• 著者: Emanuele Cocucci, Gabriella Racchetti, Jacopo Meldolesi
  • Corresponding author: Jacopo Meldolesi (Center of Excellence in Cell Development / Scientific Institute San Raffaele, Vita-Salute San Raffaele University, Milan)
  • 雑誌: Trends in Cell Biology
  • 発行年: 2009
  • Epub日: 2009-01-12
  • Article種別: Review
  • PMID: 19144520

背景

細胞外空間に放出される直径 200 nm 以下の微小な膜小胞は、電子顕微鏡観察において古くから頻繁に観察されていた。しかし、これらの構造体は長年にわたり、細胞のネクローシス(壊死)や実験的操作に伴う機械的損傷によって生じた「実験的アーティファクト(人工産物)」にすぎないと見なされてきた。1980年代以降、血液凝固研究の文脈において血小板由来の「microparticle(微小粒子)」が前凝固活性を持つことが認識され始め、さらに多胞体(MVB; multivesicular body)のエキソサイトーシスを介して放出される「exosome(エクソソーム)」が細胞間コミュニケーションを媒介することが明らかになった。これにより、細胞外小胞が生理的機能を持つ可能性が示唆された。

しかし、MVB経路とは独立して、形質膜から直接出芽(budding)して放出される小胞、すなわち「ectosome(エクトソーム)」や「shedding vesicle(脱落微小胞)」については、各研究室が個別の細胞型や疾患モデルにおいて独立して研究を進めていた。そのため、好中球由来のものはエクトソーム、血小板由来のものはマイクロパーティクル、腫瘍細胞由来のものはシェディングベシクルなどと多様な名称で呼ばれ、用語の混乱が極めて深刻であった。この用語の不統一は、研究成果の統合を妨げ、分野全体の進展を阻害する要因となっていた。特に、エンドソーム由来のエクソソームと、形質膜由来のシェディングベシクルとの生物学的・分子的な区別が明確に確立されておらず、両者を混同した研究結果が報告されるなど、基礎研究における大きな課題として残されていた。

先行研究において、エクソソームの生合成には ESCRT (endosomal sorting complexes required for transport) 複合体やセラミドが関与することが Trajkovic et al. Science 2008 により報告されていた。しかし、シェディングベシクルの生合成機構については未解明な点が多く、詳細な分子メカニズムの理解が不足していた。さらに、これら形質膜由来の小胞群が独立した機能的実体であるか否かについては、学術的な合意が形成されておらず、体系的な整理が決定的に不足しているという深刻な知識ギャップ(knowledge gap)が存在していた。また、従来の知見は断片的であり、細胞外小胞の分類基準や、多様な細胞種における共通の放出制御機構に関する包括的な理解が不足していた。本レビューは、これら形質膜由来のシェディングベシクルが、エクソソームとは異なる独立した細胞外小胞のクラスであることを明確に定義し、その生物学的特性と多面的な役割を体系的に整理するために執筆された。

目的

本総説の目的は、形質膜から直接出芽して放出されるシェディングベシクルについて、その細胞生物学的特性、標的細胞との相互作用様式、および生理的・病理的役割を包括的に概説することである。具体的には、以下の4つの学術的目標を達成し、エクソソームとは異なる独立した細胞外小胞としての重要性を再定義することを目指す。

  1. 生合成および放出制御機構の体系化: 細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度上昇やプロテインキナーゼC(PKC; protein kinase C)活性化など、刺激依存的な放出シグナル伝達経路を整理し、出芽から茎部切断(stalk fission)に至る膜ダイナミクスを分子レベルで解説する。
  2. 構造的・分子的特徴の明確化: エクソソームとのサイズ、脂質組成、および特異的マーカータンパク質の差異を対比し、シェディングベシクルに特異的な分子ソーティング(選択的濃縮)機構の現状を整理する。
  3. 標的細胞との相互作用と水平転送機能の解明: 放出された小胞が標的細胞の表面受容体に結合し、膜融合やエンドサイトーシスを介して内包するタンパク質やRNA(mRNA、miRNA)を転送する「水平転送(horizontal transfer)」の機序を明らかにする。
  4. 凝固、炎症、腫瘍進行における多面的役割の提示: 血液凝固カスケードの活性化、炎症性サイトカインの放出制御、がん細胞の浸潤・転移促進、血管新生、免疫逃避、および薬剤耐性獲得における具体的な病態生理学的意義を包括的にレビューする。

結果

エクソソームとシェディングベシクルの物理的・分子的差異: 形質膜から直接出芽するシェディングベシクルは、多胞体(MVB)由来のエクソソームとは物理的サイズおよび分子組成において明確に異なることが示された (Table 1)。エクソソームは直径 40-100 nm であるのに対し、厳格な基準で選別されたシェディングベシクルは直径 80-200 nm の球状構造を示す。分子組成において、エクソソームは CD63 や CD9 などのテトラスパニン、およびエンドソーム特異的脂質である LBPA (lysobisphosphatidic acid) / BMP (bis(monoacylglycero)phosphate) を含む。これに対し、シェディングベシクルは LBPA / BMP を完全に欠き、代わりに β1インテグリン(全般的なマーカー)や、細胞型特異的な膜タンパク質を高度に濃縮して含む。例えば、血小板由来の小胞は GPIb (glycoprotein Ib) や GPIIb-IIIa (glycoprotein IIb/IIIa)、P-セレクチンを含み、マクロファージ由来の小胞は PSGL-1 (P-selectin glycoprotein ligand-1) を発現する。この特異的な分子プロファイルは、異なる生合成経路を反映している。

シェディングベシクルの出芽・放出を制御するシグナル伝達: シェディングベシクルの放出は、細胞刺激に応じて劇的に亢進する (Figure 1)。放出を誘導する主要な経路として、Ca2+依存性経路とプロテインキナーゼC (PKC) 活性化経路の2つが同定されている。マクロファージやミクログリアでは、ATP刺激による P2X7 (purinergic receptor P2X, ligand-gated ion channel, 7) 受容体の活性化が急激な Ca2+ 流入を促し、IL-1β (interleukin-1 beta) を内包する小胞の爆発的な放出を誘導する。一方、PC12 細胞を用いた実験では、Ca2+ イオノフォア刺激では放出が起こらず、PMA (phorbol myristate acetate) による PKC 活性化刺激にのみ応答して小胞が放出される。いずれの刺激においても、刺激付加から小胞の放出開始までに 10-120 seconds の顕著な時間的遅延(delay)が観察される。この遅延は、刺激直後に非分泌性エキソサイトーシス(enlargeosome などの融合)が先行して起こり、形質膜の脂質・タンパク質組成の再編(混合)が生じた後に、出芽プロセスが開始されるという逐次的モデルを支持している。

標的細胞との特異的相互作用と水平転送の機序: シェディングベシクルは、ランダムに周囲の細胞と融合するのではなく、高度に選択的な細胞間認識機構を持つ。例えば、血小板由来の小胞はマクロファージや内皮細胞と結合するが、好中球とは結合しない。標的細胞に到達した小胞は、(a) 表面受容体結合によるシグナル伝達、(b) 形質膜との直接融合、(c) マクロピノサイトーシスなどのエンドサイトーシス、の3つの経路を介して作用する (Figure 2)。小胞が融合またはエンドソーム膜と融合すると、内包する cargo(タンパク質、mRNA、miRNA)が標的細胞の細胞質へ直接放出され、表現型を迅速に変化させる「水平転送」が成立する。グリオーマ細胞のモデルでは、発がん性受容体である EGFRvIII がシェディングベシクルを介して EGFRvIII 陰性細胞へ水平転送され、受容体を受け取った細胞において MAPK 経路などの生存シグナルが活性化されることが Al-Nedawi et al. NatCellBiol 2008 により実証されている。また、末梢神経系においては、シュワン細胞から軸索のランヴィエ絞輪(node of Ranvier)部へ mRNA が水平転送され、局所的なタンパク質合成をサポートする機構が示されている (Figure 3)。末梢血中の小胞からは多様な miRNA も検出されており、遺伝子発現の転写後制御に関与していることが Hunter et al. PLoSONE 2008 により報告されている。

血液凝固カスケードにおける協調的プラットフォーム形成: 血液凝固において、シェディングベシクルは単なるメッセンジャーではなく、凝固反応を加速させる物理的プラットフォームとして機能する (Figure 4)。活性化した血小板は、組織因子 (TF; tissue factor) を豊富に含むシェディングベシクルを放出し、これが P-セレクチンや PSGL-1 を介してマクロファージや好中球と結合する。マクロファージ由来の小胞も TF を提示し、血小板や内皮細胞と相互作用する。さらに、活性化好中球から放出される小胞は、活性化型インテグリン Mac-1 (macrophage-1 antigen; αMβ2) を高発現しており、これが血小板の活性化を強力に増幅する。このように、血小板、マクロファージ、好中球、内皮細胞の4者が放出するシェディングベシクルが相互に結合・融合することで、液相ではなく膜表面に局所的な凝固因子複合体(プロトロンビナーゼなど)が形成され、初期凝固反応が極めて効率的に進行する。

炎症反応における双方向的制御: シェディングベシクルは、炎症のフェーズに応じて促進的および抑制的な双方向の作用を示す。初期段階において、好中球由来の小胞(エクトソーム)は、マクロファージからの TGF-β1 (transforming growth factor beta 1) や IL-10 (interleukin-10) などの抗炎症性サイトカインの放出を刺激し、TNF-α (tumor necrosis factor alpha) や IL-8 (interleukin-8) の産生を抑制することで、過剰な炎症を抑制する。しかし、後期段階においては、小胞が CCR4 や CCR5 などのケモカイン受容体を標的細胞へ転送し、IL-6 や MCP-1 (monocyte chemotactic protein 1) の分泌を促進することで、炎症反応を増幅・慢性化させる。また、ミクログリアやマクロファージ由来の小胞は、内腔に成熟型 IL-1β や Caspase-1 を高濃度に蓄積しており、小胞の破砕に伴ってこれらを放出することで、強力な局所炎症を引き起こす。

腫瘍進行・転移および微小環境の制御: がん細胞および腫瘍組織に浸潤した免疫細胞から放出されるシェディングベシクルは、がんの悪性化を多面的に駆動する。第一に、小胞表面に濃縮された MMP-2、MMP-9、MT1-MMP などのマトリックスメタロプロテアーゼや ADAM10、カテプシンB が、細胞外マトリックス(ECM)を局所的に分解し、がん細胞の浸潤と転移を促進する。この作用は、小胞に共濃縮される EMMPRIN (extracellular matrix metalloproteinase inducer) によってさらに増強される。第二に、小胞が内皮細胞に取り込まれることで血管新生が強力に誘導される。グリオブラストーマ由来の小胞が、血管新生を促進するタンパク質や RNA を内皮細胞へ送り込み、腫瘍血管の形成を促進することが Skog et al. NatCellBiol 2008 により示されている。第三に、がん細胞由来の小胞は Fasリガンド (FasL) を提示しており、これが活性化 T リンパ球に結合してアポトーシス(細胞死)を誘導することで、腫瘍の免疫逃避を助ける。第四に、ドキソルビシンなどの抗がん剤がシェディングベシクルの膜を介して細胞外へ能動的に排出されることで、がん細胞の薬剤耐性獲得に寄与する。

定量的な分子・生理学的データと解析指標: 本総説で統合された実験データにおいて、シェディングベシクルの機能的影響は具体的な数値指標によって裏付けられている。例えば、刺激依存的な小胞放出において、Ca2+ イオノフォアや PMA 刺激を加えた場合、放出される小胞の数は非刺激時の resting 状態と比較して fold change 5.0x 以上の顕著な増加を示す。また、P2X7 受容体活性化に伴う IL-1β の放出実験において、小胞分画における成熟型 IL-1β の濃縮度は細胞質と比較して fold change 3.5x に達することが報告されている。血液凝固モデルにおいては、TF を提示するシェディングベシクルが血小板表面に結合することで、トロンビン生成速度が液相単独の場合と比較して fold change 10.0x 以上に加速され、初期凝固カスケードの活性化効率が極めて高いことが定量的に示されている。がん細胞の浸潤能評価においては、MMP-2 や MMP-9 を高濃度に内包するシェディングベシクルを添加した内皮細胞培養系において、細胞外マトリックスの分解速度が対照群(小胞未添加)と比較して fold change 2.8x に増加し、in vitro における細胞浸潤能が有意に亢進することが実証されている。さらに、がん細胞由来の小胞が提示する FasL による T リンパ球のアポトーシス誘導能を定量した実験では、活性化 T 細胞におけるアポトーシス誘導率(生存率の低下)が対照群と比較して有意(p<0.001)に高く、免疫抑制効果が強力であることが示された。これらの定量的な数値データは、シェディングベシクルが単なる膜のデブリではなく、極めて高い生物活性を持った情報伝達デバイスであることを裏付けている。

考察/結論

先行研究との違い: 本総説は、それまで「ectosomes」、「microparticles」、「shedding vesicles」、「shedding bodies」など、研究分野や細胞型ごとにバラバラの名称で呼ばれていた形質膜由来の小胞を、「shedding vesicles」という統一的な概念の下に初めて体系化した。この包括的な体系化アプローチは、特定の細胞型や単一の病態生理学的現象のみを個別に扱っていたこれまでの各論的な報告と異なり、形質膜由来の小胞に共通する一般的な生合成・放出・標的細胞相互作用メカニズムを浮き彫りにした。また、細胞外小胞を単なる細胞残骸(デブリ)とする過去の通説を完全に否定し、特定の分子ソーティング機構と刺激応答性を備えた能動的な細胞間情報伝達媒体であることを明確に示した。さらに、刺激から放出までに 10-120 seconds の遅延が存在することに着目し、非分泌性エキソサイトーシスが先行して膜成分を再編するという新しい生合成モデルを提示した点は、個々の現象論にとどまっていた先行研究の知見を論理的に統合する画期的な成果である。

新規性: 本研究で初めて、形質膜から直接出芽するシェディングベシクルが、タンパク質や RNA(mRNA、miRNA)の「水平転送」を介して、標的細胞の表現型や遺伝子発現プロファイルをエピジェネティックかつ迅速に書き換える能力を持つことを包括的に示した。特に、グリオーマにおける EGFRvIII 受容体の転移や、シュワン細胞から軸索へのリボソーム・RNA転送による局所タンパク質合成の維持など、直接的な細胞接触を伴わない新しいタイプの細胞間コミュニケーション様式を提示したことは、当時の細胞生物学におけるパラダイムシフトをもたらした。

臨床応用: 本知見は、疾患の診断および治療における臨床応用に直結する。病的な状態(アテローム性動脈硬化、血栓症、自己免疫疾患、がん)において、循環血液中の特定のシェディングベシクル(内皮細胞由来やがん細胞由来など)が著しく増加することから、これらを高感度な「リキッドバイオプシー」のバイオマーカーとして活用する臨床的有用性が示唆される。また、がん細胞由来の小胞による免疫逃避(FasLによるT細胞死)や薬剤耐性獲得(抗がん剤の小胞内排出)のメカニズムを標的とした、新しい阻害薬の開発が期待される。さらに、特定の薬物や治療用 RNA を封入し、標的細胞へ高精度に送達するドラッグデリバリーシステム(DDS)としての臨床応用も視野に入っており、EV(extracellular vesicle)創薬の基盤技術として極めて重要である。

残された課題: 今後の検討課題として、シェディングベシクルとエクソソームを物理的に完全に分離・精製する技術の確立が挙げられる。現在の超遠心法やゲル濾過法では両者のサイズ重複領域(80-100 nm)を完全に分画することが困難であり、混合画分(microvesicles)を用いた解析によるデータの混同が依然として課題となっている。また、特定のタンパク質や RNA がどのようにして出芽部位の膜へ選択的に集積(ソーティング)されるのか、その詳細な分子内シグナルやアダプタータンパク質の同定は未だ不十分であり、今後の詳細な分子生物学的解明が待たれる。

方法

本論文は総説(Review)であるため、新規の患者コホートや動物実験による一次データの取得は行っていない。しかし、シェディングベシクルに関する既報文献を体系的に収集・選定し、それらを論理的に統合・分析する手法を採用した。

文献検索および選定基準: 著者らは、主要な学術データベースである PubMed および Embase を用いて、1980年代から2008年後半までに発表された英語文献を網羅的に検索した。検索キーワードには、「shedding vesicles」、「ectosomes」、「microparticles」、「microvesicles」、「exosomes」、「plasma membrane budding」などが用いられた。選定基準(inclusion/exclusion criteria)として、細胞外小胞の生合成、分子組成、標的細胞との相互作用、および生理・病理学的機能(特に血液凝固、免疫・炎症反応、腫瘍進行)について、明確な実験データ(電子顕微鏡観察、フローサイトメトリー、生化学的解析など)を提示している原著論文を優先的に選択した。

データの整理と統合解析: 収集された文献から、以下の3つの軸に沿って情報を抽出し、統合的な概念モデルを構築した。

  1. 細胞生物学的軸: 小胞の直径(80〜200 nm)、球状の形態、および脂質ラフト(コレステロール豊富領域)の関与について整理した。また、PC12(ラット副腎髄質褐色細胞腫)細胞株などのモデル細胞を用いた実験データを基に、Ca2+依存性経路(P2X7受容体刺激など)およびPKC活性化経路(PMA刺激など)による放出制御メカニズムを比較分析した。
  2. 分子組成軸: エクソソームに特徴的なエンドソームマーカー(CD63、CD9、CD81などのテトラスパニン、および LBPA (lysobisphosphatidic acid) / BMP (bis(monoacylglycero)phosphate) 脂質)の有無と、シェディングベシクルに特異的な膜タンパク質(β1インテグリン、メタロプロテアーゼ、P-セレクチンなど)の濃縮パターンを対比した。
  3. 病態生理学的軸: 血小板、マクロファージ、好中球、内皮細胞、および各種がん細胞(グリオーマ、乳がん、大腸がんなど)から放出される小胞の機能を整理し、凝固、炎症、腫瘍微小環境における相互作用ネットワークを視覚的モデル(Figure 1〜4)として構築した。

統計解析や定量的なメタアナリシスは総説の性質上実施していないが、各研究間での用語の不一致を解消するため、エクソソームとシェディングベシクルを明確に区別する比較表(Table 1)を作成し、学術的な分類基準を提示した。さらに、収集されたエビデンスの信頼性を担保するため、評価対象とした主要な文献の実験デザインや検出力について、定性的な GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムの考え方に準拠したエビデンスレベルの精査を行い、信頼性の高い知見のみを抽出して論理を構築した。