• 著者: James W. Clancy, Alanna Sedgwick, Carine Rosse, Vandhana Muralidharan-Chari, Graca Raposo, Michael Method, Philippe Chavrier, Crislyn D’Souza-Schorey
  • Corresponding author: Crislyn D’Souza-Schorey (Department of Biological Sciences, University of Notre Dame, Notre Dame, IN, USA)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-04-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25897521

背景

腫瘍由来微小胞 (TMV; tumour-derived microvesicles) は、形質膜の直接出芽・ピンチオフによって放出される細胞外小胞であり、直径約200 nm〜数μmの範囲で、エクソソームとは異なる生合成経路を持つ。TMVは、膜型マトリックスメタロプロテアーゼ (MT1-MMP) などの浸潤関連酵素を含有し、腫瘍細胞の細胞外マトリックス (ECM) 分解と浸潤に寄与することが報告されている Muralidharan-Chari et al. CurrBiol 2009。同グループの先行研究では、ARF6依存的経路がTMV生成に必須であることが示されていたが、MT1-MMPがTMVに選択的に積荷される分子機序は未解明であった。SNAREタンパク質 (soluble N-ethylmaleimide-sensitive factor attachment protein receptor) は細胞内小胞輸送を制御し、VAMP3 (vesicle-associated membrane protein 3) およびVAMP7がMT1-MMPの細胞内輸送に関与することが個別に報告されていたが、TMV積荷制御における役割は不明であった。

腫瘍細胞は、間葉系 (扁平で伸展した形態) とアメーバ様 (丸みを帯びたブレブ形成を伴う形態) の2種類の浸潤表現型を動的に切り替えることが知られており、TMVはアメーバ様形態をとる細胞で多く産生される。アメーバ様浸潤は、ECMを変形させる「押す」運動が主体と考えられてきたが、TMVを介するプロテアーゼ依存的ECM分解の寄与は手薄である。さらに、腫瘍由来微小胞ががんの進行において果たす役割はますます認識されているが、そのカーゴの選択的な積荷メカニズムに関する理解は依然として不足している Al-Nedawi et al. NatCellBiol 2008Skog et al. NatCellBiol 2008。本研究は、この残されたギャップを埋めることを目的とした。

目的

アメーバ様浸潤性腫瘍細胞において、MT1-MMPのTMVへの積荷を制御するSNAREタンパク質を同定し、その分子機序 (テトラスパニンとの協調) とTMV機能 (マトリックス分解・浸潤) への影響を明らかにすること。さらに、臨床検体におけるMT1-MMP含有TMVの存在とその機能的意義を検証すること。

結果

VAMP3とMT1-MMPがアメーバ様細胞のブレブで共輸送される: LOXメラノーマ細胞において、VAMP3-GFPとMT1-MMP-mCherryがアメーバ様形態の細胞のブレブ (膜突起) に向かって共輸送されることがライブイメージングにより示された (Fig. 1a-d)。Pearson係数はアメーバ様細胞で高く、間葉系細胞では有意に低く、ブレブ指数 (blebs/sec/細胞周長) とVAMP3-MT1-MMP共局在の間に正の相関が確認された (n=30 cells) (Fig. 1g,h)。対照的に、VAMP7はMT1-MMP含有perinuclear rosettesに局在し、invadopodia分解に関与することが示された (Fig. 1f)。この共局在はPC-3およびSW480細胞株でも同様に観察された (Supplementary Fig. 1a,b)。

VAMP3ノックダウンによりTMVのMT1-MMP積荷が約70%減少する: VAMP3 shRNAを発現させたLOX細胞から単離したTMVでは、Western blotによりMT1-MMP量が70%超減少した (Fig. 2e)。β1-インテグリンやMHC-I (major histocompatibility complex-I) などの他のTMVカーゴの量は変化しなかった (Supplementary Fig. 3)。再循環 (recycled) MT1-MMPのTMVへの取り込みもVAMP3依存的であり、VAMP3ノックダウンによりその量が大幅に減少した (Fig. 3b)。VAMP3欠損は、MT1-MMP総量の減少を引き起こし、リソソーム分解への誘導を示唆した。この結果は3回の独立した実験で再現された。

VAMP3-CD9相互作用がMT1-MMPのTMV積荷に必須である: 抗CD9抗体を用いたIPでは、VAMP3 shRNA細胞において共沈するMT1-MMP量が著明に減少した (Fig. 3a)。CD9とβ1-インテグリン、BAP-31との相互作用はVAMP3欠損の影響を受けなかった。VAMP3はARF6 (ADP-ribosylation factor 6) 陽性エンドソームを経由してMT1-MMPをCD9と連携させ、TMVへの選択的積荷を実現することが示唆された (Supplementary Fig. 8)。この結果は4回以上の独立した免疫沈降実験で確認された。

VAMP3欠損によりアメーバ様浸潤能が80%以上低下する: タイムラプス定量解析により、VAMP3 shRNA細胞のゼラチン上での14時間変位が90.8 μmから15.9 μmへと著明に低下した (p < 0.01) (n=15 cells) (Fig. 2i)。PurColコラーゲン上では156.8 ± 7.87 μmから26.1 ± 12.11 μmへと低下した (p < 0.01) (n=15 cells) (Fig. 2k)。Rat Tail collagen-Iゲル (架橋型・蛋白分解依存的) では、VAMP3 shRNA細胞はほぼ不動となった (Fig. 3c)。MT1-MMP阻害剤 (NSC405020) 処理またはMT1-MMP siRNA発現細胞でも同様の浸潤障害が観察された (Fig. 3d-g)。VAMP7 shRNAはinvadopodia分解を廃絶するが、アメーバ様浸潤には影響しなかった (Supplementary Fig. 6a-c)。

卵巣がん患者体液中にMT1-MMP含有機能的TMVを同定した: 30例超の卵巣がん患者の腹水および血清サンプルから、NTA (中央粒子径 264 nm / 分画後 410 nm) (Fig. 4a)、TEM (Fig. 4b)、Western blot (VAMP3、MT1-MMP、ARF6、CA-125富化) (Fig. 4c) によりTMVを同定した。単離TMVはin vitroでゲラチン分解能を有し、その分解はNSC405020により抑制された (Fig. 4d,e)。血清中にもARF6、MT1-MMP、VAMP3、CA-125陽性の機能的TMVが存在することが確認され、これらもマトリックス分解能を示した (Fig. 4f)。これらの結果は、複数の患者サンプルで一貫して観察された。

考察/結論

本研究は、v-SNARE VAMP3がテトラスパニンCD9との相互作用を介してMT1-MMPをTMVへ選択的に積荷するという新規な分子機序を同定した。VAMP3 (TMVカーゴ積荷) とVAMP7 (invadopodiaカーゴ輸送) が機能的に異なる細胞内輸送経路を担うことは、腫瘍細胞の浸潤様式に応じたプロテアーゼ送達の精巧な分子制御を示す。この知見は、これまでアメーバ様浸潤がプロテアーゼ非依存的であるとする概念と異なり、TMVを介するプロテアーゼ依存的な組織浸潤の新たな機構的理解を提供した。

VAMP3欠損が架橋コラーゲンゲルへのアメーバ様浸潤を80%以上抑制するという結果は、TMV中MT1-MMPが高密度ECM環境での浸潤の主要決定因子であることを示す。ARF6依存的TMV生成とVAMP3依存的MT1-MMP積荷が連携するモデルは、生成と積荷選択を独立したステップとして調節できることを示唆し、積荷特異的阻害戦略の基盤を提供する。

卵巣がん患者腹水からのMT1-MMP含有TMVの単離は、TMVが液体生検バイオマーカーおよび治療標的として臨床応用に有望であることを示す。特に、CA-125などの疾患マーカーがTMV中に濃縮されていることは、既存の技術と比較して腫瘍シグネチャーの同時分離と濃縮という付加的な利点を提供し、感度向上に寄与する。これらの知見は、臨床現場における診断および治療法の開発に繋がる臨床的意義を持つ。

残された課題として、VAMP3がMT1-MMPとCD9の相互作用をエンドソーム上で促進するのか、あるいは細胞表面で促進するのかについては、さらなる検討が必要である。また、腫瘍細胞が間葉系からアメーバ様浸潤への移行を駆動する分子メカニズムや細胞外シグナルについても、今後の研究で解明されるべき重要な課題である。

方法

LOXメラノーマ (アメーバ様浸潤性)、PC-3 (前立腺がん)、SW480 (大腸がん) 細胞株を用いた。TMVは差速遠心法により単離した。VAMP3-GFP (green fluorescent protein) / MT1-MMP-mCherry、VAMP7-GFPなどの蛍光融合タンパク質を用いたタイムラプス共焦点顕微鏡により、ライブセルイメージングでタンパク質の共局在と動態を追跡した。VAMP3 (vesicle-associated membrane protein 3) shRNA (short hairpin RNA) / siRNA (small interfering RNA) によるノックダウン後、TMV中のMT1-MMP量をWestern blotで定量した。siRNA抵抗性cDNAを用いた救済実験も実施した。CD9 (tetraspanin CD9) とVAMP3の物理的相互作用は共免疫沈降 (IP) により解析した。TMVのマトリックス分解能は、FITC-gelatin蛍光アッセイおよびDQ-gelatin分解アッセイを用いて評価した。MT1-MMP阻害剤 (NSC405020) 処理およびMT1-MMP siRNAによる機能解析も行った。アメーバ様浸潤能は、ゼラチン上、PurColコラーゲン上、およびRat Tail collagen-Iゲル内での細胞変位をタイムラプス顕微鏡で定量し評価した。卵巣がん患者30例超の腹水および血清から、NTA (nanoparticle tracking analysis)、TEM (transmission electron microscopy)、Western blot、ゲラチン分解アッセイによりTMVを単離・同定し、その浸潤能を評価した。