- 著者: Matthew J Shurtleff, Morayma M Temoche-Diaz, Kate V Karfilis, Sayaka Ri, Randy Schekman
- Corresponding author: Randy Schekman (Department of Molecular and Cellular Biology / HHMI, University of California, Berkeley)
- 雑誌: eLife
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-08-25
- Article種別: Original Article
- PMID: 27559612
背景
エクソソーム (30〜100 nm、密度1.08〜1.19 g/ml、テトラスパニン陽性) は多細胞生物の細胞から分泌され、標的細胞への選択的な膜タンパク質・小RNA移送によって細胞遊走・発生・転移を調節することが示唆されている。エクソソームが特定のmiRNAを選択的に含有することは複数の研究で報告されてきたが、多くはTFF (高速遠心分離) のみによる不純な小胞画分を用いていたため、真にエクソソーム内腔に封入されるmiRNA種の同定には不確実性があった。異なる細胞株・体液・単離法を用いた研究間での比較も困難であった。例えば、Valadi et al. NatCellBiol 2007やSkog et al. NatCellBiol 2008はエクソソームにmiRNAが含まれることを報告したが、その後の研究でこれらの調製法では不純物が混入する可能性が指摘されている (Bobrie et al., 2012)。また、Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014はエクソソームの生合成と機能について包括的なレビューを行ったが、miRNAソーティングのメカニズムについては未解明な点が多かった。
miRNAがエクソソームへソーティングされる生化学的機構はほぼ未解明であった。特定のモチーフ (GGAG) を認識するhnRNPA2B1がT細胞エクソソームでのmiRNAソーティングに関与することがVillarroya-Beltri et al. NatCommun 2013によって報告されていたが、HEK293T細胞由来エクソソームでは対応する機構は不明であった。RNA包装がRNA結合タンパク質 (RBP)-多胞体 (MVB) 膜相互作用を介するか、脂質ラフトマイクロドメインへのRNA局在を介するかについても議論があった。遺伝子ノックダウン・KO・過剰発現などの細胞内操作は間接的効果を区別しにくいという問題を抱えており、エクソソーム生合成とmiRNAパッケージングを直接的に解析するための無細胞生化学的再構成系の確立が強く求められていた。このような背景から、エクソソームに選択的にパッケージされるmiRNAの同定と、そのソーティング機構の解明には、より高純度なエクソソームの精製法と、遺伝子操作に依存しない無細胞系の開発が不足していた。
目的
本研究の目的は、純粋なCD63陽性エクソソームに選択的にパッケージされるmiRNAを同定し、miRNAのエクソソームへのソーティングを無細胞反応系で試験管内に再構成することで、このプロセスの生化学的要件を解明することである。具体的には、(1) CD63陽性エクソソームを高度に精製する方法論の確立、(2) 選択的パッケージングmiRNAの網羅的同定、(3) 無細胞系でのmiRNAソーティング機構の解析、(4) Y-box protein 1 (YBX1) のソーティング役割の細胞・無細胞両レベルでの実証を目的とする。
結果
CD63陽性エクソソームの純粋精製とRNA含有確認: 3段階精製 (高速遠心→ショ糖勾配浮遊→CD63抗体免疫単離) を経ることで、CD63-ルシフェラーゼ比活性が出発画分 (100,000 ×g ペレット) の5倍に上昇し、高純度精製が達成された (Fig 1g)。ルシフェラーゼ活性はTriton X-100 (TX-100) 処理で検出可能となり、トリプシン+界面活性剤処理で消失することから膜小胞の完全性が確認された (Fig 1f)。免疫単離後のCD63陽性 (bound) 画分に総回収RNAの大部分が回収され (Fig 1h)、RNAがCD63陽性エクソソームと確かに会合することが示された。この3段階精製アプローチは、以前の多くのエクソソーム研究が用いていた高速遠心単独法の不純さを解決し、エクソソーム特異的miRNA研究における方法論的標準として重要な意義を持つ。この実験にはn=3 biological replicates のデータが用いられた。
エクソソーム特異的miRNAの網羅的同定: Small RNA-seqで、エクソソームライブラリーから502種 (総123,679リード、全マップリードの4.4%)、細胞ライブラリーから637種 (総880,093リード、全マップリードの7.3%) のmiRNAが検出された (Fig 2a)。各miRNAの相対存在量はRPM (total miRNA mapped reads で正規化) で算出し、エクソソームへの選択的濃縮度を評価した。134種がエクソソーム特異的 (細胞ライブラリーに不在)、269種が細胞特異的であった。最も顕著だったのはmiR-223-3pであり、エクソソームでは72パーセンタイルの豊富度でありながら細胞ライブラリーにはほぼ存在せず、最も効率的にパッケージ・分泌されるmiRNAと結論された (Fig 2c,d)。共有ライブラリー内ではmiR-144-3p、miR-150-5p、miR-142-3p、miR-451aがエクソソームに高濃縮されていた。一方miR-190aは細胞ライブラリーにのみ存在し、対照的なエクソソーム非搭載miRNAとして機能的比較に用いられた。miR-223とmiR-144については精製の各ステップでqRT-PCRによる定量濃縮を確認し (Fig 2e,f)、RNase I耐性 (ただしTX-100添加時に耐性消失) によりこれらmiRNAが真にエクソソーム内腔に封入されることを実証した (Fig 2g, p<0.01)。これらの実験にはn=3 biological replicates が用いられた。
無細胞再構成系の確立と種特異性の再現: 粗膜画分とサイトゾルを30°CでATPの存在下インキュベートすることで、miR-223が密度1.08〜1.18 g/ml・プロテアーゼ耐性の膜内小胞に選択的に取り込まれた (Fig 4b)。反応はサイトゾル依存的・温度依存的であり、TX-100添加で保護が消失した。重要なことに、細胞ライブラリー特異的miRNAであるmiR-190aは同条件下でほとんど保護されず (miR-223の9% vs miR-190の1.5%)、細胞内で観察された種特異性が無細胞系でも再現された (Fig 4e)。中性スフィンゴミエリナーゼ2 (NS2) 阻害剤GW4869を添加するとCD63-ルシフェラーゼのシーケストレーションとmiR-223のパッケージングが同時に阻害されたことから (Fig 4d)、無細胞反応がエクソソーム生合成の側面を正確に再現していることが確認された (p<0.05)。
YBX1の同定とソーティング機能: 無細胞反応系に3’-ビオチン標識miR-223を添加し、パッケージング後にストレプトアビジンビーズで回収・LC-MS解析したところ、最も高いペプチドカバレッジ (ペプチド数12、カバレッジ45.4%) で同定されたタンパク質がYBX1であった (Fig 5b,c)。YBX1はRNA結合タンパク質 (RBP) としての既知機能に加え、エクソソーム構成成分として質量分析で検出されていた既知のエクソソームタンパク質でもあった。CD63免疫単離ではYBX1はTSG101・Alix・CD9等の既知エクソソームマーカーと共に主にCD63陽性画分に回収され、flotillin-2 (主にCD63陰性) と対照的であった (Fig 5d)。この結果はHEK293T細胞が少なくとも2種類の異なる小胞を放出することも示唆している。
無細胞系でのYBX1要件の実証: CRISPR/Cas9でΔYBX1 (ホモ接合変異) HEK293Tクローンを樹立した (Fig 7a)。ΔYBX1細胞由来サイトゾルでは無細胞系でのmiR-223パッケージングが著明に低下したが、YBX1発現プラスミドを一過的にトランスフェクションしたΔYBX1細胞のサイトゾルを用いると活性が大幅に回復した (Fig 7b, p<0.01)。一方、ΔYBX1サイトゾルを用いた場合もCD63-ルシフェラーゼの小胞へのシーケストレーション (エクソソーム膜タンパク質のソーティング) は野生型サイトゾルと変わらなかった (Fig 7c)。これはYBX1がmiRNAのソーティングには必須であるが、膜タンパク質 (CD63) のソーティング機構は別であることを示す。細胞レベルのqRT-PCR測定では、ΔYBX1細胞においてmiR-223とmiR-144の培地中への分泌が有意に低下し (特にmiR-144で顕著、p<0.05)、細胞内に約3〜4倍の蓄積が認められた (Fig 7d)。miR-190 (非エクソソームmiRNA) の細胞内蓄積は変化なかった。YBX2 (YBX1パラログ) のΔYBX1細胞での追加ノックダウンにより、残存するmiR-223分泌がほぼベースラインまで低下したことから (p<0.01)、YBX1とYBX2に部分的な機能的冗長性があることが示された (Fig 7—figure supplement 1)。これらの実験にはn=3 independent experiments が用いられた。
Ago2のエクソソームへの関与に関する証拠の欠如: miRNAが成熟してAgo2 (AGOファミリータンパク質) に結合した後にエクソソームへソーティングされるとする仮説を検証した。密度勾配精製エクソソームではAgo2は検出されず、無細胞反応でのmiR-223-ビオチン回収物にも同定されなかった (Fig 6a,e)。また、ΔYBX1細胞に蓄積したmiR-223がAgo2と免疫沈降 (IP) される一方、野生型細胞ではmiR-223とAgo2の会合は検出されなかった (Fig 7—figure supplement 2)。これらのデータは、HEK293T細胞ではmiR-223が成熟後Ago2に結合するが、YBX1存在下では速やかにAgo2から解離してYBX1と結合し、エクソソームへの選択的ソーティングが行われるという経路を示唆する。このKRASシグナルによるAgo2リン酸化に依存した別経路との比較は、miRNAのエクソソームへの出口が複数存在することを示唆する。
考察/結論
本研究はエクソソームのmiRNAソーティング機構を解明した重要な成果である。主要な発見は3点に集約される。第1に、3段階精製 (高速遠心→ショ糖密度勾配→CD63免疫単離) によって初めて真に純粋なCD63陽性エクソソームを得ることができ、この精製物からmiR-223等の高濃縮miRNAを正確に同定した。この方法論的進歩は、不純な高速遠心ペレットを用いた先行研究の結果に再評価を促すものである。第2に、粗膜画分+サイトゾルを用いた無細胞再構成系を確立し、miRNAの種特異的なエクソソームへのパッケージングをin vitroで再現することに成功した。この系は遺伝子操作に依存せず直接的な生化学的介入が可能であり、エクソソーム生合成の機構研究に強力な新規ツールをもたらした。第3に、YBX1がmiRNAソーティングに必須のRNA結合タンパク質であることを、無細胞系 (免疫除去・KO細胞サイトゾル・組換えYBX1再構成) と細胞系 (CRISPR KO、qRT-PCR) の双方で実証した。
先行研究との違い: T細胞ではhnRNPA2B1がGGAGモチーフを持つmiRNAを認識しエクソソームへ分配するのに対し、HEK293T細胞ではhnRNPA2B1は検出されず、GGAGモチーフを欠くmiR-223がYBX1依存的に分配される。これは細胞型ごとに異なるRNA結合タンパク質が特有のmiRNA認識特異性を持ってエクソソームへのRNA輸出に関与するという「細胞型特異的シャペロン媒介ソーティング」モデルを支持する。本研究は、Ago2がエクソソームに存在しないことを示しており、Ago2がmiRNAソーティングに直接関与するという一部の先行研究とは対照的な結果である。
新規性: 本研究で初めて、YBX1がHEK293T細胞におけるエクソソームmiRNAソーティングの主要な因子であることを新規に同定し、その機能を細胞および無細胞系で実証した。また、エクソソームの生合成とmiRNAパッケージングを再現する無細胞系を確立したことは、エクソソーム研究における新規な方法論的進歩である。YBX1がmiRNA以外にもtRNAフラグメントやsnoRNAなど多様な小RNAに結合し、レトロウイルスRNA (マウスレトロウイルスのヘアピンループ結合) やHIVゲノムの安定化に関与することから、ヘアピンループ等のRNA二次構造がYBX1認識モチーフである可能性が示唆される。これはGGAG配列を持たないmiR-223が効率よく分配される理由を説明できる。
臨床応用: 本研究で確立された無細胞再構成系は、エクソソームへの意図的なRNA搭載エンジニアリング研究の基盤として活用できる。これにより、特定のmiRNAを搭載した治療用エクソソームの開発や、疾患バイオマーカーとしてのエクソソームmiRNAの利用に向けた臨床応用が期待される。YBX1依存的ソーティング機構の解明は、エクソソームのカーゴ選択性を操作する新たな戦略を提供するものであり、bench-to-bedside研究に重要な貢献を果たす。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) YBX1依存的ソーティング機構が他の細胞型でも機能するかどうかの横断的検証が必要である。(2) エクソソームを「不要なmiRNAを細胞から排出するゴミ箱」とする見方 (細胞内miRNA濃度調節) と「隣接細胞への機能的RNA移送担体」とする見方のどちらが正しいかという問いは残る。(3) YBX1とその標的RNAのエクソソームを介した生理・病理的機能 (腫瘍転移・免疫調節における役割) を解明することが重要な研究課題である。(4) 本研究が確立した無細胞再構成系は、その後の multiple follow-up 研究 (YBX1 interactome の網羅的解析、CD63陰性エクソソームサブポピュレーションのRNA cargo解析など) の発展基盤となっており、本論文の方法論的貢献は内容的発見と同等以上の重要性を持っている。
方法
HEK293T細胞からのエクソソーム精製は3段階で行われた。まず、(1) 低速および中速遠心分離により細胞デブリを除去し、100,000 ×gの高速遠心分離でエクソソームを濃縮した。次に、(2) 60%ショ糖緩衝液から積層された20〜40%ショ糖密度勾配浮遊法により、非小胞性汚染物質を除去し、エクソソームを回収した。最後に、(3) CD63抗体ビーズを用いた免疫単離により、CD63陽性エクソソームを高度に精製した。精製過程のモニタリングには、CD63-ルシフェラーゼ安定発現誘導株を用いた。ルシフェラーゼ活性は内腔向きであり、トリプシン耐性および界面活性剤処理後の消失により内包性が確認された。エクソソームおよび細胞ライブラリーのmiRNAプロファイリングにはIllumina small RNA-seqを用いた。
miRNAソーティングの無細胞再構成系は、粗膜画分 (15,000 ×g ペレット) とサイトゾル (100,000 ×g 上清) をATP再生系と共に30°Cでインキュベートすることで構築された。その後、RNase I処理を行い、qRT-PCRでmiRNAの保護率を測定した。YBX1の同定には、3’-ビオチン標識miR-223を用いたストレプトアビジン回収後の液体クロマトグラフィー質量分析 (LC-MS) を実施した。YBX1の機能的役割を評価するため、siRNAによるYBX1ノックダウンおよびCRISPR/Cas9システムを用いたΔYBX1 HEK293Tクローンを樹立した。細胞レベルでのmiRNA分泌はqRT-PCRにより定量した。統計解析にはStudent’s t-testが用いられた。