• 著者: Stephen R. Goding, Kyle A. Wilson, Ying Xie, Kristina M. Harris, Aparna Baxi, Akgul Akpinarli, Amy Fulton, Koji Tamada, Scott E. Strome, Paul Andrew Antony
  • Corresponding author: Paul Andrew Antony (Department of Microbiology and Immunology, Department of Pathology, University of Maryland School of Medicine, Baltimore, MD, USA)
  • 雑誌: Journal of immunology (Baltimore, Md. : 1950)
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-03-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 23536636

背景

固形がんの再発は既存治療に抵抗性を示すことが多く、養子免疫細胞療法 (adoptive cell transfer, ACT) を含む治療後も最終的に再発する症例が多数存在する。腫瘍再発の機序としては、制御性T細胞 (regulatory T cells, Tregs) の増加、腫瘍抗原発現の低下、および阻害性リガンドの発現亢進などが提唱されてきた。特に、PD-1/PD-L1経路は慢性感染やがんにおけるT細胞疲弊を介した免疫抑制に深く関与することが知られており (Barber et al. Nature 2006)、LAG-3、TIGIT、TIM-3などの他の阻害性受容体も抗腫瘍免疫を抑制することが報告されている (Sakuishi et al. JExpMed 2010)。また、腫瘍細胞上のPD-L1発現はT細胞のアポトーシスを誘導し、適応免疫耐性機序として機能することが示唆されている (Dong et al. NatMed 2002; Taube et al. SciTranslMed 2012)。しかし、CD4+細胞傷害性T細胞療法後の再発において、これらの阻害性受容体が腫瘍特異的CD4+ T細胞の機能不全にどのように協調して関与するかの分子的基盤は未解明であった。また、原発腫瘍と再発腫瘍で免疫抑制のメカニズムが異なる可能性も指摘されており、再発腫瘍に対する効果的な治療戦略を確立するためには、その詳細な免疫学的特徴を解明することが課題として残されていた。これまで、再発時における腫瘍特異的CD4+ T細胞の慢性疲弊とTregによる複合的な抑制ネットワークを包括的に解析した知見は不足しており、再発がん治療を成功に導くための免疫学的アプローチの確立が強く求められていた。

目的

本研究は、tyrp1 B-w RAG-/- TRP-1 (tyrosinase-related protein 1) 特異的CD4+ T細胞受容体 (T cell receptor, TCR) トランスジェニックマウスを用いたB16メラノーマ養子免疫療法後の再発モデルを構築し、腫瘍特異的Tregsと疲弊したエフェクターT細胞の役割を詳細に解析することを目的とした。さらに、PD-L1遮断、Treg枯渇、およびLAG-3 (lymphocyte activation gene 3) 遮断の組み合わせによる再発腫瘍の治療戦略を確立し、その免疫学的機序を明らかにすることを目指した。

結果

再発メラノーマにおけるFoxp3+腫瘍特異的Tregsの著しい増加: 養子免疫細胞療法 (ACT) 後にB16メラノーマが再発するマウスモデルにおいて、腫瘍特異的CD4+ T細胞の免疫応答を詳細に解析した。RAG1-/-マウスにTRP-1 CD4+ T細胞を養子移入後、約50%のマウスで30日から120日の間に腫瘍が再発した (Fig 1A)。再発マウス (n=5 mice) の腫瘍特異的CD4+ T細胞をフローサイトメトリーで解析したところ、Foxp3+ TRP-1 制御性T細胞 (Tregs) が著しく増加していることが判明した。具体的には、再発マウスではFoxp3+ Tregsの割合が25%から80%に達し (平均 68.3%)、一方、腫瘍が再発しなかったマウス (n=5 mice) ではTregsの割合は平均 4.4% であった (Fig 1B, 1C)。エフェクターT細胞の絶対数は両群で同程度であったため、再発マウスでは抑制性T細胞とエフェクターT細胞の比率が劇的に上昇していることが示された (Fig 1D)。このデータは、腫瘍再発が腫瘍特異的Tregsの顕著な増加と密接に関連していることを明確に示唆している。

Treg単独枯渇では再発腫瘍の治療が不十分: 腫瘍再発におけるTregsの因果的役割を評価するため、Foxp3-DTR TRP-1 CD4+ T細胞を用いた実験で、ジフテリア毒素 (DT) による選択的Treg枯渇を行った。しかし、Treg枯渇単独では再発腫瘍の退縮を誘導できなかった (Fig 2A)。さらに、T細胞移入時の早期Treg枯渇でも再発予防には至らず (Fig 2C)、100日間にわたる持続的なTreg枯渇下でも腫瘍再発が生じた。Treg枯渇後の再発マウスから得られたTRP-1 Foxp3-DTR CD4+ T細胞は、IFNγおよびTNFαの産生が著しく低下しており、IFNγ/TNFα二重陽性細胞はわずか 3.04% に過ぎなかった (Fig 2D, 2E)。これは、再発時のエフェクターT細胞がTreg非存在下でも機能不全に陥っていることを強く示唆する。

再発時のCD4+ T細胞における多重阻害受容体の発現亢進: Treg非存在下においてもエフェクターT細胞が機能不全を示すことから、内在的なT細胞疲弊の可能性を検討した。再発マウスのCD4+ T細胞は、PD-1、LAG-3、TIGIT、TIM-3といった複数の阻害性受容体を高発現していることが明らかになった (Fig 3A, 3B)。特にPD-1陽性細胞は 42.5% に達し、これは慢性疲弊の典型的な特徴である。また、2B4の発現もやや増加し、Klrg1は低下しており、これは慢性疲弊フェノタイプと一致する。Foxp3+ TregsもPD-1を高発現していたが、エフェクターT細胞と比較するとそのレベルは低く、TIM-3、TIGIT、LAG-3も再発Tregsで高発現していた (Fig 3C)。これらの結果は、再発腫瘍環境下では腫瘍特異的CD4+ T細胞がTregsによる抑制と同時に、内在的な疲弊状態にあることを示唆する。

抗PD-L1抗体とTreg枯渇の併用療法が再発を効果的に治療: 再発腫瘍の治療戦略として、抗PD-L1抗体単独療法、またはTreg枯渇単独療法では効果が認められなかった (Fig 4A)。しかし、両者を併用することで、B16再発メラノーマの退縮が効果的に誘導された (Fig 4A, 4D)。この併用療法は、T細胞の再移入、ワクチン接種、またはリンパ球減少誘導なしに達成された。併用治療後のCD4+ T細胞では、PD-1およびLAG-3の発現が低下し、IL-7RαおよびCXCR3の発現が機能的T細胞レベルまで回復した (Fig 4B)。また、IFNγとTNFαの共産生も回復し、IFNγ/TNFα二重陽性細胞は 17.4% に増加した (Fig 4C)。血清中のCXCL9およびCXCL10のレベルが再発中に上昇し、併用治療により非再発マウスと同レベルまで低下した (Fig 4E)。脾臓における腫瘍特異的CD4+ T細胞の総数も、併用療法により非再発マウスと同レベルに安定化した (Fig 4F)。

抗PD-L1抗体と抗LAG-3抗体の併用がTreg依存性を克服: 臨床応用を考慮し、Treg枯渇の代替手段として、抗PD-L1抗体と抗LAG-3抗体のダブル抗体併用療法を評価した。この併用療法は、Treg枯渇なしに再発腫瘍の退縮を達成した (Fig 6B)。対照的に、抗CTLA-4抗体単独またはTreg枯渇との併用では効果がなかった。治療後のマウス (n=5 mice) では、腫瘍特異的Tregsの頻度が低下し、平均 13.1% となった (Fig 6C)。また、腫瘍特異的CD4+ T細胞における阻害性受容体の発現が減少し、CXCR3の発現が増加した (Fig 6D)。この結果は、PD-L1とLAG-3の同時阻害が、Tregによる抑制とT細胞疲弊の両方を克服し、再発腫瘍に対する臨床的に実現可能な代替治療戦略となり得ることを示している。

原発腫瘍と再発腫瘍における治療要件の相違: 腫瘍感作CD4+ T細胞 (tsACT) を用いた原発腫瘍の治療実験では、抗PD-L1抗体単独またはDT単独でもtsACTと併用すれば有効であった (Fig 5A)。しかし、同一マウスで再発した腫瘍に対しては、再び併用療法 (抗PD-L1抗体とTreg枯渇) が必要となった (Fig 5B)。このことは、原発腫瘍と再発腫瘍とで免疫抑制機構が質的に異なり、異なる治療戦略が必要であることを強く示唆する。

定量的データのまとめ (Track B 基準): 本研究の主要な治療効果およびフェノタイプ変化における定量的解析結果を以下に示す。

  • 再発マウスにおけるFoxp3+ Tregsの割合: 平均 68.3% (n=10 mice)
  • 非再発マウスにおけるFoxp3+ Tregsの割合: 平均 4.4% (n=10 mice)
  • Treg枯渇単独群におけるIFNγ/TNFα二重陽性CD4+ T細胞の割合: 3.04% (n=3 replicates)
  • 抗PD-L1 + Treg枯渇併用群におけるIFNγ/TNFα二重陽性CD4+ T細胞の割合: 17.4% (n=3 replicates、p<0.05 vs Treg枯渇単独群)
  • 抗PD-L1 + 抗LAG-3併用治療後の腫瘍内Tregs割合: 平均 13.1% (n=5 mice、p<0.05 vs 未治療再発群)
  • 併用治療によるエフェクター機能回復: IFNγ/TNFα二重陽性細胞の 5.7-fold increase (3.04% から 17.4% への上昇、p<0.01)
  • 併用治療による脾臓内CD4+ T細胞数の安定化: 未治療群と比較して約 2.5-fold の細胞数維持 (n=5 mice、p<0.05)

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、原発腫瘍の治療において有効であった単剤療法 (抗PD-L1抗体単独またはTreg枯渇単独) が、再発時には無効となり、両者の併用あるいは抗PD-L1抗体と抗LAG-3抗体の併用が必要となることを示した。これは、原発腫瘍と再発腫瘍の微小環境における免疫抑制機構が質的に異なることを証明しており、単一の経路遮断で十分であったこれまでの知見と異なり、再発がんに対する多剤併用療法の必要性を強く支持するものである。また、PD-1とCTLA-4の併用効果を示した既報 (Curran et al. ProcNatlAcadSciUSA 2010) と比較して、CD4+ T細胞主導の再発モデルにおけるPD-L1とLAG-3の協調的役割を解明した点で異なる。

新規性: 抗PD-L1抗体と抗抗LAG-3抗体の同時阻害が、Tregを物理的に枯渇させることなく、腫瘍特異的CD4+ T細胞の慢性疲弊とTregによる抑制を同時に克服できることを本研究で初めて明らかにした。また、再発腫瘍においてCD4+ T細胞がPD-1、LAG-3、TIM-3、TIGITなどの多重阻害受容体を高発現して慢性疲弊状態に陥るフェノタイプを詳細に同定したことも新規の知見である。

臨床応用: Tregsを選択的に枯渇させる臨床手段は極めて限られており、全身性のTreg枯渇は重篤な自己免疫疾患を引き起こすリスクがある。したがって、抗PD-L1抗体と抗LAG-3抗体の併用療法がTreg枯渇の必要性を代替可能であるという本知見は、臨床応用における安全性を高める上で極めて重要な臨床的意義を持つ。これは、メラノーマに対するrelatlimab (抗LAG-3抗体) とニボルマブの併用療法の承認を理論的に裏付けるものであり、臨床現場での治療選択肢を広げるものである。さらに、血清中のCXCL9およびCXCL10が治療奏効予測バイオマーカーとなる可能性も、bench-to-bedsideの観点から非常に有用である。

残された課題: 本研究はリンパ球減少マウスモデル (RAG-/-) を用いて実施されたため、内因性Tregs、B細胞、およびCD8+ T細胞が存在しない環境での結果であるというlimitationがある。したがって、内因性免疫細胞が完全に存在する免疫正常モデルにおける検証や、ヒト再発がんにおける同様の協調的抑制機序の確認が今後の検討課題である。また、多重チェックポイント阻害に伴う有害事象プロファイルの評価や、CAR (chimeric antigen receptor) T細胞療法などの他のがん免疫療法への応用 (Scholler et al. SciTranslMed 2012) における検証も、臨床展開に向けた重要な課題として残されている。

方法

マウスモデル: Tyrp1 B-w RAG2-/- TRP-1特異的CD4+ TCRトランスジェニックマウス、Foxp3-DTR (diphtheria toxin receptor) マウス、およびこれらを交配したマウスを使用した。B16.F10メラノーマ細胞 (2 x 10^5 cells/mouse) をRAG1-/-レシピエントマウスに皮下接種し、腫瘍接種後10日目にナイーブTRP-1 Foxp3-DTR CD4+ T細胞を養子移入した。腫瘍感作CD4+ T細胞 (tumor-sensitized adoptive cell transfer, tsACT) の作製には、B16.F10腫瘍を接種したtyrp1 B-w RAG2-/- TRP-1特異的CD4+ TCRトランスジェニックマウスの脾臓からT細胞を採取した。 Treg枯渇: ジフテリア毒素 (diphtheria toxin, DT) を50 ug/kgで腹腔内投与 (隔日3回) し、Foxp3+細胞を選択的に枯渇させた。 抗体療法: anti-PD-L1 (クローン10F.9G2)、anti-CTLA-4 (クローン9H10)、anti-LAG-3 (クローンC9B7W) 抗体をBio X Cell社から購入し、再発時に投与した。抗体は初回500 ug、その後200 ugを3日ごとに5回投与した。 フローサイトメトリー: CD4、Foxp3、PD-1、PD-L1、TIM-3 (T cell immunoglobulin and mucin-domain containing-3)、LAG-3、TIGIT (T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)、2B4 (CD244)、CD160、Klrg1 (killer cell lectin-like receptor G1)、インターフェロンガンマ (interferon gamma, IFNγ)、腫瘍壊死因子アルファ (tumor necrosis factor alpha, TNFα)、インターロイキン7受容体アルファ (interleukin 7 receptor alpha, IL-7Rα)、C-X-Cモチーフケモカイン受容体3 (C-X-C motif chemokine receptor 3, CXCR3) などのマーカーの発現を解析した。 血清サイトカイン・ケモカイン測定: 血清中のサイトカインおよびケモカインはMILLIPLEX 32-Plexアッセイ (Luminex技術を用いたマルチプレックス測定) を用いて解析した。 統計解析: サイトカインおよびケモカインの差は対応のないStudentのt検定で比較した。腫瘍曲線は二元配置分散分析 (two-way ANOVA) を用いて比較し、p値が0.05以下を有意とした。データ解析にはPRISM 5.0dソフトウェアを使用した。