• 著者: Kristan E. van der Vos, Erik R. Abels, Xuan Zhang (co-first equal), Charles Lai, Esteban Carrizosa, Derek Oakley, Shilpa Prabhakar, Osama Mardini, Matheus H. W. Crommentuijn, Johan Skog, Anna M. Krichevsky, Anat Stemmer-Rachamimov, Thorsten R. Mempel, Joseph El Khoury, Suzanne E. Hickman, and Xandra O. Breakefield
  • Corresponding author: Xandra O. Breakefield (breakefield@hms.harvard.edu, Massachusetts General Hospital / Harvard Medical School, USA); Suzanne E. Hickman (shickman@partners.org, Massachusetts General Hospital, USA)
  • 雑誌: Neuro-Oncology
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2015-10-03
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26433199

背景

グリオブラストーマ (GBM) は颅内腫瘍の12-15%を占め、年間発生率は人口10万人あたり2-3人である。手術・化学療法・放射線を組み合わせた標準治療でも診断からの中央生存期間は約14ヶ月であり、GBMの免疫回避機構の解明が治療改善のために急務である。GBM腫瘍細胞は大量のEV (細胞外小胞) を産生して腫瘍促進性 RNA・タンパク質を運ぶことが示されており (Skog et al. NatCellBiol 2008 / Balaj et al. NatCommun 2011 に相当)、腫瘍微小環境 (TME) 内のミクログリアや腫瘍関連マクロファージ (TAM) の免疫抑制的分極化に関与すると示唆されていた。ミクログリアはGBMのTMEで最も豊富な免疫細胞集団であり、GBM細胞が分泌するケモカイン・サイトカイン・細胞外miRNAによって免疫抑制的な腫瘍支持表現型 (Arg-1上昇・IL-10産生・MMP活性化) へと誘導される。EVを介した腫瘍 miRNA の細胞間転送は転移・血管バリア破壊などで示されてきたが (Peinado et al. NatMed 2012 に相当)、脳腫瘍微小環境での in vivo 機能的転送は手薄なままであった。とりわけ「GBMのEVが実際に脳内でミクログリアに取り込まれ遺伝子発現を変化させる」という in vivo での直接的証拠は本研究以前には存在せず、この点が未解明の重要なギャップとして残されていた。

目的

GBM由来EVがin vivoでミクログリア/マクロファージに取り込まれることを2光子生体顕微鏡で直接可視化し、EVが転送するmiR-451とmiR-21がミクログリアの免疫表現型・遺伝子発現 (c-Myc抑制) に機能的影響を与えることをin vitroおよびin vivoで実証する。

結果

GBM-EVのサイズ・産生量・ミクログリア取り込み:GBM1・GBM2・GL261細胞はいずれも100-200 nm (NTAによる中央値) のEVを大量産生した。EV画分にはアセチルコリンエステラーゼ活性・ALIX・CD63・CD9・TSG101・Flotillin-1等の複数EVマーカーが確認され、ショ糖密度勾配分画による精製物の純度が担保された。培養上清から産生されたEVは1-2×10^11 個/培養条件の規模でミクログリア実験に供された。palmGFP標識GBM-EVを24時間培養した初代マウスミクログリアでは高効率の細胞内取り込みが蛍光顕微鏡で確認され、TEM観察でもEV様の膜構造が細胞内に局在することが示された。

GBM-EV取り込みによるミクログリア表現型変化:40サイトカイン・ケモカインアレイで、GBM-EV暴露ミクログリアではTIMP-1 (細胞外マトリックス分解)・CXCL10・CXCL1・CCL2・CCL5・IL-6の6種が>50%上昇し、いずれもGBM増殖・浸潤を促進するケモカインであった。一方、免疫応答を誘導するIL-16・IL-23・IL-27の3種が>50%低下した。GBM-EV暴露ミクログリアでは7日間で増殖が約40%増加し (n=2 試行、Fig. 1c)、Arg-1 mRNAが24・48時間後に約10倍上昇した (p<0.05、Fig. 1d)—腫瘍関連免疫抑制表現型への誘導の直接証拠。サイトカイン変化は (Fig. 1b) に整理されている。GBM-EVにはTGFβも高濃度で含まれており、ミクログリアへのTGFβ取り込みも確認された。

miR-451・miR-21の選択的EV濃縮と機能的転送:1146 miRNAアレイでGBM-EVはmiR-451をGBM細胞と比べ40倍超、TaqMan定量でmiR-451が1000-10000倍 EV画分に濃縮されることが示された (GBM1・GBM2両株で確認)。miR-21のCt値はEVと細胞間で有意差がなかった一方、ミクログリア内でのmiR-21のCt差は細胞との比較で4.8 (約32倍)、miR-451は11.2 (約2000倍) と、ミクログリアは元々これらのmiRNAレベルが低い。GBM-EV暴露後の初代マウスミクログリアでmiR-21が24時間で1.3倍・48時間で5倍増加し、miR-451が最大50倍増加した (n=5 試行、p<0.001)。ヒト成人初代ミクログリアでもmiR-21が1.5倍、miR-451が4倍増加した。ヘパリン (EV取り込み阻害) でmiRNA増加が部分的に抑制され、EV依存的転送の証拠が得られた。これらの転送は各群 n=5 細胞培養で再現され、効果量は miR-451 で最大 50 fold と大きく、in vivo の腫瘍脳ミクログリアでも miR-21 が約 20 fold 増加した (n=3)。

c-Myc下流抑制の直接証拠:miR-21・miR-451の共通ターゲットであるc-Myc mRNAが、GBM-EV取り込みマウスミクログリアで約50%減少した (n=6試行、p<0.05、Fig. 4c)—EV媒介miRNA転送が受容細胞の遺伝子発現を実際に変化させることの直接証拠。GBM1・GBM2由来EV両条件でc-Myc mRNA抑制が再現性よく確認された。PTEN・MIF・CAB39等の他ターゲットmRNAはマウスミクログリアでは有意変化なし (ヒト成人初代ミクログリアでは複数のmRNA標的が有意低下し、種差が示唆された)。タンパクレベルでもc-Mycの低下傾向が観察されたが、mRNA変化よりも変動幅は小さかった。以上の結果は、GBM-EVがmiR-451/miR-21を輸送してミクログリアのエフェクター機能をc-Myc依存的に制御するという経路の存在を示す。

2光子生体顕微鏡によるin vivo EV転送の直接可視化:CX3CR1-GFP/+マウスにGL261-Fluc-mC-palmtdT細胞を原位内移植・脳窓装着後、MP-IVMで腫瘍-ミクログリア相互作用をリアルタイム観察した。腫瘍周辺のCX3CR1-GFP+ミクログリア/マクロファージは個々の腫瘍細胞と密に接触し、palmtdT+の赤色EV様粒子がGFP+細胞内に確認された。検査視野によってCX3CR1-GFP+細胞の18-74%が赤色punctaeを含み (細胞あたり1-10個)、細胞内局在は回転・スタッキング解析で確認された。GBM移植18日後にFACSで単離した腫瘍脳ミクログリアでは、コントロール脳と比べてmiR-21が20倍増加・単球/マクロファージで8倍増加し、c-Myc mRNAが有意に低下した (n=8コントロール・9腫瘍移植マウス)—in vivoでのEV媒介miRNA機能的転送の確証。

考察/結論

本研究はGBM-EVが脳内でミクログリア/マクロファージへのmiRNA転送を介して免疫抑制環境を形成するという機構を、in vitroとin vivoの両面から実証した初の研究である。特に2光子生体顕微鏡によるリアルタイムin vivo可視化は、EVが脳内で腫瘍-免疫細胞間の実際のコミュニケーション媒体として機能することを証明した点で画期的意義を持つ。先行研究ではGBM-EVが腫瘍促進性RNAを含むことや、ミクログリアがin vitroでEVを取り込むことは示されていたが、これらの in vitro 知見とは異なり、本研究は脳内での機能的in vivo転送の直接的証拠を本研究で初めて提供した点で対照的かつ novel である。2 光子生体顕微鏡による live in vivo 可視化は、これまで報告されていない腫瘍-免疫細胞間 EV コミュニケーションの直接観察を実現した。

c-Myc mRNAをターゲットとするmiR-21/miR-451の転送によるミクログリアの免疫抑制分極は、GBMが自らの免疫回避環境を能動的に構築するという「腫瘍EV主導の免疫編集」概念を支持する。c-Myc抑制によってミクログリアの遺伝子発現パターンが免疫抑制方向にシフトし、腫瘍支持表現型を促進するという仮説は機能的に実証されたが、miR-21/miR-451以外の多数のRNA・タンパク質がEVに含まれるため効果は組み合わせによる可能性も指摘されている。

臨床的含意として、GBM-EV (特にmiR-451/miR-21を指標とした) の血漿/CSFバイオマーカー化、およびGBM-EV産生・取り込み阻害によるGBM免疫療法感受性の改善が将来の戦略として示唆される。ヘパリンが部分的にEV取り込みを阻害したという知見は、EV-ミクログリア相互作用の薬理的介入が原理的に可能であることを示した。残された課題として、(1) miR-451/miR-21のGBM選択的EV濃縮機構の解明、(2) c-Myc以外のEV転送RNA・タンパク質の機能的役割の系統的評価、(3) GBM-EV依存的免疫抑制の阻害と免疫療法の組み合わせ効果の前臨床検証、(4) ヒトGBMにおける血漿EV miRNAの治療反応マーカーとしての検証、が挙げられる。定量的な観点では、腫瘍脳ミクログリアでのmiR-21 20倍・miR-451 (極めて高倍率) 増加という in vivo 転送効率の高さは、健全なミクログリアに対しEVが強力なエピジェネティック編集媒体として機能することを示す。c-Myc mRNA 約50%抑制 (n=6試行、p<0.05) という機能的転送の定量は、これらのmiRNAが受容細胞内でARGO2複合体に組み込まれRISC媒介サイレンシングを発揮していることを支持し、GBMのEV依存的免疫抑制プログラムの分子実体を初めて定量した。

方法

ヒト初代GBM細胞株 (GBM1/GBM2) ・マウスGL261 GBM細胞 (膜結合型palmGFP・palmtdTomato標識) からのEV産生・単離 (100,000g超遠心・ショ糖密度勾配分画)、NTA・TEM・ウエスタンブロット (CD63・CD9・TSG101・Flotillin-1) によるEV特性評価。初代マウスミクログリア・ヒト成人初代ミクログリアへのEV添加実験 (1-2×10^11 EVs/culture)。1146 miRNAアレイ・TaqMan qRT-PCRによるmiRNA定量、ウエスタンブロット・qRT-PCRによるc-Myc/PTEN/MIF/CAB39タンパクおよびmRNA定量。増殖アッセイ・Arg-1 mRNA・サイトカインプロファイル (40サイトカインアレイ: R&D Systems) 解析。CX3CR1-GFP/+マウス (ミクログリア・マクロファージがGFP標識) へのGL261-Fluc-mC-palmtdT腫瘍原位内移植、脳窓装着後の2光子生体顕微鏡 (MP-IVM) によるリアルタイムEV転送可視化、FACSによる腫瘍脳ミクログリア単離とmiRNA/mRNA定量 (8コントロール・9腫瘍移植マウス、n=3試行)。

統計: 各群の比較は Student’s t-test で行い (mean ± SEM)、有意水準は *P<0.05・**P<0.01・***P<0.001 とした。EV 単離は differential ultracentrifugation (100,000g 超遠心) + sucrose density gradient で行い、本研究は前臨床動物実験のため臨床試験 Identifier (NCT 番号) は持たない。