- 著者: M. Rezaa Mohammadi, Milad Riazifar, Egest J. Pone, Ashish Yeri, Kendall Van Keuren-Jensen, Cecilia Lässer, Jan Lotvall, Weian Zhao
- Corresponding author: Weian Zhao (Department of Pharmaceutical Sciences, University of California, Irvine, CA, USA)
- 雑誌: Methods
- 発行年: 2020
- Epub日: 2019-10-25
- Article種別: Protocol
- PMID: 31669353
背景
間葉系幹細胞 (MSC) は、心筋、骨、軟骨、腎臓、肺など多様な疾患に対する数百件の臨床試験が実施されている細胞治療の主力候補である。MSCの作用機序としてパラクリン分泌が重要とされ、特にMSC由来細胞外小胞 (EV) が治療効果の一部を担うことが示唆されている。実際に、MSC由来EVは黄斑孔、1型糖尿病、急性虚血性脳卒中を対象とした臨床試験が進行中である Wiklander et al. SciTranslMed 2019。EVは、エクソソーム (30〜150 nm; 多胞体の外方出芽に由来)、微小胞 (MV、マイクロパーティクル、エクトソーム; 50〜1,000 nm; 形質膜からの直接出芽)、およびアポトーシス小体 (apoptotic body) に大別される Thery et al. JExtracellVesicles 2018。
MVは、RNAや機能タンパク質などの細胞質カーゴを供与細胞から受容細胞に水平伝達し、炎症、凝固、腫瘍進展などに関与することが知られている Ratajczak et al. Leukemia 2006 Skog et al. NatCellBiol 2008 Antonyak et al. ProcNatlAcadSciUSA 2011。MSC由来MVは、急性腎尿細管損傷からの回復 Bruno et al. JAmSocNephrol 2009、重症肺炎 Monsel et al. AmJRespirCritCareMed 2015、変形性関節症 Tofino et al. CellPhysiolBiochem 2018、腎虚血再灌流障害 Wu et al. JCellBiochem 2018 など、多様な疾患モデルで治療効果を示すことが報告されている。また、免疫療法分野では、MSC由来EVがブドウ膜炎、移植片対宿主病 (GvHD)、1型糖尿病などの炎症性・自己免疫疾患において免疫調節効果を示すことが前臨床研究で示されている Shigemoto et al. StemCellRep 2017。
しかし、MSC由来MVの標準化された単離・特性評価プロトコルは未確立であり、MISEV2018ガイドラインが示す「複数マーカーによる多モーダル特性評価」の具体的実装が不足していた。特に、超遠心法はEV単離のゴールドスタンダードとされているものの、MVとエクソソームの完全な分離は困難であるという課題が残されていた Mathieu et al. NatCellBiol 2019。さらに、インターフェロンγ (IFNγ) によるMSCの免疫調節機能強化は知られていたが、IFNγ刺激がMV産生およびその免疫調節カーゴに及ぼす影響は未解明であった。これらのギャップを埋めるため、高純度・高収率なMV単離法の確立と、多角的な特性評価、および機能検証が求められていた。
目的
本研究の目的は、ヒト骨髄由来MSC (未刺激ネイティブおよびIFNγ刺激) からの微小胞 (MV) を超遠心法で高純度・高収率に単離するプロトコルを確立することである。さらに、ウェスタンブロット (WB)、フローサイトメトリー (FCM)、透過型電子顕微鏡 (TEM)、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA)、RNAシーケンス (RNA-seq)、プロテオミクスという6種の相補的手法を用いてMVカーゴを多層的に特性評価する。最終的に、MSC由来MV、特にIFNγ刺激由来MVの制御性T細胞 (Treg) 誘導能を検証し、親細胞の刺激がMVの機能に与える影響を明らかにすることを目指す。
結果
MVの単離収量と物理的特性: 2.1〜3.3×10^8個のNative-MSCから、NTAによる定量でMV 6.15×10^8 ± 9.7×10^6個が得られた (タンパク換算41.5 ± 10.5 μg)。MVの平均サイズは147 ± 76 nmであり、TEMで100〜200 nm程度のソーサー型円形小胞が観察され、文献上のMV粒径範囲と一致した (Figure 2C, D)。IFNγ刺激MSCからは1.31×10^9 ± 6.7×10^6個のMV (134 ± 46 nm; タンパク47.7 ± 21.9 μg) が得られ、IFNγ刺激によりMV産生量が約2倍に増加することが示された。この結果は、IFNγ刺激がMSCのMV産生を促進する可能性を示唆する。
マーカープロファイルによるMV同一性の確認: ウェスタンブロット (WB) 解析では、両条件のMVがTSG101陽性を示し、CD81は最小限の発現にとどまった (Figure 2A)。一方で、小胞体 (ER) マーカーであるカルネキシン (Calnexin) が陽性を示し、一部のMSC由来MVがER由来である可能性が示唆された。この特性は、エクソソーム (CD63、CD81、TSG101陽性、カルネキシン陰性) とは異なり、カルネキシンとCD81がエクソソームとMVを鑑別する指標となり得ることが示された。フローサイトメトリー (FCM) 解析 (CD63ビーズ法) では、MV表面にCD63陽性 (陽性対照) が確認されたが、CD9およびCD81は最小限または未検出であった (Figure 2B)。MISEV2018ガイドラインが求める最低3マーカー (+ 1汚染マーカー陰性) を上回る5マーカー (CD9、CD63、CD81、TSG101、Calnexin) でのMV同定が達成された。これらの結果は、単離された小胞がMVの特性を保持していることを強く支持する。
RNAカーゴのシーケンシング解析: Native-MVのRNA-seqでは、coding RNAが93.78%、non-coding RNAが6.22%の組成であることが確認された (Figure 3A)。Non-coding RNAのうち、miRNA、siRNA、lincRNAなど多様な小分子調節RNAが検出された (Figure 3B)。IFNγ-MVではcoding RNA比率が96.29%と若干高く、小分子RNA組成にも変化が認められた (Figure 3C, D)。この結果は、IFNγ刺激が親細胞のRNAカーゴ積載プロセスを変化させることを示唆する。また、MVのmiRNAプロファイルはエクソソームのそれとは異なり、EVサブポピュレーション間でのカーゴ選択的積載の存在が示唆された。この選択的積載メカニズムは、MVの機能特異性を決定する上で重要であると考えられる。
プロテオミクス解析: Native-MVのLC-MS/MS解析により、親MSCとの共通タンパク質が756種存在しつつ、MV特異的に富化されたタンパク質が254種あることが判明した (Figure 4A)。Native-MVとNative-エクソソームとの共通タンパク質は98種のみであり、両者のプロテオームが質的に異なることが示された。IFNγ-MVでは、親IFNγ-MSCとの共通タンパク質が915種、IFNγ-エクソソームとの共通タンパク質が78種という組成を示し、IFNγ刺激によるプロテオームの再プログラムが確認された (Figure 4B)。IFNγ刺激は、既報の通り主要組織適合遺伝子複合体クラスII (MHCII)、プログラム細胞死リガンド1 (PD-L1)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ (IDO) など免疫調節タンパク質のMSC発現を増加させ、これがMVカーゴにも反映されることが示唆された。これらのタンパク質は、MVの免疫調節機能に寄与する可能性が高い。
IFNγ-MVのTreg誘導機能: Foxp3-eGFPマウス脾細胞にTGFβ1を添加した条件下でIFNγ-MVを共培養すると、CD4+CD25+FoxP3+ Tregの誘導が観察された (Figure 5C)。Native-MVでは同等のTreg誘導は確認されなかった (Figure 5A)。CD8+CD25+FoxP3+ TregはIFNγ-MVでも誘導されなかった (Figure 5D)。ただし、著者らは本データが予備的 (3〜5生物学的反復実験推奨に対し代表例のみ) であることを明示しており、方法論的実証を目的としたデータとして位置付けている。これらの予備データは、IFNγ刺激がMVの免疫調節能を強化する可能性を示唆する。
考察/結論
本研究は、ヒト骨髄由来MSCからの微小胞 (MV) 単離・特性評価の標準化プロトコルを確立し、2020年当時の最良実践を示す方法論論文として重要な位置付けを持つ。16,500×g 20分という段階超遠心法は、MVとエクソソームを遠心速度で分離する実用的かつ再現性の高い手法である。その後、MISEV2018ガイドラインが要求する多マーカー評価を上回る6法 (WB、FCM、TEM、NTA、RNA-seq、プロテオミクス) による多層的特性評価は、現代的EV研究の手法論的基準を提示した。
先行研究との違い: これまでの研究ではMVとエクソソームの鑑別が困難であったが、本研究のWB解析により、カルネキシン陽性かつCD81最小発現がMVの、カルネキシン陰性かつCD81陽性がエクソソームの鑑別マーカーとなり得るという新規の観察が得られた。これは、後の系統的EV分類体系に寄与する知見であり、これまでの報告とは異なる包括的なアプローチである。また、IFNγ刺激がMVの産生量とカーゴ組成に与える影響を多角的に解析した点も、先行研究とは異なる。
新規性: 本研究で初めて、IFNγ刺激がMSC由来MVの産生量を約2倍に増加させ、プロテオームを免疫調節方向に再プログラムし、TGFβ1共存下でのTreg誘導能を付与するという三重の効果を持つことを実証した。これは、cell-free治療の設計において親細胞の状態制御が治療用MVの機能を規定する重要な変数であることを示す新規の知見である。RNA-seqおよびプロテオミクス解析により、IFNγ刺激がMVのRNAおよびタンパク質カーゴの選択的積載を変化させるメカニズムが示唆された点も新規性がある。
臨床応用: 本知見は、MSC由来MVを自己免疫疾患、GvHD、神経炎症などのcell-free治療薬として開発するための実験的基盤を提供する点で臨床的意義が大きい。特に、IFNγ刺激によるMVの免疫調節能の強化は、より強力な治療効果を持つMVを設計するための戦略となり得る。MVの標準化された単離・特性評価プロトコルは、将来的なGMP準拠生産および臨床用品質基準の確立に不可欠である。
残された課題: 今後の検討課題として、Treg誘導の統計的検証をより多くの生物学的・技術的繰り返し実験で実施し、そのメカニズムを詳細に解析することが挙げられる。また、本プロトコルの無菌スケールアップ、GMP準拠生産、および臨床用品質基準の確立が残された課題である。さらに、MVの特定のカーゴがTreg誘導にどのように寄与するのか、その分子メカニズムの解明も今後の研究方向性となる。
方法
ヒト骨髄由来MSC (Texas A&M IRMD (Institute for Regenerative Medicine and Department) 提供; passage <5) を80%コンフルエントで、EV枯渇FBS (120,000×g 18 h超遠心処理済み) 含有完全培地に切り替えて3日間培養した。細胞は未刺激 (Native-MSC) またはIFNγ (10 ng/mL、48 h) 刺激後に条件培地を回収した。MVの単離は3段階の超遠心法で実施した: (1) 300×g 10 min (死細胞・デブリ除去)、(2) 16,500×g 20 min (Ti45固定角ロータ、4℃; MVペレット回収)、(3) PBS再洗浄 (16,500×g 20 min)、最終的にPBSに再懸濁して-80℃保存した。エクソソームは残余上清を120,000×g 2.5 hで追加ペレット化して得た。
MVの特性評価には以下の手法を用いた。WBでは、CD81、TSG101、カルネキシン (Calnexin) を検出した。FCMは、CD63抗体修飾磁気ビーズ (Life Technologies) にMV 15 μgを結合させ、PE標識抗CD9/CD63/CD81で染色後、FACSAria (フローサイトメトリー解析装置) で解析した。TEMは、formvar炭素コートグリッドにMVを吸着後、2%パラホルムアルデヒド固定、抗CD63一次抗体、10 nm金粒子二次抗体、グルタルアルデヒド二次固定、ウラニル酢酸染色を経て、70 kV (LEO 912AB Omega電子顕微鏡) で観察した。NTA (ナノ粒子トラッキング解析) はNanosight装置を用い、ブラウン運動追跡によるStokes-Einstein式でサイズと粒子濃度を定量した。
RNA-seqは、Illumina HiSeq 2500でlong RNA (深度約5,000万リード) とsmall RNA (約1,000万リード) の双方を実施した。リードはhg19/Ensembl 75にSTAR/Bowtieでアラインメントし、miRNA解析はsRNAbenchとmiRBase v21を使用した。プロテオミクスは、FASP-MMTS法でトリプシン消化後にLC-MS/MS (Orbitrap Fusion Tribrid + Q Exactive) で分析し、Proteome Discoverer+Mascotで同定・定量した (FDR <1%)。
Treg誘導アッセイは、Foxp3-eGFPマウス (B6.Cg-Foxp3tm2(EGFP)Tch/J) 脾細胞 (10^6/mL) を抗CD3 (1 μg/mL) + IL-2 (25 ng/mL) ±TGFβ1で刺激後にMV (0、0.2、2、20 μg/mL) と4日間共培養し、CD4+CD25+FoxP3+およびCD8+CD25+FoxP3+ TregsをFCMで定量した。統計解析には、各実験の性質に応じた適切な手法が用いられたが、Treg誘導アッセイのデータは予備的であり、代表的な結果のみが示された。本研究では、Student t-testを用いて統計的比較を行った。