- 著者: Hyungsoon Im, Huilin Shao, Yong Il Park, Vanessa M. Peterson, Cesar M. Castro, Ralph Weissleder, Hakho Lee
- Corresponding author: Ralph Weissleder; Hakho Lee (Massachusetts General Hospital / Harvard Medical School, Boston, MA, USA)
- 雑誌: Nature Biotechnology
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-04-20
- Article種別: Original Article
- PMID: 24752081
背景
エクソソームは直径50〜100 nmの膜結合型ナノ小胞であり、多胞体 (MVB) と細胞膜の融合によって活発に分泌される。近年、ほとんどのがん細胞が大量のエクソソームを放出し、これらが親腫瘍の分子情報 (タンパク質・mRNA・miRNA) を運ぶことが報告され、リキッドバイオプシーバイオマーカーとして高い注目を集めている Valadi et al. NatCellBiol 2007。腫瘍生検を伴わずにこの情報を捕捉することは、臨床および研究において有用なツールとなり得る。しかし、エクソソームの迅速な解析には複数の技術的障壁が存在した。超遠心法による精製は煩雑で時間を要し Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006、従来の定量法であるウエスタンブロットやELISAは多量の試料と広範な標識操作を必要とするうえ感度が不十分であった Skog et al. NatCellBiol 2008。これらの限界から、既存のエクソソーム分析法は、高スループットを要する実験やエクソソーム濃度が低い場合に実用的ではなかった。
表面プラズモン共鳴 (SPR) はタンパク質-タンパク質相互作用の高感度リアルタイム検出に広く利用されているが、商業的な全反射型SPR装置は光路の制約から小型化が困難であった。一方、金属薄膜中の周期的ナノホールアレイは透過型SPRを生成する光学構造として知られ、その探索深度が200 nm未満であることからエクソソームのサイズ (平均100 nm) と適合する。しかし、ナノホールアレイをエクソソームの直接検出・プロファイリングへ応用した研究はこれまで報告されておらず、この分野には未開拓の領域が残されていた。特に、エクソソームの多価結合特性を活かした高感度検出と、親細胞の分子特性を反映するエクソソームのプロファイリング能力を実証し、診断および治療モニタリングにおけるエクソソームの潜在的価値を明らかにすることは未解明な課題であった。
また、卵巣がんはしばしば大量の腹水を伴い、その廃液には腫瘍由来エクソソームが高濃度で含まれると推定されるが、少量検体での迅速な診断的プロファイリング技術は未確立であった。これらの背景から、エクソソームサイズに最適化されたナノプラズモニクスを基盤とする新たなセンシングプラットフォームの開発が求められていた。特に、ラベルフリーで高感度な検出、高スループットな並行解析、そして携帯可能なシステムへの統合は、エクソソーム研究および臨床応用における重要な課題として認識されており、既存技術ではこれらの要件を満たすことが不足していた。
目的
本研究の目的は、金薄膜の周期的ナノホールアレイを利用した透過型SPRセンサー「nPLEX (nano-plasmonic exosome)」を設計・製作し、以下の目標を達成することである: (1) ラベルフリー、高感度、リアルタイムでのエクソソーム定量および表面タンパク質プロファイリングを実現する、 (2) 携帯可能なCMOS (Complementary Metal-Oxide-Semiconductor) イメージャー統合システムにより高スループットな並行検出を可能にする、 (3) 卵巣がん患者腹水検体への臨床応用可能性を検証し、治療応答モニタリングへの有用性を示す。特に、エクソソームの多価結合特性を活かした高感度検出と、親細胞の分子特性を反映するエクソソームのプロファイリング能力を実証し、診断および治療モニタリングにおけるエクソソームの潜在的価値を明らかにすることを目指した。本研究は、エクソソームの包括的な分子解析を可能にする新規プラットフォームを提供することで、疾患の早期診断と治療効果の評価に貢献することを意図している。
結果
nPLEXセンサーの高感度エクソソーム検出: CaOV3卵巣がん細胞株由来エクソソームを用いた滴定実験において、抗CD63固定化nPLEXセンサーの結合定数は約36 pMと算出された (Fig. 2a)。これはエクソソーム1粒子あたり多数の抗原-抗体結合が生じる多価性に起因するものであり、単一抗原-抗体の親和性 (約1 nM) より28倍高い安定結合を示した。nPLEXの検出下限は約3,000エクソソーム (670 aM) であり、ウエスタンブロットの10^4倍、化学発光ELISAの10^2倍の感度を達成した (Fig. 2b)。nPLEXの測定値はELISAとの相関係数 R^2 > 98% の高い一致を示し、定量的正確性が確認された (Fig. 2d)。nPLEXセンサーは、従来のSPRデバイスとは異なり、透過モードで動作するため、コンパクトな光学セットアップと高密度なセンシングユニットの構築が可能であった (Supplementary Fig. 5a)。この高感度は、特に希少なエクソソームや低濃度のバイオマーカーの検出において重要である。
Auナノ粒子二次標識によるシグナル増幅: 10 nm球状Auナノスフィアによる二次標識でシグナルが20%増強した。50 nm星型Auナノスター使用時にはシグナルが300%増強され、希少エクソソームマーカーの検出に有効であることが示された (Fig. 2c)。この増幅効果は、検出限界をさらに押し下げ、微量サンプルからの情報取得能力を高める。センサー表面は抗体・エクソソームの溶出後に再生可能であり、繰り返し使用が可能であった (Supplementary Fig. 8)。これにより、同一チップでの複数回の測定や、下流解析のためのエクソソーム回収が可能となった。
卵巣がん細胞株由来エクソソームの分子プロファイリング: 8種の卵巣がん細胞株と良性細胞株 (間皮系・卵巣上皮系・血液系) の計71種のタンパク質マーカーをnPLEXでプロファイリングした。クラスター解析により、マーカーは「がん特異的」「共通発現」「良性特異的」「両方陰性」の4群に分類された (Fig. 3a)。EpCAMとCD24が卵巣がんエクソソームを良性細胞由来エクソソームから最も有効に識別する組み合わせと同定された。エクソソームのタンパク質プロファイルは親細胞株のフローサイトメトリーデータとPearson係数 > 0.95で相関し、エクソソームが親細胞の分子特性を忠実に反映することが確認された (Fig. 3b, c)。この結果は、エクソソームが細胞のサロゲートとして機能し得ることを強く示唆している。nPLEXは、n=8種の卵巣がん細胞株とn=4種の良性細胞株から得られたエクソソームを分析し、各細胞株から得られたエクソソームのプロファイルが、親細胞のプロファイルと高い相関 (Pearson係数 > 0.95) を示すことを実証した。
卵巣がん患者腹水でのエクソソームプロファイリング: 卵巣がん患者腹水 (n=20) と肝硬変患者腹水 (n=10) のnPLEX解析において、卵巣がん患者サンプルのEpCAMおよびCD24のエクソソームあたりタンパク質レベル (ξ) は対照群と比較して有意に高かった (各 P < 0.001、両側t検定) (Fig. 4c)。ROC解析でEpCAMの固有診断精度93%、CD24が87%と算出された (Supplementary Fig. 14b)。EpCAMとCD24を組み合わせた複合スコアでは診断精度97%に達した。CD63シグナル量 (エクソソーム絶対濃度) は患者間で極めて高い変動を示し、がん/非がんを有意に識別できなかった (P = 0.11)。これは採取手技によるサンプリング変動に起因すると解釈された。未処理の腹水サンプルは、nPLEX検出に十分な量のエクソソーム (>10^9エクソソーム/ml) を含有しており、さらなる濃縮やシグナル増幅なしに直接分析可能であった。
治療応答モニタリングへの応用: 化学療法実施前後の卵巣がん患者腹水 (n=8) の解析において、担当医がresponderと判定した患者ではエクソソームのEpCAM・CD24レベルが化学療法後に低下したのに対し、nonresponderでは増加する傾向が観察された (Fig. 4d)。コホートサイズが小さく統計的有意差には達しなかったが、概念実証としてエクソソームプロファイリングが治療応答モニタリングへ応用できることを示した。この結果は、nPLEXが治療効果のリアルタイムモニタリングに潜在的な有用性を持つことを示唆している。
エクソソームの下流遺伝子解析: 抗CD63チャンネルから回収されたエクソソームをqRT-PCRで解析し、CaOV3とOV90細胞株由来エクソソームそれぞれで遺伝子発現プロファイルが異なることを確認した (Fig. 2e)。エクソソーム回収後のmRNA解析はセンサーの再利用可能性を示し、タンパク質と核酸の統合的解析が可能なプラットフォームであることを示した。この機能は、エクソソームの包括的な分子プロファイリングを可能にし、疾患メカニズムの解明に貢献する。
考察/結論
本研究は、エクソソームの高感度・ラベルフリー・高スループット検出と並行タンパク質プロファイリングを可能にするnPLEXプラットフォームを確立し、その設計原理・製作方法・臨床応用可能性を包括的に実証した。
先行研究との違い: 従来の全反射型SPRは小型化困難で高価な光学系を必要とするが、nPLEXは透過型ナノホールアレイによりCMOSイメージャーとの一体化が可能となり、約25 mm^2視野を持つ携帯型ポイントオブケアシステムとして機能する (Fig. 1d)。プラズモニック場の探索深度 (<200 nm) がエクソソームサイズ (平均100 nm) と最適適合することで、従来法を10^2〜10^4倍超える感度を実現した。これは、希少なエクソソームや低濃度のマーカーの検出において特に重要である。nPLEXは、従来の「Protein typing of circulating microvesicles」アプローチ Peinado et al. NatMed 2012 と異なり、ラベルフリーであり試料の前処理・化学修飾が不要である。また、一度に12マーカーを30分以内で並行測定し、0.3 μLという極微量検体で解析可能であり、センサー再生により繰り返し使用が可能という点で優位性を持つ。
新規性: 本研究で初めて、金薄膜の周期的ナノホールアレイを用いたnPLEXセンサーが、ラベルフリーで高感度なエクソソーム検出と分子プロファイリングを可能にすることを示した。特に、エクソソームの多価結合特性を利用することで、単一抗原-抗体結合に比べて28倍高い結合安定性を実現し、検出限界を約3,000エクソソーム (670 aM) まで向上させたことは新規な知見である。
臨床応用: エクソソームの絶対濃度 (CD63シグナル) ではなく「エクソソームあたりの腫瘍マーカー発現量 (ξ)」という正規化指標を用いることで、採取変動の影響を排除し安定した診断精度 (97%) を達成したことは、液体生検臨床応用における重要な方法論的知見である。卵巣がん患者腹水 (一般的に処置で廃棄される) を廃液再利用して分子診断に活用する概念は、侵襲的な生検を回避した低コスト診断として意義を持つ。これにより、患者負担の軽減と早期診断への貢献が期待される。nPLEXは、治療効果のリアルタイムモニタリングに潜在的な有用性を持つことが示唆されており、臨床現場での応用が期待される。
残された課題: 本研究の限界として、患者・対照コホートが各10〜20例と小規模であり、EpCAM・CD24のバイオマーカー有効性についての最終的結論は下せない点が挙げられる。また本研究の焦点は腹水に置かれているが、著者らは血液・髄液・尿等の他の体液への応用可能性を示唆している。今後の検討課題として: (1) 第2世代nPLEX (1,089測定サイト) を用いたさらなる高スループット化と分子プリンティング技術による表面修飾、 (2) 大コホートでの多疾患 (固形腫瘍・心血管疾患・糖尿病・感染症) 前向き試験、 (3) 星型Auナノスターを用いた希少マーカー (miRNA・低発現タンパク質) の超高感度検出への応用が挙げられる。nPLEXが腫瘍由来エクソソームの包括的プロテオーム・ゲノム統合解析を実現するプラットフォームとして、リキッドバイオプシー診断・治療モニタリング・疾患メカニズム研究の基盤技術になる可能性が本研究により示された。
方法
nPLEXセンサーの設計・製作: ガラス基板上に電子線蒸着で200 nm厚のAu薄膜を形成し、集束イオンビームミリング (FIB) で周期450 nm・直径200 nmのナノホールを44×32アレイに配置した。有限差分時間領域 (FDTD) シミュレーションにより、プラズモニック場強化がナノホール近傍200 nm以内に局在することを確認し、エクソソームサイズとのマッチングを最適化した。高スループット解析のため、12×3アレイ (各0.3 μLマイクロ流路) に展開し、第2世代では1,089測定サイト (33×33) を実装した。大面積チップ生産はホログラフィックリソグラフィーで対応した。
表面修飾: 長鎖PEG (MW 1 kDa) と短鎖PEG (MW 0.2 kDa) を1:3比でコーティングして非特異的吸着を抑制し、長鎖PEG末端にモノクローナル抗体をグラフトして各センシング部位を特異抗体で機能化した。抗体は、EpCAM、CD24、CA-125、CA19-9、HER2、MUC18 (Mucin 18)、EGFR、CLDN3 (Claudin 3)、CD45、CD41、D2-40、CD63、HSP90、HSP70、Flotillin 1、Flotillin 2、CD9、Integrin β1、Integrin α5など、計71種類のマーカーに対して選択された。
検出系: 分光モード (Δλ、波長シフト) で定量最適化を行い、ポータブルCMOSイメージャー (638 nmレーザーダイオード光源) による強度変化 (Δρ) モードを臨床検体解析に使用した。nPLEXアレイ (36センシングユニット) はCMOSイメージャーで同時に画像化され、並行検出が可能であった。12マーカーの並行プロファイリングを30分以内に完了できることを確認した。
Auナノ粒子増幅: 10 nm球状Auナノスフィアおよび50 nm星型Auナノスターによる二次標識増幅効果を評価した。AuナノスフィアはNanocsから購入し、Auナノスターはシード媒介成長法で合成した。
エクソソームの単離と定量: 細胞培養上清からエクソソームを単離する際は、0.2 μm膜フィルターでろ過後、差動遠心分離により濃縮した。臨床検体からのエクソソームは、0.2 μm膜フィルターで細胞とデブリを除去した後、ろ液をnPLEX解析に直接使用した。エクソソーム濃度は、ナノ粒子追跡分析 (NTA) システム (LM10, Nanosight) を用いて独立して定量した。
臨床検体解析: 卵巣がん患者腹水 (n=20) と肝硬変患者腹水 (非がん対照、n=10) に対し、0.2 μmフィルター後の未精製腹水を直接nPLEX解析した。12種のマーカー (EpCAM・CD24・CA-125・CA19-9・HER2・MUC18・EGFR・CLDN3・CD45・CD41・D2-40・CD63) を並行プロファイリングした。治療応答モニタリング目的で化学療法実施前後の腹水検体 (n=8) も解析し、担当腫瘍医 (盲検評価) がresponder/nonresponderを判定した。統計解析にはRパッケージ (version 3.0.2) を用いてROC曲線分析を実施した。Pearson相関分析も実施され、nPLEX測定値とELISA測定値の相関が評価された。
下流解析: 抗CD63チャンネルで捕捉されたエクソソームをpH変化で溶出し、qRT-PCRによるmRNA含量解析を実施した。RNA抽出にはmirVANA RNA isolation kit (Life Technologies) を使用し、GAPDH発現量で正規化した。本研究では、CaOV3細胞およびOV90細胞株由来のエクソソームが用いられた。