• 著者: Amorim C, Docasar CL, Guimarães-Bastos D, Frony AC, Barja-Fidalgo C, Renovato-Martins M, Moraes JA
  • Corresponding author: João Alfredo Moraes (Instituto de Ciências Biomédicas, Universidade Federal do Rio de Janeiro)
  • 雑誌: Cells
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-06-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35741003

背景

腫瘍微小環境 (TME) は、がんの発生と進行において慢性炎症を誘発する重要な要素であり、その主要な構成要素の一つが腫瘍関連好中球 (TAN) である。好中球は血中白血球の50-70%を占め、炎症部位へ最初に動員される免疫細胞である。TANは、その微小環境からのシグナルに応じて、抗腫瘍性のN1型と腫瘍促進性のN2型という拮抗的な表現型を示すことが知られている。N1型TANはCD95/FAS、TNFα、ICAM-1、CCL3などのプロ炎症性因子を高発現し、腫瘍細胞に対して細胞傷害性を示す。一方、N2型TANはCD184/CXCR4、アルギナーゼ-1、VEGF、IL-8、MMP-9などの発現が高く、抗炎症性プロファイルを示し、腫瘍の増殖、浸潤、転移を促進する役割を果たす。この好中球の二面性は、TMEにおけるその複雑な役割を反映していると言える。慢性炎症はがんの発生と進行の中心的な要素であり、Hanahan et al. Cell 2011によってがんの主要な特徴の一つとして確立されている。

細胞外小胞 (EV) は、核酸、脂質、タンパク質を内包し、細胞間の情報伝達を担う微粒子であり、がん細胞は酸化ストレス条件下でEV産生を亢進させることが知られている。EVの脂質二重膜外葉へのホスファチジルセリン (PS) 外在化はEV放出の主要機構の一つであり、PS受容体を介した標的細胞との相互作用を担う。近年、がん細胞由来EVが免疫細胞の表現型を調節し、腫瘍の進行に寄与する可能性が注目されている。EVは細胞間のコミュニケーションを維持する上で重要な要素であり、核酸、脂質、タンパク質の交換を通じて細胞内シグナル伝達に作用する。がん細胞は酸化ストレス条件下でEV産生を亢進させることが報告されている (Becker et al. CancerCell 2016)。EVの脂質膜におけるホスファチジルセリン (PS) の外在化は、EV放出の主要なメカニズムの一つである (Andaloussi et al. NatRevDrugDiscov 2013)。

近年、がん細胞由来EVが免疫細胞の表現型を調節し、腫瘍の進行に寄与する可能性が注目されている。例えば、メラノーマや胃がんにおいては、腫瘍細胞由来エクソソームが好中球のN2型分極を誘導することが報告されている (Zhang et al. MolCancer 2018Guimaraes et al. JLeukocBiol 2022)。しかし、乳がん細胞由来EVが好中球の分極に与える影響、特にそのメカニズムについては未解明な点が多かった。本研究の先行研究では、メラノーマ由来EVが好中球をN2型に誘導することが示されているが、より侵襲性の高いトリプルネガティブ乳がん細胞株MDA-MB-231由来EVが好中球のN2型分極に与える影響とそのPS依存的機構、さらにannexin-VによるPS遮断がこの分極を対抗制御できるかについては、これまで系統的な検証が不足していた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、トリプルネガティブ乳がん細胞株MDA-MB-231由来の細胞外小胞 (MDA-EV) が、健常ドナー由来の好中球を腫瘍促進性N2型 (TAN-N2) 表現型へ分極させるか否かを明らかにすることである。さらに、この分極がホスファチジルセリン (PS) 依存的であるかを検証し、PS結合タンパク質であるannexin-V (アネキシン-V) によるPS遮断が、MDA-EVsによって誘導される好中球のN2型分極を阻止できるかを評価することを目的とする。具体的には、MDA-EVsが好中球の生存、走化性、NETs (好中球細胞外トラップ) およびROS (活性酸素種) 産生、サイトカイン(IL-8、VEGF、CCL2、CCL5)およびN2型マーカー(アルギナーゼ-1、MMP-9、CD184)の発現に与える影響を詳細に解析し、これらの効果に対するannexin-Vの阻害作用を評価する。最終的に、MDA-EVsによってN2型に分極した好中球が乳がん細胞の生存に与える影響を評価し、PS遮断がその効果を抑制できるかを検証する。

結果

MDA-EVの物理化学的特性と好中球生存・走化性・NET形成への影響: 動的光散乱法によるEV粒子径分析では、MCF10-EVの86.2%が183.2 nmに分布したのに対し、MDA-EVの96.3%が368.4 nmに分布した (Supplementary Figure S1A)。フローサイトメトリーによるマイクロパーティクル計数では、MCF10-EV由来が470 EV/µLに対しMDA-EV由来は600 EV/µL (約30%増加) であり、腫瘍細胞がより多量のEVを産生することが確認された (Supplementary Figure S1D)。CD63およびsyntenin-1のWestern blotによるエクソソームマーカー確認も実施された (Supplementary Figure S1B)。

MDA-EVによる好中球の生存延長、走化性促進、NET形成誘導: 好中球生存アッセイでは、MDA-EV (30% v/v) 処理20時間後にMCF10-EV処理群と比較して有意な生存率増加が確認された (核形態およびフローサイトメトリー解析でp<0.001、Figure 1A, B)。この実験はn=3-6 independent experimentsで実施された。MCF10-EVおよびMDA-EV+annexin-V (10 nM) 前処理では生存率増加は見られず、この保護効果がPS依存的であることが示された。Boyden chamberを用いた走化性アッセイ (1h) でもMDA-EV群で有意な好中球遊走増加が確認され (vs MCF10-EV、p<0.001、Figure 1C)、MCF10-EVおよびMDA-EV+annexin-V群では走化性誘導が観察されなかった。NanoDrop DNA定量によるNET形成評価では、LPS (p<0.001) およびMDA-EV (p<0.001) 処理3時間後に細胞外DNA量の有意な増加が確認された (Figure 1D)。MCF10-EVおよびMDA-EV+annexin-Vではこの増加が消失し、EVのPS露出がNET形成促進の必須条件であることが実証された。

MDA-EV処理好中球における酸化還元状態の変化: CM-H2DCFDA蛍光プローブを用いたROS産生の1時間測定 (n=8-22 independent experiments) では、MDA-EV刺激好中球がMCF10-EV群に比べ有意に高い細胞内ROS産生を示した (p<0.001、Figure 2A)。一方、DAF-FMDAプローブによるNO産生測定では、MDA-EV処理群が非腫瘍性EVより低いNO産生を示した (p<0.001、Figure 2B)。すなわち「ROS高/NO低」という酸化還元プロファイルがMDA-EV処理好中球で誘導され、これはTME内での腫瘍支持型炎症シグナルと一致する。MDA-EV+annexin-V前処理によりROS増加が阻止され、PS外在化がEVによるROSシグナル伝達の主要機構であることが示唆された。

N2型分極マーカーの誘導 (IL-8/VEGF/MMP-9/CD184) と阻害効果: ELISAによるサイトカイン定量 (3h分極+2h洗浄後測定) では、MDA-EV処理好中球でIL-8 (p<0.005) およびVEGF (p<0.005) の有意な増加が観察されたのに対し、CCL2およびCCL5はいずれの群でも変化がなかった (Figure 3A-D)。この選択的なIL-8/VEGF産生誘導はN2型TANの分子シグネチャーと合致し、MDA-EVによる分極がN2型特異的であることを示す。MDA-EV+annexin-V前処理でIL-8およびVEGF上昇が完全に消失した (n=4-15 independent experiments)。

Western blotによるアルギナーゼ-1発現解析では、MDA-EV群でMCF10-EV群より有意な発現増加が確認された (p<0.05、Figure 3E)。MDA-EV+annexin-Vでは増加が消失した。ゼラチン含有7.5% SDS-PAGEを用いたzymographyでは、MDA-EV群でbioactive MMP-9の有意な増加が観察され (p<0.005、Figure 3F)、annexin-V前処理により消失した。CD184 (CXCR4、N2型マーカー) のフローサイトメトリー解析では、MDA-EV処理群で発現増加が確認された一方 (Figure 3H)、CD95 (Fas、N1型マーカー) の発現は全群間で変化なく (Figure 3G)、N2型特異的分極が実証された。

N2型好中球による乳がん細胞生存促進効果: MTTアッセイ (MDA-MB-231:好中球=1:10比、24h共培養) では、MDA-EV処理N2型好中球がMDA-MB-231の生存率を有意に増加させた (p<0.005、Figure 4A)。MCF10-EV処理群およびMDA-EV+annexin-V処理群では腫瘍細胞生存増加は見られなかった。好中球単独ではMTTを代謝しないことも確認された。Western blotによるpro-caspase 3発現ではN2型好中球共培養後に腫瘍細胞でpro-caspase 3発現増加 (アポトーシス抑制を示唆) が確認された (Figure 4B)。JC-1プローブを用いたミトコンドリア膜電位アッセイでは、N2型好中球がMDA-MB-231のミトコンドリア膜電位変化を抑制し、好中球によるアポトーシス促進作用を打ち消す方向に作用することが示された (Figure 4C)。この実験はn=3-5 independent experimentsで実施された。

考察/結論

本研究は、転移性乳がん細胞株MDA-MB-231由来EVが、ホスファチジルセリン (PS) 依存的な機構を通じて健常ドナー好中球をN2型腫瘍促進表現型へ誘導し、乳がん細胞の生存を直接的に増強することをin vitroで実証した。好中球の生存延長、走化性亢進、NETsおよびROS産生増加、IL-8、VEGF、MMP-9、アルギナーゼ-1の発現増加、N2好中球マーカーであるCD184の発現増加、そして腫瘍細胞生存促進という6種類の評価系全てで一貫してMDA-EV特異的効果が確認された。さらに、PS結合タンパク質であるannexin-V (10 nM) によるPS遮断が、これら全ての効果を逆転させるという強固な結果が得られたことは、PSがMDA-EVsによる好中球分極の主要なメディエーターであることを強く示唆する。

先行研究との違い: これまで、胃がん由来エクソソームによる好中球N2分極 (Zhang et al. MolCancer 2018)やメラノーマ由来EVによる同様の効果 (Guimaraes et al. JLeukocBiol 2022)が報告されていた。しかし、乳がん細胞由来EVの作用と、PS遮断によるその逆転可能性を系統的に示した点で本研究は新規性を持つ。特に、MDA-EVが非腫瘍性MCF10由来EV (183 nm) より大きな368 nm粒子として産生され、かつ約30%多い600 EV/µLという高濃度で放出されることは、腫瘍特異的なEV特性が免疫細胞教育の量的・質的優位性に寄与することを示唆する点で、これまでの報告と異なる。

新規性: 本研究で初めて、乳がん細胞由来EVが好中球のN2型分極を誘導するメカニズムにおいて、EV表面のPSが重要な役割を果たすことを明確に示した。PS遮断が好中球の腫瘍促進的特性(生存、走化性、NETs、ROS、VEGF、MMP-9産生)を広範に抑制できるという発見は、これまで報告されていない新規な知見である。このことは、PSが単一の標的として複数の腫瘍促進経路を同時に制御できる可能性を示唆する。

臨床応用: 本知見は、TME内でのPS外在化EVを標的としたアプローチが、乳がん関連好中球N2型分極の遮断戦略となりうる可能性を提示する点で臨床的意義が大きい。EVのPS外在化遮断は、好中球の生存延長、走化性、NETs形成、VEGF/MMP-9産生といった複数の腫瘍促進経路を同時に抑制できることから、他のPSターゲット療法 (例: bavituximab等のPS指向性治療) の作用機序とも関連し、乳がん治療における新たな治療標的となる可能性がある。

残された課題: 本研究の限界として、(1) MCF10細胞株は非腫瘍性上皮株対照であり、正常乳腺上皮との完全な同一視はできない点、(2) 実験系がin vitroのみであり、in vivo TMEでの好中球分極動態、持続時間、用量反応は未検証の点、(3) 好中球は分化した最終細胞であり、活性化状態に個人差が大きく (n=3-22のばらつき) 健常ドナー間変動が十分に考慮されていない点が挙げられる。今後の検討課題として、in vivoマウス乳がんモデルでのMDA-EV注射による好中球分極確認、EVのカーゴ (特にPS陽性マイクロベシクルに含まれるタンパク質・miRNA) の同定、およびPS遮断アプローチの前臨床評価が必要である。

方法

細胞培養とEV単離: ATCCから入手したMDA-MB-231 (転移性乳がん) およびMCF10 (非腫瘍乳房上皮) 細胞を、10% FBSを含むDMEM/F12培地で7×10⁶ cells/wellまで培養した。その後、1% FBS培地に変更し24時間培養したconditioned medium (CM) を回収した。CMは1000×gで10分間遠心して細胞残渣を除去し、さらに100,000×g、4℃で4時間超遠心することによりEVを単離した。単離されたEVはHBSS、RPMI1640、RIPA (radioimmunoprecipitation lysis) バッファー、またはannexin-V結合バッファーに再懸濁し、-80℃で最大6ヶ月間保存した。EVの粒子径分布はZetasizerを用いた動的光散乱法により評価し、マイクロパーティクル数はフローサイトメトリー (2 µm bead以下、annexin-V陽性をEVと定義) で定量した。エクソソームマーカーであるCD63およびsyntenin-1の存在はWestern blotにより確認した。

好中球単離と処理: 健常ドナーからicoll連続密度勾配法を用いて好中球を単離した (倫理承認 #38257914.7.0000.5259)。単離された好中球は、RPMI-1640、HBSS、RIPA溶解バッファー、またはPBSに再懸濁した。実験群は、untreated (RPMI-1640のみ)、annexin-V (10 nM)、LPS (10 µg/mL)、MCF10-EV (30% v/v)、MDA-EV (30% v/v)、およびMDA-EV+annexin-V前処理 (15分間) の6群に設定した。好中球は37℃、5% CO2下で3時間インキュベートし、N2型分極を誘導した。

評価項目:

  1. 好中球生存率: 処理20時間後の好中球の核形態観察 (CytoSpin、Diff-Quick™染色) およびフローサイトメトリー (FITC-annexin-V+PI染色) により評価した (n=3-6 independent experiments)。
  2. 走化性: 48-well Boyden chamber (5 µm膜) を用い、1時間後の遊走細胞数を5視野で計測した (n=3 independent experiments以上)。
  3. NET形成: 3時間処理後の細胞外DNA量をNanoDrop™で定量した (n=3-6 independent experiments)。
  4. ROS産生: CM-H2DCFDA (5-(and-6)-chloromethyl-2’,7’-dichlorodihydrofluorescein diacetate acetyl ester) 蛍光プローブを用い、1時間後の細胞内ROS産生をEnVision™ Multilabel Plate Readerで測定した (n=8-22 independent experiments)。
  5. NO産生: DAF-FMDA (diaminofluorescein-FM diacetate) プローブを用い、NO産生をEnVision™ Multilabel Plate Readerで測定した (n=8-22 independent experiments)。
  6. サイトカイン定量: 3時間分極後、細胞を洗浄し2時間後に回収した上清中のIL-8、VEGF、CCL2、CCL5をELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) で定量した (n=4-15 independent experiments)。
  7. タンパク質発現: アルギナーゼ-1およびpro-caspase 3のWestern blot解析を実施した。
  8. MMP-9活性: ゼラチン含有7.5% SDS-PAGEを用いたzymographyにより、活性型MMP-9を評価した。
  9. 表面マーカー: CD184 (CXCR4、N2型マーカー) およびCD95 (Fas、N1型マーカー) の発現をフローサイトメトリーで解析した。
  10. 腫瘍細胞生存: MDA-MB-231細胞と好中球を1:10の比率で24時間共培養後、MTT (3-4,5-dimethyl-thiazol-2-yl-2,5-diphenyltetrazolium bromide) アッセイにより腫瘍細胞の生存率を評価した (n=3-5 independent experiments)。
  11. ミトコンドリア膜電位: JC-1プローブを用い、MDA-MB-231細胞のミトコンドリア膜電位を測定した (n=3-5 independent experiments)。

統計解析: データは平均±標準誤差 (SEM) で表した。群間の比較にはStudent’s t-testまたはone-way ANOVAとそれに続くBonferroni post-test (GraphPad Prism 7.0) を用いた。p値が0.05未満を有意差ありと判断した。