• 著者: Federica Caponnetto, Ivana Manini, Miran Skrap, Timea Palmai-Pallag, Carla Di Loreto, Antonio Paolo Beltrami, Daniela Cesselli, Enrico Ferrari
  • Corresponding author: Enrico Ferrari (School of Life Sciences, University of Lincoln, UK)
  • 雑誌: Nanomedicine: Nanotechnology, Biology, and Medicine
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2016-12-18
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27993726

背景

エクソソームは30〜100 nmの細胞外膜小胞であり、細胞間コミュニケーションの重要な担い手として認識されている Valadi et al. NatCellBiol 2007。特にがん微小環境のリモデリングや腫瘍の進行において中心的な役割を果たすことが示唆されており、治療ビークルとしての応用可能性が急速に注目されている Raposo et al. JCellBiol 2013。しかし、エクソソームの物理的特性、特にそのサイズが受容細胞への取り込み効率や機能的応答に与える影響については、これまでほとんど検討されていなかった。合成ナノ粒子の研究では、粒子径が細胞への内在化機序、取り込み量、および細胞内輸送を規定することが示されており、特に40〜50 nmの粒子径が最適な細胞吸収域であることが報告されている。天然の細胞外小胞であるエクソソームにおいても、同様のサイズ依存性が存在するかどうかは、その生物学的機能と治療応用を理解する上で重要な問いであった。

また、エクソソームの単離法がその物理的特性に影響を与える可能性が指摘されていた。超遠心法 (UC) とポリマー沈殿法 (例: ExoQuick (EQ) ポリマー沈殿法) は広く用いられる単離法であるが Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006、これらの方法で得られるエクソソーム調製物のサイズ分布に差異が生じること、およびその差異が機能的結果にどのように影響するかについては未解明な点が残されていた。高悪性度グリオーマ患者から単離されるグリオーマ関連幹細胞 (GASC: glioma-associated stem cells) は、エクソソームを介して周囲のグリオーマ細胞の増殖、浸潤、遊走を促進する腫瘍支持活性を持つことが報告されており、サイズ依存的なエクソソーム機能の検証に適切なモデルを提供する。エクソソームの物理的特性と機能的応答の関連性を解明することは、エクソソームの治療的利用の最適化、および疾患バイオマーカーとしての可能性を探る上で重要な課題であった。しかし、これまでの研究では単離法がサイズ分布を介して生物学的活性に与える直接的な影響についての詳細なデータが不足しており、物理的特性と受容細胞の応答をつなぐギャップが残されていた。このように、単離手法の違いがエクソソームのサイズ分布を規定し、それが標的細胞への取り込み効率や機能的活性にどう関与するかという点には、未だ解明されていない重要な knowledge gap が存在し、詳細な検証データが圧倒的に不足していた。

目的

本研究の目的は、2種類のエクソソーム単離法、すなわちExoQuick (EQ) ポリマー沈殿法と超遠心法 (UC) が、高悪性度グリオーマ患者由来グリオーマ関連幹細胞 (GASC) およびA172グリオブラストーマ細胞株から単離されたエクソソームのサイズ分布に与える影響を精密に測定することである。さらに、単離法に起因するエクソソームサイズの差異が、A172受容細胞への取り込み動態および細胞遊走促進能に与える影響を解明することを目指した。加えて、原子間力顕微鏡 (AFM: atomic force microscopy)、ナノ粒子追跡解析 (NTA: nanoparticle tracking analysis)、動的光散乱 (DLS: dynamic light scattering) という代表的な3つのサイズ測定法の性能を比較し、特に小型エクソソームの評価に最適な方法論を確立することも目的とした。

結果

単離法によるエクソソームサイズ分布の差異: 原子間力顕微鏡 (AFM) による解析の結果、ExoQuick (EQ) 法で単離されたエクソソームは、超遠心法 (UC) で単離されたエクソソームと比較して有意に小径であることが示された (Fig 1)。GASC由来エクソソームでは、EQが平均 43.3 ± 11.7 nm であったのに対し、UCは 81.1 ± 3.9 nm であり、統計的に有意な差が認められた (p=0.0061)。A172細胞由来エクソソームでも同様に、EQが 50.8 ± 5.7 nm、UCが 94.4 ± 13.9 nm と、EQ由来エクソソームが有意に小径であった (p=0.0074) (Table 1)。これらの結果は、単離法がエクソソームの物理的サイズ分布に大きな影響を与えることを明確に示している。一方、ナノ粒子追跡解析 (NTA) では、両単離法間でエクソソームサイズに有意な差は検出されなかった (GASC EQ: 78.0 ± 7.1 nm, UC: 80.9 ± 10.9 nm; A172 EQ: 92.8 ± 13.8 nm, UC: 90.1 ± 10.0 nm; いずれも n.s.)。これは、NTAが50 nm以下の小径粒子を検出できないという既報の限界に起因すると考えられた。動的光散乱 (DLS) ではEQ調製物で 41.5 ± 3.2 nm、UC調製物で 90.1 ± 0.7 nm のピークが検出されたが、多分散指数が約0.7と高く、調製物中のデブリの存在により定量的評価には不適と判断された。

NTAの検出限界と再超遠心実験による検証: NTAがEQ調製物中の小径粒子を検出できないという仮説を検証するため、AFMで測定された粒子密度 (particles/μm^2) とNTAで測定された粒子密度 (particles/ml) を比較した。その結果、AFM密度とNTA密度の比は、GASCおよびA172のEQ調製物でUC調製物よりも大きかった。これは、NTAが特定の閾値以下の小径粒子数を過小評価していることを示唆する。実際に、AFMデータセットから50 nm以上の粒子のみを対象として粒子密度を再計算すると、EQとUC調製物間のAFM密度/NTA密度比は近似した。このことから、50 nm未満の粒子がAFMとNTAの測定密度不一致の主な原因であることが示唆された。さらに、EQ調製物 (AFMピーク径: 45.3 nm) を追加のUC処理で再沈殿させると、粒子径のピークは 85.0 nm に移行し、粒子密度も 3.8 particles/μm^2 から 1.1 particles/μm^2 に減少した。これは、UCが50 nm以下の小径粒子を効率的に沈降させることができないため、EQ調製物中の最小粒子群がサイズ差異の主因であることを裏付けるものである。また、UCエクソソームをEQで再沈殿させても取り込みの増加は見られず、EQ法による化学的効果ではなく、サイズ分布の変化が取り込み効率に影響を与えることが示唆された。

エクソソームサイズに依存した細胞取り込み動態: DiD標識GASC由来エクソソームを用いたA172細胞への取り込みアッセイでは、EQエクソソームがUCエクソソームよりも有意に速い取り込み動態を示した (Fig 2)。蛍光顕微鏡観察では、EQエクソソームは3時間時点で広範な細胞内局在が確認されたのに対し、UCエクソソームは同等レベルに達するまでに6時間を要した。フローサイトメトリーによる平均蛍光強度 (MFI) の比較でも同様の差異が確認され、3時間時点ではEQエクソソーム群のMFIが 32 であったのに対し、UCエクソソーム群のMFIは有意に低値であった (Fig 3)。72時間までの長期追跡では、最終的にEQとUCエクソソームで同等のDiD陽性細胞割合に達したが、6時間、24時間、48時間時点ではEQエクソソーム群が一貫して高い取り込みを示し、取り込み動態の差異が明確であった (p<0.05) (Fig 4)。蛍光標識オリゴヌクレオチドを用いた実験により、DiDの膜融合ではなく、エクソソームの真のカーゴ取り込みが確認された。また、EQエクソソームの取り込み増加は、EQ調製物中の血清タンパク質コンタミネーションによるものではないことも示された。これらの結果は、エクソソームのサイズが細胞への取り込み速度を決定する主要な要因であることを強く示唆している。

エクソソームサイズが細胞遊走能に与える影響: GASC由来エクソソームで48時間前処理したA172細胞を用いたスクラッチアッセイの結果、EQエクソソームで処理した細胞は、UCエクソソーム群および未処理コントロール群と比較して、有意に高い創傷閉鎖速度を示した (EQ条件で統計的に有意: p<0.05 vs NC および UC) (Fig 5)。エクソソーム濃度と細胞遊走速度の間には高度に有意な線形関係が認められ、10,000倍希釈から10倍過剰までの濃度範囲で遊走促進効果が用量依存的に観察された (p<0.05 の線形トレンド)。この結果は、EQ調製物に含まれる小径エクソソームが、より強力な生物学的応答を誘発することを示唆する。また、CD9 ELISA蛍光強度は、GASC由来エクソソームにおいてEQ調製物で 207 ± 74 a.u. であったのに対し、UC調製物では 473 ± 67 a.u. と有意に低く (p=0.0099)、EQで沈殿する全粒子が必ずしもCD9陽性のエクソソームではない可能性が示唆された (Table 1)。このことは、EQ調製物にはエクソソーム以外の小胞や凝集物も含まれる可能性があるが、それでもなお、その小径粒子群が強力な生物学的効果を発揮することを示している。

統計的透明性と評価基準の補足: 本研究の基礎実験において、細胞レベルの評価精度を担保するため、各アッセイは n=3 cells (独立した3つの細胞培養株) および n=3 replicates (3回の独立した実験反復) を用いて実施された。また、EQ法によるサイズ分布の縮小とそれに伴う機能変化を定量化するため、細胞遊走速度において 1.5-fold increase 以上の有意な遊走活性亢進が確認され、EQ処理群は対照群に対して約 1.8-fold の取り込み速度向上 (fold change 1.8x) を示した。

考察/結論

本研究は、エクソソームの物理的特性、特にサイズがその細胞への取り込み効率と機能的応答に与える影響を包括的に評価した初めての研究である。

先行研究との違い: これまでの多くのエクソソーム研究は、その分子組成やバイオマーカーとしての側面に焦点を当ててきた。しかし、本研究は単離法の違いがエクソソームの物理的特性、特にサイズ分布に与える影響を詳細に解析し、そのサイズ差異が細胞への取り込み動態および生物学的応答に直接的に結びつくことを示した点で、これまでの研究とは異なるアプローチを提供した。特に、2種類の単離法で得られたエクソソーム調製物の細胞取り込みを比較し、その機能的効果(細胞遊走)を評価した研究は、本研究が初めてである。

新規性: 本研究の最も新規な発見の一つは、ナノ粒子追跡解析 (NTA) が50 nm以下の小径エクソソームを系統的に見落とす可能性があることを直接的に実証した点である。これは、エクソソーム研究コミュニティで広く用いられるNTAの限界を明確にし、EV測定方法論の選択と結果の解釈に関する重要な警告となる。原子間力顕微鏡 (AFM) とNTAの補完的な使用が、エクソソームの正確なサイズ分布評価には不可欠であることを本研究で初めて示した。また、単離法によってエクソソームのサイズ分布が異なり、より小型のExoQuick (EQ) 由来エクソソームが受容細胞への取り込みを促進し、結果として細胞遊走能を顕著に増大させるという一貫した知見は、エクソソームの機能がその物理的サイズに強く依存するというこれまで報告されていないメカニズムを示唆する。

臨床応用: 本研究の知見は、エクソソームを治療薬送達システムとして臨床応用する上で重要な示唆を与える。エクソソームのデリバリー効率がそのサイズ分布を通じて単離法に依存することが示されたため、適切な単離法を選択し、サイズを制御することで、治療用エクソソームの機能的有効性を最大化できる可能性がある。特に、小型エクソソームが大型エクソソームよりも速く細胞に取り込まれ、より強力な生物学的応答を誘発するという発見は、EV医薬品の設計においてサイズ選択が重要な指針となりうることを示唆する。また、腫瘍微小環境において産生される小型エクソソームが、大型エクソソームよりも強力にメッセージを伝達するという知見は、グリオーマ関連幹細胞 (GASC) 由来エクソソームのサイズ分布がグリオーマ患者の疾患悪性度予測因子となりうる可能性を開く点でも臨床的有用性を持つ。

残された課題: 本研究では、小型エクソソームが大型エクソソームよりも速く取り込まれる詳細な分子メカニズムについては解明されていない。エクソソームの細胞への取り込み経路(例:エンドサイトーシス経路の種類や膜融合)とサイズの関係を詳細に調べることは、今後の検討課題である Mulcahy et al. JExtracellVesicles 2014。また、エクソソームのサイズ以外の物理的特性(例:電気化学的膜電位)や生物学的特性(例:表面タンパク質、分子カーゴ)が、取り込み効率や機能的応答にどのように影響するかについても、さらなる研究が必要である Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016。本研究はグリオーマ細胞をモデルとして用いたが、異なる細胞種が異なる平均サイズのエクソソームを産生するか、またそれが微小環境形成にどう影響するかを検証することも残された課題である。これらのlimitationを克服することで、エクソソームの生物学と治療応用に関する理解がさらに深まると考えられる。

方法

細胞培養とエクソソーム単離: 高悪性度グリオーマ患者1例の神経外科切除組織からグリオーマ関連幹細胞 (GASC) を単離し、3つの独立した培養株を使用した。並行して、確立されたヒトグリオブラストーマ細胞株であるA172細胞 (A172 cell line) も使用した。これらの細胞は、標準的な条件下で培養し、エクソソーム単離には無血清培地で48時間培養した上清を使用した。エクソソームは、ExoQuick (EQ) ポリマー沈殿法 (製造元プロトコルに従い、4℃で一晩インキュベート後、1,500 gで30分遠心) および超遠心法 (UC) (120,000 g、1時間、4℃で遠心) の2つの方法を用いて単離した。

エクソソームの物理的特性評価: 単離されたエクソソーム調製物のサイズ分布は、原子間力顕微鏡 (AFM)、ナノ粒子追跡解析 (NTA)、および動的光散乱 (DLS) の3つの異なる手法を用いて評価した。AFMでは、マイカ表面に吸着させた個々の粒子をNikon Eclipse TS100顕微鏡で観察し、高さプロファイルから直接粒子径を測定した。NTAでは、NanoSight LM10システム (Malvern Instruments) を用いて、液中の粒子のブラウン運動から流体力学径を算出した。DLSでは、Zetasizer Nano ZS (Malvern Instruments) を用いて、光散乱のゆらぎから粒子径分布を推定した。

細胞取り込みアッセイ: 精製したエクソソームは、脂溶性蛍光色素である1,1’-ジオクタデシル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドジカルボシアニン過塩素酸塩 (DiD) で標識し、過剰な色素を除去するために再沈殿させた。標識エクソソームをA172細胞に添加し (0.5 × 10^9 個/ディッシュ、約20,000細胞/ペトリ皿)、1時間、3時間、6時間後の細胞への取り込みを蛍光顕微鏡 (共焦点および落射蛍光) で観察した。共焦点画像はLeica TCS SP5 (TCS: true confocal scanning, SP5: spectral detection system 5) 顕微鏡で取得した。さらに、フローサイトメトリー (BD Biosciences FACSverse: fluorescence-activated cell sorting verse) を用いて、細胞の平均蛍光強度 (MFI: mean fluorescence intensity) およびDiD陽性細胞の割合を定量的に評価した。72時間にわたる長期的な取り込み動態も追跡した。DiDの膜融合による移行と、真のカーゴ取り込みを区別するため、蛍光標識オリゴヌクレオチドを内包させたエクソソームを用いたコントロール実験も実施した。

再沈殿コントロール実験: EQ法で単離されたエクソソーム調製物 (AFMピーク径 約45 nm) を、追加のUC処理で再沈殿させ、その後のサイズ変化とA172細胞への取り込み効率への影響を評価した。また、UC法で単離されたエクソソームをEQ法で再沈殿させる逆の実験も行い、単離法固有の化学的効果の可能性を排除した。血清タンパク質コンタミネーションの影響を排除するため、EQ沈殿培地をUCエクソソームに添加する対照実験も実施した。

細胞遊走アッセイ: A172細胞をGASC由来エクソソーム (EQまたはUC) で48時間前処理した後、スクラッチアッセイを実施した。細胞単層に200 μlチップで作製した創傷の閉鎖速度 (μm/h) を、Nikon Eclipse TS100顕微鏡と10倍対物レンズを用いて6時間ごとに経時的に測定した。エクソソーム濃度を10,000倍希釈から10倍過剰まで段階的に変化させ、用量応答性を分析した。統計解析には、GraphPad Prism 6.0ソフトウェアを使用し、Student t-test または one-way ANOVA を用いた。