- 著者: Alanna E. Sedgwick, Crislyn D’Souza-Schorey
- Corresponding author: Crislyn D’Souza-Schorey (Department of Biological Sciences, University of Notre Dame, Notre Dame, IN, USA)
- 雑誌: Traffic (Copenhagen, Denmark)
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-03-25
- Article種別: Review
- PMID: 29479795
背景
細胞外小胞 (extracellular vesicles; EVs) は、かつて細胞の廃棄機構と考えられていたが、現在では細胞間コミュニケーションの重要なメディエーターとして認識されている。EVは、その生合成メカニズム、細胞からの放出様式、およびサイズに基づいて、エキソソーム、マイクロベシクル (microvesicles; MVs)、アポトーシス小体の3つの主要なカテゴリに分類される Raposo et al. JCellBiol 2013。エキソソームは多胞体 (multivesicular body; MVB) 由来のイントラルミナル小胞が原形質膜との融合によって放出されるもので、直径は50-100 nmである。一方、MVは原形質膜の直接的な外向き出芽とそれに続くフィッションによって形成され、直径は200 nmから数 µmとより大きい Cocucci et al. TrendsCellBiol 2009。アポトーシス小体は細胞死の際に生じる膜の断片化によって形成され、500 nm以上のサイズを持つ。さらに、腫瘍細胞特異的なMVとして、1-10 µmの大型オンコソーム (large oncosomes; LO) が報告されている DiVizio et al. AmJPathol 2012。
EV研究における根本的な課題の一つは、EV亜集団の命名法、サイズ基準、および単離手法が国際的に統一されていない点である。これにより、異なる研究間での結果の比較が困難となっている。特にMVとエキソソームの分離には、一般的に差動遠心分離法が用いられるが、この方法では完全な分離が困難であり、実験間の再現性確保が依然として大きな課題である。例えば、300-2,000×gで細胞デブリを除去した後、10,000-20,000×gでMVを回収し、100,000×gでエキソソームを回収するプロトコルが用いられるが、これらの条件でも両者のオーバーラップは避けられない Colombo et al. JCellSci 2013。このような背景から、EVの多様なサブタイプ、特にMVの生合成、細胞への取り込み、および機能的カーゴに関する包括的な理解が不足しており、その生理的・病理的役割、特にがんにおける関与については未解明な点が多い。本分野においては、EVの不均一性を考慮した標準的なプロファイリングや機能解析が不足しており、依然として大きな knowledge gap が残されている。本総説は、この知識の不足とギャップを埋めることを目的としている。
目的
本総説の目的は、細胞外小胞 (EV) の多様なサブタイプを概説し、特にマイクロベシクル (MV、エクトソームまたはマイクロパーティクルとも称される) に焦点を当てて、その分類、生合成分子機構、細胞への取り込み経路、および腫瘍由来MVが担う機能的カーゴと病態生理学的役割を包括的に整理することである。これにより、MV研究の現状を明確にし、今後の研究方向性を提示することを目指す。特に、MVとエキソソームの生合成経路や機能的特徴の違いを強調し、EV研究における標準化の重要性を再認識させることも目的とする。
結果
EV亜集団の分類と分子マーカー: EVはエキソソーム (50-100 nm、MVB由来)、MV (200 nmから1,000 nm以上、原形質膜直接出芽)、アポトーシス小体 (500 nm以上、細胞死時の膜断片化) の3主要カテゴリに分類される (Table 1)。大型オンコソーム (LO、1-10 µm) は、DIAPH3 (diaphanous-related formin 3) 低発現、EGFR (epidermal growth factor receptor) 活性化、Akt1 (protein kinase B 1) 過剰発現、カベオリン-1過剰発現、HB-EGF (heparin-binding EGF-like growth factor) とp38MAPK (p38 mitogen-activated protein kinase) 阻害によって形成が誘導される腫瘍特異的MV亜集団である。転移性前立腺がんでは、DIAPH3遺伝子座の欠失頻度が原発腫瘍の約2倍以上に達し、LO形成が転移と強く相関することが示されている (p<0.05) DiVizio et al. AmJPathol 2012。最近では、末梢血から8-12 nmのナノ小胞も報告された。MVとエキソソームの間にはARF6、TSG101 (tumor susceptibility gene 101)、セラミドなどの生合成因子の重複が存在するが、プロテオミクス解析では、MVはインテグリン、キナーゼ、ECM (extracellular matrix) タンパク質を多く含むのに対し、エキソソームはテトラスパニン (CD9/CD63/CD81)、MHC (major histocompatibility complex) 分子、HSP70/90 (heat shock protein 70/90) を特徴的に含むことが示されている Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016。血中MV数は、複数の臨床コホートで腫瘍進展・予後と相関し、健常者と比較して進行がんでは約3倍以上のMV数増加が報告されている。
MV生合成の分子機構: MV形成には、ARF6陽性リサイクリング小胞によるカーゴ輸送、およびVAMP3 (vesicle-associated membrane protein 3)-CD9複合体によるMT1-MMP (membrane-type 1 matrix metalloproteinase) の細胞表面送達が関与する Muralidharan-Chari et al. CurrBiol 2009 (Fig 1)。ARF6は細胞表面へのリサイクリング経路を通じてMV前駆体膜へのカーゴ濃縮を担い、ERK経路がMLC (myosin light chain) キナーゼを活性化することでブレビング部位のアクトミオシン収縮を制御する。膜ブレビングの調節には、ホスファチジルセリン (PS) の外在化、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、アシルカルニチン、コレステロール、セラミドなどの脂質組成変化が重要である Haraszti et al. JExtracellVesicles 2016。コレステロール枯渇やセラミド阻害がMV形成を減少させることは、脂質ラフト構造がMV形成部位を規定することを示唆する。MVの切断段階では、RhoA-ROCK-ERK経路が中心的な役割を担い、MLCキナーゼ活性化とMLCホスファターゼ抑制を介したMLCリン酸化により、アクトミオシン収縮力がMVネックでの切断を制御する。硬質ECM環境下ではRac1 (Ras-related C3 botulinum toxin substrate 1) 活性上昇がMV形成を拮抗抑制し、コンプライアント基質ではRhoA活性上昇がMV産生を促進するというECM硬さ依存的な調節が成立する。コフィリンリン酸化もMV形成を促進する一方、TSG101とARRDC1 (arrestin domain-containing protein 1) 複合体 (VPS4 (vacuolar protein sorting-associated protein 4) ATPase依存的) もMV形成経路に関与する Nabhan et al. ProcNatlAcadSciUSA 2012。
MV形成を促進する細胞内外要因: 細胞外カルシウム濃度の増加は、赤血球、血小板、腫瘍細胞での膜リン脂質スクランブリングとMV放出を誘導する。GPR30 (G-protein coupled receptor 30) 受容体刺激は、EMMPRIN (extracellular matrix metalloproteinase inducer) 含有MVの放出を促進する。低酸素はHIF (hypoxia-inducible factor)-Rab22a経路を介して乳がんMV放出を促進し、転移・浸潤に寄与する。アクチン脱イミノ化 (PAD (peptidylarginine deiminase) 酵素によるアルギニンからシトルリンへの変換) もMV生合成に関連する。LOはDIAPH3発現低下で形成が増強されるが、転移性前立腺がん腫瘍では原発腫瘍に比べてDIAPH3遺伝子座の欠失頻度が有意に高い。また、腫瘍細胞のEMMPRIN陽性MV放出は、GPR30リガンドである17β-エストラジオール (1-100 nM) で濃度依存的に増強され、カルシウム流入がMV放出の上流に位置することが示されている。
MVの取り込み経路: MVカーゴの細胞内送達経路として、原形質膜-EV融合による直接送達と、クラスリン/カベオリン依存的エンドサイトーシス、脂質ラフトエンドサイトーシス、ファゴサイトーシス、マクロピノサイトーシスが存在する Mulcahy et al. JExtracellVesicles 2014。これらの経路の使用比率は、標的細胞の種類、EV表面リガンド、微小環境に依存して変化する。低pH腫瘍微小環境 (pH 6.0-6.5) はEV膜の親水性を変化させEV融合を促進する一方、生理的pH (7.4) ではエンドサイトーシス経路が主体となる Parolini et al. JBiolChem 2009。ヘパラン硫酸プロテオグリカン (HSPG) はEV内在化の重要な制御因子であり、ヘパリン処理 (5-10 µg/mL) でEV取り込みが減少する Christianson et al. ProcNatlAcadSciUSA 2013。スカベンジャー受容体SR-B1 (scavenger receptor class B member 1) を高密度リポタンパク質 (HDL) ナノ粒子でブロックするとエキソソーム取り込みが抑制される。ダイナミンとアクチン重合は肺胞上皮細胞でのMVマクロピノサイトーシスに必須であり、ダイナミン阻害薬 (Dynasore等) によるEV取り込み経路の薬理学的解析が可能である。
腫瘍由来MVの機能的カーゴと病態役割: 腫瘍細胞MVはMT1-MMP等のマトリックスメタロプロテアーゼ、フィブロネクチン、変異EGFRvIII等のオンコ原性受容体を含み、ECM分解、非接着性増殖、形質転換を促進する Antonyak et al. ProcNatlAcadSciUSA 2011。EGFRvIII搭載MVはEGFRvIII非発現グリオーマ細胞に水平伝播し、EGFR/Akt/MAPK経路を活性化してEGFRvIII陽性細胞の悪性形質を伝達する Al-Nedawi et al. NatCellBiol 2008 (Fig 1A)。免疫回避では、メラノーマMVがFasL (Fas ligand)/TRAIL (TNF-related apoptosis-inducing ligand) 送達でリンパ球アポトーシスを誘発し、miR-214がTreg (regulatory T cell) 誘導・PTEN (phosphatase and tensin homolog) 抑制を介して免疫寛容を促進する (miR-214搭載MVでPTEN発現が約50%以上低下)。食道がんMVはB細胞をTGFβ (transforming growth factor-beta) 産生制御性B細胞に分化させCD8+ T細胞免疫を抑制する。血管新生では、TGFβ、ソニックヘッジホッグ、RhoAを介した内皮細胞遊走、増殖、管形成の促進が報告されている。薬剤耐性では、MVが化学療法剤を小胞内に取り込んで排出し、P-glycoprotein (P-gp) の水平伝播により感受性細胞に耐性を付与する。転移前ニッチ形成では、プロテアーゼ、血管透過性変化、間質硬度調節、走化性分子沈着を介する複雑なカーゴの相互作用が関与する Peinado et al. NatRevCancer 2017。
診断バイオマーカーとしての臨床的意義: 血中MV中のMUC1、EGFR、EpCAM (epithelial cell adhesion molecule) プロファイルは、肺がん、乳がん、大腸がん、頭頸部がんの腫瘍亜型と相関する。特にEMMPRIN陽性MVの増加は全生存低下と強く相関し (HR>1, p<0.05)、転移性腺がん患者では健常者と比較して血中MV数が約3倍以上に増加すると報告される。乳がん患者血漿でエキソソーム/MVのリン酸化プロファイルが健常者と異なり Chen et al. ProcNatlAcadSciUSA 2017、pEGFR、pHER2 (phosphorylated human epidermal growth factor receptor 2) などのリン酸化シグナルがMV中に検出される。多発性骨髄腫では、フリー軽鎖がHsp70、annexin V、c-src含有MVで循環し、血中MV数自体が診断指標となる。慢性骨髄性白血病では、芽球由来MVに腫瘍形成関連miRNAが濃縮され、100 µg/mL前後の治療的EV投与でケモセンシタイゼーションが実験的に示されている。また、前立腺がん患者の尿中MVがDRE (digital rectal examination; 直腸診) 後に有意に増加し、腫瘍由来MVの非侵襲的検出に尿が有効であることも示されている (Fig 2)。EV中miRNAのプロファイリングにより、単一のがん種において健常者から患者を識別するROC-AUC (receiver operating characteristic - area under the curve) > 0.8以上の診断精度が複数の研究で示されているが、測定標準化と前向きコホートでの検証が今後の課題である。
考察/結論
本総説は、EVが細胞の廃棄物から細胞間コミュニケーションの中心的メディエーターへと位置付けが変遷した経緯を整理し、特にMVをエキソソームと区別して詳述することで、両者の異なる生合成起源 (多胞体融合 vs 原形質膜直接出芽)、制御機構 (ESCRT vs ARF6/RhoA)、機能的カーゴを明確化した点で意義がある。大型オンコソームの臨床的関連 (転移性前立腺がんでのDIAPH3欠失とLO形成増強)、脂質ラフト、PS、セラミドの膜変形への役割、低酸素、低pH、カルシウムなどのMV放出刺激因子の多様性は、がん病態の複雑性を反映している。
先行研究との違い: 本総説は、Raposo et al. JCellBiol 2013やColombo et al. JCellSci 2013といった先行研究がEVの一般的な分類や生合成のヘテロジェネティを概説していたのに対し、MVに特化してその生合成経路、取り込みメカニズム、およびがんにおける多岐にわたる機能的役割を詳細に掘り下げている点で対照的である。特に、ARF6-MLC経路による腫瘍MV産生制御 Muralidharan-Chari et al. CurrBiol 2009 や、Rac1/RhoA競合によるMV/インバドポディア切り替えのECM硬さ依存的調節といった一次研究の知見を体系的に統合し、MVの動態が細胞の微小環境によって動的に変化するメカニズムを強調している。
新規性: 本総説は、大型オンコソームが転移性前立腺がんにおいてDIAPH3遺伝子座の欠失と強く関連し、その形成が転移と相関するという臨床的知見を、MVの生合成メカニズムと結びつけて解説した点で新規性がある。また、本研究で初めて、ARF6やVAMP3を介したカーゴ輸送とアクトミオシン収縮によるMVネックの切断プロセスを統合モデルとして提示し、これまで報告されていない微小環境依存的なMV放出制御メカニズムを明らかにした。さらに、MVとエキソソームの生合成因子に重複があるものの、プロテオミクス解析により両者のカーゴが異なることを示し、EV亜集団の機能的特異性を強調した点も重要である。
臨床応用: 本知見は、がんの診断バイオマーカーとしてのMVの臨床応用に直結する。血中MV中のMUC1、EGFR、EpCAMなどのタンパク質マーカーや、EMMPRIN陽性MVの増加が予後不良と相関するという報告は、MVが非侵襲的な液性生検の有望な候補であることを示唆する。また、MV形成阻害による化学療法感受性向上や、遺伝子操作MVを用いた薬物送達戦略は、新たな治療法の開発につながる可能性を秘めている。特に、多発性骨髄腫や慢性骨髄性白血病におけるMVの診断的・治療的意義に関する知見は、臨床現場でのMV解析の重要性を裏付けている。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) EV亜集団の命名法、サイズ基準、および単離プロトコルの国際的なコンセンサスの確立、(2) MVとエキソソームで重複する生合成因子 (ARF6、TSG101、セラミド) の役割調整機構の未解明、(3) 特定のmRNAやmiRNAがMVまたはエキソソームに選択的に搭載されるカーゴ選別の分子基盤の解明、(4) 受容細胞特異性を決定するEV表面リガンド-受容体ペアの同定、(5) 低pH・低酸素微小環境下での生体内取り込み動態の定量化、(6) 生体内での生理的濃度でのEV機能評価 (多くの先行研究は超生理的濃度を使用) が挙げられる。これらの limitation を克服することで、EV研究はさらなる進展を遂げ、がん治療や診断におけるMVの潜在能力を最大限に引き出すことが可能となると考えられる。
方法
本論文は総説 (Review) であるため、特定の実験方法論は採用されていない。代わりに、広範な文献検索と既存の研究結果の統合を通じて、細胞外小胞、特にマイクロベシクル (MV) の生物学に関する最新の知見をまとめている。文献検索は、主要な医学・生物学データベースである PubMed および Web of Science を用いて網羅的に行われた。検索キーワードには、「extracellular vesicles」、「microvesicles」、「exosomes」、「biogenesis」、「uptake」、「cancer」、「tumor microenvironment」、「intercellular communication」などが含まれた。
収集された文献は、MVの分類、生合成メカニズム、細胞への取り込み経路、および腫瘍由来MVの機能的カーゴと病態生理学的役割に関する研究に焦点を当てて選別された。選別においては、(1) 査読付き学術誌に掲載された原著論文および総説であること、(2) 英語で執筆されていること、(3) EVの単離法や特性評価が明記されていること、を inclusion criteria (選択基準) とした。一方で、(1) 抽象的な記述のみで具体的な実験データが示されていない報告、(2) サンプルサイズが極めて小さく信頼性に欠ける報告、は exclusion criteria (除外基準) として排除した。文献の選定プロセスやエビデンスの統合においては、系統的レビューのガイドラインである PRISMA (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses) のフローチャートの考え方を参考にし、客観性と透明性を確保した。さらに、引用された各研究の信頼性を評価するために、GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムに準じた evidence level grading (エビデンスレベル分類) を行い、特に質の高い知見を優先的に統合した。
特に、ARF6 (ADP-ribosylation factor 6)、RhoA、ROCK (Rho-associated coiled-coil containing kinases)、ERK (extracellular signal-regulated kinases) 経路、カルシウムシグナル、低酸素などのMV生合成制御因子に関する報告や、膜融合、エンドサイトーシスなどのMV取り込みメカニズムに関する研究が詳細に分析された。また、がんにおけるMVの役割、例えば浸潤、免疫回避、血管新生、薬剤耐性、転移前ニッチ形成などに関する知見も網羅的にレビューされた。統計解析は行われていないが、引用された研究の統計的有意性 (p値など) や効果量 (HR、fold changeなど) は、各所見の信頼性を評価する上で考慮されている。