• 著者: Marc A. Antonyak, Bo Li, Lindsey K. Boroughs, Jared L. Johnson, Joseph E. Druso, Kirsten L. Bryant, David A. Holowka, Richard A. Cerione
  • Corresponding author: Richard A. Cerione (rac1@cornell.edu, Department of Molecular Medicine and Chemistry/Chemical Biology, Cornell University, USA)
  • 雑誌: PNAS
  • 発行年: 2011
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 21368175

背景

がん細胞は細胞膜から直接出芽する0.2〜2.0 μmサイズの微小小胞 (microvesicles, MV) を放出する。先行研究ではMVsがタンパク質・RNA・脂質を受容細胞に転送し、AKTやERKなどのシグナル伝達を活性化することが示されていた。膠芽腫由来MVがRNA・タンパク質を運び腫瘍増殖を促進すること (Skog et al. NatCellBiol 2008)、変異受容体EGFRvIIIがMVを介してがん細胞間で水平伝播すること (Al-Nedawi et al. NatCellBiol 2008) が報告されていた。しかしこれらの先行研究はいずれもがん細胞間でのシグナル共有に焦点を当てており、MVsが受容「正常」細胞を恒久的に形質転換させるほどの生物学的変化をもたらすかどうか、またその分子機構は未解明であった。組織トランスグルタミナーゼ (tTG) はタンパク質間の架橋形成反応を触媒するカルシウム依存性酵素であり、がん細胞での過剰発現と浸潤・転移との関連が知られていたが、MVsへの搭載機構と機能的役割の検討は手薄であった。フィブロネクチン (FN) はtTGの既知の結合パートナーであり、細胞外マトリクスの主要構成成分として細胞接着・増殖に関与する。すなわち、MVが正常細胞をがん様に転換する具体的なカーゴ分子とその協調機構の同定が決定的に不足していた。

目的

2種類のがん細胞 (MDAMB231乳がんおよびU87神経膠腫) 由来MVsが、tTGとFNを正常線維芽細胞・上皮細胞に転送してアンカレッジ非依存性増殖などの形質転換特性を誘導するという仮説を検証すること。さらにtTGによるFN架橋形成とインテグリンシグナルを介した分子機構を解明し、in vivoでの腫瘍形成における意義を実証すること。

結果

がん細胞MVsの産生と形態:走査型電子顕微鏡観察でMDAMB231細胞の約35%、U87細胞の約25%の細胞表面にMVの出芽が確認された (Fig. 1B)。MV径は0.2〜2.0 μmの範囲に分布し、これはがん細胞に特有の連続的な膜出芽活動を反映する。HeLa子宮頸がん細胞ではEGF刺激によりMV形成が誘導され、増殖因子シグナルがMV形成を促進することが確認された。一方、正常NIH 3T3線維芽細胞では血清飢餓条件・EGF刺激いずれの条件でもMVは認められず、MV形成はがん細胞に特有の現象であることが示された。単離MVはフロチリン-2 (MV/エクソソームマーカー) 陽性・IκBα (細胞質マーカー) 陰性であり、高純度のMV画分が得られた。蛍光顕微鏡によるtime-lapse撮影でGFP-PM (green fluorescent protein-plasma membrane標的配列融合) ラベルしたMVがMDAMB231細胞の細胞膜から能動的に出芽・脱落する過程が直接可視化された。MVをNIH 3T3線維芽細胞と共培養すると、30分以内にAKTおよびERKのリン酸化活性化が確認され (Fig. 2B)、MVカーゴが受容細胞のシグナル経路を速やかに活性化することが示された。

tTGのMV外膜面への選択的搭載と活性:プロテオミクス解析でMDAMB231・U87両細胞由来MVsに共通してtTGが同定された。非透過処理MDAMB231細胞の抗tTG抗体免疫染色で、tTGはリング状のMV膜局在パターンを示し、活性中心が外葉膜面に露出していることが示唆された。免疫SEMにより個別単離MVの外表面にtTGが検出され、外葉局在が直接実証された。細胞不透過性阻害剤T101がMV表面のtTG架橋活性 (BPA-カゼイン基質系で評価) を完全阻害したことも外葉局在を支持する。GFP-tTG (green fluorescent protein融合tTG) はGFP単独より約3倍高率にMVsへ組み込まれた。BFA (brefeldin A)・ExoI処置 (Arf GTPase阻害による古典的分泌経路遮断) はMV形成に影響せず、tTGのMV搭載は非古典的分泌経路によることが示唆された。tTGノックダウン・tTG阻害剤処置いずれもフロチリン-2陽性MV量を変化させず、tTGはMV形成の制御に必須ではないことが確認された。架橋活性欠損変異体 (tTG C277V) およびGTP結合不能変異体 (tTG R580L) もともにMVsへ正常に組み込まれ、tTGのMV標的化はその触媒活性とは独立していることが示された。

tTG/FN協調による正常細胞の形質転換誘導:がん細胞由来MVsをNIH 3T3線維芽細胞またはMCF10A上皮細胞と持続的に共培養すると、軟寒天培地でのコロニー形成 (アンカレッジ非依存性増殖) が誘導された (n=3独立実験、p<0.01)。MV処置なし対照細胞ではコロニーは形成されなかった。tTGノックダウンMVsまたはtTG阻害剤T101前処置ではこの形質転換誘導が著明に減弱した。また免疫沈降解析で、tTGはMV内でFNと結合し、通常の240 kDa二量体より大きい約440 kDaのFN高次架橋体を形成することが示された (Fig. 5A)。このtTG依存的なFN架橋体はT101前処置で消失し、tTGの架橋活性がFN二量体化に必須であることが確認された。RGDペプチド (FN-インテグリン結合阻害) 処置もT101と同等に形質転換を抑制した。Myc-tTG安定過剰発現NIH 3T3細胞では血清飢餓誘導アポトーシス抵抗性は付与されたが、アンカレッジ非依存性増殖 (コロニー形成) の誘導には至らず、tTGとFNの協調転送が形質転換に必須であることが示された。FAK・ERKの活性化もT101またはRGDペプチドにより阻害され、tTG-FN-インテグリン-FAK/ERKシグナル軸の機能的連関が実証された。形質転換効果の維持には新鮮MVsを3日ごとに補充する必要があり、MV由来カーゴの作用は一過性であることが示された。

In vivo腫瘍形成に対する寄与:マイトマイシンC処置 (増殖停止) MDAMB231細胞 (siCont、5×10^5個) とNIH 3T3線維芽細胞 (5×10^5個) の皮下共注射では6匹中4匹のヌードマウスで腫瘍が形成された。未処置MDAMB231細胞単独注射は全6例 (6/6) で腫瘍を形成した。tTGをノックダウンしたMDAMB231 (siTG-1またはsiTG-2) と線維芽細胞との共注射では腫瘍形成が完全に消失し (0/6、Fig. 4H)、tTGのin vivo必須性が示された。NIH 3T3単独注射または未処置MDAMB231+siTG-1/siTG-2の組み合わせでもtTGノックダウン群は腫瘍が形成されなかった。この結果は、マイトマイシンC処置により増殖停止したがん細胞がMV放出能を保持しており、これらMVs由来のtTGが隣接NIH 3T3線維芽細胞を形質転換させてin vivo腫瘍形成を誘導するという機構を直接証明するものである。

考察/結論

本研究はがん細胞由来MVsがtTGとFNという機能的に協調する2分子を正常細胞に転送することで形質転換を誘導する新規機構を解明した。tTGによるFN高次架橋形成 (約440 kDa架橋体生成) →インテグリン活性化→FAK/ERKシグナル→アンカレッジ非依存性増殖という経路は、MV介在性「非細胞自律的形質転換」という新概念を提示する。当時のEVバイオロジー研究においてMVsは主にがん細胞間のシグナル共有体として位置づけられていたが、本研究は正常細胞をがん様表現型に転換する能力を示した点で独自性が高い。腫瘍微小環境において周囲の間質線維芽細胞や上皮細胞が「傍観者」にとどまらずがん様の増殖特性を獲得するという概念は、腫瘍拡大の理解を根本から変える可能性を示す。形質転換維持にMVsの持続的補充が必要であることは、腫瘍微小環境での慢性的なMV放出が間質の腫瘍化を維持する仕組みと整合する。tTGとFNは乳がん・卵巣がん・神経膠腫など複数のがん種で過剰発現することが知られており、本機構の広汎性が示唆される。先行研究との比較では、変異受容体EGFRvIIIなど一部の受容体ががん細胞間で共有されること (Al-Nedawi et al. NatCellBiol 2008) や膠芽腫MVが腫瘍増殖を促進すること (Skog et al. NatCellBiol 2008) は知られていたが、これらと異なり正常細胞をがん様表現型に変換する具体的なカーゴ (tTG+FN) が同定されたのは本研究で初めてであり、これまで報告されていない新規な機構を示すMV研究における概念的飛躍である。臨床的含意として、tTG阻害薬 (T101様細胞不透過性化合物) はMV介在性の非細胞自律的形質転換を遮断する戦略として有望であり、腫瘍微小環境の間質転換抑制に応用できる可能性がある。また、血中循環するMV内tTGのBPAトランスアミダーゼ活性測定や抗tTG抗体による血漿EV測定が新たな液体生検バイオマーカーとなりうる。残された課題 (limitation) として、MV形成を制御するシグナル経路の解明、tTG/FN以外に形質転換を誘導しうる追加カーゴの同定、ならびに in vivo 動物モデルでの腫瘍微小環境間質転換の系統的解析と自然腫瘍モデルでの検証が必要である。さらに、形質転換を誘導する最低限のMV処置回数・濃度の定量的評価と、臨床検体から循環MVを回収してtTG活性を直接評価する非侵襲的診断法の開発も今後の課題である。

方法

MV単離法: MDAMB231乳がん細胞・U87神経膠腫細胞の無血清培養上清からdifferential ultracentrifugation (示差超遠心、低速遠心で細胞・デブリ除去後に超遠心でMVをペレット化) によりMVsを単離 (0.2〜2.0 μm径)。MV特性評価: 走査型電子顕微鏡 (scanning electron microscopy, SEM) および蛍光顕微鏡で形態を評価、マーカータンパク質flotillin-2陽性・細胞質マーカーIκBα陰性をウェスタンブロット (western blot, WB) で確認。プロテオミクス解析によりMV内tTGを同定し、免疫沈降・免疫SEM で外葉局在を確認。NIH 3T3線維芽細胞・乳腺上皮細胞 (MCF10A) へのMV処置による形質転換評価として、軟寒天アンカレッジ非依存性増殖アッセイ・血清飢餓誘導アポトーシス試験・低血清増殖試験を実施。tTGノックダウン (siRNA)・tTG阻害剤 (T101: 細胞不透過性、monodansylcadaverine [MDC]: 細胞透過性)・RGD (arginine-glycine-aspartate) ペプチド (FN-インテグリン結合阻害) による機構実験。tTGによるFN架橋の約440 kDaダイマー形成を免疫沈降+WBで確認。統計手法: 各アッセイは3回以上の独立実験 (n≥3) でmean±SDを算出し、対応のあるStudent t検定で群間比較。マウス異種移植腫瘍形成モデルとして、マイトマイシンC処置 (増殖停止) MDAMB231細胞 (5×10^5個) とNIH 3T3線維芽細胞 (5×10^5個) をヌードマウスに皮下共注射し、tTGノックダウンの影響を評価した。