- 著者: Marianna Madeo, Paul L. Colbert, Daniel W. Vermeer, Christopher T. Lucido, Jacob T. Cain, Elisabeth G. Vichaya, Aaron J. Grossberg, DesiRae Muirhead, Alex P. Rickel, Zhongkui Hong, Jing Zhao, Jill M. Weimer, William C. Spanos, John H. Lee, Robert Dantzer, Paola D. Vermeer
- Corresponding author: Paola D. Vermeer (Cancer Biology and Immunotherapies Group, Sanford Research, Sioux Falls, SD, USA)
- 雑誌: Nature communications
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-10-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 30327461
背景
高度に神経支配された腫瘍を持つ患者では転移率が高く生存率が低いことが報告されており、腫瘍の神経支配密度と予後不良の相関は前立腺がんをはじめ複数の固形がんで確立されていた (Seifert & Spitznas 2002; Magnon et al. 2013; Fernandez et al. 2013)。腫瘍が神経支配を「獲得」する機序として、腫瘍が既存の神経化組織に侵入することに加え、腫瘍が積極的に軸索形成 (axonogenesis) を誘導する可能性が提唱されていたが (Entschladen et al. 2006; Entschladen et al. 2008)、後者のメカニズムは未解明であった。神経栄養因子 (NGF等) の腫瘍細胞による分泌が神経支配に寄与することは知られていたが (Wang et al. 2014; Huang et al. 2015)、エクソソームが腫瘍固有の神経支配誘導に果たす役割は検討されておらず、この領域にはメカニズム的な理解の不足が残されていた。
目的
腫瘍放出エクソソームが軸索形成 (腫瘍神経支配) を誘導するという仮説を、ヒト頭頸部扁平上皮癌 (HNSCC) 患者検体、in vitro PC12細胞モデル、およびマウスin vivoモデルで検証すること。さらに、エクソソームの主要な積荷分子としてEphrinB1の役割を同定し、その機能的寄与を明らかにすること。
結果
HNSCC患者腫瘍は感覚神経に支配される: 30例のHNSCC患者腫瘍のIHC解析により、β-IIIチューブリン陽性神経線維が腫瘍内にネットワーク状に存在することが示された (Fig. 1a)。これらの神経線維はTH陰性、VIP陰性であり、交感神経や副交感神経ではないことが示唆された。一方で、TRPV1陽性であり、感覚神経のマーカーと一致した (Fig. 1b)。二重IHC染色による定量では、β-IIIチューブリン陽性線維の平均83.7% ± 6.5がTRPV1陽性であり、HNSCC腫瘍が主に感覚神経によって神経支配されていることが確立された (Fig. 1c, d)。これは、腫瘍が既存の神経組織に侵入するだけでなく、積極的に神経線維を誘引している可能性を示唆する。
がん患者エクソソームがPC12神経突起伸長を誘導する: 8例のHNSCC患者から得られた血漿エクソソームおよびマッチした腫瘍由来エクソソームは、健常人血漿 (3例) および非がん扁桃 (2例) 由来エクソソームと比較して、PC12細胞の神経突起伸長を有意に促進した (p<0.03) (Fig. 3a, b)。この活性はNGFとは独立しており、抗NGF抗体処理によって神経突起伸長はキャンセルされなかった。これは、腫瘍由来エクソソームがNGFとは異なるメカニズムで神経突起伸長を誘導することを示唆する。エクソソームの精製は、Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016に記載された差速超遠心法を用いて行われた。
Rab27A/B CRISPR KOによるエクソソーム分泌阻害が腫瘍神経支配を減弱させる: Rab27A-/+ Rab27B-/- mEERL変異体 (n=4 biological replicates) では、CD9陽性エクソソームの放出が著明に低下し、これらの細胞由来エクソソームのPC12神経突起伸長活性も有意に減弱した (p<0.02) (Fig. 5a)。C57Bl/6マウスへのin vivo移植 (n=7 mice/group) では、Rab27A/B変異腫瘍はコントロールと比較して、β-IIIチューブリン (p<0.05)、TRPV1 (p<0.001)、Tau (p<0.0001) の発現が腫瘍溶解物のWestern blotで有意に減少し、腫瘍神経支配の著明な低下が確認された (Fig. 5b-e)。また、Rab27A/B変異腫瘍はin vivoで有意に遅い増殖を示したが、in vitroでの細胞倍加時間には差がなかった。この結果は、Ostrowski et al. NatCellBiol 2010が示したRab27A/Bの役割と一致する。
GW4869による薬理的エクソソーム分泌阻害が腫瘍神経支配を抑制する: GW4869 (1.25 mg/kg/day 腹腔内投与) 処置マウス (n=7) では、血漿エクソソーム数がvehicle群と比較して有意に減少し (p<0.0001)、腫瘍β-IIIチューブリン陽性線維密度が有意に低下した (p<0.05) (Fig. 5f, g)。これらの結果は、エクソソームが腫瘍神経支配誘導に能動的に関与することを薬理学的にも支持する。GW4869はセラミドを介した多胞体 (MVB) 形成を阻害することでエクソソーム放出を抑制することが知られており、Trajkovic et al. Science 2008の研究と整合する。
EphrinB1が腫瘍エクソソームの軸索形成活性を増強する: mEERL EphrinB1過発現細胞由来エクソソームは、コントロールと比較してPC12神経突起伸長を有意に増強した (p<0.02) (Fig. 6c)。EphrinB1はエクソソーム内に積荷タンパク質として確認された (Fig. 6d)。EphrinB1 Null1/Null2 (CRISPR KO) 由来エクソソームは神経突起伸長活性を保持するものの有意に減弱し、EphrinB1が必須ではないが活性を強力に増強するカーゴ分子であることが示された。EphrinB1ΔECDエクソソームも神経突起伸長活性を保持したことから、細胞外ドメインではなく膜構造または細胞内ドメインが主要な機能要素である可能性が考えられた。EphrinB1過発現、Null2、コントロールエクソソームはいずれもPC12細胞においてNGFと同様にERK1/2リン酸化 (MAPキナーゼ) を誘導した (Fig. 6e)。HPV陰性SCC1細胞においても、EphrinB1過発現によりエクソソームの神経突起伸長活性が2.5-fold increaseし (p<0.02)、in vivo NOD SCIDマウスモデルでSCC1 EphrinB1腫瘍はSCC1コントロールより有意に多くのβ-IIIチューブリン/Tau陽性神経線維を示した (p<0.03) (Fig. 7b-e)。
HPV感染とEphrinB1がエクソソームを介した神経突起伸長に寄与する: HPV陰性ヒト扁平上皮癌細胞株 (SCC1、SCC19) 由来エクソソームは、HPV陽性細胞株 (SCC47、147T) 由来エクソソームと比較して有意に低い神経突起伸長活性を示したが (p<0.001)、依然としてPC12細胞の神経突起伸長を誘導した (Fig. 7a)。これは、HPV感染がエクソソームの軸索形成活性を増強するものの、必須ではないことを示唆する。さらに、HPV16 E6 PDZ結合モチーフ (PDZBM) の欠損はエクソソーム媒介神経突起伸長活性を消失させ (p<0.0001)、高リスクHPV E6がエクソソームの組成または品質を介して軸索形成に影響を与える可能性が示唆された (Fig. 7g)。
考察/結論
本研究は、腫瘍細胞が放出するエクソソームが積極的に軸索新生 (axonogenesis) を誘導し、腫瘍感覚神経支配を形成するという新規概念を初めて実証した。
新規性: 本研究で初めて、ヒトおよびマウスのHPV陽性HNSCCがTRPV1、Tau、β-IIIチューブリン陽性の感覚神経によって新たに神経支配されることを示した。また、腫瘍由来エクソソームがPC12細胞の神経突起伸長を誘導し、エクソソーム分泌を阻害するRab27A/BのCRISPR/Cas9遺伝子改変やGW4869による薬理学的介入がin vivoでの腫瘍神経支配を有意に減少させることを明らかにした。さらに、エクソソームに搭載された軸索ガイダンス分子EphrinB1がin vitroでの神経突起伸長とin vivoでの腫瘍神経支配を増強する主要因子であることを同定したことは、これまで報告されていない重要な知見である。
先行研究との違い: これまでの研究では、腫瘍の神経支配は主に神経栄養因子 (NGFなど) の分泌によって説明されてきたが、本研究はNGFとは独立したエクソソームを介したメカニズムを提示した点で先行研究と異なる。特に、EphrinB1がエクソソームのカーゴとして機能し、軸索ガイダンス分子としての役割を腫瘍微小環境においても再現することを示した点は、これまでのEphrinB1の機能理解を拡張するものである。Becker et al. CancerCell 2016がエクソソームの転移促進における役割を報告しているが、本研究は神経支配誘導という新たな側面を提示した。
臨床応用: HNSCC (特にHPV陽性口咽頭がん) における高い神経支配密度と予後不良の臨床的相関を踏まえると、腫瘍エクソソーム—EphrinB1—軸索新生経路は新たな治療標的となりうる。エクソソーム分泌阻害やEphrinB1機能阻害が腫瘍神経支配と腫瘍増殖の両方を抑制する可能性は、今後の前臨床・臨床研究の重要な方向性を示している。本知見は、腫瘍神経支配を標的とした新規治療戦略の臨床応用への道を開くものである。
残された課題: 今後の検討課題として、エクソソームに搭載されるEphrinB1以外のカーゴ分子の軸索形成活性への寄与を詳細に解析する必要がある。また、in vitro PC12細胞モデルとin vivo腫瘍モデルでEphrinB1ΔECD腫瘍の神経支配のタイプが異なる可能性が示唆されたことから、腫瘍微小環境におけるエクソソームの多細胞標的への作用機序をさらに深く理解することが残された課題である。Shurtleff et al. eLife 2016がmiRNAのソーティングメカニズムを示唆しているように、エクソソーム内のRNAや脂質カーゴの役割も検討すべきである。さらに、腫瘍神経支配が腫瘍に与える利点 (栄養供給、免疫応答の抑制など) について、血管新生や免疫細胞浸潤との関係性を詳細に検討する必要がある。
方法
PC12細胞 (ラット褐色細胞腫) をin vitro神経分化モデルとして使用し、NGF 100 ng/ml刺激を陽性対照とした。HNSCC患者8例の血漿およびマッチした腫瘍由来エクソソームと、健常人3例および非がん扁桃2例のエクソソームを差速超遠心法で精製した。エクソソームの性状はスキャニング電子顕微鏡、原子間力顕微鏡 (AFM)、およびナノ粒子トラッキング解析 (NTA) で確認した。精製エクソソームによるPC12細胞の神経突起伸長をβ-IIIチューブリン免疫染色により定量した。
マウスHPV陽性口咽頭扁平上皮癌 (OPSCC) モデルとして、mEERL細胞 (HPV16 E6/E7/HRas/ルシフェラーゼ安定発現細胞) をC57Bl/6マウスの後肢に移植した。腫瘍切片はβ-IIIチューブリン、一過性受容器電位バニロイド1型チャネル (TRPV1)、チロシンヒドロキシラーゼ (TH)、血管作動性腸管ペプチド (VIP)、Tauの免疫組織化学 (IHC) 染色で解析した。エクソソーム放出を阻害するため、Rab27A-/+ Rab27B-/- CRISPR/Cas9遺伝子改変mEERL細胞を作製し、in vitroでのエクソソーム産生 (NTA、Western blot、CFDA-SE蛍光標識) とin vivoでの腫瘍神経支配 (n=7 mice/group) を評価した。また、中性スフィンゴミエリナーゼ阻害剤GW4869 (1.25 mg/kg/day 腹腔内投与) によるエクソソーム分泌の薬理的阻害を腫瘍移植mEERLモデル (n=7 mice/group) で実施した。統計解析にはStudent t-testを用いた。
EphrinB1の機能的役割を評価するため、EphrinB1過発現、Null1/Null2 CRISPR KO、およびΔECD細胞外ドメイン欠損のmEERL変異体を作製した。これらの細胞由来エクソソームの産生、PC12神経突起伸長、およびin vivo腫瘍神経支配を評価した。さらに、HPV陽性/陰性細胞株間の比較、およびSCC1 EphrinB1過発現in vivoモデル (NOD SCIDマウス、n=4 mice/group) を用いてEphrinB1の寄与を検証した。