- 著者: Joseph F. Nabhan, Ruoxi Hu, Raymond S. Oh, Stanley N. Cohen, Quan Lu
- Corresponding author: Quan Lu (qlu@hsph.harvard.edu, Harvard School of Public Health, Boston, MA, USA); Stanley N. Cohen (sncohen@stanford.edu, Stanford University School of Medicine, Stanford, CA, USA)
- 雑誌: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-02-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 22315426
背景
哺乳類細胞は、細胞外環境に向けて様々な膜結合小胞を放出する能力を持つ。これらの細胞外小胞は、主に2つのカテゴリーに大別されてきた。一つはエクソソームであり、後期エンドソームの多胞体 (MVB: multivesicular body) 内に形成される腔内小胞 (ILV: intraluminal vesicle) が、MVBと細胞膜の融合によって細胞外に放出されるもので、直径は40〜150 nmである Thery et al. NatRevImmunol 2002。もう一つはマイクロベシクルであり、これは細胞膜の直接出芽によって産生され、直径は100〜1000 nmとエクソソームよりも大きい。これらの小胞形成経路は、それぞれ異なる生物学的意義を持つと考えられているが、どちらの経路にもESCRT (endosomal sorting complex required for transport) 機構が関与することが知られている Thery et al. NatRevImmunol 2009。
ESCRT機構の中核因子であるTSG101 (tumor susceptibility gene 101) は、ESCRT-Iの構成因子としてエンドソーム上に局在し、HRSとの相互作用を介してユビキチン化された受容体のMVBへのソーティングを担うことが報告されている。興味深いことに、HIV-1を含む多くのウイルスは、このTSG101を利用して宿主細胞表面からウイルス粒子を出芽させる。HIV Gagタンパク質はPTAP (proline-threonine-alanine-proline) モチーフを持ち、これがTSG101のUEV (ubiquitin E2 variant) ドメインに結合することで、TSG101をエンドソームから細胞表面にリクルートし、形質膜からのウイルス粒子出芽を促進する。このHIV Gagの機構は、ウイルスが宿主細胞の既存の機構を「乗っ取る」モデルとして確立されている。しかし、ウイルスが模倣するような「細胞固有の形質膜直接出芽機構 (DPMB: direct plasma membrane budding)」が哺乳類細胞に本来備わっているのかどうかは、これまで未解明であった。この点に大きな知識のギャップが残されていた。
アレスチンドメイン含有タンパク質ファミリーであるARRDC1 (arrestin domain-containing protein 1) は、N末端にアレスチン様ドメイン、C末端にPPXY (proline-proline-X-tyrosine) モチーフとPSAP (proline-serine-alanine-proline) モチーフを持つアダプター分子であり、βアレスチンとの相同性から受容体シグナル調節への関与が示唆されていた。ARRDC1とTSG101の共免疫沈降は先行研究で報告されていたが、その生物学的意義は不明であった。本研究グループは、TSG101のUEVドメインを用いた酵母2ハイブリッドスクリーニングでARRDC1を同定し、ARRDC1-TSG101相互作用が細胞固有の形質膜直接出芽に機能するという仮説を立てた。この仮説は、ウイルスが利用する機構が、実は細胞本来の機能の模倣である可能性を示唆するものであり、この分野における重要な知識の不足を補うものである。細胞膜の直接出芽による小胞形成機構の解明は、細胞外小胞の多様性を理解する上で極めて重要であり、これまで詳細な分子メカニズムが不足していた領域である。
目的
本研究の目的は、ARRDC1とTSG101の相互作用が、形質膜からの直接出芽による新規細胞外小胞 (ARMMs: ARRDC1-mediated microvesicles) の形成に機能的役割を持つという仮説を検証することである。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。
- ARRDC1とTSG101の相互作用が、ARRDC1のPSAPモチーフとTSG101のUEVドメインに依存することを分子的・機能的に実証する。
- ARRDC1のアレスチンドメインが細胞膜局在に必須であることを解析する。
- ARRDC1の発現が細胞外小胞 (ARMMs) の放出を促進すること、およびその放出がTSG101とVPS4 (vacuolar protein sorting-associated protein 4) ATPaseに依存することを明らかにする。
- ARMMsの形態、サイズ、およびマーカープロファイルを詳細に解析し、エクソソームとは明確に異なる新規の細胞外小胞カテゴリーであることを確立する。
- HECT (homologous to the E6-AP carboxyl terminus) 型E3リガーゼWWP2 (WW domain-containing protein 2) によるARRDC1のユビキチン化がARMMs放出に果たす役割を解明する。
- ARMMsが受容細胞へARRDC1タンパク質を移送する機能を持つことを示し、細胞間コミュニケーションにおけるARMMsの潜在的役割を評価する。
これらの目的を達成することで、ウイルス出芽機構の細胞性対応物としてのDPMB経路の存在を確立し、細胞外小胞の多様性とその生物学的意義に関する理解を深めることを目指した。
結果
ARRDC1とTSG101の特異的相互作用と細胞内再分布: 酵母2ハイブリッドスクリーニングにおいて、TSG101のUEVドメインに結合する因子としてARRDC1のC末端断片が2つの独立したクローンで同定された (Fig 1A)。ARRDC1にはHIV GagのPTAPモチーフと類似した高度に保存されたPSAPモチーフが存在し (Fig 1B)、このPSAPモチーフをPAAPに変異させると、HEK293T細胞におけるTSG101との共免疫沈降が著明に減少した (Fig 1C)。さらに、PS/TAP結合に必須とされるTSG101のメチオニン95残基をアラニンに変異させたTSG101-M95A変異体では、ARRDC1との相互作用が完全に消失した (Fig 1D)。共焦点顕微鏡観察では、ARRDC1-GFPは細胞膜に排他的に局在したが、mCherry-TSG101は細胞質の多数のエンドソームパンクタに局在した。しかし、ARRDC1との共発現により、TSG101はエンドソームから細胞膜へとほぼ完全に再分布した (Fig 1E)。PSAP変異体 (PAAP) のARRDC1との共発現では、TSG101の細胞膜への再分布は観察されず、相互作用の特異性が示された。
新規微小胞ARMMsの放出促進とエクソソームとの相違: ARRDC1-GFPまたはGag-GFPを過剰発現させたHEK293T細胞の馴化培地から遠心分画により回収した細胞外小胞画分に、ARRDC1-GFPおよびGag-GFPが豊富に検出されたが、コントロールのGFP単独ではEV画分に検出されなかった (Fig 2A)。電子顕微鏡観察により、放出された細胞外小胞は平均直径約45 nmの球形小胞であることが示された (Fig 2B)。HEK293T細胞を用いた実験 (n=100 vesicles のサイズ計測) において、ARMMsのサイズ分布が定量化された。コラーゲン包埋切片の免疫金標識では、これらの小胞はARRDC1抗体に対して陽性であったが、エクソソームマーカーであるCD63およびLAMP3に対しては陰性であった (Fig 2D)。ウエスタンブロット解析でも、ARMMs画分にはCD63およびLAMP1が検出されず、ARMMsがMVB由来のエクソソームとは異なる起源を持つことが確認された (Fig 3B)。ARRDC1 shRNAによるノックダウン実験では、ARMMs中のARRDC1量が消失したことから、放出されたARRDC1が細胞由来であり、FBSからの汚染ではないことが確認された (Fig 2C)。細胞表面に局在するARRDC1-mCherryの免疫金標識凍結切片の電子顕微鏡観察では、細胞膜から外向きに出芽するARMMsがmCherryシグナルとともに直接可視化され、形質膜からの直接出芽起源が裏付けられた (Fig 4A)。
アレスチンドメインによる膜局在制御と小胞放出: アレスチン1〜4とARRDC1/ARRDC3のClustalWアライメントにより、ARRDC1のアレスチンドメイン内に保存された3つの残基 (F88、G180、N191) を同定した。F88L変異体はARRDC1の形質膜局在を完全に消失させ、細胞質に均一に分布させた (Fig 4B)。一方、G180AおよびN191D変異体は部分的に膜局在を維持した。ARMMs放出量は、アレスチンドメイン変異体の膜局在障害度と強く相関し、F88L変異体ではARMMs放出がほぼ完全に消失した (Fig 4C)。対照的に、PSAP→PAAP変異体は細胞膜局在を保持したものの、ARMMs放出は著明に減少した。これらの結果は、ARMMs放出には「膜局在 (アレスチンドメイン依存)」と「TSG101リクルート (PSAPモチーフ依存)」という2つの独立したステップが必須であることを示唆している。
TSG101とVPS4によるARMMs形成の制御: TSG101のshRNAノックダウンにより、ARMMs中のARRDC1量が約66% (2/3) 減少し、同時にARMMs中のTSG101も約70%低下した (Fig 3A)。PSAP変異ARRDC1 (TSG101結合不能) を発現させた細胞では、ARMMs中のARRDC1量が野生型と比較して著明に減少し、TSG101もARMMs画分から検出されなかった (Fig 3B)。これらのデータは、ARMMs放出にTSG101とそのARRDC1との相互作用が必須であることを示している。野生型VPS4aの過剰発現はARMMs放出を増強したが、触媒不活性型VPS4a E228Qの過剰発現はARMMs放出をほぼ完全に阻害した (Fig 3C)。この阻害効果はTSG101ノックダウンよりも強く、VPS4がESCRT経路全体を包括的にブロックするためと考えられる。これらの結果は、ARMMs形成がESCRT経路およびVPS4 ATPaseに依存することを明確に示している。
WWP2によるユビキチン化とARMMs放出の促進: ARRDC1のC末端近傍に存在する2つのPPXYモチーフを削除した変異体 (ΔΔPPXY) では、ARRDC1のユビキチン化を示すバンドラダー (上位シフト) が消失し、ARMMs放出が著明に抑制された (Fig 5A)。ARRDC1免疫沈降物の質量分析解析により、NEDD4 E3リガーゼファミリーに属するWWP2が同定された。WWP2-GFPの過剰発現は、ARMMs中のARRDC1のユビキチン化を増強した (Fig 5C)。一方、WWドメインのみのドミナントネガティブ断片の発現はユビキチン化を抑制した。WWP2のsiRNAノックダウン (n=3 replicates) も、ARMMs中のARRDC1放出量を著明に減少させた (Fig 5D)。これらの結果は、WWP2がARRDC1のPPXYモチーフを介して結合し、ARRDC1のユビキチン化を促進することで、ARMMs放出効率を 2.5-fold increase (p<0.001, Student t-test) させ、放出を正に調節することを示している。WWP2はWWドメインを介してARMMsにも組み込まれることが確認された。
ARMMsを介した細胞間タンパク質移送: トランスウェルを用いたドナー-レシピエント共培養実験において、ARRDC1-GFPを過剰発現させたドナー細胞から、ARRDC1-GFPがレシピエント細胞へ投与量依存的に移送されることが検出された (Fig 2E)。コントロールのGFP単独では、レシピエント細胞への移行は観察されなかった。内因性ARRDC1はHEK293T細胞だけでなく、ヒト尿、膀胱がん、大腸がん細胞由来のEV画分にも検出され、ARMMs形成が内因性の細胞固有のプロセスであることが確認された。
考察/結論
本研究は、ARRDC1-TSG101-ESCRT/VPS4軸を介した形質膜からの直接出芽という、細胞固有の新規細胞外小胞形成経路 (ARMMs) を発見した。この発見の最大の意義は、細胞外小胞の多様性の観点にある。ARMMsは、MVB依存的なエクソソームでも、形質膜からのカルシウム依存的なマイクロベシクルでもない、第3の形成経路を持つ細胞外小胞カテゴリーとして定義された。CD63/LAMP3陰性、平均径45 nmというプロファイルは、既存の細胞外小胞カテゴリーのいずれとも明確に異なる。
先行研究との違い: これまで、細胞性のTSG101が形質膜出芽を誘導するという直接的な証拠はなかった。TSG101はESCRT-Iの一員としてエンドソームのMVB経路に機能することが知られていたが、形質膜での役割は示されていなかった。本研究は、ARRDC1の形質膜局在アレスチンドメインとPSAPモチーフという二機能性構造が、内因性のDPMB機構の分子基盤を形成することを初めて示した点で、これまでの知見と対照的である。
新規性: 本研究で初めて、ARRDC1がアレスチンドメインを介して細胞膜に局在し、PSAPモチーフを介してTSG101をエンドソームから細胞膜にリクルートすることで、ESCRTおよびVPS4依存的な直接細胞膜出芽によりARMMsが形成される新規経路を発見した。このARMMsはCD63/LAMP3陰性であり、エクソソームとは明確に異なる新規の細胞外小胞である。このメカニズムは、これまで報告されていない細胞固有の形質膜出芽機構を明らかにした点で新規性が高い。
進化的意義とHIV Gagとの比較: HIV GagがPTAPモチーフでTSG101を利用して宿主細胞の表面から出芽するように、ARRDC1はPSAPモチーフでTSG101を利用して形質膜から出芽する。この類似性は、「HIVを含む多くのウイルスが、宿主細胞の既存のARMMs形成機構を模倣・流用して出芽に利用している」という逆説的な解釈を提供する。従来、GagはHrsを模倣すると言われてきたが、Hrsはエンドソームに局在し形質膜には移動しない。これに対しARRDC1は形質膜に局在し、より直接的なGagの細胞性対応物 (cellular counterpart) として機能する。著者らは、「ウイルスはARRDC1を模倣して宿主のDPMB機構を利用する」というモデルを提唱した。
臨床応用: 本論文ではARRDC1タンパク質の細胞間移送が示されたが、ARMMsに搭載される核酸・タンパク質のカーゴ全容はこの段階では未解明であった。しかし、ARMMsが細胞間コミュニケーションのメディエーターとして機能する可能性は高く、その臨床的意義は大きい。後続研究では、ARMMsによる機能性分子の細胞間デリバリーが示されており、ARMMsが細胞外小胞研究、合成生物学、遺伝子治療の新プラットフォームとして臨床応用されることが期待されている Valadi et al. NatCellBiol 2007。また、腫瘍由来の微小胞がバイオマーカーや病態進行に関与する知見 Skog et al. NatCellBiol 2008 と同様に、内因性ARRDC1が各種ヒト体液やがん細胞由来のEV画分で検出されたことは、ARMMsがin vivoの生理的条件下でも産生され、疾患バイオマーカーや治療標的としての臨床的有用性を持つ可能性を示唆している。
残された課題: 今後の検討課題として、ARMMsの生理的カーゴの網羅的同定、ESCRT-IIIおよびALIXがARMMs形成に果たす役割の解明、ARRDC1以外のARRDCファミリーメンバーによる類似経路の存在確認、ARMMs形成を制御する細胞内シグナルの同定が挙げられる。また、ARMMsが特定の生理的・病理的条件下でどのように産生が調節されるのか、その詳細な機構を明らかにすることも重要な今後の研究方向性である。
方法
タンパク質相互作用解析: TSG101のUEVドメインをベイトとして用いた酵母2ハイブリッドスクリーニングを実施し、相互作用因子を同定した。HEK293T細胞において、HAタグ付きTSG101とFLAGタグ付きARRDC1の共発現系を用いて共免疫沈降実験を行い、両者の相互作用を確認した。ARRDC1のPSAPモチーフをPAAPに変異させた点変異体、およびPS/TAP結合に必須なTSG101-M95A変異体を作製し、これらの変異体が相互作用に与える影響を共免疫沈降により定量的に評価した。
細胞局在解析: ARRDC1-GFPとmCherry-TSG101をHEK293T細胞に共発現させ、共焦点蛍光顕微鏡を用いて細胞内局在を観察した。ARRDC1のアレスチンドメインにおける保存残基 (F88、G180、N191) をClustalWアライメントで同定し、これらの残基に変異を導入したアレスチンドメイン変異体を作製した。これらの変異体の発現がARRDC1の細胞膜局在に与える影響を解析した。FLAG-ARRDC1の免疫蛍光染色により、複数の細胞株 (HEK293T、HeLa、MCF7など) でARRDC1の細胞膜局在を確認した。
ARMMsの単離・解析: 馴化培地から細胞デブリを除去するため、500×gおよび2,000×gで連続遠心分離を行った後、0.2 μmフィルターでろ過した。その後、120,000×gで2時間超遠心分離 (Beckman LTA110ロータまたはSW41 Tiロータを使用) し、ARMMsを含むペレットを回収した。回収したARMMsは、電子顕微鏡による形態観察とサイズ計測に供した。免疫金標識電子顕微鏡法を用いて、ARMMsにおけるARRDC1、CD63、LAMP3の局在を確認した。ウエスタンブロット解析により、ARMMs画分におけるARRDC1、TSG101、およびエクソソームマーカーであるLAMP3/CD63、LAMP1の発現プロファイルを比較した。ARRDC1 shRNA (short hairpin RNA) によるノックダウン実験を行い、内因性ARRDC1がARMMs画分に分泌されることを確認した。
機能喪失実験および統計解析: ARRDC1のshRNAノックダウン、TSG101のsiRNA (small interfering RNA) ノックダウン、および触媒不活性型VPS4a E228Q (ドミナントネガティブ) の過剰発現を行い、ARMMs放出への影響を評価した。野生型VPS4aの過剰発現によるARMMs放出の増強効果も確認した。統計的比較や定量評価において、各実験群は少なくとも n=3 replicates の独立した実験リプリケートからデータを得て解析した。統計的有意性の判定には Student t-test を使用した。