- 著者: Kim JH, Park HE, Cho NY, Lee HS, Kang GH
- Corresponding author: Prof. Gyeong Hoon Kang (ghkang@snu.ac.kr、Department of Pathology, Seoul National University Hospital)
- 雑誌: British Journal of Cancer
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-07-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 27404452
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI)、特にPD-1/PD-L1経路を標的とした治療薬は、悪性黒色腫、非小細胞肺がん (NSCLC)、腎細胞癌、膀胱癌においてその有効性が示されてきた。具体的には、抗PD-L1抗体の安全性と活性に関する初期の報告では、様々な進行がん患者において有望な結果が示されている(Brahmer et al. NEnglJMed 2012)。また、抗PD-1抗体についても、その安全性、活性、および免疫学的相関が詳細に報告され、がん治療における新たな選択肢として注目を集めていた(Topalian et al. NEnglJMed 2012)。しかし、大腸癌 (CRC) 全体では、多くの症例がPD-1/PD-L1阻害療法に無応答であることが早期の臨床試験で明らかとなっていた。
この状況のなかで、Llosa et al. (Cancer Discov 2015) やLe et al. NEnglJMed 2015は、CRCの特定のサブセット、すなわちDNAミスマッチ修復 (MMR) 欠損を特徴とする高頻度マイクロサテライト不安定性 (MSI-H) の腫瘍がPD-1ブロッケードに有効に応答することを報告した。MSI-H CRCは、ゲノム全域のマイクロサテライト変異に起因して高いネオアンチゲン負荷を持ち、高密度の腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) と活発な腫瘍免疫微小環境 (TIME) を形成するため、抗PD-1/PD-L1療法の有力な候補とみなされていた。PD-L1発現は、抗PD-1/PD-L1療法への良好な応答と関連することが示唆されており(Herbst et al. Nature 2014、Taube et al. ClinCancerRes 2014)、MSI-H CRCにおけるPD-L1発現の特性理解は極めて重要であると考えられた。
しかしながら、すべてのMSI-H CRCが高PD-L1発現を示すわけではなく、MSI-H CRC内でのPD-L1陽性サブセットの詳細な臨床病理学的・分子的プロファイルは未解明のままであった。また、PD-L1発現を「腫瘍細胞における発現」と「免疫細胞における発現」に区別して評価することの生物学的意義についても体系的な検証は行われていなかった。理論的には、腫瘍細胞の構成的PD-L1発現(「自律型」)と免疫応答に誘導された発現(「適応型」)は異なるシグナリング経路により制御されるため、それぞれの臨床病理・予後への影響は異なる可能性があった。この知識のギャップを埋めることは、MSI-H CRCにおけるPD-1/PD-L1阻害療法の最適な適用を決定する上で不可欠であり、個々の患者に対する治療戦略の個別化に繋がる重要な課題が残されていた。
目的
本研究の目的は、208例のMSI-H CRCにおいて、免疫組織化学 (IHC) により腫瘍細胞および免疫細胞におけるPD-L1発現状態を後方視的に評価することである。具体的には、PD-L1陽性腫瘍細胞 (PD-L1+(T)) およびPD-L1陽性免疫細胞 (PD-L1+(I)) の各サブセットについて、その臨床病理学的・分子的特徴を詳細に解析する。さらに、これらのPD-L1発現サブセットが無病生存期間 (DFS) に与える影響を評価し、MSI-H CRCにおけるPD-L1発現の生物学的意義と、将来的な抗PD-1/PD-L1免疫療法のバイオマーカーとしての可能性を明らかにすることを目指す。本研究は、MSI-H CRCにおけるPD-L1発現の多様性を解明し、個別化医療の進展に貢献する基礎データを提供することを意図している。
結果
PD-L1発現頻度と重複パターン: 208例のMSI-H CRCのうち、PD-L1+(T)は26例 (12.5%) に、PD-L1+(I)は62例 (29.8%) に認められた。両者が同時に陽性となった症例はわずか12例 (5.8%) であり、PD-L1+(T)とPD-L1+(I)は主に独立した非重複サブセットを形成することが示された。この非重複性は、両者の発現制御メカニズムが本質的に異なることを示唆する重要な所見である。MSI-H CRC全体では、PD-L1+(T)またはPD-L1+(I)のいずれかを持つ症例が76例 (36.5%) に上り、MSI-H CRCの約3分の1超でPD-L1発現陽性を確認した。
PD-L1+(T)サブセットの臨床病理・分子特徴: PD-L1+(T)はPD-L1-(T)と比較して、多数の臨床病理的・分子的因子と有意に関連した (Table 1)。臨床病理的には、PD-L1+(T)群は高齢 (58歳以上: 73% vs 50%、p=0.027)、女性 (73% vs 44%、p=0.005)、浸潤型発育パターン (58% vs 22%、p<0.001)、進行病期 (Stage III/IV: 54% vs 32%、p=0.028)、リンパ管侵襲 (46% vs 23%、p=0.012)、高密度CD3+ T細胞浸潤 (CD3+≥50/HPF: 81% vs 43%、p<0.001)、高密度CD68+マクロファージ浸潤 (CD68+≥45/HPF: 71% vs 45%、p=0.018)、低分化 (G3: 65% vs 14%、p<0.001)、腫瘍出芽陽性 (5芽以上: 46% vs 16%、p<0.001)、非粘液性組織型 (65% vs 40%、p=0.013) と有意に関連した。分子的には、MLH1発現消失 (92% vs 59%、p=0.001)、PMS2発現消失 (92% vs 63%、p=0.003)、CIMP-H (58% vs 20%、p<0.001)、MLH1プロモーターメチル化 (65% vs 24%、p<0.001)、BRAF V600E変異 (23% vs 9%、p=0.048)、および散発性MSI-H (69% vs 31%、p<0.001) と有意に関連した。KRAS変異との有意な関連は認められなかった。DFS解析では、PD-L1+(T)群はPD-L1-(T)群と比較して不良な予後傾向を示したが、統計的有意差には達しなかった (ログランク検定 p=0.114)。
PD-L1+(I)サブセットの臨床病理・分子特徴: PD-L1+(I)はPD-L1-(I)と比較して、早期病期 (Stage I/II: 81% vs 59%、p=0.003)、中等度〜著明な腫瘍周囲リンパ球反応 (77% vs 46%、p<0.001)、高密度CD3+ T細胞浸潤 (77% vs 36%、p<0.001)、高密度CD68+マクロファージ浸潤 (70% vs 38%、p<0.001)、および非粘液性組織型 (55% vs 38%、p=0.022) と有意に関連した (Table 2)。一方、CIMP状態 (CIMP-H vs CIMP-L/0) および散発性/遺伝性の別とは有意な関連を示さなかった。この所見は、PD-L1+(I)が遺伝性 (Lynch症候群関連) および散発性の両サブタイプで生じうることを示唆し、PD-L1+(T)とは対照的に遺伝的背景に依存しないメカニズムによる発現であることが示された。DFS解析では、PD-L1+(I)群はPD-L1-(I)群と比較して良好な予後傾向を示したが、統計的有意差には達しなかった (ログランク検定 p=0.142)。この良好傾向は、PD-L1+(I)と関連する早期病期、高密度TIL、および豊富な腫瘍周囲リンパ球反応が独立した予後良好因子であることと整合的である。
原発巣と転移巣のPD-L1発現一致性: Stage IV MSI-H CRC 18例のうち、遠隔転移切除が施行された4例において、原発巣と転移巣のPD-L1発現状態を比較した。1例がPD-L1+(T)/PD-L1+(I)で、原発巣と転移巣 (肝転移巣および肺転移巣) の両方でPD-L1陽性発現が一致して認められた (Figure 1E, F)。残る3例はPD-L1+(T)/PD-L1+(I)ともに陰性であり、原発巣と転移巣で発現状態が一致していた。この極めて少数例の観察ではあるが、同一個体内でのPD-L1発現の時空間的一致性が示唆され、原発巣でのPD-L1評価が転移巣での発現状態の代理指標となりうる可能性を示した。しかし、腎細胞癌、膀胱癌、乳癌では原発と転移のPD-L1発現の不一致が一部で報告されており (Callea et al. Cancer Immunol Res 2015; Mukherji et al. Clin Genitourin Cancer 2016; Cimino-Mathews et al. Hum Pathol 2016)、本結果の一般化には大規模な比較研究が必要である。
考察/結論
本研究は、MSI-H CRCにおいて腫瘍細胞と免疫細胞のPD-L1陽性サブセットが持つ異なる生物学的実体を初めて体系的に分析した論文として位置付けられる。PD-L1+(T)とPD-L1+(I)が主として独立したサブセットを形成し (重複わずか5.8%)、各々が異なる臨床病理・分子的背景を持つという所見は、両者の発現制御メカニズムが根本的に異なることを示している。
先行研究との違い: これまでの研究ではMSI-H CRC全体でのPD-L1発現が議論されてきたが、本研究はPD-L1発現を腫瘍細胞と免疫細胞に明確に区別し、それぞれのサブセットが持つ独自の臨床病理学的・分子学的特徴を明らかにした点で、先行研究と異なるアプローチをとっている。特に、PD-L1+(T)が散発性高メチル化サブタイプに特異的に関連するという発見は新規性が高い。
新規性: PD-L1+(T)はCIMP-H、MLH1メチル化、BRAF V600E変異と強く関連し、散発性高メチル化MSI-H CRCサブタイプに特異的であるという新規の知見が得られた。BRAF V600EによるMAPK経路活性化がPD-L1発現を誘導する機序はメラノーマでも確認されており (Chen et al. Ann Oncol 2016)、本研究のBRAF変異とPD-L1+(T)の有意な関連 (p=0.048) と整合する。ただし、BRAF変異はPD-L1+(T)症例の23%にとどまり、CIMP-Hを背景としたその他のエピジェネティック機序も重要であることが示された。また、低分化、腫瘍出芽、浸潤型発育パターンとの相関は、EMT (上皮間葉転換) 特性を持つ腫瘍細胞でのPD-L1発現誘導を示す他臓器 (NSCLC、腎細胞癌、乳癌) の先行研究と合致する。
臨床応用: 散発性MSI-H CRCはDNA高メチル化とPD-L1+(T)の双方を示すことから、DNA脱メチル化薬 (DNMT阻害薬) と免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせが有望な治療戦略となりうる。Chiappinelli et al. (Cancer Res 2016) はこのエピジェネティック療法と免疫療法の協調作用を実験的に支持しており、散発性MSI-H CRCは最良の候補集団となりうる。本知見は、将来的な臨床応用において、特定のMSI-H CRCサブタイプに対する個別化された治療戦略の開発に貢献する臨床的意義を持つ。
PD-L1+(I)は早期病期、高密度TIL、豊富な腫瘍周囲リンパ球反応と特異的に関連し、MSI-H CRCの活発な抗腫瘍免疫応答により産生されるIFN-γを介した適応的PD-L1発現を反映していると解釈される。この免疫細胞リッチなサブタイプは良好な予後傾向 (ログランク検定 p=0.142) を示したが、これはTILの豊富さが一般的に大腸癌の予後と正相関することと整合的であった (Mei et al. Br J Cancer 2014)。
残された課題: 転移巣でのPD-L1発現が原発巣と一致したという観察 (n=4) は、原発巣での評価が転移の治療選択においても参考となる可能性を示唆するが、例数が極めて少なく一般化には限界がある。他の悪性腫瘍では原発と転移のPD-L1発現不一致が報告されており、より大規模な比較研究が必要である。本研究の限界として、後方視的デザイン、単施設中心の症例収集、ICI治療歴のないコホートでの評価という点が挙げられる。今後の研究課題として、PD-L1+(T)とPD-L1+(I)のICI応答率の差異、散発性MSI-H CRCでの脱メチル化薬とICI組み合わせの臨床試験、および原発・転移間のPD-L1発現一致性の大規模検証が挙げられる。本研究の分類システム (腫瘍細胞 vs 免疫細胞でのPD-L1評価を独立して行う手法) は、後続のCRC免疫療法バイオマーカー研究の設計においても参照すべき枠組みを提供している。
方法
対象症例の選択と組織マイクロアレイ (TMA) 作製: ソウル国立大学病院およびソウル国立大学盆唐病院で2004年から2008年の間に外科的切除されたMSI-H CRC 208例を対象とした。これらには208例の原発腫瘍組織と、遠隔転移組織4例が含まれる。全ての症例はホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) ブロックから組織マイクロアレイ (TMA) を作製し、各症例から代表的な腫瘍ブロックの異なる3領域から直径2mmのコアを3つ抽出した。本研究はソウル国立大学病院の倫理審査委員会 (SNUH IRB H-1203-072-402) の承認を得て実施された。
MSI確認およびMMRタンパク発現評価: MSI状態は、蛍光マルチプレックスPCRを用いてNCI推奨の5マーカー (BAT-25、BAT-26、D5S346、D17S250、D2S123) を解析することで確認した。さらに、MMRタンパク (MLH1、MSH2、MSH6、PMS2) の免疫組織化学染色を行い、全例でMMR欠損を検証した。MMRタンパクの発現は、腫瘍細胞の核染色が観察された場合に陽性、観察されなかった場合に陰性(欠損)と判定した。
分子分類: MSI-H CRCは分子プロファイルに基づいて散発性または遺伝性疑い症例に分類された。散発性MSI-H CRCは、CIMP-H (CpG島メチル化表現型高度)、MLH1プロモーターメチル化、またはBRAF V600E変異の少なくとも1つを満たすものと定義した。これらの基準を満たさない症例は、Lynch症候群関連疑いとされた。
PD-L1発現評価: PD-L1発現は、E1L3N抗体 (Cell Signaling Technology、希釈率1:50) を用いてVentana BenchMark XT自動免疫染色装置で実施した。PD-L1陽性腫瘍細胞 (PD-L1+(T)) は、腫瘍細胞の5%超で中等度 (2+) または強陽性 (3+) の膜および細胞質染色が認められる場合と定義した。PD-L1陽性免疫細胞 (PD-L1+(I)) は、免疫細胞の5%超で同様の染色パターンが認められる場合と定義した。最終スコアは3つのTMAコアの平均値とした。
腫瘍浸潤免疫細胞の評価: CD3+ T細胞 (Leica Biosystems) およびCD68+マクロファージ (Leica Biosystems) の密度は、TMAコアの最も密度の高い領域において、×400倍の視野 (HPF) あたり手動で細胞数を計測した。CD3+ T細胞はHPFあたり50個以上で高密度、CD68+マクロファージはHPFあたり45個以上で高密度と定義した。2例はCD3解析から、11例はCD68解析から、TMAコア切片の品質が不十分であったため除外された。
その他の分子解析: CIMP状態は8つのCIMPマーカー (MLH1、NEUROG1、CRABP1、CACNA1G、CDKN2A、IGF2、SOCS1、RUNX3) を用いたMethyLight法により定量的に測定し、CIMP-high (CIMP-H)、CIMP-low (CIMP-L)、CIMP-negative (CIMP-0) の3つの表現型に分類した。KRAS (コドン12/13) およびBRAF (コドン600) 変異は、アレル特異的PCRとSangerシーケンスにより解析した。KRAS変異解析では、DNA量不足または品質不良のため7例が除外された。
臨床病理学的データ収集: 年齢、性別、腫瘍部位、TNM病期 (AJCC/UICC基準)、腫瘍分化度 (WHOグレード)、浸潤型発育パターン (Jass基準)、粘液産生の有無、印環細胞癌組織型、髄様癌組織型、鋸歯状腺癌組織型、腫瘍出芽、腫瘍周囲リンパ球反応 (軽度/中等度/著明)、Crohn様リンパ球反応、リンパ管侵襲、神経周囲浸潤などの臨床病理学的データを後方視的に収集した。
統計解析: 全ての統計解析はIBM SPSS statistics version 20を用いて実施された。カテゴリカル変数の比較にはχ²検定またはFisherの正確検定を用いた。無病生存期間 (DFS) の比較には、Kaplan-Meier法とログランク検定を用いた。全てのP値は両側検定であり、p<0.05を有意差ありと判断した。