• 著者: Julie R. Brahmer, Charles G. Drake, Ira Wollner, John D. Powderly, Joel Picus, William H. Sharfman, Elizabeth Stankevich, Alice Pons, Theresa M. Salay, Tracee L. McMiller, Marta M. Gilson, Changyu Wang, Mark Selby, Janis M. Taube, Robert Anders, Lieping Chen, Alan J. Korman, Drew M. Pardoll, Israel Lowy, Suzanne L. Topalian
  • Corresponding author: Suzanne L. Topalian (stopali1@jhmi.edu)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2010
  • Epub日: 2010-06-01
  • Article種別: Original Article (Phase I clinical trial)
  • PMID: 20516446

背景

PD-1 (Programmed Death-1、プログラム細胞死1、CD279) は、抗原活性化T細胞および疲弊T細胞・B細胞上に発現する抑制性補助受容体であり、CTLA-4 (CD152) と相同性を持ちながら異なる免疫抑制シグナルを伝達する。PD-1のノックアウトマウスが早期致死性のCTLA-4欠損マウスとは対照的に、晩期発症の臓器特異的自己免疫疾患を呈することは、PD-1の阻害がより安全な免疫賦活をもたらしうることを示唆した (Nishimura et al., Immunity 1999; Science 2001)。PD-1の2つの既知リガンドであるB7-H1 (PD-L1) とB7-DC (PD-L2) のうち、B7-H1が主要なPD-1依存性免疫抑制メディエーターであり、多くのマウス・ヒト腫瘍で高発現することが知られていた (PD-L1, Dong et al. NatMed 2002)。マウス腫瘍モデルでは、B7-H1の発現が免疫耐性を付与し、PD-1:B7-H1相互作用を遮断することで抗腫瘍効果が得られることが複数の前臨床研究で実証されていた (Iwai et al., PNAS 2002; Strome et al., CancerRes 2003)。

ヒト腫瘍においては、B7-H1が腎細胞がんや卵巣がんなどの上皮性がんで高発現し、患者予後と逆相関することが報告されていた (Thompson et al., CancerRes 2006; Hamanishi et al., PNAS 2007)。また、CTLA-4抗体が抗腫瘍応答を示す一方で、高頻度の重篤なirAE (immune-related adverse event、免疫関連有害事象) を伴うことが確立されており (Attia et al., JClinOncol 2005)、より好ましい安全性プロファイルを持つ新規チェックポイント阻害薬の開発が急務であった。免疫療法一次耐性の克服においても、PD-1の前臨床プロファイルはCTLA-4よりも腫瘍局所での免疫抑制に特異的に働く可能性を示唆していた。PD-1以外のチェックポイント分子の探索も始まっていたが、ヒトにおける抗PD-1療法の安全性・薬力学・抗腫瘍活性のデータは一切存在せず、どの用量が有効かつ安全であるかは全て未解明であった。この重大な知識のギャップを埋めることが本試験の根本的動機である。

目的

完全ヒト型抗PD-1モノクローナル抗体MDX-1106 (BMS-936558/ONO-4538) の単回静脈内投与に対する安全性・忍容性と最大耐量 (MTD: maximum tolerated dose) を決定すること、ならびに抗腫瘍活性・薬力学・免疫学的エンドポイントを予備的に評価することを目的とした。

結果

患者背景と安全性:n=39例 (黒色腫n=10、CRC (大腸がん) n=14、去勢抵抗性前立腺がん (CRPC: castrate-resistant prostate cancer) n=8、NSCLC n=6、RCC (腎細胞がん) n=1) が登録され、中央値4回の前治療後の難治性集団であった (Table 1)。中央年齢62歳 (範囲42-84歳)、ECOG PS 0が33.3% (n=13)・PS 1が66.7% (n=26)。MDX-1106は最高計画用量10 mg/kgまで十分に忍容され、DLTは0例であり、MTDは本試験では規定されなかった。最も頻度の高い有害事象はCD4+リンパ球数減少 (14例、35.9%)・リンパ球減少 (10例、25.6%)・疲労・筋骨格系症状 (各6例、15.4%) であった。Grade 3以上のirAEは投与後28日以内には0例であった。重篤なirAEは、1 mg/kgを5回投与した黒色腫患者1例のGrade 3炎症性大腸炎 (ステロイドとinfliximabで改善) のみであった。Grade 2の多関節性関節炎が2例 (3・10 mg/kg)、甲状腺機能低下が1例 (10 mg/kg) に認められた。ヒト抗ヒト抗体の産生は多回投与後も0例であった (Fig 3)。

抗腫瘍活性と奏効例の詳細:ORR (客観的奏効率) はCR (完全奏効) 1例+PR (部分奏効) 2例で合計3/39例 (7.7%) であった (Table 2)。CRC CR例は67歳男性 (3 mg/kg、5回投与後、奏効期間21か月以上持続)、bevacizumab・cetuximab含む複数前治療後の難治例であった。RCC PR例は72歳男性 (10 mg/kg、3回投与後PR達成、奏効期間16か月以上、sunitinib・sorafenib不応例)。黒色腫PR例は51歳女性 (10 mg/kg、24か月間11回投与後PR達成、PR期間3か月以上、high-dose IL-2・temozolomide不応例)。有意な病変縮小を示したMXR (mixed response、混合反応: 一部病変は縮小するが他部位では増悪) が2例 (黒色腫1例、NSCLC 1例) に認められた。安定病変または病変縮小で複数回投与を受けた患者はn=12例であった (Fig 1)。

B7-H1 (PD-L1) 発現と奏効の相関:n=9例の腫瘍生検でB7-H1発現をIHCで評価した (Fig 2)。腫瘍細胞の細胞表面 (膜) に5%以上のB7-H1発現を認めた4例のうち、3例が腫瘍縮小を示した。一方、膜性B7-H1発現を認めなかった5例では奏効は0例 (0/5) であった。Fisher正確検定により、膜性B7-H1発現と腫瘍縮小の相関は統計的に有意であった (2側P=0.0476、n=9の限られたサンプルサイズに注意)。黒色腫PR例では、治療前後の連続生検で治療後に中等度のCD8+ T細胞浸潤増加が認められたが、CD4+ T細胞の増加は見られなかった (Fig 1B)。

薬力学:PD-1占有率の用量非依存的・持続的プロファイル:MDX-1106の血清半減期 (t1/2) は0.3-3 mg/kgで約12日、10 mg/kgで約20日であり、CmaxおよびAUCは用量に比例した。しかし、薬物動態と薬力学は予期せず乖離していた (Fig 4)。n=15例の評価では、PD-1占有率は用量非依存的であり、1回投与後4-24時間で平均ピーク占有率85% (範囲70-97%)、57日以上で平均プラトー占有率72% (範囲59-81%) に達した。血清濃度が検出限界 (1.2 μg/mL) 以下となった後もPD-1占有率が持続したのは、MDX-1106の高親和性 (in vitroで0.04 μg/mLで70%以上のPD-1分子占有) によるものと考えられた。複数回投与ではトラフ・ピークが観察されたが、100%占有には至らなかった。24時間後の総リンパ球・CD3・CD4・CD8数の一過性減少が認められ (P<0.004、Wilcoxon検定)、day 2-29でリバウンド、day 29-85で再減少する二相性パターンを呈した。CD19 (B細胞) ・CD56 (NK細胞) は有意な変動を示さず、T細胞選択的効果を示唆した。recall抗原 (Candida albicans・破傷風トキソイド) に対するDTH (delayed-type hypersensitivity、遅延型過敏症) 反応への有意な影響は認められなかった (n=15例評価)。

考察/結論

本試験は、抗PD-1抗体のfirst-in-human試験として免疫腫瘍学の歴史的転換点に位置する。これまでの能動的免疫療法 (がんワクチン等) が乏しい成果に終わっていたのと対照的に、本研究はPD-1チェックポイント阻害が難治性固形腫瘍において臨床的に実施可能であり、持続的な抗腫瘍応答を誘導しうることを初めて実証した。CT-011という別の抗PD-1抗体が造血器腫瘍 (n=17) でCR 1例を示したデータと異なり、本試験は固形腫瘍 (黒色腫・CRC・RCC・NSCLC) という全く異なるがん種で活性を示し、かつより詳細な薬力学データを提供した点で新規の貢献を果たした。特に、CRC・NSCLC という古典的に非免疫原性とされてきた腫瘍種での奏効は、抗PD-1の有効性が黒色腫・RCCに留まらないことを示す重要な洞察であった。

既存の抗CTLA-4療法と異なり、本試験での重篤irAEは39例中1例 (炎症性大腸炎) のみであり、CTLA-4阻害に比して明らかに良好な忍容性が確認された。これは前臨床モデルからの予測—PD-1欠損マウスが早期致死ではなく晩期・臓器特異的自己免疫を示すこと—と合致する知見であった。本試験の新規な寄与として、PD-1占有率の薬力学プロファイルが用量非依存的かつ持続的であることの発見は、臨床における投与スケジュール設計に重要な示唆を与えた。単回投与後57日以上にわたる70%以上のPD-1占有率維持は、より短い投与間隔が組織への浸潤と占有率を高める可能性を示唆した (Brahmer et al. JClinOncol 2010)。

臨床応用として、腫瘍細胞上のB7-H1膜発現が奏効の予測バイオマーカーとなりうることを示した発見は、後のexosomal PD-L1研究を含むPD-L1 IHCアッセイの開発と患者選択戦略の基礎となった。腫瘍浸潤CD8+ T細胞の増加という組織バイオマーカーの観察は、IO獲得耐性のメカニズム研究にも先駆的洞察を与えた。本試験の限界は対象症例数の少なさ (n=39) と生検解析の限定性 (n=9) であり、B7-H1の予測的価値については大規模な前向き検証が必要である点が著者らも認識していた。また、単回投与試験という設計上、繰り返し投与の安全性と有効性には限界があり、後続試験 (NCT00730639) での多回投与確認が必須であった。

残された課題として、投与スケジュールの最適化・患者選択バイオマーカーの確立・他の免疫モジュレーターとの組み合わせが提唱された。特に、前臨床でのシナジーが示されたがんワクチン・分子標的療法・他のチェックポイント阻害薬との組み合わせは、後のnivolumab・pembrolizumabによる免疫療法一次耐性の解明とPD-1以外のチェックポイントの探索につながる臨床開発の方向性を先取りするものであった。本論文はnivolumabの開発を経て抗PD-1療法が標準治療となる以前の、その出発点を記録した重要な文献として位置付けられる。

方法

本研究は多施設共同、first-in-human、非盲検、Phase I用量漸増試験として実施された (Johns Hopkins大学、Henry Ford Health Systems、Carolina BioOncology Institute、Washington大学の4施設)。対象疾患は治療抵抗性の転移性黒色腫・去勢抵抗性前立腺がん (CRPC)・腎細胞がん (RCC)・NSCLC (非小細胞肺がん)・大腸がん (CRC) とし、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) 0-1、適切な臓器機能を有する18歳以上の患者を対象とした。事前に少なくとも4週間の治療中断期間が必要であり、全身ステロイド・concurrent抗腫瘍療法・抗CTLA-4前治療は除外した。

MDX-1106 (IgG4モノクローナル抗体、S228P変異でIgG4分子交換を防止、KD 約2.6 nmol/L) を0.3・1・3・10 mg/kg (各コホート6例) の4段階用量と、最高用量10 mg/kgの15例拡大コホートで投与した。60分静脈内点滴、1回投与後8週・12週に画像評価 (RECIST 1.0)。臨床的利益例には12・16週の追加投与、さらに奏効継続例は4週ごと2回まで追加可能とした。DLT (dose-limiting toxicity、用量制限毒性) は投与後28日以内のGrade 3以上の治療関連有害事象と定義した。MTD (最大耐量) は6例中1例以下でDLTを示した最高用量と規定した。薬物動態はELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) で測定、PD-1占有率はフローサイトメトリーで評価した。腫瘍生検 (n=9) ではIHC (免疫組織化学染色) でB7-H1発現とリンパ球浸潤を評価し、B7-H1陽性の定義は腫瘍細胞の5%以上の膜発現とした。B7-H1発現と奏効の相関はFisher正確検定で評価した。主要評価期間は2006年10月から2009年6月 (結果報告は2010年1月時点)。