- 著者: Daniel Guimarães-Bastos, Ana Clara Frony, Christina Barja-Fidalgo, João Alfredo Moraes
- Corresponding author: João Alfredo de Moraes (UFRJ, Instituto de Ciencias Biomédicas, Rio de Janeiro, Brazil)
- 雑誌: Journal of Leukocyte Biology
- 発行年: 2022
- Epub日: 2021-05-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 34043843
背景
好中球は、炎症および免疫プロセスにおいて多様な機能を持つ細胞であり、その表現型は微小環境によって大きく変化することが知られている。特に腫瘍微小環境 (TME) における腫瘍関連好中球 (tumor-associated neutrophils: TAN) は、抗腫瘍性のN1表現型と腫瘍促進性のN2表現型という二つの異なる極性を示すことが、Fridlender et al. CancerCell 2009によって報告されている。N1 TANはTNFα、NO、H2O2を高レベルで産生し、腫瘍増殖を抑制する。一方、N2 TANはアルギナーゼ発現、VEGF産生、免疫抑制を介して腫瘍の増殖、血管新生、転移を促進する。このN1/N2の極性化は、TME内の様々な因子によって制御される。
近年、腫瘍細胞が豊富に産生・放出する細胞外小胞 (extracellular vesicles: EVs) が、間質細胞と相互作用し、その機能を調節することが明らかになっている。EVsは、T細胞のアポトーシス誘導、NK細胞の増殖抑制、Treg細胞の活性化など、広範な免疫細胞機能の改変能力を持つことが示されてきた。vanNiel et al. NatRevMolCellBiol 2018はEVsの細胞生物学について詳細に解説している。また、腫瘍由来EVsが白血球と相互作用し、その活性化状態を腫瘍促進性プロファイルへとシフトさせることが報告されている (Pucci et al. Clin Cancer Res 2013)。しかし、高転移性メラノーマ由来EV (MV3-EV) が好中球の表現型および機能に与える影響、ならびにその分子機序については、これまで未解明な点が多かった。特に、EVを含む条件培地 (CM) とEVを除去した上清 (SN) を比較することで、EV自体が好中球の極性化に及ぼす直接的な寄与を明確に特定する実験設計が不足していた。本研究は、この知識のギャップを埋め、メラノーマ由来EVが好中球の腫瘍促進性N2表現型への偏向にどのように関与するかを明らかにすることを目的とする。
目的
本研究の目的は、ヒト高転移性メラノーマMV3細胞由来の細胞外小胞 (EVs) が、正常ヒト好中球の機能および表現型に与える影響を詳細に解析することである。具体的には、EVsが好中球の走化性、アポトーシス抵抗性、好中球細胞外トラップ (NETs) 産生、活性酸素種 (ROS) 産生に及ぼす影響を評価する。さらに、N1/N2表現型に関連する分子マーカーの発現変化を調べ、好中球の抗腫瘍細胞傷害活性に対するEVsの影響を検討する。これらの機能的および表現型的な変化を媒介する細胞内シグナル伝達経路、特にCXCR2/PI3K-AKT経路の関与を明らかにすることも重要な目的である。最終的に、メラノーマ由来EVsが好中球を腫瘍促進性のN2表現型へと偏向させるメカニズムを包括的に解明することを目指す。
結果
MV3-EVによる好中球走化性誘導とそのGiPCR/CXCR2/PI3K-AKT経路依存性: MV3由来EV (10% v/v) は、Boyden chamberを用いた走化性アッセイにおいて、好中球の走化性を濃度依存的に誘導した (Fig. 1A)。特に10%濃度では、陽性対照であるfMLPの約80%に相当する強力な効果を示した。EVを含むMV3細胞の条件培地 (CM) も同様の走化性効果を示したが、EVを除去したMV3-SN (EV-free CM) および正常メラノサイトNGM由来のCMやEVには効果が認められなかった (Fig. 1B)。Gi蛋白共役受容体 (GiPCR) 阻害剤pertussis toxinによる前処理は、EV誘導性の走化性を完全に消失させ、GiPCR依存的な機序を示唆した (Fig. 1C)。さらに、CXCR2選択的拮抗剤SB225002は、IL-8誘導性の走化性を阻害するのと同様に、EV誘導性の走化性を有意に抑制した (Fig. 1D)。これは、EVがCXCR2リガンドを介して作用することを示唆する。一方、BLT1拮抗剤CP105696では走化性の抑制は認められず (Fig. 1E)、LTB4非依存性であることが確認された。PI3K阻害剤LY294002も走化性を有意に抑制し、CXCR2/PI3K-AKT軸の関与が強く示唆された。また、LPS処理でビーズ貪食が誘導されたが、MV3-EV処理好中球は貪食活性を示さなかった (Supplementary Fig. 2)。これらの実験は少なくとも3回の独立した実験 (n=3 replicates) で実施された。
MV3-EVによる好中球のアポトーシス抵抗性誘導とAKTリン酸化: 20時間培養後の好中球の自然アポトーシス率は、コントロール群で50.8%であったのに対し、MV3-EV処理群では34.0%に有意に低下し (p<0.05)、LPS処理群 (36.7%) と同等の生存延長効果を示した (Fig. 1G)。形態解析においても、MV3-EVおよびCM処理好中球ではpyknotic核を持つ細胞が減少し、N2表現型の特徴とされる円形核を持つ細胞が増加した (Fig. 3C)。ウェスタンブロット解析により、MV3-EV処理後にAKTのリン酸化が確認され (Fig. 3D)、PI3K-AKT経路の活性化が好中球の生存延長の分子基盤である可能性が示唆された。このアポトーシス抵抗性の誘導は、腫瘍微小環境における好中球の長期生存に寄与すると考えられる。これらの結果は、複数ドナー (n=3 donors) からの好中球を用いて再現された。
NETsおよびROS産生の増加とエラスターゼ活性の特異性: 3時間処理後のNETs産生 (細胞外DNA量) は、MV3-CMおよびMV3-EV処理群で有意に増加した (Fig. 2A, p<0.005)。蛍光顕微鏡による観察では、histone-PEとelastase-FITCの共局在が確認され、NETs形成が裏付けられた (Supplementary Fig. 3)。しかし、注目すべきことに、エラスターゼ活性はMV3-CM群では増加したものの、MV3-EV処理群では増加しなかった (Fig. 2B)。これは、EV由来のNETsがDNAやヒストンを含むにもかかわらず、エラスターゼ活性が乏しい「機能的に不完全な」NETsであることを示唆する。ROS産生 (CM-H2DCFDA) は、MV3-EV処理によりLPS処理と同様に有意に増加したが (Fig. 2C, p<0.05)、MV3-SNでは変化がなかった。一方、細胞フリー抗酸化活性試験では、MV3-SNがluminol酸化を強力に抑制したのに対し、MV3-EVは弱い抗酸化活性しか示さなかった (Fig. 2D)。これは、SN中に高いカタラーゼ活性が存在することを示唆する。
N2分子マーカーの選択的発現増加とPI3K-AKT経路の関与: qPCRによるN1/N2マーカーmRNA発現解析の結果 (Table 1) は、MV3-EV処理好中球がN2表現型に偏向することを示した。N2マーカーであるARG1 (fold change >3, p<0.05)、CXCR4 (fold change >1, p<0.05)、VEGF (fold change >1, p<0.05)、CCL2 (fold change >2, p<0.05) のmRNA発現が有意に上昇した。同時に、N1マーカーであるICAM-1 (fold change <0.5, p<0.05) の発現は低下し、CCL5も低下傾向を示した。iNOS、CCL3、MMP-9、CXCR2、IL-10、TGFβは検出されないか、有意な変化は認められなかった。対照的に、LPS処理ではICAM-1 (+++)、iNOS (++++), CCL3 (+) が増加し、CCL5が低下するなど、典型的なN1プロファイルを示した。MV3-CM処理は、ARG1 (++++)、CXCR4 (+)、MMP-9 (++)、VEGF (+)、ICAM-1 (+) の発現増加を示し、MV3-EV単独よりも広範なN2マーカーの増加を誘導した。タンパク質レベルでのCXCR4 (CD184) のフローサイトメトリー解析でも、MV3-EV処理群で有意な増加が確認された (Fig. 3B, p<0.05)。このCXCR4の発現増加は、LY294002によるPI3K阻害によって完全に抑制され (Fig. 3E, p<0.05)、CXCR4の上昇がPI3K-AKT経路に依存していることが示された。N1マーカーであるCD95 (Fas) はLPS処理で増加したが、EV処理では変化がなかった (Fig. 3A)。
抗腫瘍機能の抑制と腫瘍細胞生存率の増加: MV3-EV処理好中球では、NO産生 (DAF-FMDA) が有意に抑制された (Fig. 4B, p<0.05)。これはLPS処理好中球とは逆の結果である。MV3細胞との共培養系におけるパーオキシナイトライト (ONOO-) 産生も、EV処理好中球ではコントロールレベルを維持したのに対し、LPS処理では大幅に増加した (Fig. 4C, p<0.001)。MTTアッセイによるMV3細胞への細胞傷害活性評価では、LPS処理好中球が有意な腫瘍細胞傷害性を示したのに対し、MV3-EV処理好中球ではMV3細胞の生存率が非処理群と比較して有意に増加し (Fig. 4A, p<0.001)、細胞傷害機能が喪失していることが示された。CM処理群ではMV3細胞の生存率がコントロール以上に上昇し、CMに含まれる可溶性因子が腫瘍増殖促進活性を持つ可能性が示唆された。
考察/結論
本研究は、ヒトメラノーマ由来EV (MV3-EV) が好中球をN2腫瘍促進表現型に誘導する包括的な機序を初めて実証した。MV3-EV処理好中球は、CXCR2/PI3K-AKT軸を介した走化性誘導と腫瘍微小環境への動員、PI3K-AKT依存的なアポトーシス抵抗性による腫瘍局所での生存延長、DNA放出を伴うNETsの誘導(ただしエラスターゼ活性は低い)、およびROS産生の増加という活性化特徴を示した。これと同時に、N2マーカー(ARG1、CXCR4、VEGF、CCL2)の選択的増加と、抗腫瘍機能(NO、ONOO-産生、腫瘍細胞傷害)の顕著な抑制という、逆説的な二重効果を示した。
先行研究との違い: Fridlender et al. CancerCell 2009は、TGFβがTAN-N1からN2への転換を誘導することを示したが、本研究の結果は、EVがTGFβ非依存的なN2極性化経路を持つ可能性を新規に示唆する点でこれまでと異なる。EVはCXCR2リガンド(CXCL1/IL-8など)を搭載してCXCR2を活性化し、その下流のPI3K-AKT経路が走化性、生存、CXCR4上昇といった多面的な効果を媒介すると考えられる。また、EVが誘導するNETsがエラスターゼ活性を欠くという特異な特性は、Houghton et al. (Nat Med 2010) が示した「高量のエラスターゼが腫瘍細胞死を誘導する」という知見と対照的である。このことは、EV刺激が意図的に低エラスターゼ・高DNA型のNETsを選択的に誘導し、腫瘍保護的なNETs(循環腫瘍細胞をトラップして転移を促進するタイプ; Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013)を形成させている可能性を示唆する。
新規性: 本研究で初めて、メラノーマ由来EVが好中球のN2表現型への偏向を直接的に誘導し、その分子メカニズムとしてCXCR2/PI3K-AKT経路が関与することを明らかにした。特に、EV誘導性のNETsがエラスターゼ活性を欠くという特異な性質は、これまで報告されていない新規な発見である。この発見は、腫瘍関連NETsの多様性と、その腫瘍促進機能における新たな側面を提示する。
臨床応用: 高転移性メラノーマにおいて、EV-好中球-N2軸が腫瘍局所の免疫抑制と転移促進に寄与する可能性があり、この経路を標的とした治療介入が臨床応用につながる可能性がある。例えば、CXCR2やPI3Kを標的とした薬剤は、好中球のN2極性化を阻止し、抗腫瘍免疫応答を回復させる戦略となり得る。EV除去上清が高いカタラーゼ様活性を示す事実は、メラノーマ細胞自体が酸化的ストレスを回避する機序を持ち、腫瘍促進性NO/ONOO-の産生を可溶性因子でも抑制していることを示唆しており、これも新たな治療標的となる可能性がある。
残された課題: 本研究はin vitroのヒト好中球モデルに基づいているため、in vivoの複雑な腫瘍微小環境における細胞間相互作用を完全に再現することはできない点が残された課題である。また、MV3細胞はブラジルのヒト高転移性メラノーマ特異的株であり、他のメラノーマサブタイプや皮膚がん、肺がんへの外挿には慎重な検討が必要である。EVの具体的な積荷分子(どのリガンドがCXCR2を活性化するか)の同定が今後の研究の方向性として重要である。
方法
細胞およびEV調製: ヒト高転移性メラノーマ細胞株MV3 (RRID: CVCL_W280) およびヒト正常メラノサイト株NGM (RRID: CVCL_0R16) を、100%コンフルエントに達した後、1% FBS含有培地で24時間培養した。この条件培地 (CM) を250×gで10分間遠心分離し、続いて100,000×gで4時間超遠心分離することでEVペレットを回収した。回収したペレットはFBS非含有DMEMに再懸濁し、EV画分とした。EV除去上清 (SN) も同時に回収した。全ての画分は-20°Cで保存した。粒子サイズ解析により、MV3由来EVは10 nmから1 µmの範囲の混合集団であり、マイクロパーティクルとエクソソームの両方を含むことが確認された。エクソソームマーカーであるシンテニン-1のウェスタンブロット解析により、NGMおよびMV3両細胞由来EVにその発現が確認された。MV3細胞はNGM細胞と比較して、より高量のEVを産生することがアネキシンV陽性イベント数の比較により示された (Supplementary Fig. 1A)。
好中球単離: 健常ボランティアから採取した血液 (5% EDTA採血、倫理委員会承認#38257914.7.0000.5259) から、Percoll密度勾配法を用いて好中球を単離した。全てのボランティアからインフォームドコンセントを取得した。
処理条件: 好中球は、untreated (RPMI)、LPS (10 µg/mL)、MV3-CM (10% v/v)、MV3-EV (10% v/v) のいずれかで処理した。一部の実験では、NGM-CM (10% v/v) およびMV3-SN (10% v/v) も使用した。全てのインキュベーションは37°C、5% CO2条件下で行った。
走化性アッセイ: 48ウェルBoyden chamber (5 µmポリカーボネート膜) を使用した。好中球をPI3K阻害剤LY294002 (10 µM)、Gi蛋白共役受容体 (GiPCR) 阻害剤pertussis toxin (10 µM)、CXCR2選択的拮抗剤SB225002 (1 µM)、またはBLT1拮抗剤CP105696 (1 µM) で5分間前処理した後、EV等に向けて1時間移動させた。膜はDiff-Quik染色後、100倍視野で5視野をカウントした。陽性対照としてfMLP (100 nM)、IL-8 (30 nM)、LTB4 (100 nM) を用いた。
アポトーシスアッセイ: 好中球 (10^6 cells/mL) を20時間処理した後、形態解析 (pyknotic nucleiの判定、300 cellsカウント) およびアネキシンV-FITC/PI染色フローサイトメトリー (Accuri C6) でアポトーシスを評価した。
NETアッセイ: 好中球を3時間処理後、DNase (1 µg/mL) 処理、遠心分離を行い、上清中の遊離DNA量をNanoVue Plusで定量した。エラスターゼ活性は、蛍光基質V (100 µM) を用いてEnVisionリーダー (Ex380/Em460 nm) で測定した。NET構造は、histone-PEおよびelastase-FITC二重蛍光顕微鏡で確認した (Supplementary Fig. 3)。
ROS・NO・パーオキシナイトライト測定: CM-H2DCFDA (ROS)、DAF-FMDA (NO)、HPF (ONOO-) プローブをそれぞれ30分間好中球にロードした後、処理を行い、EnVisionまたはAccuri C6で定量した。細胞フリー抗酸化活性は、H2O2 (100 µM) と各画分をluminol系で評価した。
遺伝子発現: TRIzolとRNeasy Miniカラムを用いてRNAを精製した。High-Capacity cDNA RTキットでcDNAを合成後、ICAM-1、iNOS、ARG1、CXCR4、MMP-9、VEGF、CXCR2、IL-10、TGFβ、CCL2、CCL3、CCL5について遺伝子特異的プライマーを用いてRotor-Gene Q / SYBR Green qPCRを行った。ACTBを内部標準とし、2-ΔΔCt法で相対定量した。
フローサイトメトリー: FITC抗CD95 (Fas) およびAPC抗CD184 (CXCR4) 抗体で15分間染色 (BioLegend) した。LY294002存在下/非存在下でのCXCR4発現変化も評価した。
ウェスタンブロット: 好中球をRIPA buffer/プロテアーゼ阻害剤/DNase/PMSFで溶解した。10% SDS-PAGEで分離・PVDF転写後、抗total AKT (#4691, Cell Signaling) および抗phospho-AKT (#135651, Santa Cruz) 抗体で免疫検出した。
細胞傷害アッセイ: MV3細胞を96ウェルプレートに播種し、コンフルエントに達した後、3時間処理した好中球を1:10 (MV3:好中球) の比で24時間共培養した。MTT (5 mg/mL、4時間) 代謝をAbs570で読み取った。
統計解析: 全てのデータはPrismソフトウェア (GraphPad Software Inc.) を用いて解析した。データは平均 ± SEMで示し、統計的有意差はANOVA後、Bonferroniのt検定で評価し、p≤0.05を有意差ありとした。