• 著者: Yuichi Kitai, Takumi Kawasaki, Takuya Sueyoshi, Kouji Kobiyama, Ken J. Ishii, Jian Zou, Shizuo Akira, Tadashi Matsuda, Taro Kawai
  • Corresponding author: Taro Kawai (Nara Institute of Science and Technology, 奈良先端科学技術大学院大学)
  • 雑誌: Journal of Immunology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-01-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28069806

背景

STING (stimulator of interferon genes) は細胞質DNA感知経路における必須のシグナル分子であり、cGAS (cyclic GMP-AMP synthase) がDNAと結合してcGAMPを産生し、これがSTINGに結合することでNFκBおよびIRF3が活性化されてI型インターフェロンと炎症性サイトカインが誘導される。STING欠損マウスでは放射線治療後の抗腫瘍免疫が低下し、腫瘍内へのcGAMP投与がメラノーマモデルで腫瘍抑制効果を示すことから、cGAS-STING経路は腫瘍免疫に重要な役割を果たすと認識されていた。

化学療法剤が腫瘍細胞に DAMP (danger-associated molecular pattern; 危険関連分子パターン) を放出させ、そのDAMPが樹状細胞 (DC) などの自然免疫細胞を活性化して抗腫瘍免疫を増強するという概念は、Apetoh et al. (2007) が doxorubicin 処理がん細胞からの HMGB1 が TLR4-MyD88 経路を介して DC を活性化することを示すなど、先行研究で確立されていた。さらに Gehrke et al. (2013) と Deng et al. (2014) は放射線誘導の酸化 DNA が STING 依存的に腫瘍免疫を活性化することを報告した。しかし、化学療法剤が産生する DAMP が STING 経路を活性化するかどうか、その分子的キャリアが何かは未解明のままであった。エクソソームはがん細胞を含む多種の細胞が放出し mRNA・miRNA・膜タンパク質などを包含する小胞であるが、がん細胞由来 DNA 含有エクソソームの免疫学的意義に関する知見は手薄で、化学療法と STING 経路を結ぶ分子機構の解明が不足していた。

目的

複数の抗腫瘍剤スクリーニングによりDC活性化能を持つDAMP誘導薬を同定し、トポテカン (TPT、トポイソメラーゼI阻害薬) が放出するDNA搭載エクソソームがSTING経路を活性化して抗腫瘍免疫を強化するメカニズムを解明すること。担がんマウスモデルにおいてTPTの抗腫瘍効果がSTING経路依存性かどうかを検証すること。

結果

TPTによるDAMP誘導とDC活性化の特異性:17種の抗腫瘍剤スクリーニングでTPTが最も強力なIL-6産生誘導 (約1,800 pg/mL) を示した (Fig 1、n=3 実験)。比較として、DMXAAおよびビンブラスチン処理CMも誘導能を持つが、TPTより低値であった。TPT処理E0771 CMはIFNβ・CXCL10を誘導したが、IL-1β・TNFα・IL-18・IL-33は誘導しなかった。この結果はNLRP3インフラマソームおよびIL-1β経路の非関与を示した。DCの活性化マーカー (CD86・I-A/I-E) 発現増加が確認され、マイクロアレイではIl6・Ifnb1・Cxcl9・Tnfsf10・4-1bbl・Cd80・Cd86が有意に上昇したが、T細胞抑制分子のB7-h1・B7-dcは変化しなかった。FLT3L誘導DC・腹腔マクロファージ・M-CSF誘導マクロファージもすべてIL-6を産生し、造血系自然免疫細胞への汎活性化が示された。

STINGがTPT誘導免疫活性化の必須経路:TLR2/4-DKO・MyD88/TRIF-DKO DCでのIL-6産生はWTと同等で、TLR経路の非関与が確認された (Fig 2、n=3 実験)。IPS-1 (MAVS) KO DCも同様にWTと変わらず、RLR経路も関与しなかった。これに対してSting gt/gt DCではIL-6・CXCL10・IFNβ産生がいずれも野生型の数分の一 (約5-fold 以上の低下) まで顕著に低下した。NFκBおよびIRF3のリン酸化もSting gt/gt DCで消失した一方、MAPKs (ERK1/2・p38・JNK) のリン酸化はSTING非依存的に維持された。TPT (5 µg/mL) 処理 CM 刺激は ISD (IFN刺激性DNA) と同程度のシグナル強度を示した。これはSTING選択的な活性化を示す。STING-EGFP発現MEFにCMを添加するとISD (IFN stimulatory DNA) 刺激と同様にSTINGがERからゴルジへ移行し (未処理CMではER局在の点状構造を維持)、cGAS-STINGシグナルの活性化が可視化された。IRF3 KO DCでもCXCL10・IFNβ産生が低下し、STING-IRF3軸の関与が裏付けられた。

担がんマウスにおけるTPTの抗腫瘍効果とSTING依存性:E0771担がんC57BL/6マウスへのTPT投与 (20mg/kg i.p.、3日おき) は対照 (PBS) と比較して腫瘍体積を有意に縮小した (Fig 3、n=5-8匹/群、p<0.05)。腫瘍浸潤分析 (FACS) ではCD3+ T細胞・CD8+ T細胞・好中球 (Ly-6G+F4/80-) ・DC (I-A/I-E+CD11c+) の浸潤比率がTPT投与群で有意に増加した。マクロファージ (F4/80+Ly-6G-) の浸潤はTPT有無で変わらず、NK・NKT細胞も有意差なし。免疫染色でCD3ζ+ T細胞の腫瘍内浸潤が確認された。腫瘍浸潤CD8+ T細胞でのIFNγ発現とCD11c+細胞でのCD86発現がTPT群で増強した。Sting gt/gt 担がんマウスへのTPT投与は腫瘍抑制効果が顕著に低下し、CD8+CD69+ T細胞浸潤・Ifng・Cd86発現の増強もWTに比べ減弱した。

TPT処理がん細胞由来エクソソームのDNA搭載とSTING活性化:TPT処理E0771細胞 (9×10⁷個) の上清から段階的超遠心 (differential ultracentrifugation) で精製したエクソソームは、CD63陽性・Alix陽性・GM130陰性のマーカープロファイルを示し、エクソソームの定義を満たすことが確認された (Fig 4、n=3 実験)。エクソソームタンパク量はTPT処理時間依存的に約2倍以上 (fold) 増加した。精製エクソソームからDNAが検出され (アガロースゲル電気泳動・SYBR Gold染色)、DNase I処理により2kbp超のDNAバンドが消失したが、2kbp未満のDNA断片はエクソソーム膜に保護されて残存した。精製エクソソームをDCに添加するとIfnb1・Cxcl10・Il6の発現がWT DCで増加し、Sting gt/gt DCでは誘導されなかった (polyI:Cへの応答はSting非依存的に保持)。CFSE標識エクソソームの取り込み実験ではDCへの能動的取り込み (37°Cで取り込み、4°Cでは取り込まれない) が確認され、エンドサイトーシスや食作用による細胞質への輸送でcGAS-STINGが活性化されるというモデルが支持された。E0771以外にもB16F10・LLC・EL4 (マウス)、HeLa・A549・MCF7 (ヒト) からもDNA搭載エクソソームが産生されることが示された。

考察/結論

本研究は化学療法剤TPT (トポイソメラーゼI阻害薬) が腫瘍細胞にDNAを搭載したエクソソームを放出させ、そのエクソソームがDCにSTING依存的な抗腫瘍免疫を活性化するという新規DAMPメカニズムを初めて実証した。TLR経路 (TLR2/4-DKO・MyD88/TRIF-DKO で変化なし)・RLR経路 (IPS-1 KO で変化なし) は関与せず、STING-IRF3軸の選択的活性化であることが複数の遺伝的証拠から示された点は重要な知見である。

先行研究との比較では、放射線誘導酸化DNAによるSTING依存的抗腫瘍免疫 (Gehrke et al. 2013、Deng et al. 2014) と同様の概念を化学療法に拡張した点で独自性が高い。エクソソームが二本鎖 DNA を搭載してがん検出のバイオマーカーとなることは知られていたが (Thakur et al. CellRes 2014)、本研究はその DNA 搭載エクソソームが DC を STING 依存的に活性化する機能的役割を初めて示した。近年の研究は EV を介した cGAS-STING シグナルの細胞間伝播 (Allen et al. FrontImmunol 2022Lee et al. JExtracellVesicles 2026) を裏付けており、本研究はその先駆けに位置づけられる。doxorubicin 処理での HMGB1-TLR4 軸とは異なり、TPT は STING-IRF3 軸を選択的に駆動する別経路の免疫原性細胞死を引き起こす点で対照的である。TPT誘導細胞死はcaspase-3阻害剤 (Z-VAD) やRIPK阻害剤 (Nec-1・GSK’872) で抑制されず、アポトーシスや壊死・焦げ付き細胞死 (pyroptosis) とも異なる、未同定の免疫原性細胞死経路を経由する可能性が示された。エトポシド (トポイソメラーゼII阻害薬) 処理CMはSTINGシグナルを活性化しないことから、トポイソメラーゼIとTPTの特異的な相互作用がDNA断片の形態・性質に重要な影響を与え、cGAS認識に適した免疫刺激性DNAを産生するという機序が考えられる。

臨床的含意として、TPTの抗腫瘍効果がSTING機能に依存することは、患者のSTING多型や腫瘍内STING発現が化学療法感受性に影響する可能性を示唆する。さらに、DNA含有エクソソームが腫瘍抗原と免疫刺激性DNAを同時にDCに輸送するという特性は、ワクチンや免疫賦活キャリアとしてのエクソソーム工学への応用可能性を示している。TPT用量依存性の免疫活性化・抑制のバランス (高用量では過剰な細胞死や増殖T細胞への障害が生じうる) の最適化が実臨床応用に向けた課題である。卵巣がんや小細胞肺がんでTPTが標準治療に組み込まれていることを考えると、本研究が示すDAMP-エクソソーム-STING免疫カスケードは、TPT投与時の免疫応答を増強する併用戦略 (STING アゴニスト、抗PD-1/PD-L1との組み合わせ) を設計する上での理論的根拠となりうる。残された課題として、TPT 誘導の免疫刺激性 DNA の正確な化学修飾・配列特性の同定、cGAS 認識との構造的対応の解明、ヒト腫瘍での STING 発現と TPT 感受性の相関の臨床検証が挙げられ、今後の検討が必要である。

方法

スクリーニングおよびin vitro実験: マウス乳がん細胞株E0771とヒトがん細胞株 (HeLa・A549・MCF7・B16F10・LLC・EL4) を17種の抗腫瘍剤 (各10μM、72時間) で処理。条件培地 (CM) をGM-CSF誘導骨髄DCに添加しIL-6・IFNβ・CXCL10産生をELISAで測定。TPT (5μg/mL) 処理E0771細胞のCM刺激DCでのシグナル伝達 (NFκB p65・IRF3・STAT1・MAPKsのリン酸化) をウエスタンブロットで解析。マイクロアレイ (GeneChip Mouse Gene 2.0 ST、accession: GSE90042) でDC遺伝子発現プロファイルを解析した。

ノックアウトマウスを用いた受容体同定: TLR2/4-DKO・MyD88/TRIF-DKO (TLR経路)・IPS-1 KO (RLR経路)・Sting gt/gt (STINGリガンド結合部位の機能喪失変異)・IRF3 KOマウス由来DCを用いて、IL-6・CXCL10・IFNβ産生への各経路の寄与を解析した。STING-EGFP安定発現マウス胎児線維芽細胞 (MEF) をCMで刺激し、共焦点顕微鏡でSTINGの小胞体 (ER) からゴルジへの移行を観察した。

In vivo実験: E0771担がんC57BL/6マウス (雌8週齢) に腫瘍体積100mm3到達後TPT (20mg/kg、i.p.) を3日おきに投与して腫瘍体積を計測。腫瘍浸潤免疫細胞 (CD3+・CD8+ T細胞・NK細胞・NKT細胞・好中球・マクロファージ・DC) をFACSで解析した。Sting gt/gt マウスとWTマウスでTPT効果を比較した。

エクソソーム精製と解析: E0771細胞 (9×10⁷個) をTPT処理後、500×g→12,000×g→0.22μmフィルター→100,000×g 70分の段階的超遠心 (differential ultracentrifugation) でエクソソームを精製。CD63・Alix (エクソソームマーカー)・GM130 (ゴルジ陰性対照) をウエスタンブロット (Western blot) で確認 (ISEV 準拠の isolation + characterization marker)。エクソソーム内DNAをフェノール/クロロホルム抽出後、アガロースゲル電気泳動とSYBR Gold染色で可視化。精製エクソソームをDCに添加してSTING依存的なサイトカイン産生を確認した。

統計解析: 群間比較は Student’s t 検定および一元配置分散分析 (ANOVA)、腫瘍体積の経時推移は二元配置 ANOVA で解析し、p<0.05 を有意とした。各実験は独立に n=3 回以上反復した。