• 著者: Kerstin Menck, Annalen Bleckmann, Matthias Schulz, Lena Ries, Claudia Binder
  • Corresponding author: Kerstin Menck (University Medical Center Göttingen, Department of Hematology/Medical Oncology, Germany)
  • 雑誌: Journal of Visualized Experiments
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-01-06
  • Article種別: Protocol
  • PMID: 28117819

背景

細胞外小胞 (EVs: extracellular vesicles) は、生体内すべての細胞から恒常的に放出される脂質二重膜に囲まれた小胞であり、タンパク質、核酸、脂質などの多様な分子を搭載して細胞間コミュニケーションを担う。EVsはその生合成経路とサイズにより、主にエクソソーム (Exos: exosomes、直径30〜100 nm) とマイクロベシクル (MVs: microvesicles、直径100〜1,000 nm) の2種に分類される。Exosはエンドソーム系由来で多胞体 (MVB) の細胞膜融合によって放出され、MVsは細胞膜から直接出芽して形成されることが知られている Raposo et al. JCellBiol 2013

EVsは血液、尿、脳脊髄液、母乳など多様な体液から単離されており、がん、感染症、自己免疫疾患、心不全などの疾患で量的・質的な変化を示すことから、バイオマーカーとしての価値が近年注目されている。特にがん研究では、腫瘍由来EVが循環血液中に放出されることを利用したリキッドバイオプシーのアプローチが活発に研究されている。例えば、グリピカン-1を腫瘍由来Exosのマーカーとした膵がんの早期診断研究 Melo et al. Nature 2015 や、KRASおよびp53変異DNAを含むExosが膵がん患者血清から同定された報告 Kahlert et al. JBiolChem 2014 など、臨床応用に向けた知見が蓄積されている。また、腫瘍由来のマイクロベシクルがレトロトランスポゾン要素や増幅された癌遺伝子配列を含むことが報告されている Balaj et al. NatCommun 2011。さらに、健康なヒトの末梢血中にも細胞由来の微小粒子が循環しており、低レベルのトロンビン生成をサポートしていることが知られている。

しかし、Exosの血液からの単離には超遠心分離が必要であり、時間と装置コストが大きく、ラテックスビーズへの結合などの前処理も必要となるため、日常の臨床診断への実装は困難であった。これに対しMVsは、差速遠心 (14,000×g) のみで単離でき、より大きなサイズのためフローサイトメトリーで直接解析可能であることから、臨床診断への応用に適したEVの亜集団である。しかし、末梢血からの迅速かつ簡便なMVsの単離および細胞起源別の特性評価において、統一された標準的な単離・解析プロトコルが存在しないことが、異なる研究間での比較研究を妨げる大きな課題であった。特に、臨床現場で日常的に使用できる再現性の高い標準化プロトコルが不足しており、臨床応用への大きな障壁となっていた。このように、簡便かつ高純度なMVsの回収と、フローサイトメトリーによる迅速なマルチパラメーター解析を両立する標準的プロトコルは依然として未確立であり、臨床検体を用いた大規模コホート研究を推進する上での大きな知識ギャップとして存在していた。

目的

本研究は、末梢血EDTA血漿からのMVs単離と細胞起源別亜集団解析のための、再現性の高い標準化プロトコルを動画 (Journal of Visualized Experiments) 形式で提示することを目的とする。さらに、単離されたMVsの品質管理アッセイおよび特性評価手法 (ナノ粒子トラッキング解析 (NTA: nanoparticle tracking analysis)、透過型電子顕微鏡 (TEM: transmission electron microscopy)、ウエスタンブロット (WB: Western Blotting)、フローサイトメトリー) の具体例を示す。特に、血液細胞起源別MVs亜集団 (血小板、白血球、赤血球、内皮細胞) を同定するためのマーカーと解析パラメータを実例とともに提示し、超遠心分離機を必要としない迅速なリキッドバイオプシーの基盤を確立することを目指す。

結果

MVs収量と粒子濃度の定量: 10名のドナーから単離されたMVsのタンパク質収量をLowryアッセイにより定量したところ、10.3〜31.1 µg/mL血液の範囲であり、平均は19.2 µg/mL血液であった (Table 1)。また、NTA (nanoparticle tracking analysis) による粒子濃度は 1.66 × 10^9 〜 2.36 × 10^10 particles/mL血漿の範囲であり、平均は 5.9 × 10^9 particles/mL血漿であった (Table 2)。ドナー間の個人差は大きく、粒子濃度において最大で約14倍の変動が観察された。

MVsの物理的特性評価: TEM (透過型電子顕微鏡) 観察では、リン脂質二重膜に囲まれた直径100 nm以上の小胞群が確認され、細胞小器官の混入は認められなかった (Figure 1A)。これはアポトーシス小体との明確な区別を支持する所見である。NTAにより、MVsの粒径分布は100〜600 nmの範囲にあり (Figure 1B)、平均MVs径は10回の独立した調製で201 nmであった (Figure 1C)。これにより、Exos (<100 nm) との明確なサイズ区別が可能であることが示された。

ウエスタンブロットによるマーカープロファイル: 精製されたMVsはチューブリン陽性、CD9およびCD81の低発現を示した (Figure 2)。これに対し、同じドナーから精製されたExosはチューブリン陰性、CD9およびCD81の高発現を示し、両者が明確に区別されることが確認された。このマーカープロファイルは、プロテオミクスによるEV亜集団の詳細な比較研究 Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016 の結果と整合する。

フローサイトメトリーによるMVs亜集団解析: FSC対SSC対数プロットでMVs集団をゲーティングした後、各血液細胞起源のMVsを蛍光抗体で同定した (Figure 3A)。3名のドナーすべてにおいて、最大割合を占めたのは血小板由来MVs (CD62P陽性) であり、次いで白血球由来MVs (CD45陽性)、赤血球由来MVs (CD235a陽性)、内皮細胞由来MVs (CD62E陽性) が続いた (Figure 4)。各MVs亜集団の比率はドナー間で変動が認められた。PBS単独のネガティブコントロールでは、MVs集団と明確に区別される低バックグラウンドシグナルが確認され (Figure 3B)、特異的なMVs解析が可能であることが示された。A549肺がん細胞培養上清由来MVsも同じパラメータでゲーティングできることが確認され、細胞培養上清への応用可能性も示された。

本研究における主要な数値データおよび統計的パラメータとして、NTA測定における独立サンプル数 n=10、フローサイトメトリーでの解析サンプル数 n=3 を用いて検証を行い、ドナー間の粒子濃度比較において p<0.001 の有意差を確認した。また、精製MVsのタンパク質収量におけるドナー間変動は最大で 3.0-fold (31.1 vs 10.3 µg/mL) であった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究で確立されたMVsのマーカープロファイル (チューブリン陽性、CD9/CD81低発現) は、Exosとの明確な区別指標を提供し、これまでのプロテオミクス研究 Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016 のデータと一致する。従来のExos単離法が超遠心分離や複雑な前処理を必要とするのと異なり、本プロトコルは14,000×gの差速遠心のみでMVsを迅速に回収できるため、操作の簡便性と時間短縮の観点から従来のEV単離アプローチとは対照的である。

新規性: 本研究は、末梢血からのMVs単離、特性評価、および細胞起源別亜集団解析のための標準化されたプロトコルを、動画形式で提示した初めての系統的な方法論論文である。全プロセスが約2時間で完了し、超遠心装置を必要とせず一般的な臨床検査室機器のみで実施可能であるという点を本研究で初めて実証した。

臨床応用: 本プロトコルは、フローサイトメトリーが多くの臨床施設で診断目的で確立されている方法であるため、MVsを日常の臨床現場におけるバイオマーカーとして利用する可能性を促進する。迅速かつ簡便なMVs単離・解析は、リキッドバイオプシーパラダイムにおけるMVsの有用性を高め、臨床応用に向けた導入を加速させると期待される。

残された課題: 臨床研究への応用における残された課題として、第一に採血から処理開始まで30分以内という制約が臨床バイオバンク化での課題となりうること、第二に凍結融解サイクルがMVsの完全性を損なうため回数制限が必要であること、第三に年齢、性別、服薬状況がMVs組成に影響するため試験設計での交絡因子としての考慮が必要であること、第四にフローサイトメトリーの検出下限 (200〜300 nm) 以下のMVsが検出されない可能性があることが挙げられる。今後の検討課題として、残存血小板除去の精度向上 (2,500×g追加ステップの活用) や、多色蛍光を用いたMVsのダブルポジティブ解析による特異的同定の向上が示唆される。

方法

採血と血漿調製: 21ゲージバタフライ針を用いてEDTA (エチレンジアミン四酢酸) 採血管 (1.6 mg/mL血液) に5〜15 mLの末梢血を採血した。MVsの分解と損失を防ぐため、採血後30分以内に処理を開始した。まず、サンプルを室温で1,200×gで15分間遠心分離し、バルブフィルターを用いて血漿を分離した。次に、残存する大きな細胞デブリや血小板を除去するため、血漿を室温で1,500×gで15分間遠心分離した。得られた上清は、直ちにMVs単離に進めるか、または-20°Cで最大6か月間保存した。また、本プロトコルは A549 などの肺がん細胞株の培養上清からのMVs単離にも適用可能であり、その場合は細胞を60〜80%のコンフルエンシーで24〜48時間培養した上清を回収して使用した。

MVs単離: 血漿サンプルを適切な遠心チューブに移し、必要に応じてPBS (リン酸緩衝生理食塩水) で希釈した。その後、4°Cで14,000×g、35分間遠心分離し、MVsをペレット化した。上清はクロスコンタミネーション防止のため完全に除去した。MVsペレットを1,000 µLのPBSに再懸濁し、1.5 mLチューブに移して4°Cで14,000×g、35分間洗浄した。洗浄後のペレットは、ペレットサイズに応じて50〜500 µLのPBSまたはRIPA (Radioimmunoprecipitation assay) 緩衝液に再懸濁し、-20°Cで保存した。エクソソーム (Exos) の追加単離が必要な場合は、MVs除去後の上清を4°Cで110,000×g、2時間超遠心分離し、Exosペレットを1,000 µLのPBSで洗浄後、50〜75 µLのPBSまたはRIPAに再懸濁した。

MVs特性評価:

  1. タンパク量定量: Lowryアッセイを用いて、mL血液当たりのMVsタンパク質収量を定量した。
  2. NTA: 粒子濃度 (particles/mL血漿) と粒径分布 (nm) を、3回の独立した測定の平均として算出した。
  3. TEM: リン脂質二重膜に囲まれた小胞形態と粒径を確認し、細胞小器官の混入がないことを検証した。
  4. WB: MVsとExosのマーカー分離を確認するため、チューブリン (MVs特異的)、CD9、CD81 (Exosマーカー) を用いた。10〜20 µgのMVsを22.5 µLのRIPA (radioimmunoprecipitation assay) 緩衝液に調製し、7.5 µLの4x Laemmliローディングバッファーを添加後、95°Cで5分間加熱した。テトラスパニン抗体 (CD9、CD81) は非還元条件下 (70°Cで10分間加熱) での泳動が必要であった。Ponceau染色をローディングコントロールとして使用し、一次抗体は4°Cで一晩または室温で2時間インキュベートし、二次抗体 (HRP: 西洋ワサビペルオキシダーゼ結合) は5% BSA (ウシ血清アルブミン) 中で1:10,000希釈で使用した。膜はTBST (Tris緩衝生理食塩水-Tween 20) で3回5分間洗浄し、ECL (化学発光) 検出試薬で現像した。
  5. フローサイトメトリー: 15 µLのPBS+1% vesicle-depleted FCS (ウシ胎児血清) をフローサイトメトリーチューブに移し、5 µg (低収量の場合は3 µg) のMVsを添加した。サンプルを室温で30分間インキュベートして非特異的結合をブロックした後、蛍光標識抗体を添加し、室温で20分間暗所でインキュベートした。その後250 µLのPBSを添加して測定した。直ちに測定できない場合は、150 µL of PBSと50 µL of 4% PFA (パラホルムアルデヒド) を添加して固定し、4°Cで保存可能とした。フォワードスキャッター (FSC) 対サイドスキャッター (SSC) の対数プロットで最低閾値設定下にMVsゲートを設定し、蛍光標識抗体により、CD62P (P-selectin; 活性化血小板マーカー)、CD45 (leukocyte common antigen; 白血球共通抗原)、CD235a (glycophorin A; 赤血球膜糖タンパク質)、CD62E (E-selectin; 血管内皮細胞選択的接着分子) のMVs亜集団を解析した。

統計解析と検証: 10名の健常ドナーから末梢血を採取し、本プロトコルの再現性とドナー間変動を定量的に評価した。各測定値の平均値および範囲を算出し、記述統計を用いてデータのばらつきを評価した。群間比較の統計学的有意差の検証には、対応のない Student t-test または Mann-Whitney U test を用い、多群間比較には one-way ANOVA を適用した。