- 著者: Jaime Palma, Sree C. Yaddanapudi, Lucy Pigati, Mallory A. Havens, Sarah Jeong, Geoffrey A. Weiner, Kristina Mary Ellen Weimer, Brittany Stern, Michelle L. Hastings, Dominik M. Duelli
- Corresponding author: Dominik M. Duelli (Dominik.Duelli@Rosalindfranklin.edu, Rosalind Franklin University of Medicine and Science, North Chicago, IL, USA)
- 雑誌: Nucleic Acids Research
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-07-05
- Article種別: Original Article
- PMID: 22772984
背景
細胞外に放出されるマイクロRNA (miRNA) がエクソソームや微小小胞に含まれることは、Valadi et al. NatCellBiol 2007やHunter et al. PLoSONE 2008など複数の先行研究で報告されていた。しかし、「すべてのmiRNAが同一の小胞集団に無差別に搭載されるのか、それとも特定のmiRNAが特定の小胞型に選択的に搭載されるのか」という問いは未解明であった。特に、腫瘍細胞が放出する微小小胞の不均一性については、Skog et al. NatCellBiol 2008やAl-Nedawi et al. NatCellBiol 2008が腫瘍細胞由来の微小小胞ががんの進行に寄与することを示唆していたものの、miRNAの選別的輸送経路の詳細は不明であった。
著者らは以前の報告 (Pigati et al. PLoS One 2010) で、乳腺上皮細胞においてmiRNAの放出が選択的であることを発見した。具体的には、悪性細胞ではmiR-451やmiR-1246といった選択的放出miRNA (s-miRNA) が、正常細胞と比べて99%以上が細胞外に放出されることを示した。一方、miR-16やmiR-720などの中性放出miRNA (n-miRNA) は、悪性細胞と正常細胞の両方から同程度放出されることも明らかになっていた。しかし、この選択的放出の基盤となる小胞生物学的機構、すなわちs-miRNAとn-miRNAがどの種類の細胞外粒子に乗って放出されるかは明らかでなかった。エクソソーム (約50-100 nm、多小胞体由来・CD63陽性) は最もよく特性化された細胞外小胞であったが、腫瘍細胞が複数種類の小胞を産生するという観察は蓄積しており、miRNAの選別的搭載がこれらの異なる小胞タイプと関連する可能性が示唆されていた。
本研究の背景には、細胞外miRNAが細胞間コミュニケーションにおいて重要な役割を果たすという認識がある。例えば、Mittelbrunn et al. NatCommun 2011はT細胞から抗原提示細胞へのmiRNA搭載エクソソームの一方向性輸送を示し、Antonyak et al. ProcNatlAcadSciUSA 2011はがん細胞由来微小小胞がトランスグルタミナーゼを介して受容細胞を形質転換させることを報告している。これらの知見は、miRNAの細胞外輸送が単なる細胞内廃棄物処理ではなく、能動的な生理機能を持つことを示唆する。しかし、悪性細胞におけるmiRNAの選択的放出が、どのような「カスタム化された粒子」によって行われるのか、その詳細な分子メカニズムは依然として不足しており、この知識のギャップを埋めることが喫緊の課題であった。
目的
本研究の目的は、乳がん細胞株 (MDA-MB-231およびMCF7) が放出する選択的放出miRNA (s-miRNA; miR-451, miR-1246) と中性放出miRNA (n-miRNA; miR-16, miR-720) が、細胞外のどの粒子画分に分配されるかを詳細に解析することである。具体的には、浮遊速度差密度勾配超遠心法を用いて各miRNA種に対応する小胞の物理的および生化学的特性を定義し、悪性形質転換に特異的なmiRNA輸送経路の存在を証明する。
さらに、正常細胞と比較することで、乳がんに特有の「カスタム化された粒子」の種類と機能的意義を明らかにすることも目的とした。特に、先行研究で示唆されたmiRNA放出の選択性が、実際に異なる種類の細胞外粒子へのmiRNAの選別的搭載によって実現されているかを検証する。これにより、がん細胞がmiRNAを細胞外に放出する際の小胞生物学的メカニズムを解明し、がん診断の新たなバイオマーカー開発に繋がる知見を得ることを目指す。
結果
MDA-MB-231細胞が放出する粒子の不均一性とmiRNA分布: MDA-MB-231細胞から調製したP70画分を透過型電子顕微鏡 (TEM) で解析すると、典型的なカップ形状のエクソソーム (50-100 nm) に加えて、直径20-410 nmの幅広いサイズと多様な形態を持つ粒子が多数確認された (Figure 1A, B)。この結果は、悪性乳腺上皮細胞が多様な細胞外粒子を放出することを示唆する。浮遊速度差勾配分画 (18時間) において、各miRNAは明確に異なるグラジエント画分に分配された (Figure 1C)。n-miRNA (miR-16, miR-720) はCD81陽性画分と同一の速い移動画分 (グラジエント上部) に濃縮されたのに対し、s-miRNA (miR-451) はより遅い移動画分 (中間)、miR-1246はほとんど移動しない最下部に留まった。MCF7細胞でも同様の分配パターンが再現された (Supplementary Figure S3)。重要な点として、測定したmiRNAのいずれもCD81最大富化画分には共移動せず、miRNAは全小胞集団の一部にのみ含まれることが示された。また、5’末端標識した全小RNAの電気泳動解析でも、異なる小RNA種が異なる画分に濃縮されることが確認された (Figure 1D)。
s-miRNAとn-miRNAが会合する粒子の物理的差異: 各miRNAが最大に濃縮された画分をTEMで観察し、粒子の物理的特性を詳細に解析した (Figure 3A)。s-miRNA (miR-451) 最大画分の粒子は平均直径約86 nmのカップ形状であり、エクソソームに典型的な形態を示した。一方、n-miRNA (miR-16, miR-720) 最大画分の粒子は、その約2倍のサイズ (>100 nm) のカップ形状であった (Figure 3A, B)。浮遊速度はn-miRNA (miR-16: 0.78 cm/h, miR-720: 1.0 cm/h) がs-miRNA (miR-451: 0.04 cm/h, miR-1246: 0.2 cm/h) の10-25倍速く移動した (Figure 2B)。平衡密度はmiR-451とmiR-16の会合粒子がともに1.13-1.18 g/mlであり、エクソソームの定義範囲内であった。しかし、miR-1246会合粒子は1.25 g/mlとエクソソーム密度上限 (1.19 g/ml) を超え、添加した合成RNA (SYNTH: 1.28 g/ml) に近い密度を示した (Figure 2A, B)。この結果は、miR-1246が細胞外で裸のRNAより低密度だがエクソソームより高密度の複合体として放出されることを示唆する。さらに、これらのmiRNAはリボヌクレアーゼ処理に対して抵抗性を示し (Supplementary Figure S4B, C)、小胞内または保護タンパク質により封入されていることが確認された。
L-エクソソームの同定とCD44富化: n-miRNA (miR-16, miR-720) が会合する大型小胞 (>100 nm) と、s-miRNA (miR-451) が会合する小型小胞の両方がCD63陽性を示し (Figure 4A-C)、これらが内エンドソーム由来という共通起源を持つことが示唆された。しかし、表面抗原プロファイル解析 (CD63, CD81, CD44, CD147, CD55, CD59, Glut-1, CD98, HLAを比較) において、CD44 (乳がん転移関連膜タンパク質) のみが大型エクソソームに有意に富化し (p<0.001)、小型エクソソームでは低かった (Figure 4C)。このCD44陽性・大型エクソソーム様小胞を著者らは「L-エクソソーム」と命名した。L-エクソソームはn-miRNAを選択的に輸送し、悪性形質転換特異的なmiRNA輸送経路を体現する新規小胞型として定義された。
CD59サブポピュレーションとmiR-16富化: CD59 (補体阻害因子) 陽性小胞をDynabead免疫磁気分離すると、全小胞集団 (n=4 replicates) と比べてmiR-16が約50倍富化された一方、他のmiRNA (miR-451, miR-1246, miR-720) は富化されなかった (Figure 5B)。この結果は、エクソソーム集団内にもCD59陽性のmiR-16専用サブポピュレーションが存在することを示し、単一の「エクソソームプール」内でのさらなるmiRNA選別機構の存在を示唆する。
miR-1246とヌクレオソームの会合: miR-1246が濃縮された画分からは膜タンパク質マーカーが検出されず、代わりにコアヒストンH2Aおよびアセチル化H3の存在がウエスタンブロットで確認された (Figure 4A, B)。これらの複合体のサイズ範囲30-120 nmはモノ・オリゴヌクレオソームと一致し、miR-1246が核外に放出されたヌクレオソームと会合することが示された。細胞内蛍光in situハイブリダイゼーションにより、miR-1246はDAPI (4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール) 陰性核小体に局在し、細胞内でのヌクレオソームとの会合を示唆した (Figure 6A, B)。エトポシド (100 μM) 誘導アポトーシスにより、ヌクレオソームとmiR-1246の放出量が有意に増加した (p<0.05, n=7 replicates, Figure 6D, E)。一方、BCL2またはcaspase-9DNの発現によるアポトーシス阻害では、エクソソームおよびL-エクソソームの産生は変化しなかった (Supplementary Figure S6)。このことは、miR-1246放出にアポトーシス由来ヌクレオソームが貢献することの証拠である。
正常細胞では全miRNAが単一小胞集団に放出される: 正常皮膚線維芽細胞 (n=2 experiments) のP70画分をTEMおよび勾配解析すると、単一のエクソソーム様小胞集団のみが確認された (Figure 7A-C)。これらの小胞は形状、サイズ、CD59/CD63/HLA陽性、密度、浮遊速度が均一であり、L-エクソソームやヌクレオソームは検出されなかった。測定した全てのmiRNA (miR-451, miR-1246, miR-16) はこの単一集団に共存した (Figure 7D)。ヒト母乳 (n=3 donors) の解析でも、s-miRNAのmiR-451とmiR-1246が悪性細胞では別々の小胞に分配されるのに対し、母乳では同一の遅移動性小胞集団に共存した (平均直径59 nm、2つのbuoyant density画分を持つ) (Figure 8A, D, E)。正常乳腺上皮細胞でも悪性細胞との差異が確認されたことは、選択的miRNA輸送経路の構築が悪性形質転換に依存することを示す。
考察/結論
本研究は、悪性細胞が「カスタム化された粒子」にmiRNAを選択的に搭載して放出するという機構の粒子レベルでの証拠を初めて提供し、s-miRNA (エクソソーム搭載)、miR-1246 (ヌクレオソーム搭載)、n-miRNA (L-エクソソーム搭載) という3種類の異なる輸送経路の存在を実証した。この知見は、細胞外miRNAの輸送が単なる無差別な放出ではなく、細胞の状態やmiRNAの種類に応じて高度に制御されたプロセスであることを示唆する。
先行研究との違い: これまでの研究では、miRNAの放出が選択的であることは示唆されていたものの (Pigati et al. PLoS One 2010)、その選択性が異なる種類の細胞外粒子へのmiRNAの選別的搭載によって実現されているという直接的な証拠は不足していた。本研究は、浮遊速度差密度勾配超遠心法という新規手法を開発することで、密度が重複する粒子を速度差で分離し、miRNAの小胞生物学的分離を粒子レベルで直接的に証明した点で、これまでの報告と異なる。特に、CD44陽性L-エクソソームという新規の小胞型の発見は、細胞外小胞の不均一性の分子的基盤と悪性転換との関係を明確に体現するものである。
新規性: 本研究で初めて、悪性乳がん細胞が3種類の異なる粒子タイプ (L-エクソソーム、エクソソーム、ヌクレオソーム) を用いてmiRNAを細胞外に放出することを新規に同定した。L-エクソソームはCD44を豊富に含み、n-miRNAを選択的に輸送する大型のエクソソーム様小胞であり、その存在はこれまで報告されていない。また、miR-1246が核外に放出されたヌクレオソームと会合して輸送されるという発見も新規の知見である。これらの発見は、miRNAの細胞外輸送メカニズムに関する理解を大きく深めるものである。miRNA組成の差異 (s-miRNAとn-miRNAの相互排他的分配) は、表面タンパク質の差異 (CD44を除けば多くのマーカーが共通) よりも顕著であり、miRNA積み荷の解析が小胞サブタイプを識別する最も感度の高い指標となりうることが示唆された。
臨床応用: 本知見は、がん診断における液体生検バイオマーカーの開発に直結する臨床応用が期待される。がん特異的s-miRNA (miR-451, miR-1246) の小胞画分への特異的分配は、これらのmiRNAが血漿EVのバイオマーカーとして適していることを示す。特に、CD44陽性L-エクソソームの存在は乳がん転移との関連が示唆されており、L-エクソソーム特異的マーカーの同定は、がん特異的EV診断試薬開発に貢献しうる。また、CD59陽性サブポピュレーションがmiR-16を約50倍富化することは、EV表面の免疫磁気分離を用いた高精度miRNAバイオマーカー濃縮戦略の根拠を提供する。これらのカスタム化された粒子とmiRNAカーゴのプロファイリングは、腫瘍細胞の起源と形質転換状態に関する正確な情報を提供し、がんの早期診断や治療効果モニタリングに役立つ可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、以下の点が残されている。(1) s-miRNAをエクソソームに選択的に積み込む細胞内ソーティング機構 (特定の配列モチーフやtrans-acting因子) の同定。(2) L-エクソソームの生合成起源とサブエンドソーム経路のさらなる解明 (CD63陽性は多小胞体由来を示唆するが、そのサイズと組成は従来のエクソソームとは異なる)。(3) 悪性形質転換がL-エクソソームとs-miRNA会合エクソソームの産生比をどのように制御するかの機構解明。(4) L-エクソソームとs-miRNA会合エクソソームが受容細胞においてそれぞれどのような機能的効果をもたらすかの検証。これらの課題を解決することで、がんにおけるmiRNAの細胞外輸送の全貌が明らかになると考えられる。
方法
本研究では、ヒト乳がん細胞株であるMDA-MB-231細胞およびMCF7細胞、そして正常皮膚線維芽細胞を、無血清定義培地で5日間培養した後に培養上清を回収した。各実験には1.2-1.6 × 10^9細胞規模の培養液を用いた。培養上清はまず300gで15分間低速遠心分離し、細胞破片を除去した。その後、0.45 μmフィルター (Pall Acrodisc) で濾過し、さらに70,000gで1時間超遠心分離することでP70画分を調製した。このP70画分は、PBS (リン酸緩衝生理食塩水) に再懸濁して使用した。
P70画分をショ糖密度勾配 (0.25-2.0 Mショ糖in PBS) にロードし、100,000gで0時間から平衡状態に達する48-90時間まで浮遊速度差遠心分画を行った。勾配は1 mlずつ12画分に分取され、各画分について以下の解析を行った。
粒子特性評価:
- ドットブロット・ウエスタンブロット: 各画分をImmuno-Blot PVDF (ポリフッ化ビニリデン) メンブレンまたはニトロセルロースメンブレンにブロットし、CD63、CD81、CD44H (CD44標準型)、CD147、CD55、CD59、Glut-1、CD98、HLA (ヒト白血球抗原)、アセチル化H3ヒストンに対する抗体を用いて解析した。抗体結合はTyphoon 9400 (GE Healthcare) で蛍光定量し、ImageQuant Tソフトウェアで解析した。
- 透過型電子顕微鏡 (TEM): 各画分からショ糖を除去後、Formvarコートグリッドに吸着させ、2%リンタングステン酸ナトリウムで負染色した。JEM-2100 (Jeol) を用いて観察し、各画分から100個以上の粒子の最大直径をNIS-Elements (Nikon) で計測した。
RNA解析:
- miRNA定量: 各画分からTRIzol試薬 (Invitrogen) を用いてRNAを抽出し、合成RNA (SYNTH, 250 fmol/μl) を回収コントロールとして添加した。TaqMan qRT-PCR (Applied Biosystems) により、miR-451、miR-1246、miR-16、miR-720の各miRNAを定量した (各点n=4-12 replicates)。絶対miRNA量は、合成DNA標準曲線またはRNAオリゴ標準を用いて算出した。
- エンドポイントRT-PCR: miRNA特異的ステムループプライマーを用いたSuperscript III (Invitrogen) 逆転写反応後、エンドポイントPCRを行った。
- 5’末端標識小RNA電気泳動: MDA-MB-231細胞のP70勾配画分から単離した小RNAを、Antarctic phosphatase (NEB) で脱リン酸化後、T4ポリヌクレオチドキナーゼと32P-γ-ATPを用いて5’末端標識し、12%尿素ポリアクリルアミドゲルで分離した。
サブポピュレーション解析:
- CD59抗体結合Dynabead免疫磁気分離: CD59抗体 (Millipore) を結合させたDynabeads (Invitrogen) を用いて、P70画分からCD59陽性小胞を免疫磁気分離した (n=4 replicates)。分離後の結合画分と非結合画分についてmiRNA定量を行った。
細胞内局在およびアポトーシス関連解析:
- 蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) と免疫蛍光: MDA-MB-231細胞をカバーグラス上で培養し、miR-1246特異的miRCURY LNA (Locked Nucleic Acid) プローブ (Exiqon) を用いてFISHを行った。その後、CD63抗体で免疫蛍光染色し、Nikon Eclipse 80i共焦点顕微鏡で観察した。
- アポトーシス誘導実験: MDA-MB-231細胞をエトポシド (100 μM) で24-72時間処理し、トリパンブルー染色で細胞死を定量した (n=7 replicates)。また、BCL2またはdominant-negative caspase-9 (caspase-9DN) をレトロウイルスで発現させてアポトーシスを阻害し、エクソソームおよびL-エクソソームの放出への影響を評価した (n=7 replicates)。
ヒト母乳解析:
- ヒト母乳 (3ドナー各800 μl) のP70画分を調製し、同様の勾配解析とmiRNA定量を行った。統計解析にはTaqMan qRT-PCRのデータに対してペアT検定 (paired T-test) を用いた。