nmに認められた (Figure 3C)。EMで検出された20〜60nmの小型粒子成分がNTAでは一部見落とされたが、これはNanoSight LM10のこのサイズ域における感度限界に加え、EM用固定処理による小胞の収縮アーティファクトも寄与している可能性がある。フローサイトメトリーでは、200nmビーズと機器ノイズが同じ領域に分布することから実用的な下限が300nmに設定された (Figure 3D)。フローサイトメトリーで測定された胎盤小胞の濃度は1.6×10⁹ particles/mLであり、全体の90%以上が1μm未満で主要集団は300〜400nmであった (Figure 3E)。同一サンプルをNTAで測定すると、約70%の小胞が300nm未満であり、総濃度は3.7×10¹¹ particles/mL (フローサイトメトリーの約230倍) であった。この劇的な差はNTAが約50nmまでの小型ナノ小胞を検出可能であるのに対し、フローサイトメトリーでは300nm以下が検出されないことを反映している。各測定はn=3 replicatesで実施された。
蛍光NTAによる胎盤小胞の表現型同定: NanoSight NS500を用いた蛍光NTAの原理実証として、100nm蛍光ビーズと200nm非蛍光ビーズの混合物を解析した。光散乱モードでは両サイズのピークが分離されたが、430nm長波長透過フィルターを介した蛍光モードでは100nm蛍光ビーズのみが検出され、蛍光特異的検出が確認された (Figure 4A)。蛍光モードと光散乱モードで算出された100nm蛍光ビーズのサイズ・濃度は良好な一致を示した (変動係数CV 8%)。胎盤特異的抗体NDOG2-Qdot605による標識効率をフローサイトメトリーで確認したところ、フローサイトメトリーで検出可能な胎盤小胞の93.5%がNDOG2-Qdot605で標識されたのに対し、アイソタイプコントロールでは非特異的標識はほとんど認められなかった (Figure 4B, 4C)。免疫金EMにより、300nm未満の小型小胞にもNDOG2抗原が発現していることを確認した (Figure 4D)。NanoSight NS500での蛍光NTA解析では、NDOG2標識小胞は光散乱モード・蛍光モードともに50〜600nmの範囲に分布し、ピークサイズは100nm付近および180nm付近に認められた (Figure 4E)。光散乱モードと蛍光モードで測定されたピークサイズにわずかな差が見られたが、これは本技術の変動係数 (CV 8%) の範囲内であった。n=3 replicatesで実験が行われた。
ヒト血漿中細胞外小胞の蛍光NTA解析: 無血小板血漿にQTrackerペプチドを直接添加してNS500で解析した。光散乱モードでは小胞サイズは50〜300nmに分布しピークは約80nmで総濃度は1.49×10¹² particles/mLであったのに対し、蛍光モードでは標識小胞濃度は1.2×10¹⁰ particles/mLと著しく少なかった (Figure 5A)。この大きな差は、血漿中に細胞由来小胞と同サイズの大量の脂質小胞 (カイロミクロン・超低密度リポタンパク質) が光散乱モードでは検出されるが、QTrackerペプチドで標識されないためと考えられた。同一血漿の超遠心ペレットを解析すると光散乱モード (1.4×10¹⁰ particles/mL) と蛍光モード (1.1×10¹⁰ particles/mL) の測定値は良好に一致した (Figure 5B)。これは、超遠心で沈降する細胞由来小胞は蛍光標識されるが、超遠心で沈降しない脂質小胞は標識されないことと整合するデータであった。この結果は、複雑な生体液中のEV解析において、表現型同定が不可欠であることを明確に示している。この実験はn=4 donorsの血漿サンプルを用いて実施された。
考察/結論
本研究はNTAが細胞外小胞の測定において既存手法を大幅に凌駕する能力を持つことを体系的に示した、当該分野における先駆的な方法論的研究である。
先行研究との違い: NTAは従来のフローサイトメトリーの検出下限 (約300nm) を大きく下回る約50nmまでの小型ナノ小胞をリアルタイムで個別にサイズ測定・定量できる点で、これまでの技術と大きく異なる。同一サンプルで測定した濃度差 (NTA: 3.7×10¹¹ vs フローサイトメトリー: 1.6×10⁹ particles/mL) は、従来のフローサイトメトリーが全EV集団の1%以下しか検出できていなかったことを示しており、過去のEV測定研究の解釈に根本的な再考を促す知見である。EMとの比較では、NTAは試料固定・乾燥処理が不要であるため収縮アーティファクトを回避でき、液中での「ありのまま」の粒径を測定できる利点がある。また定量性においてもEMを大幅に上回り、数千粒子を数分で解析できる高速性はEMやAFMでは不可能である。DLSと比較すると、DLSが単一検出素子で全粒子の光散乱を同時測定するため大粒子バイアスが避けられないのに対し、NTAは粒子を個別に追跡するため多分散サンプルでも各サイズ成分を正確に分解できる。さらにNTAはブラウン運動から粒径を算出するため、フローサイトメトリーとは異なり粒子の屈折率に依存しない点も重要な利点である。フローサイトメトリーではポリスチレンビーズより屈折率の低い細胞小胞のサイズを過小評価するリスクがあるが、NTAはこの影響を受けない。
新規性: 蛍光NTA (NS500) による表現型同定機能の実証は本研究のもう一つの主要な貢献であり、本研究で初めて示された。NDOG2-Qdot605抗体によりフローサイトメトリーでは検出できない300nm未満の胎盤小胞も含めて特異的に標識・同定できることが示された。さらに、血漿中のQTracker標識実験は細胞由来小胞と脂質小胞の区別という実際の生体試料解析における重大な課題を浮き彫りにし、表現型情報を組み合わせることの重要性を示した。超遠心ペレットでは細胞由来小胞のみが回収されるため光散乱と蛍光モードの測定値が一致し、全血漿では脂質小胞の混入により光散乱モードが蛍光モードの約100倍の数値を示したことは、EV測定における前処理ステップの重要性を示す注目すべき観察である。
臨床応用: 本研究で確立されたNTAおよび蛍光NTAの方法論は、疾患バイオマーカー研究、がん液体生検、再生医療など広範な分野におけるEVの臨床応用に大きく貢献する。特に、これまで検出困難であった小型EVの正確なサイズ測定と表現型同定が可能になったことで、疾患特異的なEVサブポピュレーションの同定や、治療効果モニタリングへの臨床的有用性が期待される。例えば、特定の疾患で増加する小型エクソソームの早期検出や、治療介入によるEVプロファイルの変化をリアルタイムで追跡することが可能になる。
残された課題: 方法論的なlimitationとして、NTAの検出下限が約50nmであることから超小型エクソマーや脂質粒子とEVの区別が困難な点、多分散サンプルでの大粒子の濃度過大評価の可能性、および500nm以上の大型小胞 (アポトーシス小体) では速いブラウン運動が観察できないためフローサイトメトリーの方が適している場合があることが指摘された。今後の検討課題として、これらの限界を克服するための技術改良や、多様な生体液中EVの網羅的な表現型解析が挙げられる。特に、血漿中の細胞由来EVをより高純度で分離し、多様な細胞マーカーを用いたマルチプレックス蛍光NTA解析により、疾患特異的なEVプロファイルを詳細に解明することが重要である。
方法
胎盤小胞の調製: 本研究はMid and South Buckinghamshire Research Ethics Committeeの承認を得て実施された。健常妊婦から帝王切開後に胎盤を取得し、インフォームドコンセントを得た。二重灌流系を用いて胎盤を灌流し、胎児循環側は0.1μmフィルター処理した改変M-199組織培養培地(l-グルタミンおよびアール塩含有M-199培地、0.8%デキストラン20、0.5%ウシ血清アルブミン、5000 U/Lヘパリンナトリウム、2.75 g/L重炭酸ナトリウム、pH 7.4)に100,000 IUストレプトキナーゼをボーラス投与し、5 mL/分で灌流した。母体循環側は0.1μmフィルター処理したM-199培地(l-グルタミンおよびアール塩含有M-199培地、0.5%ウシ血清アルブミン、5000 U/Lヘパリンナトリウム、2.75 g/L重炭酸ナトリウム、pH 7.4)を20 mL/分で灌流した。灌流液は37°Cに加温され、母体側灌流液は95% O2、5% CO2で酸素化された。20分間の平衡化後、母体側灌流液600 mLを含む回路を閉鎖し、3時間灌流を継続した。灌流終了後、母体側灌流液をBeckman J6-M遠心分離機で600g、10分間、4°Cで遠心分離した。その上清をBeckman L8-80M超遠心分離機で150,000g、1時間、4°Cで超遠心分離し、ペレットを回収した。ペレットはリン酸緩衝生理食塩水 (PBS: phosphate buffered saline) に再懸濁し、BCA (bicinchoninic acid) タンパク質アッセイキットを用いて総タンパク濃度5mg/mLに調整後、-80°Cで保存した。
電子顕微鏡 (EM): ルーチンEMとして、胎盤小胞懸濁液をFormvar/カーボンコートグリッドに吸着させ、蒸留水で洗浄後、1%メチルタングステン酸で負染色し、電子顕微鏡で観察した。免疫EMでは、胎盤アルカリフォスファターゼに特異的なモノクローナル抗体NDOG2を一次抗体として、10nm金コロイド標識二次抗体 (goat anti-mouse) を用いて小胞表面抗原を同定した。小胞径は電子顕微鏡写真から2名の独立した観察者により手動で測定し、平均値を算出した。
ナノ粒子トラッキング解析 (NTA) (NanoSight LM10): NanoSight LM10システムは、低角度で入射するレーザービーム (405nm) で液中の粒子を照射し、光散乱を通常の光学顕微鏡とビデオカメラで可視化した。サンプルチャンバーの深さは約500μmだが、レーザービームの深さは解析点で約20μmであった。60秒間 (30fps) のビデオを撮影し、NTAソフトウェアがフレーム毎に粒子を追跡・ブラウン運動を計測した。二次元ストークス-アインシュタイン式により流体力学的径 (dh) と濃度を算出した。NTAの検出下限は約50nm、上限は約1μmである。これは、レイリー散乱の原理に基づき、粒子の屈折率に依存せずブラウン運動からサイズを決定するため、フローサイトメトリーと比較して低屈折率の生体小胞のサイズを正確に測定できる利点がある。NIST (National Institute of Standards and Technology) 標準ポリスチレンビーズ (100nm・300nm) の5:1混合物を用いて粒径分解能を検証し、100nmビーズの濃度測定では2×10⁸〜20×10⁸ particles/mLの範囲で直線性を確認した。胎盤小胞はPBSで2×10⁸〜8×10⁸ vesicles/mLに希釈して解析した。ビデオ撮影時のカメラゲインとシャッタースピード、および解析時のフィルター設定、背景減算、最小トラック長、フレーム間検索エリアなどのパラメータは、粒子識別の最適化のために調整された。
フローサイトメトリー: Becton Dickinson LSRIIフローサイトメーター (405nm・488nmレーザー搭載) を使用した。200nm、290nm、390nm、590nmの較正ビーズと1μm Fluoresbrite Plain YGビーズでゲートを設定した。サイドスキャッター (SSC: side scatter) 閾値200任意単位を設定し、200nmビーズと機器ノイズが重複することから、実用的な検出下限を300nmに設定した。TruCount Tubeを用いて流速を12μL/分に確定した。胎盤小胞を1:50希釈後、FcR (Fc receptor) ブロック (10μL) で10分間4°Cインキュベートし、その後NDOG2-Qdot605またはIgG1 (immunoglobulin G1) アイソタイプコントロール-Qdot605 (10μg/mL) と15分間室温で反応させた。サンプルはPBSで1mLに希釈後、フローサイトメトリーで解析した。
蛍光NTA (NanoSight NS500): NanoSight NS500は、405nm紫外レーザーと高感度カメラを搭載した蛍光対応機である。430nm長波長透過フィルターを用いて蛍光標識粒子のみを検出・追跡した。較正ビーズとしてNanosphere Size Standards 200 nmとFluoresbrite Plain YG 100 nm Microspheresを使用した。NDOG2抗体にQdot (quantum dot) 605量子ドットをSMCC (4-(maleimidomethyl)-1-cyclohexanecarboxylic acid N-hydroxysuccinimide ester) 架橋法で共有結合させ (抗体:Qdot = 3.5:1モル比)、胎盤小胞懸濁液 (1:100希釈) に最終濃度10nMで添加し15分間室温インキュベート後にNTA解析した。アイソタイプコントロール (マウスIgG1-Qdot605) を並行評価した。
血漿小胞の蛍光NTA: 健常人の血液を0.106mMクエン酸ナトリウムで採取し、2500gで15分間2回遠心して無血小板血漿を調製した。QTracker (Quantum Dot Cell Tracker) ペプチドは、標的ペプチドを用いてQdotナノ結晶を細胞膜を介して細胞質内に送達するキットである。このQTrackerペプチド (0.625nM溶液2μL) を血漿または超遠心ペレット (100,000g、1時間、4°Cで調製) に添加 (37°C、1時間) してNS500で解析し、光散乱モードと蛍光モードを比較した。統計解析には、Excelスプレッドシート (Microsoft Corp., Redmond, Washington) を用いて、各小胞サイズにおける濃度を算出した。本研究では、粒子サイズの分布比較にStudent t-testを用いた。