- 著者: Janis M. Taube, Alison Klein, Julie R. Brahmer, Haiying Xu, Xiaoyu Pan, Jung H. Kim, Lieping Chen, Drew M. Pardoll, Suzanne L. Topalian, Robert A. Anders
- Corresponding author: Janis M. Taube (Johns Hopkins University School of Medicine); Suzanne L. Topalian (Johns Hopkins University School of Medicine)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-04-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 24714771
背景
PD-1/PD-L1経路は腫瘍免疫回避の主要機構であり、抗PD-1抗体 (ニボルマブ) はメラノーマ、非小細胞肺癌 (NSCLC)、腎細胞癌 (RCC) などで約30%の客観的奏効率を示すことが、Topalian et al. NEnglJMed 2012 や Brahmer et al. JClinOncol 2010 の先行研究で報告されている。著者らはニボルマブのフェーズI試験 (NCT00730639) において、前治療腫瘍検体におけるPD-L1発現と治療応答の相関を先行報告していた。しかし、腫瘍細胞のPD-L1発現に加えて、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の存在、PD-1発現、PD-L2発現、免疫浸潤強度、B細胞浸潤など、複数の腫瘍微小環境因子と治療応答との詳細な相互関係は未解明であった。どの腫瘍微小環境 (TME) 特性が最も治療応答と関連するかを明らかにすることは、患者選択に直結する臨床的課題として、知識のギャップが残されており、この点が不足していた。
目的
進行固形腫瘍に対するニボルマブ治療を受けた患者の前治療腫瘍検体において、PD-L1、PD-1、PD-L2、TIL浸潤強度、B細胞、免疫浸潤量などの腫瘍微小環境因子の相互関係と、客観的奏効 (RECIST) および臨床的ベネフィットとの相関を系統的に解析することを目的とした。
結果
腫瘍型別PD-L1発現率と免疫浸潤との地理的関連: 41例68検体の評価において、腫瘍細胞PD-L1陽性率は腫瘍型間で有意に差異があった (p=0.005)。メラノーマは53% (16例中8例)、NSCLCは53% (12例中6例)、RCCは89% (6例中5例) と高率であったのに対し、大腸癌は13% (5例中1例)、CRPCは0% (2例中0例) であった (Table 2)。腫瘍細胞PD-L1発現は浸潤免疫細胞 (TILおよび組織球) と地理的に有意に共局在しており (34例中33例、p=0.001)、PD-L1陽性腫瘍細胞と免疫細胞が接触界面を形成するという「適応免疫抵抗性」パターンが確認された (Figure 1A)。腫瘍細胞PD-L1発現比率は免疫浸潤強度と有意に正相関した (Kruskal-Wallis p=0.003)。この結果は、PD-L1発現が免疫活性な微小環境を反映していることを裏付ける。
TME因子間の相互関係:PD-1・PD-L2・B細胞との連関: TILのPD-1発現は腫瘍細胞PD-L1発現 (p=0.001)、浸潤免疫細胞PD-L1発現 (p=0.005)、免疫浸潤強度 (Kruskal-Wallis p=0.002)、リンパ球凝集塊存在 (Fisher正確検定p=0.010) の全てと有意に相関しており (Table 2)、PD-1陽性TILの存在が免疫活性化のマーカーとして機能することを示した。PD-L2発現は38検体中8例 (21%) と少なく、いずれもPD-L1発現と地理的に関連していた (p=0.053) (Figure 3)。CD20陽性B細胞の存在は腫瘍細胞PD-L1発現 (p=0.006) および浸潤免疫細胞PD-L1発現 (p=0.017) と有意に相関しており (Table 2)、B細胞を含む免疫浸潤が適応免疫抵抗性の誘導に関与することを示唆した。
治療奏効率と腫瘍PD-L1発現との相関:主要知見: 41例中10例が客観的奏効 (CR2例、PR8例)、2例が6ヵ月以上安定 (clinical benefit合計12例、29%) であった。治療開始前最直近検体での解析において、腫瘍細胞PD-L1陽性 (≥5%) 群 (23例) の客観的奏効率は39% (9/23例) であったのに対し、PD-L1陰性群 (18例) では6% (1/18例) であり、有意差を示した (Fisher正確検定p=0.025) (Table 3)。Clinical benefitでもPD-L1陽性群52% vs 陰性群6%と更に有意な差 (p=0.005) が示された。奏効した10例のうち9例がPD-L1陽性であり、腫瘍細胞PD-L1発現がニボルマブ奏効の必要条件に近い因子であることが初めて系統的に示された。
TIL浸潤単独は奏効と無相関:免疫浸潤存在の不十分性: 浸潤免疫細胞 (TIL、組織球) のPD-L1発現は客観的奏効との関連が有意でなく (p=0.142)、臨床的ベネフィットとは有意 (p=0.038) と腫瘍細胞PD-L1より弱いシグナルであった (Table 3)。重要なことに、免疫浸潤の存在 (スコア0 vs ≥1) は客観的奏効 (p=0.410)、clinical benefit (p=0.240) のいずれとも有意な相関を示さなかった。TILのPD-1発現は奏効との関連が境界域に留まった (p=0.067)。これらの結果は「TILが存在するだけでは抗PD-1療法への応答を予測できない」ことを示し、T細胞の質的プロファイル (PD-L1との相互作用の有無) が量的浸潤よりも重要であることを実証した。
非応答例の検討とPD-L1陰性奏効例の存在: PD-L2、CD4:CD8比、CD20陽性B細胞、リンパ球凝集塊、壊死はいずれも治療応答と有意な相関を示さなかった (Table 3)。検体採取から治療開始までの時間間隔 (<1年 vs ≥1年) は奏効との相関なし (p=1.000) であり、生検の「新鮮度」は結果に影響しなかった。PD-L1陰性であっても1例の客観的奏効が観察されており (ORR 6%)、PD-L1陰性患者を完全に排除することへの懸念を残す。この知見はその後の大規模試験でも確認され、PD-L1が「陽性なら予測、陰性なら除外せず」という現在の臨床解釈の基礎を形成した。
考察/結論
本研究は、腫瘍細胞PD-L1発現がTMEの複数の免疫関連因子 (TIL浸潤、PD-1、B細胞) と相互に関連しているが、抗PD-1療法への客観的奏効と最も強く、独立して相関する因子であることを示した。PD-L1はインターフェロンγ (IFNγ) を産生するT細胞によって誘導される「適応免疫抵抗性」の指標であり、その発現は腫瘍免疫活性化の反映であるという概念を支持する。Taube et al. SciTranslMed 2012 の研究もこの概念を裏付けている。「TILが存在するだけでは応答を予測できない」という知見は、T細胞の機能的プロファイルと抑制性分子発現の重要性を示している。腫瘍細胞のPD-L1発現を「5%以上」と定義した場合でもこのシグナルは強固であり、PD-L1陰性患者の一部にも奏効例が存在するという後続試験の知見と組み合わせると、PD-L1は「陰性でも除外しない」参考マーカーとして位置づけられる。本研究は、現在のコンパニオン診断薬 (22C3、28-8など) を用いたPD-L1 IHC検査の臨床的基盤を提供した先駆的研究として重要な歴史的意義を持つ。
先行研究との違い: これまでの研究では、PD-L1発現と治療応答の関連が示唆されていたものの、PD-1、PD-L2、TIL浸潤強度、B細胞などのTME因子との詳細な相互関係と、それらが治療応答にどのように寄与するかの包括的な解析は不足していた。本研究は、これらの複数の因子を同時に評価し、腫瘍細胞PD-L1発現が最も強く治療応答と関連することを示した点で、先行研究と異なる。
新規性: 本研究で初めて、腫瘍細胞PD-L1発現が抗PD-1療法への客観的奏効と最も強く相関する単一因子であることを、複数のTME因子との比較において系統的に実証した。また、TILの存在自体は応答と相関しないという知見は、T細胞の機能的プロファイルの重要性を示す新規な発見である。
臨床応用: 本知見は、抗PD-1療法における患者選択の最適化に直結する臨床的意義を持つ。腫瘍細胞PD-L1発現をバイオマーカーとして用いることで、治療効果が期待できる患者を特定し、不必要な治療や副作用から患者を保護できる可能性がある。これは、現在の臨床現場におけるPD-L1検査の基礎を築いたと言える。
残された課題: 今後の検討課題として、PD-L2や他の免疫チェックポイント分子、制御性T細胞、骨髄由来免疫抑制細胞 (MDSC) を含む多因子パネルの予測価値評価が挙げられる。また、治療中の生検による免疫プロファイルの変化を解析し、PD-L1陰性腫瘍が治療によってPD-L1陽性腫瘍に転換する可能性についても検討が必要である。
方法
本研究では、Johns Hopkins Kimmel Cancer CenterでNCT00730639試験に参加した41例 (メラノーマ16例、NSCLC12例、RCC6例、大腸癌5例、去勢抵抗性前立腺癌 (CRPC) 2例) の前治療腫瘍検体68個 (1患者あたり1〜5個) をホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 組織で評価した。ボード認定病理医2名が臨床転帰に盲検化された状態で、PD-L1 (5H1モノクローナル抗体 (mAb))、PD-1 (M3 mAb)、PD-L2 (MIH18 mAb) を免疫組織化学 (IHC) で染色し、腫瘍細胞および浸潤免疫細胞における膜型発現を5%間隔で独立にスコアリングした (≥5%を陽性と定義)。また、CD3、CD4、CD8、CD20、CD68も評価した。免疫浸潤強度は0〜3の半定量スコアで評価し、TILのPD-1発現は「none/focal/moderate/severe」で分類した。腫瘍生検のサイズ (コア針生検 vs 切除検体) や、生検採取から治療開始までの時間間隔 (1日〜12年) と結果との関連も検討した。臨床応答 (RECIST1.0改訂版) との相関は、Fisher正確検定 (Fisher exact test) を用いて解析した。複数の検体がある患者については、治療開始に最も近い検体、または各変数の最高発現を示す検体を用いて解析を行った。統計解析にはSTATA V11ソフトウェアパッケージを使用し、p値が0.05未満を有意とした。