• 著者: Vandhana Muralidharan-Chari, James Clancy, Carolyn Plou, Maryse Romao, Philippe Chavrier, Graca Raposo, Crislyn D’Souza-Schorey
  • Corresponding author: Crislyn D’Souza-Schorey (Department of Biological Sciences, University of Notre Dame)
  • 雑誌: Current Biology
  • 発行年: 2009
  • Epub日: 2009-11-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 19896381

背景

腫瘍の転移はがん患者の主要な死因であり、一次腫瘍から細胞が脱落し、周囲組織を浸潤して遠隔部位に播種する複雑なプロセスである (Chambers et al. NatRevCancer 2002)。腫瘍細胞の浸潤プロセスには、MAPK (mitogen-activated protein kinase) シグナル伝達経路の増強、Rho ファミリー GTPase (guanosine triphosphatase) による細胞骨格の再編成、細胞の接着・遊走能の変化、および各種プロテアーゼによる細胞外マトリックス (extracellular matrix: ECM) の分解が伴うことが知られている (Egeblad et al. NatRevCancer 2002)。

ADP-ribosylation factor (ARF) ファミリーの小型 GTP 結合タンパク質である ARF6 (ADP-ribosylation factor 6) は、膜輸送とアクチン細胞骨格のリモデリングを制御する重要なシグナル分子である。近年の研究により、侵襲性の高いメラノーマ、グリオーマ、乳がん細胞において、ARF6 の GTP/GDP (guanosine triphosphate / guanosine diphosphate) サイクルが細胞浸潤能を制御することが明らかになってきた (DSouzaSchorey et al. NatRevMolCellBiol 2006)。しかし、ARF6 が腫瘍細胞の浸潤を促進する具体的な細胞レベルの機構や、プロテアーゼの放出をどのように制御しているかについては未解明な部分が多く、重要な knowledge gap となっていた。

細胞外小胞のうち、多胞体由来のエクソソーム (径 50-70 nm) については研究が進んでいたが、形質膜から直接出芽して放出されるマイクロベシクル (microvesicle: MV、径 100-1,000 nm) の biogenesis (発生機構) や機能については理解が不足していた (Morel et al. CurrOpinHematol 2004)。特に、腫瘍細胞が MV を放出する際の分子経路や、MV に含まれるカーゴの選択的ソーティング機構、さらには MV と invadopodia (浸潤突起) との構造的・機能的な違いについては、これまで詳細な検証がなされておらず、研究が手薄な領域として残されていた。

目的

本研究の目的は、ARF6 GTPase サイクルによる腫瘍細胞由来の形質膜マイクロベシクル (MV) 放出の分子制御機構を詳細に解明することである。具体的には、(1) 活性型 ARF6 (ARF6-Q67L) および不活性型 ARF6 (ARF6-T27N) を安定発現させた LOX メラノーマ細胞株を用いて MV 放出における ARF6 の役割を検証すること、(2) 放出された MV のサイズ、形態、および含有カーゴの生化学的特性を評価すること、(3) MV と cortactin 陽性の invadopodia との構造的・機能的区別を明確にすること、(4) PLD (phospholipase D)、ERK (extracellular signal-regulated kinase)、MLCK (myosin light-chain kinase)、および MLC (myosin light chain) からなるアクトミオシン駆動経路の関与を生化学的に実証すること、(5) MV に搭載された MT1-MMP (membrane-type 1 matrix metalloproteinase) による ECM 分解能と、それに必要な β1-integrin の役割を明らかにすることを目的とした。

結果

ARF6 活性化状態による MV 放出の双方向制御: 顕微鏡観察において、恒常活性型 ARF6 を発現する LOX ARF6-GTP 細胞および parental LOX 細胞は培養液中に多数のマイクロベシクル (MV) を放出していたが、優性不能型 ARF6 を発現する LOX ARF6-GDP 細胞の培養液中には MV がほとんど検出されなかった (Fig 1B)。一方で、LOX ARF6-GDP 細胞の細胞表面には、放出されずに留まった bulbous (球状) な小胞構造が多数蓄積していた (Fig 1A)。10,000×g の遠心分離により回収した MV の総タンパク量を定量した結果、活性化型 ARF6-Q67L 変異体発現細胞 (LOX ARF6-GTP) では、対照群と比較してマイクロベシクル放出量が 12-fold increase (p<0.001, n=5 replicates) と有意に増加した (Fig 1C)。ウェスタンブロッティング解析により、LOX ARF6-GTP 由来の MV には外来性および内在性の ARF6 が豊富に含まれていたが、LOX ARF6-GDP 由来の MV 分画には ARF6 タンパク質が検出されなかった (Fig 1C)。同様の現象は SW480、PC3、MDA-MB-231 細胞株でも確認され、ARF6-T27N の発現によって MV の放出が著しく抑制された (Fig 1F)。

単離 MV の物理的・生物学的特性評価: 電子顕微鏡 (EM) 解析により、LOX ARF6-GTP 細胞表面および単離された 10,000×g ペレット中の MV は、直径 300-900 nm の不均一なサイズ分布を持つ形質膜由来の小胞であることが示された (Fig 1E, Fig 2B)。これは、100,000×g ペレット中に回収される直径 50-70 nm の均一なエクソソームとは物理的に明確に異なる分画であった (Fig 2A, Fig 2B)。また、MV の表面には phosphatidylserine (PS) の外面化が認められ、annexin V による強い染色性が確認された (Fig 2C)。cleaved caspase-3 染色および TOPRO-3 核染色を行った結果、これらの細胞および MV においてアポトーシスシグナルは活性化されておらず、okadaic acid (50 nM) 処理で誘導されるアポトーシス小体 (apoptotic body) とは明確に区別される非アポトーシス性の放出機構であることが実証された (Fig 2D)。

MV カーゴの選択的ソーティングと機能的 ECM 分解: ウェスタンブロッティングにより、単離された MV には ARF6、β1-integrin、MHC class I、VAMP3、および活性型にプロセシングされた MT1-MMP が選択的に取り込まれていることが示された (Fig 3E)。一方で、エンドソームマーカーである transferrin receptor、MT1-MMP の細胞表面輸送に関与する Rab8 および VAMP7、ならびに invadopodia の構成成分である cortactin や Tks5 は MV 中に全く検出されなかった (Fig 3E)。ゼラチンザイモグラフィーにおいて、MV は MMP-2 および MMP-9 の活性型シグナルを示した (Fig 3A)。単離した MV を FITC-gelatin 上に播種したところ、MV の接着部位に一致して局所的なゼラチン分解スポットが形成された (Fig 3B)。この接着および分解活性は、抗 β1-integrin 中和抗体 AIIB2 の前処理によって 10% 未満にまで著しく抑制された (Fig 3B)。

ARF6-PLD-ERK 経路を介したシグナル伝達: MEK (MAPK/ERK kinase) 阻害剤 U0126 (30 μM) の処理により、parental LOX および LOX ARF6-GTP 細胞からの MV 放出は 80% 抑制され (p<0.001, n=250 cells)、細胞表面に MV が蓄積する LOX ARF6-GDP 様の表現型へと変化した (Fig 4A, Fig 4B)。細胞画分解析において、LOX ARF6-GTP 細胞では活性化型 phospho-ERK が細胞膜画分に有意に集積していた (Fig 4D)。PLD 活性化能を欠損した ARF6-N48I 変異体の発現、または 1-butanol (0.3%) による PLD 活性阻害は、PA レベルの低下を伴って ERK の活性化および MV の放出を 0.3-fold に低下させ (p=0.003, n=4 replicates)、有意に抑制した (Fig 5A, Fig 5B, Fig 5C, Fig 5D)。逆に、LOX ARF6-GDP 細胞に対して PA ホスホヒドラーゼ阻害剤 propranolol (0.1 mM) を作用させると、phospho-ERK レベルが回復し、MV の放出が再誘導された (Fig 5E, Fig 5F)。

アクトミオシン駆動性の膜分裂機構と不活性型 ARF6 による抑制: myosin II 阻害剤 blebbistatin (100 μM) またはアクチン重合阻害剤 latrunculin A (2 μM) の処理により、MV の放出は完全に阻止され、細胞表面に分裂途中の小胞がクラスターを形成して留まった (Fig 6A, Fig 6B)。免疫蛍光染色において、活性化型 phospho-MLC (Thr18/Ser19) は細胞表面の MV の「ネック部 (根元)」に特異的に局在していた (Fig 6C)。LOX ARF6-GTP 細胞では phospho-MLC レベルが著しく上昇しており、このリン酸化は U0126 処理によって抑制された (Fig 6D, Fig 6E)。一方で、LOX ARF6-GDP 細胞においても高い MLC リン酸化が認められたが、これは MLCK 阻害剤 ML-7 や U0126 には感受性を示さず、PKC 阻害剤 Go6976 (10 μM) によって特異的に抑制された (Fig 6F, Fig S5)。これは、ARF6-GDP 状態では PKC を介した MLC の阻害的リン酸化が働き、アクトミオシン収縮および膜分裂が阻止されることを示している。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、ARF6 GTPase サイクルが腫瘍細胞からの形質膜マイクロベシクル (MV) 放出を双方向に制御する分子機構を初めて解明した。これまで、ARF6-ERK 軸がメラノーマ細胞の浸潤を促進することは既報 (Tague et al. ProcNatlAcadSciUSA 2004) であったが、本研究は、このシグナルが具体的に MV 放出というアクトミオシン依存的な膜分裂機構に直結していることを示した点で従来の知見と異なり、より直接的な膜動態制御を提示している。さらに、腫瘍浸潤を担う構造として、細胞下端で局所的なマトリックス分解を行う cortactin 陽性の invadopodia と、細胞表面から出芽して遠隔での分解を可能にする cortactin 陰性の MV 放出という、2 つの相補的かつ独立した機構が協調して機能していることを明確に区別して提示した。

新規性: 本研究で初めて、ARF6-GTP 依存的な PLD 活性化が形質膜における PA の蓄積を促し、これが ERK を形質膜へ動員して活性化させ、さらに ERK が MLCK をリン酸化・活性化することで MLC のリン酸化 (Thr18/Ser19) を誘導し、MV ネック部のアクトミオシン収縮を引き起こすという一連のシグナルカスケードを新規に同定した。また、ARF6-GDP 状態においては、PKC が MLC を阻害的にリン酸化することで収縮を阻止し、MV の出芽・分裂を停止させるという代替経路を新規に同定した。さらに、MV へのカーゴ輸送がランダムではなく、ARF6 制御下のリサイクリングエンドソームを経由する分子 (β1-integrin、MHC class I、VAMP3) に限定される選択的ソーティング機構の存在を実証した。

臨床応用: 本研究の知見は、がんの診断および治療における臨床応用に直結する。臨床的有用性として、血中や腹水中に放出されるプロテアーゼ含有 MV の定量、および MV 上の ARF6 や MT1-MMP の検出は、腫瘍の悪性度や転移能を評価する低侵襲なバイオマーカー (リキッドバイオプシー) として極めて有用である。さらに、ARF6 阻害剤や PLD 阻害剤、あるいは臨床で広く使用されている MEK/ERK 阻害剤を用いて MV の放出を特異的に抑制することにより、腫瘍細胞による遠隔マトリックス分解と組織浸潤を阻止する、新たな転移抑制療法の開発が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、ARF6 制御下のリサイクリングエンドソームから形質膜出芽部位へのカーゴの選択的パッキングを駆動する具体的な分子マシナリーの同定が挙げられる。また、in vivo の三次元腫瘍微小環境において、放出された MV がどのようにして遠隔の ECM を分解し、腫瘍細胞の intravasation (血管進入) や転移巣形成をサポートするのかについて、生体内イメージングを用いたさらなる検証が必要である。

方法

細胞株と遺伝子導入: ヒトメラノーマ細胞株 LOX、大腸がん細胞株 SW480、前立腺がん細胞株 PC3、および侵襲性乳がん細胞株 MDA-MB-231 を使用した。LOX 細胞において、恒常活性型変異体 HA-ARF6-Q67L (hemagglutinin-tagged ARF6-Q67L) を安定発現させた株 (LOX ARF6-GTP) および優性不能型変異体 HA-ARF6-T27N を安定発現させた株 (LOX ARF6-GDP) を樹立した。また、PLD 活性化能を欠失した変異体 HA-ARF6-N48I、GFP-ERK (green fluorescent protein-tagged ERK)、EGFP-VAMP3 (enhanced green fluorescent protein-tagged vesicle-associated membrane protein 3)、EGFP-VAMP7、および PA (phosphatidic acid) 蛍光プローブである GFP-Spo20PABD を一過性発現させて解析に用いた。遺伝子ノックダウンには siRNA (small interfering RNA) を用いた。

マイクロベシクル (MV) の単離: 培養上清から段階的遠心分離法を用いて MV を回収した。具体的には、細胞除去のために 800×g で 10 分間、アポトーシス小体除去のために 2,500×g で 15 分間遠心し、最終的に 10,000×g で 30 分間遠心して MV ペレットを得た。対比として、上清をさらに 100,000×g で 1 時間遠心してエクソソーム分画を回収した。

生化学的解析および機能アッセイ:

  • ウェスタンブロッティング: 単離した MV および細胞溶解物中の ARF6、β1-integrin、MHC class I (major histocompatibility complex class I)、VAMP3、MT1-MMP、cortactin、Tks5、Rab8、VAMP7、transferrin receptor、phospho-ERK、phospho-MLC (Thr18/Ser19) の発現を検出した。
  • ゼラチンザイモグラフィー: MV に含まれる MMP-2 および MMP-9 の活性を評価した。
  • FITC-ゼラチン分解アッセイ: 単離した MV を FITC (fluorescein isothiocyanate) 標識ゼラチンでコートしたカバーガラス上に播種し、6-8 時間培養後のマトリックス分解活性を暗スポットの形成により定量した。β1-integrin の中和には AIIB2 抗体を使用した。
  • 薬理学的阻害実験: MEK 阻害剤 U0126 (30 μM)、PLD 阻害剤 1-butanol (0.3%)、PA ホスホヒドラーゼ阻害剤 propranolol (0.1 mM)、myosin II 阻害剤 blebbistatin (100 μM)、アクチン重合阻害剤 latrunculin A (2 μM)、MLCK 阻害剤 ML-7 (10 μM)、PKC (protein kinase C) 阻害剤 Go6976 (10 μM)、p38 阻害剤 SB203580 (10 μM) を使用した。統計解析には Student t-test (両側) を用い、有意水準は p<0.05 とした。