- 著者: Severson JJ, Serracino HS, Mateescu V, Raeburn CD, McIntyre RC, Sams SB, Haugen BR, French JD
- Corresponding author: Jena D. French (jena.french@ucdenver.edu)
- 雑誌: Cancer immunology research
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-02-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 25701326
背景
T細胞疲弊 (T cell exhaustion) は、慢性ウイルス感染症のモデルで初めて詳細に記述された現象であるが、現在ではがん免疫回避の重要なメカニズムとして広く認識されている。疲弊したT細胞は、PD-1、CTLA-4、Tim-3といった複数の抑制性受容体の持続的な発現を特徴とし、慢性的な抗原曝露下でその機能が段階的に低下していくことが知られている。この機能低下は、初期にはIL-2産生能の喪失から始まり、次いでTNFαやIFNγといったエフェクターサイトカインの産生低下、最終的にはアポトーシスによる細胞死へと至る。このT細胞疲弊の概念は、Wherry et al. NatImmunol 2011によって包括的にレビューされている。特に、PD-1とTim-3の共発現は、メラノーマ患者の末梢血において最も機能が低下した腫瘍特異的T細胞サブセットを示すマーカーとして同定されている (Fourcade et al. J Exp Med 2010)。また、Dong et al. NatMed 2002は、腫瘍関連B7-H1がT細胞のアポトーシスを促進し、免疫回避のメカニズムとなる可能性を報告している。
分化型甲状腺癌 (DTC) におけるリンパ節転移は、他のがんと比較して特異な腫瘍免疫インターフェースを形成する。DTCのリンパ節転移は数年間持続するにもかかわらず、遠隔転移への進展は比較的少なく、5年生存率は97.4%と高い。しかし、免疫系はこれらの転移病巣を完全に排除することができない。著者らの先行研究 (French et al. J Clin Endocrinol Metab 2012) では、腫瘍浸潤リンパ節 (TILN) においてFoxP3+ 制御性T細胞 (Treg) とPD-1+T細胞が末梢血や非浸潤リンパ節と比較して有意に増加しており、これらの細胞が疾患の重症度や再発と関連することが示されていた。しかし、TILNにおけるCD8+ T細胞の機能的疲弊の程度や、PD-1とT細胞免疫グロブリンおよびムチンドメイン含有分子3 (Tim-3) の共発現が甲状腺癌の腫瘍微小環境においてどのような機能的意義を持つかについては、詳細な評価が未解明な点が残されていた。特に、PD-1とTim-3の共発現がT細胞の増殖能や細胞傷害能にどのような影響を与えるか、またCD4+ T細胞における疲弊の様相がCD8+ T細胞と異なるのかどうかといった、T細胞疲弊の不均一性に関する知見が不足していた。本研究は、この不足している知見を補完することを目的とする。
目的
局所リンパ節転移を伴う分化型甲状腺癌 (mDTC) 患者の腫瘍浸潤リンパ節 (TILN) から回収されたPD-1+T細胞の表現型と機能的疲弊度を系統的に評価する。特に、PD-1とT細胞免疫グロブリンおよびムチンドメイン含有分子3 (Tim-3) の共発現がCD8+ T細胞およびCD4+ T細胞の機能に与える影響を詳細に解析し、これらの免疫チェックポイント分子がmDTCにおける免疫チェックポイント阻害療法の標的としてどの程度有用であるかを検討することを目的とする。本研究では、サイトカイン産生能、増殖能、細胞傷害能といったT細胞の主要な機能に着目し、PD-1およびTim-3の発現とこれらの機能障害との関連性を明らかにすることを目指す。さらに、腫瘍微小環境におけるPD-1リガンド1 (PD-L1)、ガレクチン-9、および制御性T細胞 (Treg) の存在を評価し、T細胞疲弊の誘導メカニズムと免疫チェックポイント阻害療法の潜在的な有効性について考察する。
結果
PD-1+Tim-3+表現型の不均一な分布と表現型的疲弊マーカーの特性評価: 12例中8例のTILNにおいて、CD8+ T細胞の5〜38%(平均18.0 ± 14.0%、p=0.03 vs 末梢血・正常リンパ節)およびCD4+ T細胞の4〜33%(平均16.1 ± 11.0%、p=0.02 vs 末梢血・正常リンパ節)がPD-1+であった。残りの4例(患者4、6、7、8)はPD-1lo/Tim-3-群に分類された (Table 1)。PD-1+CD8+ T細胞はTim-3と一貫して共発現し、CD69を高発現する一方、CD127(IL-7受容体)の発現が正常リンパ節と比較して有意に低下していた (p<0.05)。CD27は疲弊マーカーとして通常は下方制御されるが、PD-1+CD8+ T細胞においても高発現が持続しており、これは不完全な疲弊パターンを示唆した (Figure 1B)。メモリーサブセット解析では、PD-1+ T細胞は主にCD45RO+/CCR7-/CD62L+/-のエフェクターメモリーT細胞 (TEM) 表現型であった。CTLA-4はPD-1+サブセットで低レベルながら検出され、LAG-3発現も一部のサンプルで確認された。CD4+ T細胞におけるPD-1+Tim-3+共発現は、CD8+ T細胞と比較して頻度が低い傾向にあった。PD-1lo/Tim-3-群のT細胞は、活性化T細胞 (CD69hi, CD27lo) とナイーブまたは休止状態のT細胞 (CD69lo, CD27hi) の混合プロファイルを示し、正常リンパ節のプロファイルに類似していたが、TILNではCD69hi T細胞がより高頻度であった。
CD8+ T細胞のサイトカイン産生障害は変動的であり、CD4+ T細胞では認められない: PD-1+Tim-3+ TILN由来のCD8+ T細胞は、PD-1lo Tim-3- TILNと比較して、PMA/イオノマイシン刺激後のIL-2陽性率およびTNFα陽性率が全般的に低下していたが、その程度は患者間で大きく変動した (Figure 2A, B)。IL-2陽性率はPD-1+Tim-3+群で平均10.5%であったのに対し、PD-1lo Tim-3-群では平均25.5%であった。TNFα陽性率も同様に、PD-1+Tim-3+群で平均15.2%に対し、PD-1lo Tim-3-群では平均30.1%であった。IFNγ産生については、PMA/イオノマイシン刺激では有意差が認められなかったものの、抗CD3/抗CD28刺激ではPD-1+Tim-3+ TILN群で有意に低下した (p<0.05) (Figure 2E, F)。特筆すべきは患者5であり、PD-1+Tim-3+表現型を有しながらもサイトカイン産生能は他の対照群と同等に保たれていた(IL-2陽性率約25.5%)。一方、CD4+ T細胞のサイトカイン産生は、PMA/イオノマイシン刺激および抗CD3/抗CD28刺激のいずれにおいてもPD-1lo群と同等であり、統計的有意差は認められなかった (Figure 2G, H)。この結果は、PD-1+Tim-3+の発現がCD8+ T細胞では機能障害と関連するが、CD4+ T細胞では必ずしも機能障害を意味しないことを示唆する。
増殖能は概ね保持されており、細胞傷害機構は部分的に障害されている: Ki67陽性率(増殖中T細胞の割合)は、PD-1lo Tim-3- TILNとPD-1+Tim-3+ TILNの間で有意差がなく、Ki67+細胞はPD-1+サブセットに偏在していた (Figure 3A, B)。ex vivo CFSE希釈アッセイでは、複数の刺激条件下で86〜98%以上のCD8+ T細胞が少なくとも1回の分裂を遂げており、慢性リンパ性白血病 (CLL) など他のがんで報告される著明な増殖障害とは対照的であった (Figure 3C)。例えば、患者3、5、10、11のCD8+ T細胞は、末梢血由来T細胞と比較してわずかに増殖が遅延したものの、96%以上が分裂した。脱顆粒マーカーCD107aについては、PD-1+Tim-3+ TILN由来のCD8+ T細胞の16〜49%がPMA/イオノマイシン刺激で表面移行を示し(患者10、11、12)、エキソサイトーシス能は保持されていた (Figure 4A)。しかし、細胞内パーフォリン発現はTILN由来CD8+ T細胞において完全に消失しており、末梢血のterminally differentiated effector memory T cells re-expressing CD45RA (TEMRA) およびTEM集団で認められるパーフォリン陽性細胞が腫瘍組織では検出されなかった (Figure 4B, C)。これは、PD-1発現の有無にかかわらず観察された。
腫瘍微小環境における免疫抑制因子の存在: TILNから回収した付着細胞(上皮細胞接着分子 (EpCAM)+腫瘍細胞)のPD-1リガンド1 (PD-L1) 発現を評価したところ、10例中9例で陽性であり、PD-1lo群とPD-1+Tim-3+群の間で発現量に統計的有意差はなかった (p=0.26) (Figure 5A, B)。T細胞免疫グロブリンおよびムチンドメイン含有分子3 (TIM-3) のリガンドであるガレクチン-9は、免疫組織化学により腫瘍細胞および腫瘍関連白血球の双方に発現が認められた (Figure 5D)。両群間に発現差はなく、全例のTILNでPD-L1とガレクチン-9が恒常的に存在していた。FoxP3+ 制御性T細胞 (Treg) は全例のTILNで高頻度(CD4+ T細胞の12.6〜39.0%、平均29.5 ± 3.8%)に認められ、末梢血(3.1 ± 0.5%)や正常リンパ節(5.0 ± 1.6%)と比較して有意に増加していた (Figure 6A, B)。TregはPD-1lo TILNとPD-1+Tim-3+ TILNの両群で同等の頻度 (p=0.26) に存在し、Treg上でのPD-1・Tim-3発現は活性化・高抑制性Tregと関連することが示唆された。PD-L1は、分析した10サンプル中4サンプルで、付着細胞培養に残存するCD45+腫瘍関連白血球にも低レベルで発現していた。
考察/結論
本研究は、局所リンパ節転移を伴う分化型甲状腺癌 (mDTC) における腫瘍浸潤T細胞の機能的疲弊を、組織切片から回収した細胞を用いて詳細に評価した最初の報告である。主要な知見は、分子レベルの疲弊マーカー(PD-1、T細胞免疫グロブリンおよびムチンドメイン含有分子3 (Tim-3))の共発現が必ずしも機能障害と一対一対応しないというT細胞疲弊の不均一性の発見である。
先行研究との違い: 慢性ウイルス感染症や他のがん種におけるT細胞疲弊の研究では、PD-1とTim-3の共発現が最も重度の機能障害と関連すると報告されてきたが (Fourcade et al. J Exp Med 2010)、本研究では、患者5のようにPD-1とTim-3を高発現しながらも正常なサイトカイン産生能を示す症例が存在した。これは、疲弊が段階的なプロセスであり、現在の研究が疲弊の初期段階を捉えた可能性を示唆する点で、これまでの知見と対照的である。また、CD4+ T細胞においては、PD-1+Tim-3+共発現がCD8+ T細胞のような顕著な機能障害とは関連しないことが示され、T細胞サブセット間での疲弊の様相が異なることを明らかにした。
新規性: 本研究で初めて、mDTCの腫瘍浸潤リンパ節 (TILN) においてT細胞の増殖能が概ね保持されていることを示した。これは、慢性リンパ性白血病 (CLL) など他のがんで報告される著明な増殖障害とは異なり、mDTCにおけるT細胞疲弊が不完全 (partial) な状態であることを示唆する新規な知見である。このことは、免疫療法による機能回復の可能性を強く支持する。一方で、細胞内パーフォリンの消失は細胞傷害ポテンシャルの低下を示唆するが、正常リンパ節組織でもパーフォリンが検出されなかったことから、腫瘍誘発性の疲弊のみに帰因するかは今後の検討課題である。
臨床応用: 腫瘍微小環境におけるPD-1リガンド1 (PD-L1)、ガレクチン-9、および高頻度の制御性T細胞 (Treg) の恒常的な存在は、段階的なT細胞疲弊の誘導を持続的に促進していることを示す。これらの抑制的コンポーネントは、PD-1/PD-L1およびTim-3/ガレクチン-9経路を標的とした免疫チェックポイント阻害療法がmDTC患者、特に標準療法抵抗例において臨床応用として有望であることを示唆する。Brahmer et al. JClinOncol 2010やHamid et al. NEnglJMed 2013で示されたように、PD-1/PD-L1標的療法は比較的低い毒性を示すため、超音波ガイド下でのTILNへの局所投与は、全身毒性を軽減しつつ効果を高める臨床的有用性を持つ将来的な戦略となり得る。
残された課題: 本研究のlimitationとして、in vitroでのPMA/イオノマイシン刺激が非生理的であり、生理的抗原刺激下でのT細胞機能の評価が残された課題である。また、PD-1lo群とPD-1+Tim-3+群の間で免疫抑制因子の発現量に有意差がなかったにもかかわらず、なぜ特定の患者でPD-1+Tim-3+T細胞が蓄積するのか、そのメカニズムの解明は今後の研究で必要である。さらに、Goding et al. JImmunol 2013が示したように、CD4+ T細胞の疲弊回復も重要であり、mDTCにおけるCD4+ T細胞の役割のさらなる解明も今後の方向性として挙げられる。アグレッシブなDTCや遠隔転移を有する患者における免疫応答の特性評価、およびPD-1/PD-L1阻害とチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) の併用療法の可能性についても、さらなる研究が必要である。
方法
本研究では、2012年から2014年にかけて頸部郭清術を受けた甲状腺癌患者12例を対象とした。これらの患者は、組織病理学的に乳頭癌10例、濾胞型1例、びまん性硬化型1例と確認された。患者から採取された腫瘍含有リンパ節 (TILN) を用いて、以下の解析を行った。
細胞の調製: 採取したTILNは、Liberase DL (2.5 mg/mL) とDNase I (10,000 U/mL) を用いて37℃で1時間消化し、単細胞懸濁液を作製した。赤血球を溶解後、非付着細胞(リンパ球が豊富)と付着細胞(腫瘍細胞が豊富)を分離し、凍結保存した。正常リンパ節は外傷患者から3例、アーカイブ組織から1例取得し、対照として用いた。凍結保存された細胞は、凍結から6ヶ月以内に解凍され、解析に供された。
表現型解析: フローサイトメトリーを用いて、CD3、CD4、CD8、PD-1、T細胞免疫グロブリンおよびムチンドメイン含有分子3 (Tim-3)、CD69、CD127、CD27、リンパ球活性化遺伝子3 (LAG-3)、細胞傷害性Tリンパ球抗原-4 (CTLA-4) の発現を解析した。また、CD45RA、CD45RO、CCR7、CD62Lの発現によりメモリーT細胞サブセットの分類も実施した。FoxP3の発現は、制御性T細胞 (Treg) の同定に用いた。抗体はeBioscience、BioLegend、BD Biosciences、R&D Systems、Enzo Life Sciences International, Inc.から購入した。
機能評価 (サイトカイン産生): 非付着細胞をPMA (phorbol-12-myristate-13-acetate) (50 ng/mL) とイオノマイシン (0.5 µg/mL) で刺激するか、または抗CD3/抗CD28抗体で刺激した後、ゴルジプラグ存在下で6時間培養した。その後、細胞内染色によりIL-2、TNFα、IFNγの産生能を測定した。
増殖能評価: CFSE (5-(and 6)-Carboxyfluorescein diacetate succinimidyl ester) (10 nmol/L) で標識した非付着細胞を、抗CD3/抗CD28ビーズとIL-2 (30 U/mL) の存在下で72時間培養し、CFSE希釈法により増殖能を評価した。Ki67染色も増殖中のT細胞の割合を評価するために行った。
細胞傷害能評価: PMA/イオノマイシン刺激後のCD107a表面移行(脱顆粒マーカー)と細胞内パーフォリン発現を測定し、細胞傷害ポテンシャルを評価した。
PD-L1・ガレクチン-9発現解析: 付着細胞(上皮細胞接着分子 (EpCAM)+腫瘍細胞)のPD-1リガンド1 (PD-L1) 発現をフローサイトメトリーで解析した。BCPAP細胞株をEpCAMおよびPD-L1の陽性対照として使用した。ガレクチン-9の発現は、免疫組織化学染色により腫瘍細胞および腫瘍関連白血球で評価し、Allredスコア法で定量した。
統計解析: データはMann-WhitneyノンパラメトリックU検定を用いて統計的有意差を評価し、P < 0.05を統計的に有意とした。フローサイトメトリー解析では、Poisson統計に基づいて、関心のある集団で最低100イベントを収集した。