- 著者: Neal JT, Li X, Zhu J, Giangarra V, Grzeskowiak CL, et al. (Davis MM, Kuo CJ)
- Corresponding author: Calvin J. Kuo
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 30550791
背景
免疫チェックポイント阻害療法 (immune checkpoint blockade, ICB) の臨床的成功により、腫瘍微小環境 (tumor microenvironment, TME) における腫瘍上皮と免疫細胞の相互作用を ex vivo で再現できるモデルへの需要が高まった。しかし TME の細胞種多様性が治療応答を決定づける一方で (Junttila and de Sauvage 2013; Klemm and Joyce 2015)、その複雑性を保持する 2D / 3D モデルは決定的に不足していた。従来の患者由来オルガノイド (patient-derived organoid, PDO) は腫瘍上皮のみを純化する設計であり (Sato 2011; Boj 2015; Fujii 2016)、内在性 TME を再構成なしに保持できなかった。免疫細胞を扱う系も、末梢血や樹立がん細胞株を組み合わせた外来性再構成 (heterologous reconstitution) に依存し (Feder-Mengus 2008; Hirt 2014; Dijkstra 2018)、腫瘍固有の syngeneic 免疫環境を反映する点で手薄であった。短期マクロファージ保存や微小流体デバイス内スフェロイドの報告 (Jenkins 2018; Deng 2018) も、機能的 T 細胞や腫瘍-免疫特異性を欠いていた。すなわち「腫瘍上皮と内在性腫瘍浸潤リンパ球 (tumor-infiltrating lymphocyte, TIL) を一体 (en bloc) で培養・機能評価する」系は本研究時点で確立されておらず、チェックポイント阻害機構の TME 内在的寄与を分離して解析する手段が gap in knowledge として残されていた。先行する単一細胞免疫プロファイリング (Lavin et al. Cell 2017; Azizi et al. Cell 2018) は TME の細胞状態を記述したが、培養系で TCR レパトアと機能を同時に保持する手法とは結びついていなかった。加えて腫瘍変異負荷や PD-L1 発現といった静的バイオマーカー (Rizvi et al. Science 2015) は応答予測能が限定的で、TME 内在的な機能を直接測定する手段は未解明のまま残されていた。
目的
著者らが過去に確立した air-liquid interface (ALI) オルガノイド法を臨床腫瘍検体へ拡張し、(1) 多様なヒト腫瘍組織型および免疫能正常 syngeneic マウス腫瘍から、内在性免疫ストローマ (T / B / NK / マクロファージ) を再構成なしに保持する PDO を樹立できるか、(2) PDO 内 TIL が元腫瘍 (fresh tumor, FT) の T 細胞受容体 (T cell receptor, TCR) レパトアを忠実に保持するか、(3) ヒトおよびマウス PDO において PD-1/PD-L1 チェックポイント阻害が TIL の拡大・活性化・腫瘍細胞傷害として機能的に再現されるか、を検証することを目的とした。
結果
多様な腫瘍組織型から内在性免疫ストローマを保持する PDO の樹立と遺伝的忠実性:100 例の患者腫瘍 (19 臓器部位・28 疾患サブタイプ) から 1 カ月培養で 73% の成功率で ALI PDO を樹立し、最も急速増殖した 15 例中 12 例 (80%) で凍結保存・再継代が可能であった (Fig 1A, 1E)。PDO は親腫瘍の組織像を再現し、大腸腺癌の APC 欠失、膵管腺癌の KRAS codon 12 変異、NSCLC の TP53 欠失、明細胞腎癌 (ccRCC) の VHL 変化、甲状腺癌の BRAF V600E、さらに患者既知の EGFR L858R を保持した (Fig 1H, Table S2)。PDO 内には SMA⁺ / Vimentin⁺ の cancer-associated fibroblast に加え、CD8⁺ (Tc) / CD4⁺ (Th) T 細胞、B 細胞、NK / NKT 細胞 (4.2%)、PD-1⁺ T 細胞、CD14⁺ / CD68⁺ マクロファージが一体で保持された (Fig 3D, 3E)。マウス系 (B16-SIY / MC38 / A20-OVA) でも CD3⁺ TIL と CD11b⁺ TAM が serial passage 42 日まで保持された (Fig 4A-4D)。
同一単一細胞 5’ V(D)J + RNA-seq による TCR レパトア高忠実度保持の実証:健常 PBMC 約 3,800 細胞の検証では、T 細胞 1,744 個のうち 86% (1,495/1,744) が生産的 TCR α または β 鎖を、73% が α/β 両鎖を有し、B 細胞 556 個の 99% (551/556) が Ig 重鎖・軽鎖を示した (Fig 5B-5D)。希釈系では Jurkat / GM12878 クロノタイプを 0.1% 頻度まで精度 89-91% で検出した (Table S3D)。ccRCC の FT/PDO ペア (各 9,914 / 10,377 CD45⁺ 細胞) では Tc / Th / B / NK / M2 マクロファージが共通再現され (Fig 5E)、最頻 TCR クロノタイプは FT・PDO で同順位、両者のクロノタイプ細胞数は有意に相関した (R² = 0.719、permutation test p<0.01) (Fig 5G-5I)。上位クロノタイプは双方で LAG3 / TIGIT / TIM3 / PD-1 を共発現する exhausted T 細胞に局在した (Fig 5J)。独立した NSCLC 2 例の SMART-seq2 解析でも一致を確認し (p<0.01)、Chromium 法は SmartSeq2 比で約 1,000 倍多いクロノタイプを捕捉した。
マウス・ヒト PDO における PD-1/PD-L1 チェックポイント阻害の機能的再現:マウス PDO 全 3 系で抗 PD-1 / 抗 PD-L1 は CD8⁺ TIL を有意に拡大し、Ifng / Prf1 / Gzmb mRNA を著明に誘導した (n=3 biological replicates、p<0.05) (Fig 6A-6C)。B16-SIY オルガノイドでは SIY ペプチドロード H-2Kᵇ テトラマーで抗原特異的 CD8⁺ TIL を同定でき、抗 PD-1 / 抗 PD-L1 が SIY 反応性 TIL を選択的に拡大・活性化した (passage 2 day 42 でも再現) (Fig 6F-6J)。腫瘍上皮傷害は Annexin-V⁺/7-AAD⁻ 早期アポトーシスが 3-fold 増、Annexin-V⁺/7-AAD⁺ 後期アポトーシス・壊死が 7- から 14-fold 増として確認された (Fig 6D, 6E)。ヒト PDO の nivolumab 7 日間処理では 6/20 例で IFNG / PRF1 / GZMB の >5-fold 高グレード誘導を認め、内訳は NSCLC (n=9 中 3 例 = 33%)、ccRCC (n=8 中 2 例 = 25%)、黒色腫 (n=3 中 1 例 = 33%) と各がん種臨床奏効率に一致した (Fig 7A)。
標準 PD-L1 IHC を超える腫瘍内在性免疫機能の評価:nivolumab 活性化応答群 6 例中 5 例で CD8⁺ TIL が >35% 拡大した一方 (非応答群は 14 例中 2 例)、TIL 活性化マーカーは clone 28-8 PD-L1 IHC とは GZMB を除いて相関せず (GZMB のみ r=0.51, p=0.03)、IFNG / PRF1 は PD-L1 IHC % と無相関であった (Fig 7B, 7C)。活性化応答は PDO の CD4/CD8 比や T 細胞頻度とも無関係で、PDO TIL 上の PD-1 発現頻度とのみ相関した。独立コホート 10 例 (ccRCC / NSCLC / 膀胱尿路上皮癌 / 黒色腫) では抗 CD3 / 抗 CD28 併用下で 2/10 例が nivolumab 依存性の腫瘍細胞傷害を TIL 拡大・活性化と並行して示した (PRF1 / GZMB / IFNG いずれも p<0.001) (Fig 7D-7F)。これらは PDO が静的バイオマーカーでは捉えられない複合的・動的 TME 機能を反映することを示す。
考察/結論
本研究は、腫瘍上皮と内在性 syngeneic TIL を再構成なしに一体培養する ALI PDO 系を確立し、これまでの研究で達成できなかった「腫瘍-免疫一体モデル」を実現した点で意義が大きい。上皮のみを純化する従来オルガノイド (Sato 2011; Boj 2015) や、末梢血・がん細胞株の外来性再構成系 (Dijkstra 2018; Feder-Mengus 2008) とは対照的に、本系は内在性 T / B / NK / マクロファージを native な物理的配置のまま保持し、MHC テトラマーで腫瘍抗原特異的 T 細胞を直接検出できる。本研究で初めて、同一単一細胞からの 5’ V(D)J + RNA-seq により TCR クロノタイプと細胞状態 (exhausted T 細胞を含む) を高感度・高精度に対応づけ、FT と PDO のレパトア一致 (R² = 0.719) を distinct clonotype 解像度で実証した。これは既報の単一細胞 FACS 法 (Han 2014) が 250-600 TIL 程度の低スループットに留まったのに対し、約 1,000 倍の細胞数で 0.1% 頻度の稀少クロノタイプまで捕捉できる novel な手法である。臨床応用の観点では、curative-intent 切除検体由来 PDO の nivolumab 応答率が NSCLC / ccRCC / 黒色腫の各臨床奏効率に一致し、活性化応答が標準 PD-L1 IHC ではなく PDO TIL の PD-1 発現頻度と相関した点が重要で、7 日間という臨床的に実行可能な時間枠で個別化免疫療法応答を評価する bench-to-bedside の橋渡しツールとなりうる。PD-L1 IHC や neoantigen burden、末梢血単球量 (Krieg et al. NatMed 2018; Rizvi et al. Science 2015; Herbst et al. Nature 2014) といった記述的バイオマーカーを補完しうる。一方で残された課題として、TIL は IL-2 や抗 CD3/CD28 で延命しても 60 日を超えて維持できず、長期共培養の機能的帰結の解明には更なる検討が必要である。また本系は TME 内在的免疫応答を表すモデルであり、抗腫瘍免疫に必須の末梢免疫寄与を欠く点が本質的な limitation である。リンパ節・血液由来免疫成分との統合、CAR-T や他チェックポイント標的への拡張、患者治療と並行した前向き相関研究が今後の研究課題となる。結論として、ALI PDO は腫瘍上皮・線維芽間質・内在性 TIL を一体保持し、元腫瘍 TCR レパトアを高精度に再現しながら PD-1/PD-L1 チェックポイント阻害を機能的に再現する、免疫腫瘍研究と個別化免疫療法スクリーニングの新たな基盤を提供する。
方法
100 例を超えるヒト腫瘍検体 (手術切除およびコア針生検) と、免疫能正常 syngeneic マウス皮下腫瘍 (cell line: B16-SIY (B16 melanoma expressing the SIY model antigen) 黒色腫、MC38 大腸腺癌、A20-OVA B 細胞リンパ腫; mouse strain: C57BL/6 および BALB/c、xenograft は NSG mice) から、機械的に分散した腫瘍断片を I 型コラーゲンゲル ALI 培養に播種して PDO を樹立した。基本培地は WNT3A (Wnt family member 3A) / EGF / NOGGIN (Noggin BMP antagonist) / R-spondin1 を含む WENR (Wnt-EGF-Noggin-R-spondin niche cocktail) を用い、19 臓器部位・28 疾患サブタイプを対象とした。特性評価は組織学 (H&E、免疫蛍光: PanCK / E-cadherin / SMA / Vimentin / CD3 / CD8 / CD4 / CD14 / CD68)、標的エクソーム・ホットスポット PCR シーケンスによる SNV / コピー数変異 (copy number alteration) 解析で行った。免疫レパトアは Chromium Single-Cell Immune Profiling Solution により、同一単一細胞から 5’ 遺伝子発現すなわち GEX (gene expression)・TCR・免疫グロブリン (immunoglobulin, Ig) の V(D)J を同時取得した。FT と PDO 間の TCR クロノタイプ細胞数の一致は permutation test と決定係数 R² で評価し、独立検証として SMART-seq2 による単一細胞 TCR CDR3 シーケンスを併用した。機能解析では、マウス PDO を抗 PD-1 / 抗 PD-L1 単クローン抗体または対照 IgG で 7 日間処理し、CD8⁺ TIL 数の FACS 定量、Ifng / Prf1 / Gzmb mRNA の qRT-PCR、Annexin-V / 7-AAD 染色による腫瘍上皮アポトーシスを測定した。ヒト PDO は nivolumab または isotype IgG4 で 7 日間処理し、TIL 活性化応答を評価した。PD-L1 IHC (clone 28-8) との相関は Pearson 相関係数 (r) で検定し、誤差は ± SEM で表示した。