- 著者: Shunsuke Kitajima, Tetsuo Tani, Benjamin F. Springer, Marco Campisi, Tatsuya Osaki, Koji Haratani, Minyue Chen, Erik H. Knelson, Navin R. Mahadevan, Jessica Ritter, et al.
- Corresponding author: Shunsuke Kitajima (Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo); David A. Barbie (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-09-22
- Article種別: Original Article
- PMID: 36150391
背景
KRAS-LKB1 (KL) 共変異非小細胞肺癌 (NSCLC) は、PD-1/PD-L1阻害剤に対して原発性耐性を示す免疫学的に「コールド」な腫瘍サブタイプである。STK11/LKB1変異は、KRAS変異NSCLCにおける抗PD-1耐性の独立した予測因子として臨床的に確認されており、Skoulidis et al. CancerDiscov 2018やRizvi et al. JClinOncol 2018によって報告されている。KL細胞では、EZH2を介したヒストンH3K27メチル化とDNMT1誘発プロモーターメチル化によってSTING発現がエピジェネティックにサイレンシングされており、これがT細胞浸潤不全と抗PD-1耐性の主要な分子基盤とされてきた。このSTINGサイレンシングは、オートファジー欠損に起因するミトコンドリアDNAの細胞質漏出を回避するための選択圧として生じると理解されており、その結果としてcGAS-STING-STAT1軸の下流細胞毒性から腫瘍細胞が保護されている。このメカニズムはKitajima et al. CancerDiscov 2019によって詳細に報告されている。
一方、KL細胞の多くはcGAS発現を保持しており、細胞質dsDNAが存在すれば理論上2’,3’-cGAMPを産生できる状態にある。この「cGAS保持・STINGサイレンシング」という非対称な状態がKL細胞の特有の脆弱性を形成し、細胞内2’,3’-cGAMP蓄積に対する過敏性として現れることが先行研究で示唆されていた。しかし、外因性STINGアゴニスト (ADU-S100などの合成cyclic dinucleotide) は細胞膜透過性が低くKL腫瘍細胞への直接作用が限定的であるため、内因性2’,3’-cGAMP産生を誘導する治療戦略が必要とされていた。この点において、既存の治療法ではKL肺癌の免疫原性を回復させるための効果的なアプローチが不足していた。特に、cGASを活性化し、かつSTINGの脱抑制を同時に達成する治療法の開発は未開拓の領域であり、この治療ギャップを埋めることが重要な課題である。本研究は、この「内因性cGAS活性化 + STING de-repression」というデュアル戦略によってKL変異NSCLCの免疫原性を回復する新規アプローチを体系的に確立したものである。
目的
本研究の目的は、KL細胞の細胞内2’,3’-cGAMP蓄積への特異的過敏性を利用し、cGAS感知を介したマイクロヌクレイ形成によってSTING経路を再活性化できる既存臨床薬を非バイアススクリーンで同定することである。さらに、エピジェネティック療法 (decitabine/GSK126) との逐次投与によって、T/NK細胞浸潤と抗PD-1治療効果をin vitroおよびin vivoで回復させる治療戦略を前臨床的に確立することを目指した。これにより、KL変異NSCLCの免疫原性を回復させ、臨床応用可能な新規治療法を開発することが最終的な目標である。
結果
KL細胞の2’,3’-cGAMP過敏性メカニズムの解明: KL細胞 (H1944、H2122) はcGAS強制発現後、KP細胞 (H2009、H358) に比べてはるかに低い2’,3’-cGAMP産生レベル (H1944 vs H2009で細胞内2’,3’-cGAMPが有意に低値、p<0.01) でも有意に高いCXCL10 (n=3 replicates、mean ± SD、p<0.01) とIFNβ分泌、STAT1活性化を示した。これはKL細胞が少量の2’,3’-cGAMP蓄積に対して過敏にSTAT1依存的細胞毒性を生じることを示唆する。STAT1阻害によりcGAS誘発増殖抑制・アポトーシス・CXCL10産生が消失したことから、KL細胞が細胞内2’,3’-cGAMPを最小化する機構は下流STAT1毒性を回避するためであると確認された。触媒不活性型cGAS (K414R) はH1944で許容されたが野生型cGASは許容されず、またLKB1除去によりKP細胞でも野生型cGAS蓄積が障害されることも確認した。STING Absent細胞株 (H1355等) では外因性CDNへの応答が消失しており、この過敏性はSTING発現を要する (Figure 1)。
MPS1阻害剤CFI-402257のマイクロヌクレイ形成を介したcGAS-STING特異的活性化: 非バイアス薬剤スクリーンにおいて、200 nM CFI-402257 (MPS1阻害剤) は48時間パルス処置後にH1944 KL細胞でCXCL10・IFNβ分泌を最大化し、cGAS欠損H2122では誘導されなかった (特異性確認)。CFI-402257は他剤 (cisplatin、etoposide、pemetrexed等) と異なりG2/M停止を誘発せず細胞が有糸分裂を通過できるため、異常染色体分配からマイクロヌクレイ形成が他の薬剤より際立って多く生じた。CXCL10 mRNA発現と各薬剤処置後のマイクロヌクレイ数は直接相関 (Pearson r相関、CFI-402257が明確な外れ値) し、Lamin B2過剰発現によるマイクロヌクレイ破壊抑制でCXCL10産生が消失したことから、マイクロヌクレイ由来dsDNAのcGAS認識が主要メカニズムと確定した。同様の効果はBAY-1217389およびCC-671 (別のMPS1阻害剤) でも再現され、off-target効果ではなくMPS1阻害自体の効果であることが確認された。またMPS1i (MPS1阻害剤) 処置後のCXCL10誘導・STAT1活性化・細胞死誘発はcontinuous 96時間処置よりpulse 48時間処置 + 24時間解除で顕著であり、分裂中の腫瘍細胞と非分裂TME免疫細胞との治療窓が示された。終末分化マクロファージ様THP1細胞では200 nM CFI-402257がSTING経路を活性化しなかったこと (一方10 μM ADU-S100には高感受性) も、この選択性を支持する (Figure 2, Figure 3)。
Decitabine → pulse MPS1i逐次投与によるSTING全面de-repressionと免疫細胞動員: STING Absent KL細胞A549はCFI-402257単独にはほぼ無感受性であったが、100 nM DAC (decitabine) 前処置 (STINGプロモーターの脱メチル化 → STING発現回復) 後のpulse MPS1i (MPS1阻害剤) 処置で強力なCXCL10・IFNβ産生が誘導され (n=4 replicates、mean ± SD、p<0.01)、この効果はcGAS/STING/STAT1の各knockoutで完全消失した。5 μM GSK126 (EZH2阻害剤) の追加でH3K27me3を同時に除去するとSTING発現回復とCXCL10誘導がさらに増強された。MHC class I (HLA-A/B/C) 発現およびPD-L1発現もMPS1i処置後に有意に上昇し (フローサイトメトリーでMFI定量)、STINGまたはIFNAR1欠損で消失した。3Dマイクロフルイディクス実験ではCFI-402257処置H1944 KL細胞球状体へのJurkat-CXCR3 T細胞およびNK-92細胞の遊走が有意に促進され、DAC + GSK126前処置のA549球状体でもこれが再現された (n=18 replicates、ImageJ定量)。患者由来KL PDX細胞株 (DFCI-316, DFCI-332) ではDAC ± GSK126 + pulse MPS1i前処置後にPBMC由来T細胞との共培養でグランザイムB産生が有意に増加 (n=6 replicates、mean ± SD、p<0.01) し、3D培養へのT細胞浸潤も増加した (n=33 replicates) (Figure 4, Figure 5)。
Syngeneic in vivoモデルでの持続的腫瘍制御と抗PD-1増感: 393P-KL細胞 (マウスKLモデル、STING抑制・IL-6高発現・CD8+ T細胞排除) を129S2マウスに皮下接種し、DAC (0.5 mg/kg × 7日間) → BAY-1217389 (5 mg/kg × 2日間pulse) 逐次投与を行った薬力学的試験で、腫瘍内STING発現回復とCxcl10 mRNA上昇が確認され (各群n=4 mice、mean ± SD、p<0.01)、IHCでCD3+ / CD8+ T細胞が腫瘍辺縁から内部へ再分布した (n=6 mice)。長期有効性試験ではパルス2回コース (DAC × 2 + BAY-1217389 pulse × 2) で7例中6例が12週後も腫瘍縮小を維持し (DAC単独8例中2例、BAY単独or vehicleは0例と比較してp<0.01、χ2検定)、体重減少などの毒性なし。CD8+ T細胞除去抗体投与で逐次療法の腫瘍縮小効果が有意に減弱 (p<0.05) し、STING欠損393P-KLではin vivo活性消失したことから、効果はCD8+ T細胞と腫瘍内STING活性化に依存することが実証された。抗PD-1抗体三剤併用ではさらに持続的奏効割合が増加し (p<0.05、χ2検定)、Treg (CD25+ Foxp3+) の腫瘍内枯渇という免疫プロファイル変化も観察された (Figure 6, Figure 7)。
考察/結論
本研究は、KL NSCLC特有の「cGAS保持・STINGサイレンシング」という分子的脆弱性を標的とした新規免疫原性増強戦略を体系的に確立した。MPS1阻害剤は紡錘体チェックポイント阻害 → 染色体不分離 → マイクロヌクレイ形成 → cGAS活性化という経路でKL細胞内に内因性2’,3’-cGAMPを産生させ、STINGサイレンシングの上流から経路を再活性化するというアプローチである。
先行研究との違い: これまでの外因性STINGアゴニストを用いた研究と異なり、本研究は膜透過性の問題がある外因性CDNを使用せずに細胞内因性cGAS活性化という迂回戦略を採用した点で新規性がある。また、非バイアス薬剤スクリーンで既存臨床化合物の中からMPS1阻害剤を同定した点も、これまでの研究とは異なるアプローチである。さらに、パルス投与による増殖細胞選択的作用がTME非分裂細胞 (免疫細胞) に影響しないという治療窓を実証した点も、先行研究では十分に検討されていなかった。
新規性: 本研究で初めて、MPS1阻害剤がマイクロヌクレイ形成を介してcGAS-STING経路を強力に再活性化することを発見した。特に、エピジェネティック阻害剤 (decitabine/GSK126) によるSTING脱抑制後のMPS1阻害剤パルス投与が、T/NK細胞浸潤と抗PD-1効果を回復させ、in vivoで持続的な抗腫瘍効果を示すことを新規に示した。
臨床応用: DAC (decitabine) によるエピジェネティックSTING de-repression → pulse MPS1i (MPS1阻害剤) によるcGAS活性化 → 抗PD-1免疫チェックポイント解除という三剤逐次レジメンは、KL変異NSCLCの免疫療法抵抗性を克服する合理的な治療設計であり、各剤が異なる分子標的を有することで相乗効果が生まれる。CFI-402257やBAY-1217389などのMPS1阻害剤を使用した臨床試験への発展が期待され、decitabineは既に血液悪性腫瘍で承認済みの薬剤であることから固形腫瘍への適応拡大の臨床的意義も大きい。
残された課題: 今後の検討課題として、最適なDAC投与量・期間とMPS1iパルス間隔の決定、STINGサブタイプ別 (Low vs Absent) の応答予測バイオマーカーの開発が残されている。また、ヒトKL NSCLCでのこのレジメンの第I/II相試験データ、さらにMPS1iが誘発したIFNβシグナルを介したEV (エクソソーム) へのパッキングや細胞間伝達への影響についての検討も今後の課題として挙げられる。LKB1変異を有するKRAS野生型腫瘍における本治療戦略の有効性についても、さらなる研究が必要である。
方法
複数のKL細胞株 (H1944: cGAS発現保持・STING Low、H2122: cGAS欠損・STING Low、H1355: cGAS保持・STING Absent、A549: STING Absent等) とKP細胞株 (H2009、H358、H441、H1792) を用い、cGAS強制発現・2’,3’-cGAMP外因性処置による感受性比較を実施した。H1944 (cGAS発現保持) とH2122 (cGAS欠損) をモデルとした非バイアス薬剤スクリーン (化学療法6剤 + 標的薬10剤: cisplatin、docetaxel、etoposide、pemetrexed、olaparib、barasertib、MK5108、MK1775、ceralasertib、prexasertib、CFI-402257 (MPS1阻害剤)、volasertib等) を実施し、2’,3’-cGAMP産生誘導能をELISAで評価した。IC50の決定後、各薬剤を48時間パルス処置し、CXCL10/IFNβ分泌、STAT1活性化、マイクロヌクレイ数を評価した。
EZH2阻害剤GSK126およびDNMT阻害剤decitabine (DAC) によるSTING de-repressionとpulse MPS1i (MPS1阻害剤) の逐次投与の効果を、STING LowおよびSTING Absent KL細胞で検証した。3Dマイクロフルイディクスシステムを用いたT/NK細胞 (Jurkat-CXCR3、NK-92、PBMC由来T細胞) 遊走アッセイを実施した。患者由来PDX細胞株 (DFCI-316, DFCI-332) でPBMC共培養・グランザイムB産生評価を行った。
In vivo試験は、syngeneic 129S2/SvPasCrlマウスに393P-KL細胞を皮下接種し、DAC (0.5 mg/kgを7日間) に続きBAY-1217389 (5 mg/kgを2日間パルス) の逐次投与スキームで腫瘍体積、T細胞浸潤、抗PD-1三剤併用効果を評価した。免疫細胞のプロファイリングはフローサイトメトリーで実施し、CD8+ T細胞の枯渇実験も行った。腫瘍組織の免疫組織化学 (IHC) 染色には、Bankhead et al. SciRep 2017を用いてCD3+およびCD8+ T細胞の浸潤を定量的に解析した。統計解析には、unpaired two-tailed Student’s t-test、one-way ANOVA、two-way ANOVA、Tukey’s post-hoc test、Sidak’s post-hoc test、χ2検定を用いた。