- 著者: Fernanda G. Kugeratski, Kelly Hodge, Sergio Lilla, Kathleen M. McAndrews, Xunian Zhou, Rosa F. Hwang, Sara Zanivan, Raghu Kalluri
- Corresponding author: Raghu Kalluri (Department of Cancer Biology, Metastasis Research Center, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
- 雑誌: Nature Cell Biology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-06-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 34108659
背景
エクソソームは細胞間コミュニケーションにおいて重要な役割を担う細胞外小胞であり、診断バイオマーカーや治療薬送達システムとしての応用が期待されている Kalluri et al. Science 2020。しかし、エクソソームの同定、精製、および特性評価に広く用いられてきたCD9、CD63、CD81などのテトラスパニンは、細胞種間で発現が不均一であることが報告されており、普遍的なバイオマーカーとしての有用性には疑問が呈されてきた。例えば、JurkatやRaji細胞由来のエクソソームではこれらのテトラスパニンの発現が低いことが知られている。エクソソームの生物学的および翻訳的意義にもかかわらず、このサブタイプのエクソソームを同定できる真に普遍的なタンパク質バイオマーカーは依然として不足している。多様な細胞起源から単離されたエクソソームにおいて豊富かつ普遍的に存在するタンパク質の発見は、エクソソーム研究分野における重要な課題である。このような普遍的バイオマーカーの同定は、エクソソームのより効率的かつ特異的な生化学的同定、特性評価、および精製技術の開発を可能にし、研究コミュニティに多大な影響を与える。さらに、普遍的に存在するタンパク質の機能研究は、エクソソームの生合成、循環におけるバイオアベイラビリティ、および細胞ターゲティングメカニズムなどの基礎的なメカニズムに関する新たな洞察をもたらす可能性がある。これまでの研究では、エクソソームのプロテオーム解析が行われてきたが、複数細胞株および複数単離法にわたる定量的かつ網羅的な大規模比較研究は不足しており、真に普遍的にエクソソームに存在するタンパク質の包括的アトラスが欠如していた。例えば、Jeppesen et al. Cell 2019 はエクソソーム組成の再評価を行い、従来のマーカーの限界を示唆したが、広範な細胞種と単離法を横断する普遍的コアプロテオームの同定には至っていなかった。また、Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016 は異なるEVサブタイプのマーカーを定義したが、普遍的なエクソソームマーカーの包括的なリストは提供されていない。本研究は、これらのギャップを埋め、エクソソーム研究の進展に資するリソースを提供することを目的とする。
目的
本研究の目的は、super-SILAC (super-stable isotope labeling with amino acids in cell culture) 質量分析法を用いて14種類のヒト細胞株由来エクソソームのプロテオームを定量的に比較解析することである。これにより、細胞起源や単離方法に依存しない普遍的かつ高豊度なエクソソーム包含バイオマーカー候補および除外バイオマーカー候補を同定する。さらに、これらの候補の複数動物種および多種体液における適用性を検証し、エクソソームの同定、特性評価、および精製のための包括的な定量的アトラスを研究コミュニティに提供することを目指す。
結果
CD9/CD63/CD81の細胞種間での不均一な発現: FACSビーズ法による解析の結果、14細胞株由来エクソソームにおけるCD9、CD63、CD81の発現頻度と強度は著しいばらつきを示した (Fig. 1b, c)。特に、HPNE、Jurkat、Raji由来エクソソームではCD9が、BxPC3由来エクソソームではCD81が低発現であった。これらのテトラスパニンのエクソソーム表面での発現レベルは、親細胞における発現パターンを反映していることが示された (Extended Data Fig. 4a-c)。この多様性は、単一のテトラスパニンに依存したエクソソームの検出や精製が、異なる細胞種由来のエクソソームに対して普遍的に適用できないという問題点を明確に示した。CD9、CD63、CD81の遺伝子サイレンシングを行った細胞由来エクソソームでは、これらのテトラスパニンの発現レベルが有意に減少した (p<0.05)、これによりアッセイの特異性が確認された (Extended Data Fig. 3d)。
1,212個のコアプロテオームと22個の包含バイオマーカー候補の同定: super-SILAC定量プロテオミクスにより、各細胞株由来エクソソームから1,800~2,500個のタンパク質が定量された (Fig. 2b)。全14細胞株および3つの単離法(UC, DG, SEC)にわたって普遍的に定量されたタンパク質は1,212個であり、これらがエクソソームのコアプロテオームを構成すると考えられた (Extended Data Fig. 9a)。このコアプロテオームは、ExoCartaデータベースに収録されているヒトエクソソームタンパク質の約90%と一致した (Fig. 2f)。さらに、エクソソームにおいて一貫して高豊度であったタンパク質として28個が同定され、そのうち22個が3つの単離法全てで検証され、エクソソームの包含バイオマーカー候補として確定した (Fig. 3a, Fig. 5a)。これらの22個のタンパク質には、シンテニン-1、ALIX、TSG101などの生合成関連タンパク質、GTPase、およびSLC1A5、CD47、ATP1A1、SLC3A2、ITGB1、BSGなどの膜タンパク質が含まれた。STRING解析では、RNA結合タンパク質や膜タンパク質機能クラスターへの濃縮が確認された (Fig. 5c)。対照的に、主に核タンパク質であるHMGB1/2/3、NOLC1、SKP1、SERBP1など15個のタンパク質がエクソソームで一貫して枯渇しており、除外バイオマーカー候補として同定された (Fig. 3c, Fig. 5a)。これらの枯渇タンパク質は、細胞と比較してエクソソームでlog2FCが平均-0.2以下であった。
シンテニン-1の最高豊度と普遍性: 22個の濃縮タンパク質の中で、シンテニン-1は全14細胞株由来エクソソームにおいて最も高い定量値 (SILAC比) を示した (Fig. 6a)。ALIXやTSG101と比較してもシンテニン-1の豊度は一貫して高く、UC、DG、SECの3つの単離法全てでこの高豊度が保持された (Fig. 6c-e)。アポトーシス小体やマイクロベシクルとの比較では、シンテニン-1はエクソソームに選択的に濃縮され、βアクチンはマイクロベシクルに豊富であることが確認された (Fig. 6f)。膜透過化FACSビーズアッセイにより、シンテニン-1がエクソソーム内腔に存在することが実証された (Fig. 6g, h)。さらに、マウス (n=4匹)、ウシ、ウマ、ヤギ血清由来エクソソームのWestern blot解析により、シンテニン-1が全種で検出され、種を超えた保存性が確認された (Fig. 6i)。ヒト血漿100例および尿5例全てでシンテニン-1が検出され、単一粒子フローサイトメトリーでも膜透過化血漿エクソソームの内腔にシンテニン-1が確認された (Fig. 6j, k, l)。これらの結果は、シンテニン-1が普遍的なエクソソームバイオマーカーとして極めて有望であることを示唆する。シンテニン-1のlog2FCは平均で2.5以上であり、他の候補タンパク質と比較して顕著な濃縮を示した。
エクソソームプロテオームの細胞起源依存性: 異なる単離法 (UC, DG, SEC) を用いて3細胞株 (HEK293T, MDA-MB-231, PANC-1) 由来のエクソソームプロテオームを比較した結果、約2,000-2,600個のタンパク質が定量された (Fig. 4b)。これらの方法間で70%以上のタンパク質が重複して検出された (Fig. 4d)。主成分分析 (PCA) により、エクソソームプロテオームの差異は単離方法よりも細胞起源に強く依存することが示された (Fig. 4e)。これは、エクソソームのプロテオーム組成がその親細胞の特性を強く反映していることを示唆する。
考察/結論
本研究は、super-SILAC定量プロテオミクスという偏りのないアプローチを用いて、14種類のヒト細胞株由来エクソソームのプロテオームを詳細に解析し、エクソソームのコアプロテオームを包括的に特定した。
先行研究との違い: これまでのエクソソーム研究では、CD9、CD63、CD81などのテトラスパニンが広くバイオマーカーとして用いられてきたが、本研究はこれらのマーカーが細胞種間で不均一な発現を示すことを大規模な定量的解析により明確に示した点で、これまでの経験的バイオマーカーの限界を浮き彫りにした。この不均一性は、親細胞における発現パターンを反映している可能性があり、従来の単一マーカーに依存したエクソソームの検出・精製法の問題点を指摘する。
新規性: 本研究で初めて、細胞起源や単離方法に依存しない1,212個の普遍的コアプロテオームを同定し、その中から22個の包含バイオマーカー候補と15個の除外バイオマーカー候補を新規に特定した。特に、シンテニン-1が異なる細胞種、動物種、体液由来のエクソソームにおいて最も豊富に存在する普遍的タンパク質であることを本研究で初めて実証したことは、エクソソーム研究における重要な新規知見である。シンテニン-1の高豊度は、ALIXやTSG101といった既知の生合成関連タンパク質と比較しても一貫して高かった。
臨床応用: 本研究で同定されたシンテニン-1は、その普遍性と高豊度から、エクソソームの検出、特性評価、および精製のための新たな標準マーカーとして臨床応用が期待される。特に、従来のテトラスパニンマーカーの発現が低い細胞由来のエクソソームであっても、シンテニン-1をターゲットとすることで、より均一かつ効率的な回収が可能となる。また、22個の包含マーカー候補に含まれる6種の膜タンパク質 (SLC1A5, CD47, ATP1A1, SLC3A2, ITGB1, BSG) は、抗体を用いた免疫親和性精製試薬開発の具体的なターゲットとなり、多様な細胞由来エクソソームのバイアスフリーな回収を可能にする。これらの知見は、エクソソームを基盤とした液体生検や治療用EV設計の発展に大きく貢献する臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、シンテニン-1がエクソソームの生合成、循環安定性、細胞ターゲティングにおいて果たす機能的役割のさらなる解明が残されている。また、シンテニン-1ベースの標準的なエクソソーム検出・精製システムを開発し、その臨床的有用性を大規模コホートで検証することも今後の重要な研究方向性である。本研究は細胞種の違いがエクソソームプロテオームの主要な決定因子であることを示したが、特定の疾患状態におけるエクソソームプロテオームの変化を詳細に解析することも今後の課題である。
方法
非悪性上皮 (HEK293T, HPDE, HPNE, MCF10A)、悪性上皮 (BxPC3, PANC1, MCF7, MDA-MB-231)、間葉系 (BJ, mCAF, PSC)、リンパ球・単球 (Jurkat, Raji, THP-1) の14細胞株由来エクソソームを解析対象とした。エクソソームは、超遠心 (UC)、密度勾配 (DG)、サイズ排除クロマトグラフィー (SEC) の3つの異なる方法で独立して精製され、各条件で3回の独立した生物学的複製が行われた。プロテオーム解析には、8細胞株を混合した重標識内部標準を用いたsuper-SILAC定量プロテオミクスと高解像度ナノLC-MS/MSを組み合わせた。
データ解析では、タンパク質およびペプチドの同定に1%のFDR (false-discovery rate) を閾値とし、各タンパク質が3回の生物学的複製のうち少なくとも2回で定量されていることを必須基準とした。エクソソームの表面マーカーであるCD9, CD63, CD81の発現は、FACSビーズ法により半定量的に評価された (14細胞株、n=3生物学的複製)。同定されたタンパク質の機能アノテーションには、STRING解析、Gene Ontology (GO) 解析 (Cellular Compartment, Molecular Function, Biological Process)、KEGG解析、Pfam解析が用いられた。
さらに、同定された主要なバイオマーカー候補の普遍性を検証するため、マウス (4T1, B16-F10, MC-38, NIH-3T3, RAW 264.7細胞株)、ウシ、ウマ、ヤギの血清、およびヒト血漿100例、尿5例由来のエクソソームにおけるシンテニン-1の発現をWestern blotおよび単一粒子フローサイトメトリーにより評価した。