- 著者: Bowen Liu, Yuan Jin, Jingyi Yang, Yue Han, Hui Shan, Xuyang Zhao, Anhang Liu, Yan Jin, Yuxin Yin, Mantang Qiu
- Corresponding author: Yuxin Yin (Institute of Systems Biomedicine, School of Basic Medical Sciences, Peking University Health Science Center, 38 Xueyuan Road, Haidian, Beijing 100191, China; Email: yinyuxin@bjmu.edu.cn)
- 雑誌: Journal of Extracellular Vesicles
- 発行年: 2022
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 35595717
背景
細胞外小胞 (EV; extracellular vesicle) は、細胞間および遠隔臓器間の長距離情報伝達において極めて重要な役割を担うことが認識されつつある。EVはその生化学的・生物物理学的特性および細胞内起源に基づいて、マイクロベシクル、アポトーシス小体、エクソソームに分類される (Andaloussi et al. NatRevDrugDiscov 2013)。これらは多細胞生物における細胞間および臓器間コミュニケーションを媒介し、恒常性維持に寄与する新たなメッセンジャーシステムとして注目されている (Tkach et al. Cell 2016)。しかし、これまでのEV研究の大半は細胞培養培地由来のEVを用いており、多細胞種が共存する生理的組織微環境の影響を反映できないという限界があった。固形組織から直接単離されたEVは、より生理的な条件を反映すると期待されるが、組織EVの効率的な単離技術は最適化されておらず、生理的条件下でのEVの恒常性または病理的機能がin vivoでどのように発揮されるかは未解明な点が多かった。このように、組織由来EVの直接的な役割やその動態については、研究手法の制限から依然として大きな gap が残されており、生理的組織微環境におけるEVの機能的役割に関する知見は著しく不足していた。
肺は外部環境と直接接触し、ガス交換、酸化代謝、免疫恒常性維持に重要な役割を持つ複雑な臓器である。また、腸や腎臓など、解剖学的に異なる遠隔臓器とのコミュニケーションも報告されている。特に、肺腫瘍が局所転移がない場合でも骨の骨芽細胞を遠隔的に活性化し、骨髄由来の好中球を誘導して腫瘍増殖を促進することや、肺由来EVがin vitroで骨髄細胞に取り込まれること (Aliotta et al, Aliotta et al) が示されており、肺と骨髄間の機能的相互作用の存在が示唆されていた。しかし、この臓器間通信の分子基盤、すなわち、どの細胞種が肺EVを産生し、どのような分子メカニズムで骨髄細胞に作用するかについては、知識が不足していた。
EV内のカーゴは多様であり、タンパク質と核酸の両方を含む (Skotland et al. ProgLipidRes 2017)。複数の研究で、二本鎖DNA (dsDNA; double-stranded DNA) がゲノムDNAやミトコンドリアDNAを含む形でEV内に検出されており (Balaj et al. NatCommun 2011; Sansone et al. ProcNatlAcadSciUSA 2017; Thakur et al)、がん細胞からのEV-DNA分泌が診断バイオマーカーとして注目されている。EV-DNAは、細胞恒常性維持のため有害DNAを細胞から排出する機構でもある可能性が示されている。TLR9 (Toll-like receptor 9) はCpG-DNAを認識するパターン認識受容体であり、好中球での発現が確認されている。肺EVに搭載されたdsDNAがTLR9を介して骨髄好中球を活性化するという機序は仮説として魅力的であったが、in vivoでの実証は存在せず、この点に大きな知識ギャップが残されていた。
目的
本研究の目的は、まずヒトおよびマウス肺組織から高品質な細胞外小胞 (EV) を単離するための新規プロトコルを確立することである。このプロトコルは、従来の細胞培養系EV研究の限界を克服し、生理的組織微環境をより正確に反映する組織由来EVの特性評価を可能にすることを目指す。次に、プロテオミクスとシングルセルRNAシーケンス (scRNA-seq) の統合解析を用いて、肺EVの主要な産生源となる細胞種を同定する。特に、肺EVのタンパク質組成が、その起源細胞を反映しているか否かを詳細に評価する。さらに、肺EVが骨髄好中球に与える機能的影響、特に好中球の走化性誘導と炎症時の動員増強について、その分子機序(dsDNA-TLR9軸)を詳細に解析する。この際、肺EVに内包されるdsDNAの存在様式(表面か内部か)とその機能的役割を明確にすることを重視する。最終的に、このEV-DNAを介した経路が細菌感染防御における宿主免疫応答にどのような生理的意義を持つかをin vivoモデルで実証することを目指す。これらの目的を達成することで、肺と骨髄間の遠隔臓器間コミュニケーションの新たな分子基盤を確立し、炎症性疾患や感染症に対する新規治療戦略の開発に貢献する。
結果
新規肺EV単離プロトコルの確立と品質評価: Dispase II酵素消化と10層スクロース密度勾配遠心分離を組み合わせた新規プロトコルにより、ヒト肺組織から96.2%、マウス肺組織から94.2%という高い生細胞率を維持した高品質EVの単離に成功した (Figure 1c)。NTAによりEVの中央値径が100〜200 nmであることが確認され (Figure 1g)、TEMおよびCryo-TEMでは典型的なEV形態である二重膜封入構造が観察された。ウェスタンブロット解析では、ALIX、CD9、CD81、TSG101といったEV関連タンパク質が濃縮されている一方で、ゴルジ体 (GM130)、小胞体 (Calnexin)、ミトコンドリア (TOM20, VDAC1) の非EV汚染マーカーは検出されないか、ごく微量しか存在しないことが示され (Figure 1d,e,i,j)、MISEV2018基準に準拠した高純度EVが単離されたことが証明された。プロテオーム解析により、ヒト肺EV特異的マーカーとしてGPRC5AおよびAGERが同定され、これらのタンパク質は他の臓器由来細胞株では発現が低いことが確認された。EVの平均収量はヒト組織で0.78 µg/mg、マウス組織で0.70 µg/mgであった。
ATII細胞が肺EVの主要産生源であることの同定: ヒト肺EVから583種、マウス肺EVから589種のタンパク質がLC-MS/MSにより同定された。これらのプロテオームデータと公開されているscRNA-seqデータ (GSE133747) を統合解析した結果、ヒトおよびマウスの肺において、II型肺胞上皮細胞 (ATII細胞) が最も高いt-EV%を示し、肺EVの主要な産生源であることが示唆された (Figure 3c,d)。GSEAでは、EV放出関連遺伝子セットがATII細胞で有意に富化していることが確認された (p<0.05, FDR<0.25) (Figure 3j)。また、非免疫細胞が免疫細胞よりもEV産生能が高いという所見は、ATII細胞が主要なEV産生源であるという結果と整合した。ヒトサンプルでは単一線維芽細胞が最も多くのEVを放出し、マウスサンプルではATI細胞が最も多かった。
肺EVの骨髄への特異的集積とdsDNAの含有: DiRラベルした肺EVを静脈内投与した BALB/c マウス (n=3 mice) では、48時間後に肝臓、脾臓、肺と比較して、骨髄 (大腿骨) に最も高い蛍光強度の特異的集積が確認された (Figure 5a,b)。共焦点顕微鏡により、DiIラベルした肺EVが骨髄細胞、特に好中球 (52.7%) や単球 (24.1%) に細胞内取り込みされることが可視化され (Figure 5d,e)、肺EVが全身循環を介して骨髄に選択的に蓄積する能力が実証された。また、Cre-loxPシステムを用いたin vivo実験でも、肺細胞由来のCre-mRNAを搭載したEVが ROSA26-CAG-LSL-tdTOMATO マウスの骨髄細胞に転送され、TOMATO蛍光を発現することが確認された (Figure 5f,g)。肺EVはSYTOX GreenおよびDAPI染色、FCMによりdsDNAを内包することが確認された (Figure 4d,i)。DNase I処理により、EVに結合したDNAの約40%が減少したことから、DNAはEVの表面と内部の両方に存在することが示された (Figure 4g,h)。全ゲノムシーケンス解析により、肺EV内のdsDNAは全染色体にわたる様々な長さの断片を含み、細胞DNAと類似したコピー数変異 (CNV) プロファイルを示すことが明らかになった (Figure 4e,f)。
肺EV-dsDNAによるCXCL1/CXCL2誘導と好中球走化性の増強: マウスおよびヒト骨髄好中球に肺EVを処理すると、CXCL1およびCXCL2が選択的に誘導された (Figure 7c,d)。DNase I処理した肺EVではこのCXCL1/CXCL2誘導効果が消失した (p<0.05) (Figure 7d)。TLR9阻害剤 (ODN2088, E6446) およびNFκB阻害剤も同様にCXCL1/CXCL2誘導を消失させ、dsDNA→TLR9→NFκB→CXCL1/CXCL2というシグナル軸が確立された (Figure 7h,i)。RNA-seq解析では、肺EV処理好中球においてDNA認識および好中球活性化関連遺伝子セットが有意に富化していることが示された (Figure 7a,b)。チオグリコレート誘発性腹膜炎モデルにおいて、肺EV前投与群ではCD11b+Ly6G+好中球の腹腔内動員が用量依存的に有意に増加し (p<0.05)、DNase I処理EVではこの効果が消失した (Figure 6a,b,d,e)。GW4869による内因性肺EV分泌抑制は、好中球走化性を阻害した。
Salmonella感染防御への生理的寄与とGW4869実験: 肺EV前投与マウス (n=13 mice) では、Salmonella Typhimurium感染後の生存率が有意に向上した (Kaplan-Meier法、p<0.05) (Figure 8g)。腹腔内、血液、肝臓、脾臓の細菌量も有意に減少し (Figure 8h)、DNase I処理肺EVでは生存改善効果が消失した。GW4869前投与マウスでは感染後生存率が低下し、内因性肺EV産生が感染防御に必須であることが示された (Figure 8i,j)。LPS誘発性炎症モデルでは肺EV産生量が増加し、炎症時に肺EVシグナルが動的に強化される調節機序の存在が示唆された (Figure 8a,b)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、従来の細胞培養系に依存したEV研究と異なり、固形組織から直接単離したEVを用いることで、より生理的なin vivo環境でのEVの役割を深く理解することを可能にした。また、これまでの研究ではEV内のdsDNAの存在について議論が分かれていたが、本研究は高純度なスクロース密度勾配遠心分離を用いることで、dsDNAが低密度の肺EV画分に確かに内包されていることを明確に示した点で、これまでの知見と対照的である。
新規性: 本研究で初めて、ATII細胞が肺EVの主要な産生源であることをプロテオミクスとscRNA-seqの統合解析により新規に同定した。さらに、肺EVが全身循環を介して骨髄に選択的に集積し、内包するdsDNAを介して好中球のTLR9シグナルを活性化し、CXCL1およびCXCL2の産生を促すという「肺-骨髄」間の遠隔臓器間コミュニケーション軸を世界で初めて実証した。
臨床応用: 本知見は、GPRC5AおよびAGERを肺特異的EVマーカーとして同定したことにより、液体生検における肺由来EVの非侵襲的定量化への臨床応用が期待される。また、肺EV-dsDNA-TLR9軸の制御は、重症細菌感染症に対する宿主免疫応答の強化や、過剰な好中球動員が病態となる急性呼吸窮迫症候群 (ARDS) などの炎症性疾患における新規治療標的としての臨床的有用性を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、肺EVがどのような表面分子を介して骨髄に選択的に集積するのかという詳細な標的化メカニズムの解明が残されている。また、本研究におけるGW4869を用いた内因性EV分泌抑制実験には、未知のオフターゲット効果というlimitationが存在するため、今後は遺伝学的に内因性EV分泌を特異的に欠損させたマウスモデルを用いた検証が必要である。さらに、肺がんや間質性肺疾患などの病態下における肺EVの機能変化についても、今後の研究方向性として重要である。
方法
肺EV単離プロトコルの確立と品質評価: マウス肺組織からは、まず気管内にDispase II (3 U/ml, 2 ml) を注入し、1%アガロースで固化させた後、肺を摘出した。その後、Dispase II (2 ml) で37℃、60分間消化し、100 µmナイロンフィルターで濾過後、DNase I含有RPMI-1640中でさらに解離させた。ヒト肺組織 (100 mgあたり1 ml Dispase II) は2×2×2 mm片に細切し、同様に37℃、60分間消化した後、フィルターと解離工程を行った。共通のEV単離工程として、300×gで20分、3,000×gで20分、10,000×gで60分の差速遠心分離を行い、細胞、デブリ、大型小胞を除去した。上清は0.22 µm PES (polyethersulfone) フィルターで濾過し、110,000×gで70分間の超遠心分離によりEVを沈殿させた。ペレットはPBSで洗浄後、再度110,000×gで70分間 (45TiおよびTLA-55ロータを使用) 超遠心分離し、粗EV残渣を30 µl PBSに再懸濁した。さらに、10層スクロース密度勾配遠心分離 (0.25〜2.5 M、0.45 ml×10層) を180,000×gで13時間行い、低密度フラクション (F1-F5) を肺EVとして回収した。EVの品質管理は、フローサイトメトリー (FCM) による生細胞率、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA; nanoparticle tracking analysis) による中央値径、透過型電子顕微鏡 (TEM) およびクライオ電子顕微鏡 (Cryo-TEM) による形態観察、ウェスタンブロット (WB) によるEVマーカー (ALIX, CD9, CD81, TSG101) の陽性確認と非EV汚染マーカー、すなわちゴルジ体マーカー GM130、小胞体マーカー Calnexin、ミトコンドリアマーカー TOM20 (translocase of outer mitochondrial membrane 20) および VDAC1 (voltage-dependent anion channel 1) の陰性確認により包括的に行った。プロテオーム解析はLC-MS/MS (LTQ Orbitrap Elite) を用いて実施した。
肺EV産生源の同定: 公開されているヒトおよびマウス肺のscRNA-seqデータ (GSE133747) と、LC-MS/MSで得られた肺EVのプロテオームデータを統合解析した。各細胞クラスターにおける組織特異的EV産生指標 (t-EV%) を算出し、EV放出関連遺伝子セットの各細胞クラスターでの富化をGene Set Enrichment Analysis (GSEA) で評価した。
肺EVの体内分布解析: DiR (1,1’-dioctadecyl-3,3,3’,3’-tetramethylindotricarbocyanine iodide) ラベルした肺EVを BALB/c マウスに静脈内投与し、48時間後の蛍光体内分布をin vivo蛍光イメージングシステムで解析した。肝臓、脾臓、肺、骨髄における蛍光強度を比較した。DiI (1,1’-dioctadecyl-3,3,3’,3’-tetramethylindocarbocyanine perchlorate) ラベルした肺EVの骨髄細胞への取り込みは共焦点顕微鏡で確認した。また、Cre-loxPシステムを用いて、肺細胞由来EVがin vivoで骨髄細胞に機能的なCre-mRNAを転送することを確認した。この実験では ROSA26-CAG-LSL-tdTOMATO マウスを用いた。
機能解析:
- 好中球走化性誘導: チオグリコレート誘発性腹膜炎モデルを用いて、肺EV前投与後の腹腔内CD11b+Ly6G+好中球数をFCMで定量した。
- CXCL1/CXCL2誘導機序: マウスおよびヒト骨髄好中球に肺EVを処理し、ELISAおよびqRT-PCRでCXCL1とCXCL2の産生量を定量した。DNase I処理EV、TLR9阻害剤 (ODN2088, E6446)、およびNFκB阻害剤を用いて分子機序を検証した。肺EV処理好中球の遺伝子発現変化はRNA-seqで解析した。
- Salmonella感染防御: Salmonella Typhimurium (1×10⁷ CFU、腹腔内) を BALB/c マウスに投与し、肺EV前投与 (3日前、静脈内) 群と対照群で生存率 (Kaplan-Meier 法) および細菌量を比較した。DNase I処理EVおよび GW4869 (EV分泌阻害剤) 前投与により、内因性肺EVの役割を検証した。
- LPS炎症モデル: LPS (lipopolysaccharide) 誘発性炎症モデルにおいて肺EV産生量の変化を定量した。
統計解析: 統計解析はGraphPad Prism 7およびRStudioソフトウェアを用いて実施した。2群間の差は Student t-test (両側非対応) で評価し、多群間の比較には2元配置反復測定ANOVA後にBonferroniの事後検定を用いた。p<0.05を有意差ありと判断した。