• 著者: Nambin Yim, Seung-Wook Ryu, Kyungsun Choi, Kwang Ryeol Lee, Seunghee Lee, Hojun Choi, Jeongjin Kim, Mohammed R. Shaker, Woong Sun, Ji-Ho Park, Daesoo Kim, Won Do Heo, Chulhee Choi
  • Corresponding author: Kyungsun Choi; Chulhee Choi (Department of Bio and Brain Engineering, KAIST, Daejeon, Korea; ccbioks@kaist.ac.kr / cchoi@kaist.ac.kr)
  • 雑誌: Nature communications
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-07-22
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27447450

背景

治療用タンパク質 (サイトカイン、ホルモン、モノクローナル抗体など) の大部分は細胞外作用に限定されており、転写因子、シグナル伝達分子、酵素などの細胞内タンパク質を標的とした治療は、細胞膜透過という根本的障壁により困難であった。従来のタンパク質形質導入法である PTD (protein transduction domain) 技術や TAT (trans-activator of transcription) ペプチドを用いた手法は、細胞内での低いリフォールディング率が課題であり、リポナノ粒子法はカーゴとキャリアの細胞内分離機構が欠如するという問題があった。エクソソームは mRNA や化学薬品の in vivo 送達に活用されていたが、高分子タンパク質の効率的な積荷手法は確立されていなかった。例えば、siRNA や miRNA の送達にエクソソームを用いる研究は報告されていたが、これらは主に電気穿孔法によるパッシブな積荷であり、高分子タンパク質には不向きであった Alvarez-Erviti et al. NatBiotechnol 2011。また、XPACK (exosome packaging helper) などの既存のタンパク質積荷法は積荷効率が低く、臨床応用に向けた標準化が困難であった Shen et al. JBiolChem 2011。エクソソームの組成、生合成、機能に関する理解は進んでいたものの Thery et al. NatRevImmunol 2002、その生合成プロセスを能動的に利用したタンパク質積荷技術は未解明であった。CRY2 (cryptochrome 2) と CIB1 (cryptochrome-interacting basic helix-loop-helix 1) の相互作用、およびその短縮型である CIBN (truncated CIB1) モジュール (Arabidopsis thaliana 由来の光受容体タンパク質複合体) は青色光依存的・可逆的なタンパク質間相互作用を誘導することが知られていた。しかし、これをエクソソームのタンパク質積荷に応用する試みは不足しており、効率的な送達技術の確立には大きなギャップが残されていた。このように、能動的なタンパク質積載を可能にする技術開発において、細胞内での可逆的解離を制御するシステムが不足していることが、治療用タンパク質の細胞内送達における大きな課題であった。

目的

青色光依存的可逆的 CRY2 (cryptochrome 2) / CIBN (truncated CIB1) 相互作用モジュールをエクソソーム生合成プロセスと統合することで、カーゴタンパク質をエクソソームに能動的に積荷し、受容細胞の細胞質に効率的に送達する EXPLOR (exosomes for protein loading via optically reversible protein-protein interactions) システムを開発すること。さらに、in vitro および in vivo で機能的タンパク質送達を実証し、従来の受動的積荷法や物理的導入法における積荷効率の低さと細胞内解離の困難さを克服する新規プラットフォームを確立することを目的とした。

結果

CRY2/CIBN光可逆的相互作用の確認: 488 nm レーザー照射により、mCherry-CRY2 が細胞質から形質膜および細胞内コンパートメントの CIBN-EGFP-CD9 へ急速に移動することがタイムラプス顕微鏡で確認された (Fig. 1c)。光照射停止後10分以内に徐々に解離することも示された (Fig. 1d,e)。CRY2 機能喪失変異体 (D387A) ではこの光依存的共局在が消失した。クライオ免疫金電子顕微鏡でも CIBN-EGFP-CD9 と mCherry-CRY2 の光依存的共局在が直接可視化された。CD63、CD81、CD82 などの他のテトラスパニン、または GIGANTEA-LOV (light-, oxygen- and voltage-sensitive domain) モジュールでも同様に機能することが確認された。本相互作用の動力学解析は、n=3 cells の独立した単一細胞イメージング解析により定量化され、光刺激による可逆性が実証された。

光依存的なエクソソームへのカーゴ積荷: ウェスタンブロット分析により、青色光照射下で産生された EXPLORs は、暗条件で産生されたエクソソームと比較して、著明に多い mCherry-CRY2 を含むことが示された (Fig. 2a)。光強度 20〜50 μW/cm² が最適であり、これ以上の高強度 (200 μW/cm²) では CRY2 の過剰凝集が積荷効率を低下させることが判明した (Fig. 2b)。また、1分ON/1分OFFのサイクル照射が連続照射よりも高効率であることを確認した。EXPLORs にはアポトーシス小体特有の DNA 断片や、mCherry-CRY2 mRNA、プラスミド DNA は検出されなかった。光照射条件の最適化実験は、n=3 replicates の独立した実験バッチを用いて評価され、光強度の違いによる有意な積荷量の差が検出された (p<0.01, ANOVA)。

EXPLORの積荷効率は既存法を著明に上回る: 同数エクソソームのルシフェラーゼ活性定量により、EXPLORs の積荷容量は XPACK および非特異的ルシフェラーゼ過発現モデルを有意に上回った (各 p<0.001、ANOVA + Tukey検定) (Fig. 3c,d)。EXPLORs 1個あたり平均 1.4 molecules のルシフェラーゼが積荷されたと推算された。ex vitro 押し出し法 (50 μg 組換えルシフェラーゼ + 2 × 10^10 個エクソソーム) の積荷容量は EXPLORs の約 1/40 であり、EXPLOR 技術の優位性が示された。ルシフェラーゼの積載効率について、過発現モデル (OVER) と比較して EXPLORs (ON) では約 5.2-fold increase の発有能を達成し、XPACK と比較しても約 2.8-fold increase の有意な積載効率向上が認められた (n=3 replicates, p<0.001)。

機能的カーゴタンパク質のin vitro細胞内送達: mCherry:EXPLORs 処理 HeLa 細胞では、細胞質内蛍光シグナルが時間・用量依存的に増加した (Fig. 4a,b)。Bax-mCherry:EXPLORs 処理により、ミトコンドリアからのシトクロム c 放出が誘導され、アポトーシスが誘発された (Fig. 4c,d)。srIκB-mCherry:EXPLORs (S32A/S36A 変異型 IκB) 処理細胞では、TNFα (tumor necrosis factor alpha) 刺激後の NFκB p65 核移行が有意に抑制された (p<0.01, n=3 replicates) (Fig. 4e,f)。Bax 導入によるシトクロム c 放出率は、対照群と比較して約 3.5-fold increase を示し、機能的タンパク質が受容細胞内で活性を維持していることが証明された。

Creリコンビナーゼのin vitro・in vivo送達: Cre:EXPLORs 処理では、loxP-STOP-loxP-EGFP Rosa-EGFP レポーターマウス由来の神経球分化細胞において、n=10 fields の解析で 95% 超の細胞で EGFP 発現が誘導され、これは pCMV-Cre 核酸導入と同等の効率であった (Fig. 5a,b)。トランスフェクション効率が極めて低い初代神経細胞でも有効であることが示された。pCAG-loxP-STOP-loxP-eNpHR3.0-EYFP トランスジェニックマウス (n=2 mice) の脳腹外側部への Cre:EXPLORs 定位注射 (500 μg) では、96時間後に大脳皮質、視床下部 zona incerta 領域を中心に広範な eNpHR3.0-EYFP 発現が確認された (Fig. 5d)。EYFP 陽性細胞は主に NeuN 陽性神経細胞であり、EXPLORs がニューロン内への機能的タンパク質送達に有効であることが in vivo で示された (Fig. 5e)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究で開発された EXPLOR システムは、従来のタンパク質形質導入法やリポナノ粒子法、あるいはエクソソームへの受動的積荷法と異なり、生細胞を「工場」としてエクソソーム生合成の内側からカーゴタンパク質を能動的に積荷するという独創的なアプローチを確立した。これにより、組換えタンパク質の単離・精製が不要となり、細胞内でのミスフォールディングやキャリアからの分離といった課題が解消される。

新規性: 本研究で初めて、青色光制御可能な CRY2/CIBN 光可逆的タンパク質間相互作用モジュールをエクソソーム生合成プロセスと統合し、カーゴタンパク質の種類、量、タイミングを精密にプログラム可能なシステムを新規に開発した。このシステムは、既存の電気穿孔法や XPACK を大幅に上回る積荷効率 (平均 1.4 molecules / エクソソーム) を実現し、in vitro および in vivo で機能的タンパク質の細胞内送達を実証した。

臨床応用: EXPLORs はエクソソーム本来の生物学的特性 (血液脳関門透過性、宿主免疫回避性など) を保持しつつ細胞内タンパク質を送達できるため、従来法では困難だった転写因子、シグナル分子、酵素などの細胞内治療標的へのアクセスを拓く。患者由来細胞から EXPLORs を産生できる可能性や、標的化モジュールとの組み合わせが可能であることは、個別化医療への臨床応用可能性を強く示唆する。

残された課題: 今後の検討課題として、現在の積荷効率 (平均 1.4 molecules / エクソソーム) のさらなる改善が挙げられる。蛍光タグを省いた2成分系の一ベクター化や、分子設計の最適化により、カーゴタンパク質の分子サイズを小さくし、積荷効率を向上させることが今後の方向性として考えられる。また、高強度青色光下での CRY2 タンパク質の凝集が積荷効率を低下させる可能性も示されており、光強度と積荷効率のバランスを最適化する必要がある。

方法

HEK293T (Human Embryonic Kidney 293T) 細胞に CIBN-EGFP-CD9 (CD9 テトラスパニン融合 CIBN) と mCherry-CRY2 (カーゴ融合 CRY2) を一過性または安定発現させ、460 nm LED (light-emitting diode) (最適条件:20〜50 μW/cm²、1分ON/1分OFFサイクル) で48時間照射した。エクソソームは差速遠心 (3,000 g→10,000 g→120,000 g) または ExoQuick 沈殿法により単離した Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006。エクソソームの品質確認および積荷確認は、DLS (dynamic light scattering)、NTA (nanoparticle tracking analysis)、ウェスタンブロット、クライオ免疫金電子顕微鏡を用いて行った。ルシフェラーゼ活性定量により、EXPLORs (exosomes for protein loading via optically reversible protein-protein interactions)、XPACK、過発現モデル、ex vitro 押し出し法における積荷効率を比較した。受容細胞での機能検証として、mCherry 送達、Bax 誘発アポトーシス (シトクロム c 放出)、srIκB (super-repressor IκB) 誘発 NFκB (nuclear factor kappa B) 抑制、Cre リコンビナーゼ送達 (loxP-STOP-loxP-ZsGreen/EGFP レポーターマウス神経球由来細胞) を in vitro で評価した。in vivo 機能評価は、pCAG-loxP-STOP-loxP-eNpHR3.0-EYFP (enhanced yellow fluorescent protein) トランスジェニックマウスの脳腹外側部への Cre:EXPLORs 定位注射により実施した。統計解析には、一元配置分散分析である one-way ANOVA および Tukey の多重比較検定 (Tukey’s post hoc test) を用いた。