• 著者: Roberta Palmulli, Mickaël Couty, Melissa C. Piontek, Maharajah Ponnaiah, Florent Dingli, Frederik J. Verweij, Stéphanie Charrin, Matteo Tantucci, Sajitha Sasidharan, Eric Rubinstein, Anatol Kontush, Damarys Loew, Marie Lhomme, Wouter H. Roos, Graça Raposo, Guillaume van Niel
  • Corresponding author: Guillaume van Niel (Institute of Psychiatry and Neuroscience of Paris, Université de Paris, Paris, France)
  • 雑誌: Nature Cell Biology
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-06-17
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 38886558

背景

CD63はテトラスパニンファミリーの一員であり、後期エンドソーム/リソソームおよびILV (intraluminal vesicles) に豊富に局在し、エクソソームの信頼性の高いマーカーとして広く用いられてきた。CD63はCXCR4の細胞内輸送制御、P-セレクチンクラスタリング、メラノサイト顆粒形成など多様な細胞プロセスに関与することが知られていたが、これらの多様な機能を統一的に説明する根本的な分子機能は未解明であった。エンドソーム膜上での脂質選別機構、特に遊離コレステロール (FC) のILVへの選別はほとんど理解されていなかった。コレステロールは細胞膜の物理的特性を調節し、エクソソームへの濃縮が報告されていたが、CD63との関連は示されていなかった。リポタンパク質由来コレステロールのエンドソーム回収はNPC1/2 (Niemann-Pick type C1/2) 複合体が主に担うことは確立されていたが、内因性コレステロールのILV選別・エクソソーム経由の細胞外供給という概念は未探索であった。これまでの研究では、エクソソームのタンパク質選別機構が主に注目されてきたが、脂質選別機構については十分な理解が不足していると指摘されている (例えば、vanNiel et al. NatRevMolCellBiol 2018vanNiel et al. NatRevMolCellBiol 2022)。また、CD63がILVに濃縮されることは古くから報告されているが (例えば、Escola et al. JBiolChem 1998)、その分子メカニズムは不明であった。

目的

本研究の目的は、CRISPR CD63ノックアウト (KO) 細胞を用いてCD63の根本的分子機能を同定し、エンドソーム膜上のコレステロール選別、脂質恒常性、ILV形成、エクソソーム膜特性へのCD63の役割を解明することである。さらに、CD63の4番目の膜貫通ドメインのグルタミン酸残基 (E217) を介した分子内腔コレステロール結合の寄与を検証することも目的とした。

結果

CD63欠失はsEVタンパク質組成・分泌数を変化させないが脂質恒常性を障害する: CD63 KO HeLa細胞およびMNT-1細胞では、sEVのタンパク質プロテオームおよび粒子数 (NTA) は野生型 (WT) と差がなく、CD63は個々のタンパク質積荷の選別に必須ではないことが確認された (Fig. 1a-d)。例えば、HeLa細胞由来sEVの粒子数はWTとCD63 KO間で有意差がなかった (p > 0.05)。一方、脂質メタボロミクス解析では、CD63 KOによりsEV中のFC (free cholesterol) およびCE (cholesteryl esters) 含量が減少し、細胞内コレステロール恒常性の変化が観察された (Fig. 3e,f)。具体的には、MNT-1 CD63 KO sEVではFCレベルが有意に減少した (p < 0.05)。全細胞膜プロテオームでは、両細胞種でCD63のみが有意に変化し、他の共通タンパク質変化は認められなかった (Fig. 2a,b)。

CD63がILVへのコレステロール選別を担い、コレステロール結合腔が機能的に必須である: 蛍光コレステロールプローブ (D4-GFP、filipin、D4-mCherry) によるイメージングで、WT細胞のCD63陽性エンドソーム (MVE) のILVにFCが濃縮されるのに対し、CD63 KO細胞ではILVへのFC選別が著明に障害されることが示された (Fig. 4b,c,e)。TEM免疫金標識定量では、ILV上のD4-GFP金粒子数がWT (平均2.6 PAG/vesicle) 対KO (1.4 PAG/vesicle) で有意に差があった (p < 0.0001) (Fig. 4h)。CD63再発現によりこの表現型は救済されたが、コレステロール結合欠損変異体CD63 E217Qによる救済は不完全であり、4番目の膜貫通ドメインの分子内腔コレステロール結合 (E217グルタミン酸残基を介した水素結合) がILVコレステロール選別に寄与することが確認された (Fig. 6g,h)。D4-GFPの蛍光密度はCD63 E217Q再発現細胞でCD63 WT再発現細胞と比較して有意に減少した (p = 0.0071)。バフィロマイシンA1富化エンドソーム起源sEVでもCD63 KOによりコレステロール含量が有意に減少した (p = 0.0104) (Fig. 7d)。これらの実験には、WT細胞とCD63 KO細胞それぞれでn = 9〜28細胞が用いられた。

CD63非存在下ではアクチン依存的小胞輸送がコレステロールをゴルジ経由で代替回収する: CD63 KO細胞ではMVE上のアクチン蓄積が増加し (CK666で消失)、U18666A処理時にTF-cholがLAMP-1 (lysosomal associated membrane protein 1) ではなくマンノシダーゼII陽性ゴルジへ優先的に蓄積した (Fig. 5d,e)。CI-M6PR (cation-independent mannose 6-phosphate receptor) とApoEの細胞内輸送が障害され (後行性輸送の変化)、前行性輸送 (VSVG-RUSHシステム) は正常であった。CD63 KO MVEには管状突起 (tubulations) が増加し (Fig. 5f)、Arp2/3依存的アクチン重合によるエンドソーム管状ドメインの分断が活性化されていることが示された (Fig. 5g)。WT細胞と比較してCD63 KO細胞ではLAMP-1陽性エンドソーム周囲のアクチン蛍光強度が有意に増加した (p < 0.0001)。これらの解析には、n = 24〜115個のMVEが用いられた。

エクソソームがNPC1/2依存的に受容細胞へコレステロールを供給する: WT sEVのTF-chol・MemBrightデュアルタグ追跡実験で、sEVが受容細胞のエンドソームに取り込まれ、NPC1阻害 (U18666A) によりコレステロールがエンドソーム内に蓄積することが示された (Fig. 8b)。CD63 KO sEVを受容細胞に与えると、WT sEVと比べてコレステロール蓄積量が有意に減少し (p < 0.0001)、CD63欠損がエクソソームの「コレステロール供給体」としての機能を障害することが確認された (Fig. 8c)。この実験では、n = 9〜12個の細胞が各条件で解析された。

CD63 KOによるsEV膜剛性の変化: AFMナノインデンテーション解析では、HeLa WT sEVとCD63 KO sEVの膜剛性 (k) 自体に差はなかったが、Canham-Helfrich理論に基づく曲げ弾性率 (κ) はWT (11±3 kBT) 対KO (14±4 kBT) で有意差があり (p = 0.05)、CD63欠損によりsEV膜のコレステロール減少が膜固有の弾性特性に影響することが示された (Fig. 7i)。凍結保存されたsEVでは、CD63 KO sEVの曲げ弾性率が有意に増加した (19±5 kBT vs 12±4 kBT, p = 0.05)。この解析には、n = 30〜45個のsEVが用いられた。

考察/結論

新規性: 本研究は、CD63の根本的な分子機能として、エンドソーム膜上でのコレステロール選別およびILV形成制御という脂質ソーティング機能を初めて確立した。CD63が第4膜貫通ドメインの分子内腔にコレステロールを収容し (CD81と類似のメカニズム)、ILVへの内向き出芽を促進するというモデルは、エンドソーム膜上での内向き (ILV形成) と外向き (アクチン依存的再回収) 出芽のバランスをCD63が調節するという統一的な機能概念を新規に提示する。ILVおよびエクソソームがコレステロールの「一時的貯蔵庫」かつ「代替コレステロール供給源」として機能するという発見は、エクソソームの生物学的役割に脂質恒常性の維持と細胞間コレステロール分配という新次元を加える。

先行研究との違い: これまでの研究では、エクソソームのタンパク質選別機構が主に注目されてきたが (例えば、Baietti et al. NatCellBiol 2012Colombo et al. JCellSci 2013)、本研究はCD63が脂質、特にコレステロールの選別において中心的な役割を果たすことを明らかにし、この点でこれまでとは異なる視点を提供する。また、NPC1/2機構によるILV/エクソソーム-コレステロールの回収・受容細胞への供給という経路は、リポタンパク質経路とは独立したコレステロール分配ルートとして興味深い。

臨床応用: 本知見は、NPC1欠損症などのコレステロール代謝疾患や、がん細胞の脂質代謝リプログラミングにおけるCD63依存的エンドソームコレステロール選別の病態的関与の解明に繋がる可能性がある。また、CD63を標的としたエクソソームコレステロール送達などの治療的操作の評価は、将来的な臨床応用への道を開くかもしれない。この研究は、エクソソームが病理的条件下で過剰なコレステロールをクリアする役割を持つ可能性を示唆しており、臨床的意義は大きい。

残された課題: 今後の検討課題として、CD81、CD82、TSPAN6などの他のテトラスパニンによる同様のコレステロール調節機能との比較、およびCD63がコレステロールの膜内輸送 (inner to outer leaflet) に関与するのか、あるいは膜マイクロドメインでのコレステロールクラスター形成に関与するのか、その精密なメカニズムの解明が残されている。また、CD63-コレステロール相互作用が特定の膜タンパク質の選別やクラスター形成、あるいは可溶性タンパク質のEV表面への結合にどのように影響するのかも未解明である。

方法

HeLa細胞およびメラノサイト株 (MNT-1細胞) でCRISPR/Cas9によるCD63完全KO (2クローン/HeLa、1クローン/MNT-1) を作製した。sEV (small extracellular vesicles) プロテオーム (TMT定量質量分析) およびsEV数 (NTA (nanoparticle tracking analysis)) を用いてKO表現型を解析した。脂質メタボロミクス (質量分析) により脂質恒常性の変化を評価した。蛍光コレステロールプローブ (mCherry-D4H、D4-GFP、filipin、TopFluor-chol) を用いてエンドソーム内コレステロール分布をライブおよび固定イメージングで可視化し、免疫電子顕微鏡 (D4-GFP免疫金標識) でILVコレステロール局在を精密評価した。NPC1阻害剤 (U18666A) およびアクチン重合阻害剤 (CK666、Arp2/3 (Actin-related protein 2/3) 阻害) による機能的回収経路の遮断実験を実施した。CD63 E217Q変異体 (コレステロール結合欠損) をCD63 KO細胞に再発現させ、救済実験を行った。原子間力顕微鏡 (AFM) ナノインデンテーションによりsEVの膜剛性および曲げ弾性率を定量した。バフィロマイシンA1 (bafilomycin-A1) 処理でエンドソーム起源sEVを富化し、コレステロール含量をAmplex Redアッセイで測定した。受容細胞へのsEV取込みとコレステロール移行をMemBright/TF-cholデュアルタグ追跡で評価した。統計解析には、Student’s t-test、one-way ANOVA、Kruskal-Wallis test、Mann-Whitney testなどが用いられた。