• 著者: James N. Kochenderfer, Mark E. Dudley, Steven A. Feldman, Wyndham H. Wilson, David E. Spaner, Irina Maric, Maryalice Stetler-Stevenson, Giao Q. Phan, Marybeth S. Hughes, Richard M. Sherry, James C. Yang, Udai S. Kammula, Laura Devillier, Robert Carpenter, Debbie-Ann N. Nathan, Richard A. Morgan, Carolyn Laurencot, Steven A. Rosenberg
  • Corresponding author: James N. Kochenderfer (National Cancer Institute, NIH, Bethesda, MD)
  • 雑誌: Blood
  • 発行年: 2012
  • Epub日: 2011-12-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 22160384

背景

キメラ抗原受容体 (CAR) は、抗体の可変領域とT細胞活性化ドメインを融合させた人工受容体であり、T細胞に主要組織適合性複合体 (MHC) 非依存的な抗原認識能を付与する。CD19は、正常B細胞および悪性B細胞の大多数に発現する一方で、造血幹細胞や非B細胞系列には発現しないため、管理可能なB細胞消失(低ガンマグロブリン血症)という副作用を許容しつつ、悪性B細胞を選択的に攻撃する理想的な治療標的として注目されてきた。

米国国立がん研究所 (NCI) のKochenderferらは、2010年に先行報告として1例の濾胞性リンパ腫患者において、抗CD19 CAR-T細胞 (MSGV-FMC63-28Z: マウス抗ヒトCD19 scFv + CD28 + CD3ゼータ) が著明な腫瘍退縮をもたらすことを報告した (Kochenderfer et al. Blood 2010)。この単一症例報告はCAR-T細胞療法の可能性を示唆したが、複数患者における有効性、安全性、およびサイトカイン毒性の機序については体系的な検討が不足していた。特に、他の研究グループからも抗CD19 CAR-T細胞療法後に重篤な毒性(低血圧、腎不全、呼吸障害など)が報告されており、炎症性サイトカインの上昇との関連が示唆されていたが、直接的な定量的相関は未確立であった。例えば、抗ERBB2 CAR-T細胞療法後に高レベルの炎症性サイトカインと重篤な有害事象が報告されており、CAR-T細胞が大量のサイトカインを産生しうることが示されていたものの、その臨床的毒性との定量的関係は未解明であった (Morgan et al. MolTher 2010)。また、慢性リンパ性白血病 (CLL) 患者を対象とした抗CD19 CAR-T細胞療法の報告 (Porter et al. NEnglJMed 2011) や、進行性白血病患者におけるCAR-T細胞の抗腫瘍効果と記憶T細胞の確立に関する報告 (Kalos et al. SciTranslMed 2011) においても、サイトカイン上昇と毒性の関連が示唆されたものの、その定量的関係は十分に解明されていなかった。

本臨床試験 (NCT00924326) は、進行性B細胞悪性腫瘍患者8例を対象に、抗CD19 CAR-T細胞療法の有効性、B細胞消失の持続性、およびサイトカイン関連毒性の系統的解析を目的として実施された。特に、サイトカイン毒性と血清中の炎症性サイトカインレベルとの定量的相関を明らかにすることが、今後のCAR-T細胞療法の安全性向上に向けた重要な課題として残されていた。これまでの研究では、CAR-T細胞のin vivoでの挙動とサイトカイン産生、そしてそれが引き起こす臨床毒性との直接的な関連性を示すデータが不足しており、この知識ギャップを埋めることが喫緊の課題であった。

目的

本研究の目的は、難治性・進行性B細胞悪性腫瘍患者8例を対象に、MSGV-FMC63-28Z抗CD19 CAR-T細胞療法の奏効率とB細胞消失の持続性を評価することである。MSGV-FMC63-28Zは、マウス抗ヒトCD19抗体の可変領域、CD28分子の一部、およびCD3ゼータ分子のシグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体である。さらに、血清中のインターフェロンガンマ (IFN-γ) および腫瘍壊死因子 (TNF) 濃度と臨床毒性(SOFAスコア)との定量的相関を明らかにすることを目的とした。SOFA (Sequential Organ Failure Assessment) スコアは、全身状態の重症度を客観的に評価する指標である。これにより、CAR-T細胞療法の有効性とサイトカイン関連毒性の関連性を系統的に実証し、将来的な安全性向上に向けた基盤的知見を提供することを目指した。特に、CAR-T細胞がCD19陽性細胞と接触することで産生されるサイトカインが、in vivoでの毒性発現にどの程度寄与するかを明らかにすることが重要な目標であった。本研究は、CAR-T細胞の活性化がサイトカイン放出症候群 (CRS) の主要な原因であるという仮説を検証し、その定量的関係を確立することを目指した。

結果

奏効率86% (評価可能7例中6例) および完全寛解例の詳細: 治療を受けた8例中、患者2は輸注後18日にインフルエンザA肺炎、非細菌性血栓性心内膜炎、脳梗塞により死亡し、腫瘍奏効は評価不能であった。評価可能であった7例中6例 (86%) が客観的奏効を達成した。内訳は、完全寛解 (CR) 1例、部分寛解 (PR) 5例であった (Table 1)。患者3 (61歳、CLL、前治療3ライン) はCRを達成し、輸注後13週での骨髄検査では、それまで骨髄の50〜60%を占めていたCLL細胞が完全に消失していることが確認された (Figure 3B-D)。この患者は15ヶ月以上の長期CRを維持している。患者1は初回治療 (Kochenderfer et al. Blood 2010)でPR後7ヶ月で再発したが、2回目のCAR-T輸注 (2.1 x 10^7 CAR陽性細胞/kg) により再度PRを達成し、18ヶ月以上維持中であった。患者5は安定 (SD) であり、これが唯一の非奏効例であった。

持続的B細胞消失: CAR-T細胞の抗原特異的活性の証明: 8例中4例で、6ヶ月以上の末梢血B細胞消失が確認された。患者8 (63歳、濾胞性リンパ腫) は治療前に正常な多クローン性B細胞を有していたが、輸注後少なくとも26週間B細胞が消失した (Figure 4B)。一方で、T細胞 (Figure 4C) およびNK細胞 (Figure 4D) は治療後速やかに正常レベルに回復した。この長期にわたるB細胞消失は、リンパ球減少化学療法後の正常回復パターンを逸脱しており、抗CD19 CAR-T細胞の持続的な抗原特異的活性によるものと判断された。患者3の前処置後の骨髄中の64%がCD19陽性CLL細胞であったが、寛解後の7週目の骨髄中のCD19陽性細胞は0.1%まで減少しており、CAR-T細胞が循環血中のみならず骨髄浸潤腫瘍細胞も排除したことを示した (Figure 3B-D)。さらに、患者7では治療前に広範なリンパ節腫脹が認められたが、CAR-T細胞輸注後32日目までに著明な退縮を示し、132日目まで退縮が継続した (Figure 4A)。この化学療法終了後33日以上経過してからの退縮継続は、CAR-T細胞が腫瘍退縮に寄与したことを強く示唆する。

サイトカイン毒性のIFN-γ・TNFによる2群分類と定量的SOFAスコア相関: 全患者のCAR-T細胞はin vitroでCD19陽性標的細胞との共培養により、IFN-γ (8,190〜36,700 pg/mL)、TNF (448〜21,980 pg/mL)、およびIL-2 (798〜2,768 pg/mL) をCD19特異的に産生した (Figure 2C, Table 3)。CD19陰性標的細胞との共培養では、これらのサイトカイン産生はバックグラウンドレベル (IFN-γ <1,000 pg/mL) にとどまった。血清サイトカイン上昇のパターンに基づき、患者は2群に分類された。患者1、2、4、5は血清IFN-γおよびTNFの著明な上昇を認めず (Figure 6A, C)、総SOFAスコア中央値61.5と軽微な毒性を示した。一方、患者3、6、7、8は血清IFN-γおよびTNFの顕著な上昇を認め (Figure 6B, D)、総SOFAスコア中央値105.0と有意に高い重篤な毒性(低血圧、急性腎不全、呼吸障害、毛細血管漏出症候群、意識障害など)を示した (Table 4)。血清IFN-γの曲線下面積 (AUC) と総SOFAスコアの間には有意な正の相関が認められ (p=0.02) (Figure 6E)、TNF AUCと総SOFAスコアの間にはさらに強い正の相関が認められた (p=0.001) (Figure 6F)。毒性の多くはIL-2投与終了から4日以上経過して新たに出現しており、IL-2単独では説明できないものであった。例えば、重篤な毒性を経験した患者群における総SOFAスコアは105.0 vs 61.5 (p=0.016) であり、IFN-γ AUCとSOFAスコアの相関 (p=0.02)、およびTNF AUCとSOFAスコアの相関 (p=0.001) は、CAR-T細胞の活性化が毒性の主要因であることを強く示唆する。

CAR-T細胞のin vivo持続性の多様性: CAR導入遺伝子はqPCRにより全患者の末梢血で検出された (Figure 5A, B)。CAR陽性細胞のピーク比率と持続期間は患者間で大きく異なった。患者7および8では、高いCAR陽性細胞比率と長期持続(>6ヶ月)が観察され、骨髄でもCAR陽性細胞が検出された(患者7: 0.03%/14週、患者8: 0.13%/8週)。他の患者では、CAR陽性細胞のqPCR値は20日以内に0.01%以下となった。高持続例では、強い臨床奏効とサイトカイン毒性が同時に観察される傾向があり、CAR-T細胞のin vivo増殖が有効性と毒性の双方に関連することを示した。患者3の前処置後血液リンパ球の64%がCD19陽性CLL細胞であり、CAR-T細胞がex vivoでこれらの自家腫瘍細胞を認識してIFN-γを産生することをELISAで確認した (Figure 2D)。このIFN-γ産生は、寛解後のCD19陰性リンパ球ではバックグラウンドレベルに低下しており、in vivoでのCAR-T細胞活性化が実際の腫瘍認識によるものであることを示す直接的証拠となった。さらに、患者3、7、8のPBMCをCAR-T細胞輸注後に採取し、CD19陽性標的細胞と共培養すると、CD19特異的なIFN-γ、TNF、IL-2産生T細胞が検出された (Figure 7A, B)。これは、in vivoで活性化されたCAR-T細胞が炎症性サイトカインの供給源であることを示唆する。

考察/結論

本臨床試験は、抗CD19 CAR-T細胞療法が難治性B細胞悪性腫瘍に86%の高い奏効率(評価可能7例中6例)をもたらすことを、多患者で初めて示した研究として位置づけられる。先行の1例報告 (Kochenderfer et al. Blood 2010)を多数例で再現・拡張し、CAR-T療法の一般的有効性を支持するエビデンスを提供した。患者3のCLL長期CR例は、CAR-T療法が血液腫瘍の治癒をもたらす可能性を示した最初期の症例の一つとなった。

新規性: 本研究の最も重要な学術的貢献は、IFN-γおよびTNFがCAR-T療法の重篤な毒性の定量的予測因子であることを初めて系統的に示した点である。TNF AUCとSOFAスコアの相関 (p=0.001) は特に強く、腫瘍負荷の多い患者でin vivoにおけるCAR-T細胞の大量活性化が生じ、高サイトカイン産生を経由して毒性が重篤化するという機序モデルを支持した。このモデルは、後の「サイトカイン放出症候群 (CRS)」概念の臨床定義・管理指針策定の土台となり、IL-6受容体阻害薬 (トシリズマブ) によるCRS管理が標準化されていく上での基礎知見となった。

先行研究との違い: これまでの報告では、CAR-T細胞療法後のサイトカイン上昇と毒性の関連が示唆されていたものの、本研究のように血清サイトカインレベルとSOFAスコアという客観的な臨床毒性指標との間に明確な定量的相関を示したものはなかった。また、IL-2投与終了後もサイトカイン上昇と毒性が持続したことから、毒性の主要因が外因性IL-2ではなく、CAR-T細胞のin vivo活性化による内因性サイトカイン産生であることを示した点で、これまでの知見と異なり、CAR-T細胞自体の活性化が毒性の原因であることを明確に裏付けた。

臨床応用: 本知見は、CAR-T細胞療法の安全性向上に向けた臨床応用において極めて重要な含意を持つ。サイトカインレベルをモニタリングすることで、重篤な毒性発現リスクの高い患者を早期に特定し、介入することが可能となる。毒性軽減策として著者らが考察したのは、(1) 腫瘍負荷を事前に減少させること、(2) リツキシマブ等のB細胞除去抗体で前処置すること、(3) TNF阻害薬 (エタネルセプト等) の予防的使用、(4) 自殺遺伝子 (suicide gene) の導入、(5) CARシグナル伝達ドメインの最適化(例えば、CD28ではなく4-1BBコシグナルドメインを用いることでTNF産生を軽減する可能性)であった。これらの提案の多くが後続の臨床試験設計に反映され、CAR-T細胞療法の安全性向上に貢献した。

残された課題: 本研究の主な限界は症例数の少なさ (n=8、評価可能7例) と、前処置化学療法単独の効果をCAR-T細胞の効果から完全に分離できないことである。しかし、6ヶ月以上持続するB細胞消失は化学療法単独では説明不可能であり、CAR-T細胞の持続的活性を示す重要な間接証拠となった。今後の検討課題として、CAR構造(CD28 vs 4-1BBコシグナルドメインなど)や前処置レジメン、輸注細胞のCD4/CD8比や記憶分画の比率がCAR-T細胞のin vivo持続性および毒性プロファイルに与える影響を、より大規模なコホートで詳細に解析する必要がある。また、サイトカイン放出症候群の早期予測バイオマーカーの探索や、サイトカイン阻害薬の最適な投与タイミングと用量設定に関する研究も今後の重要な方向性である。

方法

患者背景: 本臨床試験には、難治性・進行性のB細胞悪性腫瘍(濾胞性リンパ腫4例、慢性リンパ性白血病 (CLL) 3例、脾辺縁帯リンパ腫1例)を有する8例の患者が登録された。全患者は、中央値4ライン(範囲3〜7)の先行治療を受けており、標準治療では根治不可能と判断された難治例であった。患者は、米国食品医薬品局 (FDA) および米国国立がん研究所 (NCI) の治験審査委員会 (IRB) の承認を得て、ヘルシンキ宣言に従い書面によるインフォームドコンセントを取得した上で参加した。本試験はClinicalTrials.govにNCT00924326として登録されている。

CAR-T細胞の調製と輸注: 患者から自己末梢血単核球 (PBMC) をアフェレーシスにより採取し、抗CD3モノクローナル抗体で刺激後、抗CD19 CARをコードするガンマレトロウイルスで形質導入した。この抗CD19 CARは、マウス抗ヒトCD19抗体の可変領域、CD28分子の一部、およびCD3ゼータ分子のシグナル伝達ドメインを含んでいた (Figure 1A)。輸注時のCAR発現T細胞の平均割合は55%(範囲30〜71%)であった (Table 1)。輸注細胞の表現型は主にCCR7陰性CD45RA陰性エフェクターメモリー細胞であったが、CCR7陽性CD45RA陰性セントラルメモリー細胞も様々な割合で含まれた (Table 2)。CAR導入T細胞は、in vitroでCD19陽性標的細胞との共培養により、CD19特異的なIFN-γ、TNF、IL-2を産生し、CD107a脱顆粒アッセイにより細胞傷害活性も確認された (Figure 2B, C)。

前処置とIL-2補助療法: CAR-T細胞輸注に先立ち、患者はリンパ球除去を目的とした化学療法を受けた。具体的には、シクロホスファミド60 mg/kg/日を2日間(day -7, -6)、続いてフルダラビン25 mg/m^2/日を5日間(day -5〜-1)投与された。CAR-T細胞はday 0に単回静脈内 (IV) 輸注され、輸注細胞数は0.3〜3.0 x 10^7 CAR陽性細胞/kgであった。CAR-T細胞輸注の3時間後から、IL-2がIV投与された(720,000国際単位/kg、8時間毎、毒性発現まで)。患者1は先行報告された初回治療後に再発し、2回目のCAR-T輸注を受けた。

評価項目:

  • B細胞・T細胞・NK細胞の追跡: 末梢血中のB細胞、T細胞、NK細胞数はフローサイトメトリーにより経時的に測定された。
  • CAR導入遺伝子含有細胞の検出: 末梢血単核球中のCAR導入遺伝子含有細胞の割合は、リアルタイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応 (qPCR) により測定された。
  • 血清サイトカイン測定: 血清中のIFN-γおよびTNF濃度は、酵素結合免疫吸着測定法 (ELISA) により測定された。
  • 臨床毒性評価: 臨床毒性は、SOFA (Sequential Organ Failure Assessment) スコアを用いて定量化された。SOFAスコアは、呼吸、凝固、肝、心血管、中枢神経、腎の6項目を各0〜4点で評価し、合計0〜24点で全身状態の重症度を評価する。CAR-T細胞輸注日およびその後の10日間のSOFAスコアを毎日計算し、その合計を総SOFAスコアとした。
  • CAR-T細胞のin vitro活性評価: 輸注されたCAR-T細胞のCD19特異的なIFN-γ、TNF、IL-2産生能は、CD19陽性標的細胞およびCD19陰性標的細胞との共培養後のELISAおよび細胞内サイトカイン染色 (ICS) アッセイにより評価された。また、CD107a脱顆粒アッセイにより細胞傷害活性も評価された。
  • 腫瘍奏効判定: 腫瘍奏効は、リンパ腫の国際基準(2007年改訂版)およびCLLの国際基準に従い判定された。

統計解析: 血清サイトカインの曲線下面積 (AUC) と総SOFAスコアとの相関は、2標本t検定 (two-tailed t test) を用いて評価された。