- 著者: Ivan Liadi, Harjeet Singh, Gabrielle Romain, Nicolas Rey-Villamizar, Amine Merouane, Jay R T. Adolacion, Partow Kebriaei, Helen Huls, Peng Qiu, Badrinath Roysam, Laurence J.N. Cooper, Navin Varadarajan
- Corresponding author: Navin Varadarajan (University of Houston); Laurence J.N. Cooper (MD Anderson Cancer Center)
- 雑誌: Cancer Immunology Research
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-02-24
- Article種別: Original Article
- PMID: 25711538
背景
CD19特異的CAR (chimeric antigen receptor; キメラ抗原受容体) 発現T細胞療法は、B細胞性悪性腫瘍に対して極めて高い臨床効果を示している。治療を成功に導く重要な因子として、輸注されたCAR+ T細胞が腫瘍微小環境内で持続的に生存し、複数の腫瘍細胞を連続的あるいは同時に殺傷する「マルチキリング能」が挙げられる。これまでの養子免疫療法の研究では、直接的な細胞傷害活性を担うCD8+ T細胞 (CAR8細胞) に焦点が当てられてきた。一方で、CD4+ T細胞もまた抗腫瘍免疫において重要なヘルパー機能を果たすことが、Dudley et al. Science 2002やKalos et al. SciTranslMed 2011、Grupp et al. NEnglJMed 2013などの臨床・前臨床研究から示唆されていた。しかし、個々のCD4+ CAR+ T細胞 (CAR4細胞) が直接的に腫瘍細胞を殺傷できるのか、さらに複数の腫瘍細胞を同時に標的とするマルチキリングに関与できるのかという動態メカニズムは、単細胞レベルでの直接的な検証がなされておらず未解明であった。また、CAR4細胞とCAR8細胞の細胞傷害効率の差異や、エフェクター細胞の運動性がキリングおよびAICD (activation-induced cell death; 活性化誘導細胞死) に与える影響についての詳細な知見も不足していた。この機能的不均一性と動態に関する情報不足が、CAR-T細胞製品のポテンシー評価や治療最適化における大きな課題として残されていた。
目的
本研究の目的は、Sleeping Beauty (SB) トランスポゾンシステムを用いて作製したCD19特異的CAR4細胞およびCAR8細胞について、新規の単細胞動態解析プラットフォームであるTIMING (Timelapse Imaging Microscopy in Nanowell Grids; ナノウェルグリッド時間経過イメージング顕微鏡法) アッセイを適用し、単細胞解像度で腫瘍細胞との動的相互作用を定量的に解析することである。これにより、CAR4細胞が直接的な細胞傷害活性を持ち、かつ複数の腫瘍細胞と同時接合してマルチキリングを実行可能であることを世界で初めて直接実証することを目指した。さらに、CAR4細胞とCAR8細胞の殺傷速度や運動性、AICD感受性の差異を分子レベルで比較解析し、治療効果の高い高機能なキラーT細胞を識別するための動的パラメータおよびバイオマーカーを同定することを目的とした。
結果
CAR4細胞の腫瘍特異的殺傷能とマルチキリングの直接的証明: ナノウェルアレイを用いた単細胞アッセイにおいて、E:T比1:1の条件下で、CAR4細胞はCD19+標的細胞を55% (n=549 cells) の頻度で6時間以内に殺傷し、直接的な細胞傷害活性を示した。同条件におけるCAR8細胞の殺傷効率は77% (n=268 cells) であった。エンドポイントアッセイでは、CAR+ T細胞全体でCD19+ EL4細胞に対して29% (n=4048 cells) のアポトーシスを誘導したのに対し、CD19- EL4細胞に対してはわずか1% (n=3682 cells) であり、29-fold increase 以上の高い抗原特異的殺傷活性が実証された (p<0.0001, Fisher’s exact test) (Fig 1D)。さらに、E:T比1:2以上のマルチターゲット環境において、CAR4細胞が複数の腫瘍細胞と同時に接合を形成し、マルチキリングを実行する様子がタイムラプス画像により直接捉えられた (Fig 1E)。CAR4細胞によるマルチキリングイベントの61%が同時複数接合を介したものであり、これはCAR8細胞 (61〜64%) と同等であった。E:T比1:2ではCAR+ T細胞の21%が1個、23%が2個すべての標的を殺傷し (n=2294 cells)、E:T比1:3では22%が1個、22%が2個、9%が3個すべての標的を殺傷した (n=1108 cells)。これにより、マルチキラーCAR+ T細胞が全集団の20% (n=3402 cells) を占めることが明らかとなった。
CAR8細胞の運動性に基づくサブグループ分類と効率的キラーの特定: TIMING解析により、NALM-6細胞と接合した単一のCAR8細胞 (E:T 1:1) は、運動性、接合時間、および殺傷効率に基づいて3つの異なるサブグループ (S1, S2, S3) に分類された (Fig 2)。高運動性を示すS1サブグループ (全体の14%, n=37 cells) は、初期の探索フェーズ (tSeek 184±38分) を経て安定した接合 (tContact 98±13分) を形成し、効率的に腫瘍細胞死 (tDeath 204±35分) を誘導した。S1細胞は殺傷後に速やかに標的から脱着して移動を再開し、AICDの頻度も極めて低かった。一方、支配的なサブグループであるS2 (全体の49%, n=131 cells) は、迅速に接合 (tSeek 36±6分) し、持続的な接合 (tContact 145±16分) を維持して殺傷 (tDeath 158±18分) を行ったが、殺傷後も脱着せず、88%のエフェクター細胞が10時間以内にアポトーシス (AICD) を起こした。S3サブグループ (全体の21%, n=56 cells) は迅速なキラーであったが、脱着後に53%がアポトーシスに至った。この結果から、高い運動性を維持するT細胞 (S1) は、AICDへの抵抗性を持つ極めて効率的なシリアルキラーであることが示された。
CAR8細胞のマルチキリング動態と腫瘍細胞密度依存性: CAR8細胞と2〜5個のNALM-6細胞を共培養したマルチターゲット環境 (E:T 1:2-5) において、同時に2個以上の腫瘍細胞に接合するCAR8細胞の頻度は、標的細胞数の増加に伴い25%から49%へと上昇した (Fig 3A)。同時接合による殺傷頻度 (46%) は、逐次的な殺傷頻度 (49%) と同等であり、腫瘍密度に応じて両モードが使い分けられていることが示唆された。マルチキラーCAR8細胞 (n=70 cells) は、複数の腫瘍細胞と同時接合を形成しても運動性に有意な低下を示さなかった (dWell(未接合): 5.9±0.5 µm vs dWell(1個接合): 4.6±0.3 µm vs dWell(2個接合): 4.7±0.3 µm) (Fig 3B)。また、1番目の標的と2番目の標的に対する殺傷速度 (tDeath 1番目: 156±17分 vs 2番目: 177±24分) に有意差はなく、最初の殺傷イベントが次の殺傷効率に悪影響を及ぼさないことが確認された。
CAR4細胞とCAR8細胞の殺傷動態比較および運動性の予測因子としての有用性: E:T比1:1における集団全体の比較では、CAR4細胞の平均殺傷時間 (tDeath 284±11分, n=549 cells) はCAR8細胞 (163±12分, n=268 cells) よりも約2時間遅かった (Fig 4E)。しかし、高運動性を示すS1サブグループ同士の比較においては、CAR4細胞 (tDeath 157±17分, n=60 cells) とCAR8細胞 (tDeath 204±34分, n=37 cells) の間に有意な速度差は認められなかった。この事実は、T細胞の運動性 (dWell) が、CD4/CD8の系統に関わらず、優れた細胞傷害活性を持つエフェクター細胞を識別するための共通の機能予測因子となることを示している。
Granzyme B含量が殺傷速度差を規定する分子基盤: フローサイトメトリーによる単細胞解析の結果、CAR4細胞におけるグラニュームBの発現量 (38.6±0.2 AFU, n=2 donors) は、CAR8細胞 (267±2 AFU, n=2 donors) と比較して著明に低いことが判明した (p<0.0001, Student t-test) (Fig 5C)。健常ドナーPBMCのCD4+ T細胞 (2.36±0.01 AFU) およびCD8+ T細胞 (3.89±0.04 AFU) と比較すると、CAR導入および拡張培養により両サブセットともグラニュームBは大幅に増加していたが、CAR4とCAR8間には依然として大きな発現量差が存在していた。カルシウムキレーターであるEGTA (5 mmol/L) を用いた阻害実験では、CAR4細胞によるNALM-6、CD19+ EL4、およびDaudib2mに対する殺傷活性が著明に低下し、特にDaudib2mにおいては細胞傷害活性が完全に消失した (Fig 5D)。これにより、CAR4細胞の殺傷機序が主にカルシウム依存的な穿孔素・グラニューム経路に依存していることが実証された。
AICDのパターンと腫瘍密度依存性: E:T比1:1において、シングルキラーCAR8細胞はCAR4細胞よりも迅速にAICDを起こした (tAICD 221±14分 vs 328±19分) (Fig 6A)。興味深いことに、マルチターゲット環境 (E:T 1:2-5) においては、シングルキラー条件と比較してエフェクター細胞のAICD頻度が有意に低下した (Fig 6B)。4ドナー中3ドナーにおいて、マルチキラー細胞のAICD頻度は13〜25%と低値に抑えられたが、1ドナーでは58%と高値を示し、ドナー間の個人差の存在も示された。全体として、複数の腫瘍細胞との機能的接合 (マルチキリング環境) は、単一標的との持続的接合と比較してT細胞のアポトーシスを抑制し、生存維持に寄与することが示された。
考察/結論
本研究は、TIMINGプラットフォームを用いることで、CD4+ CAR-T細胞 (CAR4細胞) が単一の腫瘍細胞を殺傷するだけでなく、複数の腫瘍細胞と同時に接合を形成して効率的なマルチキリングを実行できることを単細胞解像度で初めて直接実証した。
先行研究との違い: 本研究は、直接的な細胞傷害活性は主にCD8+ T細胞 (CAR8細胞) が担うと考えられてきた従来の養子免疫療法研究と異なり、CAR4細胞がCAR8細胞と比較して殺傷速度が遅いものの、十分な直接的殺傷能を有することを示している。この速度差の分子基盤がグラニュームB含量の差異 (38.6±0.2 AFU vs 267±2 AFU) にあることを明らかにした点は、CD4+ T細胞分化の固有の制限を反映する重要な知見である。しかし、高運動性を示すS1サブグループにおいては、CAR4細胞とCAR8細胞の殺傷速度差が消失するという発見は、従来の単純なサブセット比較では見落とされていた機能的不均一性の存在を示すものであり、先行研究の知見を大きく拡張するものである。
新規性: 本研究で初めて、T細胞の「運動性 (dWell)」が、CD4+およびCD8+ CAR-T細胞の両方において、高い殺傷効率とAICD抵抗性を併せ持つ「スーパーキラー細胞」を識別するための極めて有用な動的パラメータであることを新規に同定した。また、シングルキラー環境よりもマルチキラー環境 (複数の腫瘍細胞との接合) の方が、T細胞のAICD頻度が低下し生存が維持されるという腫瘍密度依存的な運命決定メカニズムを新規に解明した。
臨床応用: 本研究で得られたAICDおよびマルチキリングの知見は、臨床現場におけるCAR-T細胞の動態と強く合致する。臨床において、腫瘍量が多い患者への輸注後にCAR-T細胞が爆発的に増殖し、腫瘍の消失に伴ってCAR-T細胞数が急激に減少するという観察結果は、本研究が示した「複数抗原刺激によるAICD抑制」および「標的減少時のAICD促進」のメカニズムによって説明が可能であり、臨床的有用性が極めて高い。この知見は、Kochenderfer et al. Blood 2012やBrentjens et al. SciTranslMed 2013で報告された臨床データとも整合する。したがって、製造されたCAR-T細胞製品のポテンシー評価において、運動性やマルチキリング能、AICD抵抗性を指標とすることは、治療効果を予測する上で臨床的に極めて有用であると考えられる。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究はin vitroの制御されたナノウェル環境における細胞株を用いた解析であるため、実際の複雑な生体内腫瘍微小環境において、高運動性CAR4細胞が同様のマルチキリング能や生存維持を示すかについてはさらなる検証が必要であるというlimitationが残されている。また、製造プロセスにおいて、この高運動性・高生存能を持つS1サブグループを選択的に富化・誘導するための培養条件の最適化や、CD4:CD8比の最適な製剤組成の確立が今後の重要な研究方向性として挙げられる。
方法
本研究は、健常ドナー由来の末梢血単核球 (PBMC) を用いたin vitro実験系である。健常ドナーのPBMCに対し、第二世代CARであるCD19RCD28 (CD28およびCD3ζエンドドメインを搭載) をコードするDNAプラスミドとSB11トランスポザーゼを電気穿孔法により導入した。遺伝子導入されたCAR+ T細胞は、γ線照射したK562人工抗原提示細胞 (aAPC) 上で、IL-2およびIL-21の存在下にて28日間のサイクルで拡張培養された。
単細胞レベルでの動態解析には、微細加工技術で作製されたポリジメチルシロキサン (PDMS) 製のナノウェルアレイを使用した。赤色蛍光色素PKH26で標識したCAR+ T細胞 (エフェクター細胞) と、緑色蛍光色素PKH67で標識したCD19+ EL4 (マウスT細胞リンパ腫細胞株)、NALM-6 (ヒト前駆B細胞性急性リンパ性白血病細胞株)、またはDaudib2m (ヒトB細胞リンパ腫細胞株) 標的細胞をナノウェルに共負荷した。タイムラプスイメージング (TIMING) は、20倍対物レンズを搭載した顕微鏡システムを用いて、37℃、5% CO2環境下で12〜16時間にわたり7〜10分間隔で撮影された。画像解析アルゴリズムにより、個々の細胞の運動性 (dWell: 連続フレーム間の重心移動距離、単位 µm)、極性・アスペクト比 (AR)、最初の接合までの探索時間 (tSeek)、接合持続時間 (tContact)、腫瘍細胞死までの時間 (tDeath)、エフェクター細胞のアポトーシス時間 (tAICD) を定量化した。腫瘍細胞のアポトーシス検出にはAnnexin V (Alexa647標識) の添加による蛍光シグナルを用いた。
さらに、フローサイトメトリーを用いて、CAR4細胞およびCAR8細胞における細胞内グラニュームB (Granzyme B) の発現量を単細胞レベルで定量した。また、穿孔素・グラニューム経路の関与を検証するため、カルシウムキレート剤であるEGTA (5 mmol/L) を用いた細胞傷害阻害実験をフローサイトメトリーベースのアッセイにて実施した。統計解析には、一元配置分散分析 (one-way ANOVA) および Student t-test、さらにFisherの正確確率検定 (Fisher’s exact test) が用いられた。