- 著者: Qiyu Wang, Quan Lu
- Corresponding author: Quan Lu (Program in Molecular and Integrative Physiological Sciences, Department of Environmental Health, Harvard T.H. Chan School of Public Health, Boston, MA, USA)
- 雑誌: Nature communications
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-09-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 28955033
背景
多細胞生物において、細胞が細胞外環境に膜で包まれた微小な小胞である細胞外小胞 (EV: extracellular vesicle) を分泌し、細胞間コミュニケーションを媒介していることは広く認識されている。これらのEVは、供与細胞に由来するタンパク質やRNAなどの多様な生体分子を内包し、受容細胞に取り込まれることで特定のシグナル伝達経路を活性化する能力を持つ Valadi et al. NatCellBiol 2007。過去の研究により、EVはがんの進行や転移、免疫応答の調節など、様々な生理的・病理的プロセスにおいて重要な役割を果たすことが示されてきた Thery et al. NatRevImmunol 2002、Robbins et al. NatRevImmunol 2014。EVは生合成経路の違いに基づき複数のサブタイプに分類されるが、従来の研究の多くは、多胞体 (MVB: multivesicular body) の後期エンドソーム膜由来であり、細胞外へ放出されるエクソソームに偏重していた。しかし、一部のEVはエンドソームを経由せず、形質膜から直接出芽して生成されることが知られている Shen et al. JBiolChem 2011。
本研究の著者らは、以前の研究において、arrestin domain-containing protein 1 (ARRDC1) が形質膜のサイトゾル側に局在し、ESCRT-I (endosomal sorting complexes required for transport-I) 複合体タンパク質である TSG101 をリクルートすることで、形質膜から直接出芽する新規のEVサブタイプ「ARRDC1-mediated microvesicles (ARMMs)」を同定した Nabhan et al. ProcNatlAcadSciUSA 2012。しかし、このARMMsがどのような分子組成を持ち、どのような生理的機能を担っているのかについては、これまで詳細な解析が行われておらず未解明であった。特に、形質膜から直接出芽するという独自の生合成経路を持つARMMsが、機能的な受容体タンパク質を積荷として輸送し、遠隔細胞間でシグナルを伝達できるかという点については知識が不足していた。
NOTCH受容体は、胚発生、組織の恒常性維持、免疫応答、および幹細胞の機能維持など、極めて広範な生理作用を制御する高度に保存された形質膜タンパク質である。古典的なカノニカルNOTCHシグナル伝達経路では、隣接する細胞同士が直接接触し、一方の細胞のNOTCHリガンドと他方の細胞のNOTCH受容体が結合することが必須である。この直接的な細胞間相互作用により受容体のプロテオリシス切断が誘発され、放出された NOTCH intracellular domain (NICD) が核内へ移行して標的遺伝子の転写を活性化する。しかし、NOTCH受容体が直接接触していない遠隔の細胞に対してシグナルを伝達できるか、またそのような非カノニカルな細胞間シグナル伝達を可能にする具体的な分子機構が存在するかどうかは、これまでの生物学において大きな謎であり、解明すべき重要な課題として残されていた。形質膜に由来するARMMsが、この直接接触を必要としない遠隔NOTCHシグナル伝達を媒介し得るかという仮説の検証が強く求められていた。
目的
本研究の目的は、ARRDC1依存的に形質膜から直接出芽する微小胞である ARMMs (ARRDC1-mediated microvesicles) のプロテオームを、液体クロマトグラフィー質量分析 (LC-MS/MS) を用いて網羅的に同定し、その分子組成を明らかにすることである。さらに、ARMMsがNOTCH受容体を積荷として内包し、受容細胞へと送達することで、細胞間の直接接触を必要としない非カノニカルな遠隔NOTCHシグナル伝達を媒介するかを検証することを目的とした。具体的には、NOTCH2受容体のARMMsへの搭載におけるARRDC1の必須性を検証し、その搭載プロセスに関与する分子機構として、E3ユビキチンリガーゼ ITCH (itchy E3 ubiquitin protein ligase) およびメタロプロテアーゼ ADAM10 (ADAM metallopeptidase domain 10) の役割を解明する。最終的に、ARMMsを介して転送されたNOTCH2が受容細胞内でγ-セクレターゼによる切断を受けて活性化し、標的遺伝子の発現を誘導できるかを実証し、細胞外小胞を介した新しい細胞間シグナル伝達モデルを確立することを目指した。
結果
ARMMsプロテオームの網羅的同定と形質膜タンパク質の濃縮: LC-MS/MS解析により、ARRDC1-GFP発現細胞由来のEVと対照GFP発現細胞由来のEVに含まれるプロテオームを比較した結果、ARRDC1-GFP発現によってEV内への放出が1.5-fold以上に有意に濃縮されたタンパク質が177種類同定された (Fig. 1f)。ARRDC1自体は、ペプチド数比12.42-foldという最も高い濃縮度を示した (Table 1)。また、TSG101をはじめ、FAM125A、CHMP3、CHMP6、CHMP1B、VPS37A/B/C/D、VPS25、VPS28、VPS36といった複数のESCRT複合体構成タンパク質がARMMs画分に高度に濃縮されており、ARMMsの出芽が生合成機構としてESCRT系を動員していることと一致した。さらに、NEDD4ファミリーE3ユビキチンリガーゼであるWWP1、WWP2、およびITCHが濃縮タンパク質として同定された。一方で、標準的なエクソソームマーカーであるCD9 (比率1.00-fold) およびCD81 (比率0.99-fold) は、ARRDC1-GFPの過発現によって濃縮されず、ARMMsが従来のエクソソームとは異なる独自の形質膜由来EVサブタイプであることが示された (Table 1)。濃縮された177タンパク質のうち、約3分の1に相当する54タンパク質が形質膜タンパク質に分類され、ARMMsが形質膜から直接出芽するという物理的特性を強く反映していた。NTA解析の結果、ARRDC1-GFPを過発現させたHEK293T細胞は、対照細胞と比較して約3.0-foldの量のEVを産生・放出した (Fig. 1d)。
NOTCH2受容体のARMMsへの搭載におけるARRDC1依存性: 網羅的プロテオーム解析の結果、ARMMsに濃縮された形質膜タンパク質の中にNOTCH2受容体 (ペプチド数比3.32-fold) およびNOTCH1受容体が同定された (Table 1)。質量分析で検出されたNOTCH2由来の18個のペプチドは、すべて受容体のC末端側 (トランスメンブランドメインおよびNICD領域) に位置していた (Fig. 2a)。ウェスタンブロッティングによる検証により、細胞内にはフルレングス型とフリン切断後の成熟短鎖型の両方のNOTCH2が存在するのに対し、ARMMs内には成熟短鎖型 (TM-NICDヘテロダイマー) のみが選択的に取り込まれていることが確認された (Fig. 2b)。このNOTCH2短鎖型のEVへの搭載は、HEK293T細胞だけでなく、HCC1419、A549、MCF-7細胞においても同様に観察された。CRISPR/Cas9を用いて作製したARRDC1-KO HEK293T細胞 (n=3 replicates) においては、細胞内のNOTCH2発現量に変化がないにもかかわらず、EV画分へのNOTCH2の放出が著明に消失した (Fig. 2c)。このARRDC1-KO細胞に対してARRDC1-GFPを段階的に再発現させると、放出されるEV中のNOTCH2量が用量依存的に回復したことから、NOTCH2のARMMsへの搭載および細胞外放出がARRDC1に完全に依存していることが実証された (Fig. 2d)。
ITCHおよびADAM10によるNOTCH2のARMMs搭載制御機構: E3ユビキチンリガーゼであるITCHもまた、ペプチド数比8.04-foldという高い濃縮度でARMMs内に同定された (Table 1)。ウェスタンブロッティングにより、ITCHのEV内への放出もARRDC1-KO細胞において著明に減少することが示され、ITCHの搭載もARRDC1依存的であることが確認された (Fig. 3b)。共免疫沈降アッセイにおいて、HAタグ付きARRDC1とFlagタグ付きITCHの直接的な相互作用が検出されたが、ARRDC1のPPXYモチーフを欠損させた変異体 (ARRDC1-delPPXY) ではこの相互作用が完全に消失した (Fig. 3c)。siRNAを用いてITCHをノックダウンした実験 (n=3 replicates) では、ITCHの発現を60%以上抑制することに成功し、基礎条件およびARRDC1過発現条件のいずれにおいても、ARMMs内のNOTCH2量が有意に減少した (Fig. 3d)。さらに、NOTCHのS2切断を担うメタロプロテアーゼADAM10もARMMsに濃縮されており (Table 1)、siRNAを用いてADAM10を60%以上ノックダウンした結果、ARMMs内へのNOTCH2の搭載が完全に阻害された (Fig. 5b)。これらの結果から、ITCHによるユビキチン化およびADAM10によるプロテオリシス切断が、NOTCH2をARMMsへリクルートするために必須のステップであることが明らかになった。
ARMMsを介した遠隔受容細胞への機能的NOTCH2送達とシグナル活性化: 孔径0.4 μmのメンブレンを用いたトランスウェル共培養アッセイにおいて、NOTCH2delECD-GFPおよびARRDC1を過発現させた供与細胞から放出されたARMMsがメンブレンを通過し、下層の受容細胞内へNOTCH2delECD-GFPタンパク質を直接転送することがウェスタンブロッティングにより確認された (Fig. 4b)。共焦点顕微鏡観察により、精製されたARMMsは受容細胞に速やかに取り込まれ、2時間以内に細胞内に局在することが示された。受容細胞におけるNOTCH標的遺伝子の発現をqRT-PCRで解析した結果、NOTCH2delECD-GFP単独の供与細胞と比較して、NOTCH2delECD-GFPとARRDC1を共発現させた供与細胞由来のARMMsと共培養した受容細胞 (n=3 cells) において、HES1およびHES5遺伝子の発現が有意に上昇した (p<0.05) (Fig. 4c)。一方で、ARRDC1-KO細胞を供与細胞として用いた場合には、受容細胞におけるHES1およびHES5の転写誘導は完全に消失し、この遠隔シグナル伝達がARRDC1依存的なARMMs放出を介していることが証明された (Fig. 4d)。さらに、受容細胞をγ-セクレターゼ阻害剤であるDAPT (100 nM) で処理すると、ARMMsによって転送されたNOTCH2によるHES1およびHES5の遺伝子発現誘導が完全に抑制された (Fig. 5c)。この結果は、受容細胞に取り込まれたARMMs由来のNOTCH2が、受容細胞のγ-セクレターゼによって適切に切断されてNICDを放出し、機能的なシグナル伝達を活性化していることを示している。
考察/結論
本研究は、形質膜から直接出芽する独自の生合成経路を持つ細胞外小胞であるARMMsのプロテオームを初めて包括的に同定し、その機能的役割を明らかにした。
先行研究との違い: これまでの古典的なカノニカルNOTCHシグナル伝達経路が、隣接する細胞間の直接的な接触を必須としていたのとは異なり、本研究はARMMsを媒介とすることで、直接接触していない遠隔の細胞間においても機能的なNOTCHシグナルが伝達されるという非カノニカルなシグナル伝達モデルを提示した。この発見は、直接接触を必須とする従来のドグマと対照的であり、細胞外小胞が能動的なシグナル伝達媒体であることを示すものである。
新規性: 本研究で初めて、E3ユビキチンリガーゼであるITCHがARRDC1のPPXYモチーフと直接相互作用し、メタロプロテアーゼADAM10によるS2切断を受けたNOTCH2受容体をARMMs内へ効率的にリクルートする経路を新規に解明した。また、放出されたARMMsが受容細胞へと送達され、受容細胞内のγ-セクレターゼによるプロテオリシス切断を介してNICDを遊離させ、標的遺伝子であるHES1およびHES5の転写を活性化することを本研究で初めて実証した。
臨床応用: 本研究の知見は、NOTCHシグナルが深く関与する胚発生、組織恒常性、免疫制御、さらにはがんの微小環境における細胞間相互作用の理解を刷新するものであり、極めて高い臨床的意義を持つ。特に、腫瘍微小環境においてがん細胞がARMMsを放出し、周囲の免疫細胞や血管内皮細胞のNOTCHシグナルを遠隔制御して免疫逃避や血管新生を誘導している可能性が考えられる。したがって、ARMMsの出芽機構や積荷搭載プロセスを標的とした新規治療薬の開発や、循環血液中のARMMs内NOTCH2を検出するリキッドバイオプシーへの臨床応用など、革新的な診断・治療戦略への展開が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、ARMMsが受容細胞に結合し、内部に取り込まれる際の具体的な受容体媒介機構や、膜融合・エンドサイトーシス経路の詳細な分子機構の解明が残されている。また、本研究の成果は主にin vitroの細胞培養系および共培養システムを用いて得られたものであるため、今後の研究における重要な方向性として、生体内 (in vivo) の複雑な組織環境において、ARMMsを介した遠隔NOTCHシグナル伝達が実際にどの程度の距離まで到達し、どのような生理的・病理的表現型を決定づけているのかを動物モデルを用いて検証することが求められる。
方法
細胞株としてヒト胚性尿路上皮由来の HEK293T 細胞、乳がん由来の MCF-7 細胞、肺がん由来の A549 細胞、および HCC1419 細胞を用いた。ARMMsの単離精製には、ARRDC1-GFP融合タンパク質を過発現させたHEK293T細胞の培養上清を回収し、連続遠心分離 (2,000×gで10分間、10,000×gで30分間) および0.2 μmフィルターろ過により細胞破砕破片を除去した後、180,000×gで90分間の超遠心分離を行った。得られたペレットを、0.2 Mから2 Mのショ糖密度勾配溶液上に積層し、180,000×gで18時間の超遠心分離に供して10画分に分画した。各画分の精製度は、ARRDC1およびエクソソームマーカーであるCD9に対する抗体を用いたウェスタンブロッティング、およびナノ粒子トラッキング解析である NTA (nanoparticle tracking analysis) システム (NanoSight LM10) を用いて評価した。
ARMMsのプロテオーム解析は、GFPまたはARRDC1-GFPを過発現させたHEK293T細胞から精製したEV画分をSDS-PAGEで展開し、Coomassie Brilliant Blue染色後にゲルを8スライスに切り分け、トリプシン消化後にLC-MS/MS解析 (LTQ Orbitrap Velos Pro質量分析計) に供した。ペプチド同定およびタンパク質濃縮比の算出にはSequestソフトウェアを用い、偽発見率 (FDR) を1%から2%の間に制御した。
遺伝子機能解析として、CRISPR (clustered regularly interspaced short palindromic repeats)/Cas9システムを用い、ARRDC1遺伝子のエキソン1およびエキソン6を標的とするガイドRNAをPX330ベクターに組み込み、HEK293T細胞におけるARRDC1ノックアウト (KO) 株を作製した。また、ITCHおよびADAM10のノックダウンには、Dharmacon社製の SMARTpool (siRNA pool reagent) siRNAを用い、Dharmafect転写試薬にて細胞へ導入した。タンパク質間相互作用の検出には、Flagタグ付きITCHとHAタグ付きARRDC1 (野生型または PPXY (proline-proline-X-tyrosine) モチーフ欠損体であるARRDC1-delPPXY) を共発現させた細胞溶解液を用い、抗HAアガロースビーズを用いた共免疫沈降 (co-IP) アッセイを実施した。
遠隔細胞間シグナル伝達の検証には、孔径0.4 μmのメンブレンを備えたトランスウェル共培養システムを用いた。供与細胞にNOTCH2の細胞外ドメイン欠損型 (NOTCH2delECD-GFP) およびARRDC1を導入し、上層に播種して、下層の受容細胞へのタンパク質転送をウェスタンブロッティングで検出した。受容細胞におけるNOTCH標的遺伝子 (HES1、HES5) の発現レベルは、Trizol試薬による総RNA抽出、SuperScript IIIによる逆転写、およびSYBR Greenを用いた定量的リアルタイムPCR (qRT-PCR) により定量した。γ-セクレターゼの活性阻害には、阻害剤である DAPT (N-[N-(3,5-difluorophenacetyl)-L-alanyl]-S-phenylglycine t-butyl ester) (100 nM) を用いた。統計解析には、2群間の比較としてアンペアードのStudent’s t-testを用い、p<0.05を有意差の基準とした。