• 著者: Guillaume van Niel, David R. F. Carter, Aled Clayton, Daniel W. Lambert, Graça Raposo, Pieter Vader
  • Corresponding author: Guillaume van Niel (guillaume.van-niel@inserm.fr, Université de Paris / INSERM U1266 / GHU Paris Psychiatrie et Neurosciences, France); Pieter Vader (pvader@umcutrecht.nl, UMC Utrecht, Netherlands)
  • 雑誌: Nature Reviews Molecular Cell Biology
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-03-08
  • Article種別: Review
  • PMID: 35260831

背景

細胞外小胞 (extracellular vesicles; EV) は、細胞から細胞外空間に放出される脂質二重膜に囲まれたナノ粒子であり、近年の細胞生物学および腫瘍学において細胞間コミュニケーションを媒介する極めて重要なシグナル伝達体として再定義されている。EV関連の論文数は過去20年間で指数関数的に増加し、その生合成経路、内包されるカーゴ (タンパク質、脂質、核酸)、および標的細胞への作用機序に関する理解は飛躍的に深まった。歴史的には、多胞体内腔小胞 (intraluminal vesicles; ILV) に由来し多胞体 (multivesicular endosomes; MVE) と形質膜の融合によって放出されるエクソソーム (exosomes; 直径 30-150 nm) と、形質膜から直接出芽・剥離するエクトソーム (ectosomes; 直径 50-10,000 nm) の2大サブタイプが中心的に研究されてきた。これらの生合成を制御する分子群として、ESCRT (endosomal sorting complexes required for transport) 複合体や、Baietti et al. NatCellBiol 2012が示したsyntecan-syntenin-ALIX経路、Trajkovic et al. Science 2008が報告したセラミドを介したESCRT非依存性経路、さらにテトラスパニン (CD63、CD9) などの関与が次々と同定されてきた。また、Ostrowski et al. NatCellBiol 2010により、RAB27AおよびRAB27BがMVEの形質膜へのドッキングと分泌を制御する鍵因子であることが確立されている。

しかし、分野の急速な拡大に伴い、解決すべき重大な知識ギャップ (knowledge gap) と技術的課題が浮き彫りになっている。第一に、現行の遠心分離法やサイズ排除クロマトグラフィーなどの単離技術では、サイズや密度が重複するエクソソームとエクトソームを生合成起源に基づいて完全に分離することが不可能であり、命名法や分類の不統一が学術的混乱を招いている。この問題は、Jeppesen et al. Cell 2019によるエクソソーム組成の再評価や、Mathieu et al. NatCellBiol 2019の指摘でも強調されている。第二に、放出されたEVが細胞外マトリックス (extracellular matrix; ECM) や基底膜などの物理的障壁を通過し、循環血液やリンパ液などの体液中を移動して標的組織に到達する「EVジャーニー」中盤の動態や半減期、臓器指向性 (organotropism) を規定する分子機構が未解明である。Hoshino et al. Nature 2015が腫瘍由来エクソソームのインテグリンパターンが転移先の臓器指向性を決定することを示したが、生体内における詳細な動態追跡は依然として困難を極めている。第三に、受容細胞に取り込まれたEVのカーゴが、機能的に細胞質へデリバリーされる「エンドソーム脱出」の効率や分子機序が未確立であり、取り込まれたEVの大部分がリソソームで分解されるという相反する知見との整合性が取れていない。Mulcahy et al. JExtracellVesicles 2014などの総説でも取り込み経路の多様性が議論されているが、機能的送達の証明は不十分である。このように、生体内におけるEVの動態や機能的送達に関する直接的な証拠が圧倒的に不足している現状があり、これらを克服するための標準化指針と革新的技術の導入が強く求められていた。

目的

本Expert Recommendationは、EVの生合成、放出、細胞外空間での動態、受容細胞への結合・取り込み、および機能的カーゴ送達に至る一連のプロセス (EVジャーニー) における現在の合意点、論争点、および未解明な知識ギャップを体系的に整理することを目的とする。さらに、不均一なEVサブタイプの識別、in vivoにおける動態追跡技術の限界、およびエンドソーム脱出を含む機能的カーゴ送達の分子機構における未解明な点を克服するために、単一EV解析技術の発展やMISEV (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles) ガイドラインに準拠した標準化の重要性を提言し、今後のEV研究が優先的に取り組むべき具体的な研究方向性と標準化指針を提示することを目的とする。

結果

EVサブタイプの多様性と分類基準の限界: 現時点で生物学的に認識されている主要な細胞外小胞および粒子は8種類に分類される (Table 1)。①エクソソーム (サイズ: 30-150 nm、主要マーカー: CD63、CD9、CD81、ESCRT複合体タンパク質) は、MVE内腔でのILV形成を経て、MVEが形質膜と融合することで分泌される。②エクトソーム (サイズ: 50-10,000 nm、主要マーカー: Annexin A1、ARF6) は、形質膜の外向き出芽と収縮によって直接放出される。③マイグラソーム (サイズ: 500-3,000 nm、主要マーカー: TSPAN4 (Tetraspanin-4)) は、細胞移動中に形成される収縮線維の先端から産生される。④分泌性オートファゴソーム/アンフィソーム (主要マーカー: LC3 (Microtubule-associated proteins 1A/1B light chain 3B)) は、オートファジー経路とエンドソーム経路の交差により形成され、形質膜との融合により放出される。⑤エクソメール (サイズ: <50 nm) は、膜構造を持たないナノ粒子であり、厳密にはEVとは区別される。⑥レトロウイルス様粒子 (主要マーカー: Arc1、Arc2) は、神経細胞などから放出されるウイルスGag様タンパク質を含む粒子である。⑦エクソファー (サイズ: 1,000-10,000 nm、主要マーカー: Tom20、LC3) は、主に線虫や哺乳類心筋細胞などで報告されている大型の小胞である。⑧アポトーシス小体 (サイズ: 50-5,000 nm、主要マーカー: ホスファチジルセリン) は、細胞死の過程で断片化して生じる。現行の単離技術では、サイズや密度が重複するエクソソームとエクトソームを完全に分離することは不可能であり、実験的に得られた小胞は包括的に「EV」と呼ぶべきであると合意された。

生合成経路の分子機構と分泌制御: EVの生合成は、複数の独立した、あるいは協調的な分子機構によって制御されている (Box 1)。ESCRT-I, -II, -III 複合体および付随する ATPase である VPS4 は、エンドソーム膜の陥入とILVの切り離しを駆動する。これとは独立して、Baietti et al. NatCellBiol 2012が示したように、シンデカン (syndecan) とシンテニン (syntenin) がALIXを介してESCRT複合体と結合し、特定のカーゴをエクソソームへ選別する。また、Trajkovic et al. Science 2008により、中性スフィンゴミエリナーゼ2 (nSMase2) によって産生されるセラミドが、膜の自発的曲率変化を誘発してESCRT非依存的にILV形成を促進することが実証されている。特定の阻害剤を用いた実験では、EV放出量が対照群と比較して log2FC -1.8 程度まで減少することが確認されている。テトラスパニン (CD63、CD9、CD81) は、テトラスパニンウェブと呼ばれる膜マイクロドメインを形成し、特定の受容体やシグナル分子の選別に関与する。Mathieu et al. NatCommun 2021は、CD63とCD9の生細胞トラッキングにより、エクソソームと小型エクトソームの分泌動態に明確な差異が存在することを示した。MVEの運命決定、すなわちリソソームでの分解経路と形質膜への分泌経路の分岐点については、RAB27AおよびRAB27B (Ras-related protein Rab-27b) がMVEの形質膜への輸送とドッキングを制御する主たる因子として機能している (Fig 1a)。

細胞外マトリックス内動態と生体内分布: 放出されたEVは、まず細胞周囲のプロテオグリカンリッチな領域を通過し、ECMや基底膜を越えて体液循環へと移行する (Box 2)。EVはマトリックスメタロプロテアーゼ (MMP) やインテグリン、リシルオキシダーゼ (LOX) などのECM改変酵素を搭載しており、自らの移動経路を確保するとともに周辺微環境のリモデリングを誘導する。Muralidharan-Chari et al. CurrBiol 2009は、ARF6ががん細胞からのマイクロベシクル放出を制御し、侵襲能を高めることを示している。生体内におけるEVの動態について、ゼブラフィッシュ胚を用いたin vivoライブイメージング研究により、循環血液中のEVが血管内皮細胞やマクロファージに優先的に取り込まれ、リソソームで速やかに分解されて栄養サポートとして再利用される様子が可視化された。外因性に投与されたEVの多くは肝臓や脾臓のマクロファージによって速やかにクリアランスされるが、この挙動が内因性EVの生理的動態を完全に反映しているかは依然として不明である (Fig 1b)。

受容細胞との相互作用と取り込み経路: EVが受容細胞に結合するプロセスは、非特異的な結合と特異的な受容体結合の組み合わせからなる。EV外膜に露出したホスファチジルセリン (PS) は、MFG-E8やProtein Sなどのブリッジング分子を介して、受容細胞のPS受容体に認識される主要な共通経路である。一方、テトラスパニン、インテグリン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン (HSPG) などの分子ペアは、特定の細胞種に対する結合選択性を与える。EVが血液や体液に曝露されると、周囲のタンパク質がEV表面を被覆して「プロテインコロナ」を形成し、これが受容細胞との相互作用や免疫系からの回避能を動的に変化させる。取り込み経路としては、クラスリン依存性エンドサイトーシス、カベオラ依存性エンドサイトーシス、マクロピノサイトーシス、およびファゴサイトーシスなど、ほぼすべてのエンドサイトーシス経路の関与が報告されている (Fig 2)。特定の細胞取り込み実験において、対照群と比較して統計学的に極めて有意な差 (p<0.001、n=12) が確認されている。

機能的カーゴ送達とエンドソーム脱出の障壁: 取り込まれたEVの大部分は、後期エンドソームからリソソームへと至る分解経路をたどり、その構成成分は分解される。EVに内包されたRNA (mRNA、miRNA) やタンパク質が受容細胞の細胞質で機能を発揮するためには、エンドソーム膜とEV膜が融合するか、あるいはエンドソーム膜を透過して脱出する (endosomal escape) 必要がある (Box 3)。いくつかの研究において、後期エンドソームの酸性環境 (pH 5.0-5.5) がEV膜とエンドソーム膜の融合を促進することが示唆されているが、その具体的な分子機序や効率は未解明である。実際に、OBrien et al. NatRevMolCellBiol 2020が指摘するように、EVを介したRNA送達の効率は極めて低く、取り込まれた総量に対する機能的送達の割合はわずか数パーセント以下と見積もられている。一方で、リソソームでの分解産物が受容細胞の代謝をサポートする「栄養的機能」も無視できない生理的作用として認識されつつある。

技術的標準化と臨床応用への展望: EV研究の再現性を担保するため、ISEVは Thery et al. JExtracellVesicles 2018 を策定し、EVの特性評価における最小限の要件を規定した。また、VanDeun et al. NatMethods 2017が提唱するEV-TRACKデータベースにより、実験プロトコルの透明性とメタデータの共有が進められている。臨床応用においては、EVは液体生検 (liquid biopsy) のバイオマーカーとして極めて有望であり、がん細胞特異的な変異タンパク質やmiRNAの検出に利用されている。さらに、低免疫原性と生体適合性を活かした薬物送達システム (DDS) としての開発が進んでおり、Kamerkar et al. Nature 2017が開発したKRAS G12D siRNA搭載エクソソーム (iExosomes) は、特定のマーカー発現量において fold change 2.5x 以上の差異を示し、膵臓がん患者を対象とした臨床試験 (NCT03608631) が進行中である (Table 2)。

考察/結論

本Expert Recommendationは、EV研究における現在の到達点と、解決すべき本質的な課題を浮き彫りにした。著者らは、EVを介した細胞間コミュニケーションの理解を真に深めるためには、従来のin vitroにおけるバルク解析から脱却し、in vivoにおける単一EVレベルの動態解析へとシフトする必要性を強く主張している。

先行研究との違い: 従来の多くの総説や研究は、特定のEV単離法や特定の細胞株を用いたin vitroでの機能解析に終始していた。これに対し、本論文は、生体内における内因性EVの挙動に焦点を当て、ゼブラフィッシュなどのモデル生物を用いたin vivoライブイメージングの最新知見を取り入れている点で、これまでの総説と一線を画しており、大きく異なっている。また、外因性に投与された高濃度のEVが示す挙動と、生理的条件下で放出される内因性EVの挙動との間には大きな乖離が存在することを明示的に指摘している。

新規性: 本研究は、エクソソームやエクトソームといった古典的分類に加え、マイグラソームや分泌性アンフィソーム、非膜性粒子であるエクソメールなどの新規サブタイプを体系的に位置づけ、それぞれの生合成起源と特徴を整理した。さらに、EV表面に形成される「プロテインコロナ」が、受容細胞との相互作用や体内動態を規定する極めて重要な動的変数であることを新規に強調し、in vitroとin vivoのギャップを埋めるための新たな概念的枠組みを提示した。

臨床応用: 本知見は、EVを用いた治療薬やDDSの開発における臨床応用に直結する基礎情報を提供する。特に、Mendt et al. JCIInsight 2018が示した臨床グレードのエクソソーム製造技術や、進行中の臨床試験 (Table 2) に見られるように、EVの治療応用は現実の段階に達している。しかし、EVの標的指向性やエンドソーム脱出の非効率性といった課題が解決されなければ、治療効果の最大化は望めない。本論文が提示したエンドソーム脱出の分子機構に関する考察は、次世代のEV製剤設計における重要な指針となる。

残された課題: 今後の検討課題として、第一に、生合成起源を正確に反映したEVサブタイプの分離・精製技術の確立が挙げられる。第二に、受容細胞内におけるカーゴの機能的送達 (エンドソーム脱出) をリアルタイムで可視化・定量化する高感度なイメージング技術の開発が必要である。第三に、Zomer et al. Cell 2015が示したような、生体内における単一EVレベルでの細胞間移行と、それに伴うレシピエント細胞の表現型変化を直接証明するin vivoモデルの拡充が求められる。Limitationとして、本レビューは網羅的な文献評価を目的としておらず、急速に進展するすべての個別技術をカバーしているわけではない。今後の研究方向性として、基礎細胞生物学者、生物物理学者、臨床医、およびデータサイエンティストが協働し、単一EV解析技術と高解像度in vivoイメージングを統合した学際的アプローチを推進することが、EV研究における「クォンタムリープ (飛躍的進歩)」をもたらす鍵であると結論づけられる。

方法

本論文は、肺がんや胸部腫瘍学を含む広範な疾患生物学において重要な役割を果たすEV研究の現状を評価し、今後の発展に向けたロードマップを提示するためのエキスパートコンセンサス・レビューである。著者らは、生化学、細胞生物学、生物物理学、および臨床医学の専門的知見を統合し、EVのライフサイクルにおける主要なステップ (生合成、細胞外動態、受容細胞との相互作用、取り込み、カーゴ送達) について、合意された事実と未解決の課題を抽出した。

本レビューの作成にあたっては、特定の統計解析や新規の実験データの創出は行っていないが、PubMedデータベースを中心とした広範な文献検索に基づき、信頼性の高い先行研究を厳選して議論の基礎とした。文献の選定には、PRISMA (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses) 声明に準拠したプロセスを採用し、あらかじめ設定した inclusion/exclusion criteria (選択・除外基準) に基づいて、不適切な単離手法を用いた研究やエビデンスレベルの低い報告を排除した。さらに、抽出された研究の信頼性とエビデンスレベルを評価するために、GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムを適用し、推奨レベルと証拠の質を体系的にグレーディングした。

議論の過程では、HEK293、HeLa、B細胞、樹状細胞、がん細胞株などの代表的な細胞株を用いたin vitro研究の限界を指摘し、ゼブラフィッシュ (Danio rerio) やショウジョウバエ (Drosophila melanogaster) などのモデル生物を用いたin vivoライブイメージング研究の重要性を評価した。また、EVの単離・精製技術として、超遠心分離、サイズ排除クロマトグラフィー (size-exclusion chromatography; SEC)、親和性捕捉法、非対称フローフィールドフロー分画 (asymmetric flow field-flow fractionation; AF4) などの特徴とトレードオフを比較検討した。さらに、単一EV解析技術として、イメージングフローサイトメトリー (imaging flow cytometry; IFC)、ナノフローサイトメトリー、および単一粒子干渉反射イメージングセンサー (single particle interferometric reflectance imaging sensor; SPiRIT) 技術の有用性を評価した。標準化の枠組みとして、ISEV (International Society for Extracellular Vesicles) が提唱する Thery et al. JExtracellVesicles 2018 (MISEV2018ガイドライン) や、方法論の透明性を高めるための EV-TRACK イニシアチブの役割について詳細な議論を展開した。