• 著者: Pasquale Sansone, Claudia Savini, Ivana Kurelac, Qing Chang, Laura Benedetta Amato, Antonio Strillacci, Anna Stepanova, Luisa Iommarini, Chiara Mastroleo, Laura Daly, Alexander Galkin, Basant Kumar Thakur, Nadine Soplop, Kunihiro Uryu, Ayuko Hoshino, Larry Norton, Massimiliano Bonafé, Monica Cricca, Giuseppe Gasparre, David Lyden, Jacqueline Bromberg
  • Corresponding author: Pasquale Sansone (pasquale_s2002@yahoo.it); Giuseppe Gasparre (giuseppe.gasparre@gmail.com, University of Bologna, Italy); Jacqueline Bromberg (bromberj@mskcc.org, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, USA)
  • 雑誌: PNAS
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-10-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29073103

背景

エストロゲン受容体陽性 (ER+) 乳がんは、ホルモン療法 (HT) であるフルベストラントなどによる治療中に代謝休眠状態 (dormancy) に陥り、その後治療抵抗性を獲得して再発することが臨床的に大きな問題となっている。この再発は、初回診断から数年、あるいは数十年後に発生する可能性があり、転移が複数の部位に及ぶことも少なくない。ER+乳がんは、解糖系よりも酸化的リン酸化 (OXPHOS) に代謝的に依存することが知られており、ミトコンドリアDNA (mtDNA) の変異やコピー数変化と治療抵抗性の関連が近年注目されてきた。例えば、mtDNAを欠損した非腫瘍形成性のがん細胞が、宿主由来のmtDNAを獲得することでin vivoでの腫瘍形成能を回復することが報告されている (Tan et al. Cell Metab 2015)。また、mtDNAの変異や欠損がOXPHOS機能を阻害し、腫瘍形成能を低下させることも示されている (Calabrese et al. Cancer Metab 2013)。

腫瘍微小環境の主要な細胞であるがん関連線維芽細胞 (CAF) は、サイトカイン、増殖因子、および細胞外小胞 (EV) の放出を通じて、がん細胞の代謝を調節することが示されてきた (Martinez-Outschoorn et al. Nat Rev Clin Oncol 2017)。EVは、miRNA、mRNA、ゲノムDNAなどの核酸を細胞間で転送できることが広く知られている (Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014)。例えば、Peinado et al. NatMed 2012は、メラノーマ由来エクソソームが骨髄前駆細胞を前転移性表現型へと教育することを示し、Zhang et al. Nature 2015は、微小環境由来エクソソームmiRNAが脳転移の増殖を促進することを示した。また、Thakur et al. CellRes 2014Kahlert et al. JBiolChem 2014は、エクソソーム内に二本鎖ゲノムDNAが存在することを報告している。しかし、完全なミトコンドリアゲノム (16.6 kbの環状DNA) がEV内に梱包され、機能的に転送されうるかどうかは、本研究以前には全く検証されておらず、この点に大きな知識のギャップが残されていた。特に、EVを介したmtDNA転送とその代謝的影響に関するメカニズムは未解明であった。本研究は、この未開拓な領域に焦点を当て、ホルモン療法抵抗性乳がんにおけるmtDNA転送の役割を明らかにすることを目的とした。

目的

本研究の目的は、ホルモン療法抵抗性 (HTR) 転移性乳がん患者の循環エクソソーム (EV) がmtDNAを含むことを臨床的に実証することであった。さらに、がん関連線維芽細胞 (CAF) 由来エクソソームが完全なmtDNAゲノムを搭載し、ホルモン療法誘発性代謝休眠状態 (HTD) のER+乳がん幹細胞様細胞に水平転送することで、OXPHOS能力の回復、代謝休眠からの脱出、および治療抵抗性を誘導するという仮説を検証することを目指した。具体的には、in vitroおよびin vivoモデルを用いて、CAF由来エクソソームによるmtDNA転送が、HTD細胞のOXPHOS活性、自己複製能、および腫瘍形成能に与える影響を詳細に解析し、このメカニズムが内分泌療法抵抗性転移の発生に寄与するかどうかを明らかにすることを目的とした。本研究は、EVを介したmtDNA転送がOXPHOS依存性乳がんにおける治療誘発性幹細胞の休眠からの脱出を促進する発がんシグナルとして機能し、治療抵抗性転移を導くという仮説を検証する。

結果

HTR患者循環EVにおけるmtDNA高値: 22名のHTR転移乳がん患者の血清EV中のmtDNA (ND1コピー数) を測定した結果、22名中19名 (86.4%) のHTR患者EVに高レベルのmtDNAが検出された。対照的に、健常人 (n=9)、術後早期乳がん患者 (n=12)、および未治療転移がん患者 (n=6) のEVではmtDNAはほとんど検出されなかった (p<0.005)。この臨床観察は、血清EV mtDNAがHTR疾患に特異的であるという仮説を支持するものであった。HTR患者では、核ゲノムDNA (GAPDH) を持つEVは7/22 (32%) にとどまったのに対し、mtDNA (ND1) 陽性EVは19/22 (86.4%) と顕著に高率であり、EVへのmtDNAの選択的パッケージングが強く示唆された。この非対称なパッケージング率は、mtDNAがランダムにEVに取り込まれるのではなく、能動的な選択機構が存在することを示唆する (Figure 1A)。

マウスゼノグラフトモデルにおけるHTR病態とmtDNA水平転送: MCF7-Luciferase/GFP+乳腺脂肪パッド (MFP) ゼノグラフトをフルベストラント (10 μM) で処置すると、4か月間の増殖停止 (HTS: ホルモン療法感受性休眠状態) に続いて指数的増殖 (HTR: ホルモン療法抵抗性) という二峰性パターンが観察された (Figure 2A)。HTR腫瘍由来のがん細胞は、HTS細胞と比較してSeahorse XF測定によるOCRで約3倍のOXPHOS能力増大を示した (Figure 2B)。HTR転移病変では6/8 (75%) のマウスでマウスmtDNA (mu-mtDNA) が検出されたのに対し、未治療転移病変では1/8 (12.5%) のみ検出され (p<0.05)、ホルモン療法によって間質CAFからがん細胞へのmtDNA転送が誘発されることが示された (Figure 2D)。mu-mtDNA陽性HTR細胞は、mu-mtDNA陰性細胞よりも有意に高いOCRを示し、mu-mtDNAの取得がOXPHOSの増強に直接寄与することが確認された。さらに、これらのmu-mtDNA高発現HTR細胞は、完全なmu-mtDNAコード転写産物 (ND1、ND2、COX2、ATP8、ATP6など12のミトコンドリア遺伝子) を発現していた (Figure 2E)。OXPHOS阻害剤であるアトバコン (1 μM) は、HTR細胞のHTに対する感受性を回復させた (Figure 2F)。

CAF由来エクソソームへの完全mtDNAゲノム搭載の実証: 電子顕微鏡およびNanoSight解析により、mCAF由来EVは約150 nmの杯型膜小胞であり、エクソソームとして分類された (Figure 3B)。定量マススペクトロメトリーにより、ATP5A、VDAC1、テトラスパニン (CD9、CD63、CD81) などのミトコンドリアタンパク質およびエクソソームマーカーを含む多数のタンパク質が同定された (Figure 3C)。DNase処置によりEV外表面の遊離DNAを除去した後に内部DNAを解析した結果、長距離PCR (3アンプリコン: 3.9 kb、5.5 kb、7.8 kb) および46アンプリコン全ゲノムPCRにより、完全な16.6 kbの環状mtDNAゲノムが実証された (搭載量 1 ng/10^13粒子) (Figure 1B, C, Figure 3G)。mu-mtDNA ND1レベルは、HTRゼノグラフトの循環EVでHTSと比較して150-fold高値を示した (p<0.01) (Figure 3A)。HS27a (ヒト骨髄間質細胞) 由来EVも同様に完全mtDNAゲノムを保有し、細胞とEV間でmtDNA配列多型 (SNPs、変異) が保存されていたことは、パッケージングが細胞内ミトコンドリアに由来することを示唆する (Figure 3H)。

In vivo腫瘍形成能へのmtDNA転送の必須性: 野生型mCAF (mtDNA保有) とHTD細胞の共注射では、MFP腫瘍形成率が90% (n=9/10 mice) であった。一方、mtDNA欠損CAF (ρ0細胞) との共注射では、腫瘍形成率は17% (n=2/12 mice) に有意に低下し (p<0.05)、かつ形成された腫瘍には転移も認められなかった (Figure 5G, SI Appendix, Fig. S7C)。週次レトロオービタル注射でmito^hi EVを投与したHTD細胞ゼノグラフトでは、3/5 miceで大型腫瘍が形成されたのに対し、mito^lo EVでは2/5 miceで小型腫瘍のみであった (Figure 5G)。mCAF由来mtDNA^hi EVを受けたHTD細胞は、マンモスフェア形成能 (自己複製能) とミトコンドリア膜電位 (TMRE染色) が増強され、mu-mtDNA取得後に完全なmu-mtRNA転写産物 (ND1、ND2、COX2、ATP8、ATP6など合計12のミトコンドリア遺伝子) が発現した (Figure 5C, F)。mu-mtDNA転送は、CD44^hi/CD133^hiのがん幹細胞様細胞 (CSC) に選択的に富化されており (Figure 6C)、これらのCSCにおけるOXPHOS阻害 (ロテノン 100 nM、オリゴマイシン 200 nM) が二次マンモスフェア形成を著明に抑制した (Figure 6E)。これらの結果は、mtDNA転送がOXPHOS回復、CSC活性化、そして腫瘍再燃という機能的連鎖を確立することを示す。

考察/結論

本研究は、がん関連線維芽細胞 (CAF) 由来エクソソームが完全なミトコンドリアゲノム (16.6 kb、約1 ng/10^13粒子) を搭載し、ホルモン療法誘発性代謝休眠状態のER+乳がん幹細胞様細胞に水平転送することで、OXPHOS能力を約3倍回復させ、治療抵抗性と休眠からの脱出を誘導することを初めて示した。このmtDNAの水平転送という概念は、EV介在性の代謝リプログラミングにおける新規パラダイムを提示するものであり、単なるシグナル分子の転送を超えたオルガネラゲノムの細胞間移動という観点から、EV生物学の概念的境界を拡張する。

先行研究との違い: これまでの研究では、核DNAやmiRNAのEVを介した転送が示されてきたが、16.6 kbという比較的大きな環状ゲノムが膜保護により完全な状態でパッケージされ、機能的に転送されるという発見は前例がない。本研究のモデルは、核を除去したドナー細胞を用いるサイブリッドモデルや、mtDNAを完全に欠損したレシピエント細胞を用いるモデルとは異なり、ホルモン療法によりmtDNAが減少した細胞にEVを介してmtDNAが転送されるという、より生理的な状況を再現している点で対照的である。

新規性: 本研究で初めて、EVが「細胞間代謝遺伝体」として機能し、細胞の代謝状態を根本的に変化させうることを新規に同定した。臨床観察において、HTR患者の86.4%がEV mtDNA高値を示し、未治療患者や健常人では検出されなかったことは、EV mtDNAが内分泌療法抵抗性の発現を反映する潜在的なバイオマーカーである可能性を強く示唆する。また、mu-mtDNA転送がCD44^hi/CD133^hiのがん幹細胞様細胞 (CSC) に選択的に富化されるという事実は、CSCが外来mtDNAを優先的に取り込む機構を持つ可能性を示し、OXPHOS依存性という代謝特性がその選択的取り込みを支援するという仮説と整合する。

臨床応用: 本知見は、ホルモン療法抵抗性乳がんの新たな治療戦略の開発に直結する。CAF-mtDNA転送軸を遮断する戦略として、GW4869などのエクソソーム分泌阻害剤の使用、mtDNA封入機構 (例えば、TOM/TIM複合体経路やミトコンドリア由来EV経路) の解明に基づく標的化、およびロテノン (100 nM) やオリゴマイシン (200 nM) などのOXPHOS阻害剤と内分泌療法の組み合わせが、内分泌療法抵抗性克服へのアプローチとして示唆される。EV mtDNAのレベルを測定することは、HTR乳がん患者の予後予測や治療効果モニタリングのための臨床的有用性を持つ可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、完全なmtDNAゲノムがEVにパッケージされる分子機構 (例えば、TOM/TIM複合体を経由した移行か、ミトコンドリア由来EV経路か) の詳細な解明が残されている。また、ヒト臨床試験でのEV mtDNAバイオマーカー (ND1コピー数) の大規模前向き検証が必要である。さらに、抗mtDNA抗体やゲムシタビンなどの既存薬とEV-mtDNA軸遮断の組み合わせ戦略の探索も重要である。CD44^hi/CD133^hi CSCへのmtDNA選択的転送機構の解明は、がん幹細胞に選択的なOXPHOS標的療法の設計に直結する。

方法

本研究では、ER+乳がん細胞株 (MCF7、BT474、ZR751) および患者由来異種移植モデル (PDX) を使用した。マウスCAF (mCAF) およびヒト骨髄間質細胞 (HS27a) からエクソソームを超遠心分離とショ糖クッション法を用いて単離し、電子顕微鏡およびNanoSight解析によりその特性を評価した。エクソソーム内の完全な16.6 kb mtDNAゲノムの存在を確認するため、長距離PCR (3つのアンプリコン: 3.9 kb、5.5 kb、7.8 kb) および46アンプリコンを用いた全ゲノム増幅を実施した。EV外表面の遊離DNAを除去するため、DNase処置を施した後にEV内部のDNAを解析した。

細胞のOXPHOS能力は、Seahorse XFアナライザーを用いた酸素消費速度 (OCR) 測定により評価した。mtDNAコピー数は、ND1遺伝子に対するqPCRにより定量した。ホルモン療法誘発性休眠状態 (HTD) 細胞は、フルベストラント (10 μM) で2か月間処理したER+がん細胞をFACS分離することで作成した。in vivo実験として、マウス乳腺脂肪パッド (MFP) への腫瘍形成実験を実施した。具体的には、野生型mCAF (wt-mCAF) とmtDNA欠損CAF (ρ0細胞) をHTD細胞と共注射し、フルベストラント処置下での腫瘍形成能と転移能を比較した。また、週次レトロオービタル注射によりmtDNA高発現EV (mito^hi EV) またはmtDNA低発現EV (mito^lo EV) をHTD細胞ゼノグラフトに投与し、腫瘍増殖への影響を評価した。

患者血清EVの解析では、22名のHTR転移乳がん患者、9名の健常人、12名の術後早期ER+乳がん患者、および6名の未治療転移がん患者からEVを単離し、ND1 qPCRによりmtDNAレベルを評価した。統計解析はSPSSを用いて行い、連続変数は不等分散t検定、対応のあるt検定、一般線形モデル (GLM) ANOVA、または反復測定GLMを用いて解析した。順序変数はMann-Whitney、Wilcoxon、およびFriedman検定を用いて解析した。P値はBonferroni補正により多重比較調整を行った。全ての検定は両側検定であり、p<0.05を有意差ありと判断した。