• 著者: Carsten Krieg, Malgorzata Nowicka, Silvia Guglietta, Sabrina Schindler, Felix J. Hartmann, Lukas M. Weber, Reinhard Dummer, Mark D. Robinson, Mitchell P. Levesque, Burkhard Becher
  • Corresponding author: Carsten Krieg (Medical University of South Carolina); Mitchell P. Levesque (University Hospital Zurich); Burkhard Becher (University of Zurich)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-01-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29309059

背景

抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)による免疫チェックポイント阻害療法は、進行メラノーマにおいて33〜40%の患者に持続的奏効をもたらすものの、中央値追跡期間21ヶ月時点での奏効患者は25%にとどまる。腫瘍PD-L1発現や組織腫瘍変異量(tTMB)は不完全な予測バイオマーカーであり、患者選択ツールとしての限界があることが指摘されてきた。例えば、Herbst et al. Nature 2014はPD-L1発現と奏効の関連を報告したが、その予測能は限定的であった。また、Zaretsky et al. NEnglJMed 2016は獲得耐性に関連する変異を同定したが、治療前の予測には直接的に寄与しない。末梢血を用いた最小侵襲性の予測マーカー開発は急務であるが、これまでの単細胞解析の先行研究では、パラメータ数の制限、独立検証コホートの欠如、バイアスのかかったゲーティング手法、系統的なバイオインフォマティクスパイプラインの欠如といった方法論的課題が残されており、信頼性の高い予測バイオマーカーの同定には至っていなかった。特に、高次元データ解析における適切な統計学的アプローチが不足しており、細胞集団の網羅的な特徴付けと奏効予測の関連性を明確にすることは未解明な領域であった。これらの課題を克服し、治療前の患者層別化を可能にする新たなバイオマーカーの発見が強く求められている。

目的

本研究の目的は、マスサイトメトリー(CyTOF)と最適化された免疫マーカーパネルおよびカスタムバイオインフォマティクスパイプラインを用いて、ステージIVメラノーマ患者の末梢血単核球(PBMC)を治療前および治療中(12週後)に高次元単細胞解析し、抗PD-1療法に対する奏効者と非奏効者を弁別する予測免疫シグネチャを同定することである。さらに、発見コホートで得られた知見を、独立した盲検検証コホートにおいて、より簡便なフローサイトメトリーにより確認し、臨床応用可能なバイオマーカーとしての有用性を確立することも目的とする。これにより、治療前の患者選択を最適化し、個別化医療の推進に貢献することを目指す。

結果

治療前の全体的免疫状態と細胞クラスター分類: 発見コホート(n=20)の治療前および治療12週後サンプル(n=40)と健常ドナー(n=20)を含む全60サンプルの階層的クラスタリングでは、2つの主要クレードが形成された。一方のクレード(15サンプル)は全ての奏効者を含み、他方のクレード(25サンプル)は72%が非奏効者であった(Figure 1a)。FlowSOMアルゴリズムによる7つの主要免疫細胞集団分類では、奏効者においてCD4+ T細胞頻度(adjusted p=1.55×10⁻⁵)およびCD8+ T細胞頻度(adjusted p=1.74×10⁻³)が有意に低く、CD19-HLA-DR+骨髄系細胞頻度(adjusted p=1.74×10⁻³)が有意に高かった(Figure 1d)。このT細胞頻度の低下は、末梢血から腫瘍局所への遊走増加を反映している可能性が示唆された。NKT細胞頻度は奏効者で高く(adjusted p=3.07×10⁻³)、γδ T細胞頻度は奏効者で低かった(adjusted p=2.52×10⁻³)。

T細胞サブセットの差異と治療による変化: CD4+ T細胞では、奏効者でCTLA-4、HLA-DR、CD69、BTLAの発現が治療前・治療後ともに高かった(Figure 2a)。CD8+ T細胞では、CD45RO、CTLA-4、CD62L、CD69、CD11a、CCR4の発現が奏効者で高かった(Figure 2b)。T細胞サブセット解析では、奏効者で循環CD4+ effector memory(EM)T細胞の頻度が低く(adjusted p=8.21×10⁻³)、CD8+ naive T細胞の頻度も低かった(adjusted p=6.95×10⁻³)。一方、CD8+ central memory(CM)T細胞の頻度は、治療前および治療後ともに奏効者で有意に高かった(Figure 2d)。治療12週後には、CD4+ T細胞でPD-1、IL-4、IFNγ、IL-10、IL-17A、グランザイムBの発現が増加し(Figure 3a-d)、CD8+ T細胞でもCTLA-4、グランザイムBの発現が増大した(Figure 4a-d)。サイトカイン産生T細胞の組み合わせ解析(CCG)では、CD4+ T細胞において3つのCCGが奏効者で高頻度であり、そのうち最も一般的なシグネチャはCTLA-4+、グランザイムB+、TNFα+、PD-1+であった(Figure 3c,d)。CD8+ T細胞では13のCCGが奏効者で拡大し、1つのCCGが減少した(Figure 4c,d)。

骨髄系細胞および古典的単球シグネチャの同定: 骨髄系細胞特化パネルを用いたFlowSOM解析により、4つの主要クラスター(古典的単球(CD14+CD16-HLA-DRhi)、CD14-骨髄系細胞、形質細胞様樹状細胞(pDC)、古典的樹状細胞(cDC))が同定された(Figure 6a)。奏効者では、古典的単球(CD14+CD16-HLA-DRhi)の頻度が治療前および12週後ともに非奏効者より有意に高かった(adjusted p=5.82×10⁻³)。発見コホートにおける平均頻度は、奏効者で4.2%、非奏効者で2.1%であった。高解像度解析(100クラスター)でも、クラスター8、9、18が奏効者で一貫して高頻度であり、これらは比較的均一なCD14+CD16-HLA-DRhi集団を構成した(Supplementary Figure 9)。骨髄系細胞の全体的マーカー発現解析では、ICAM-1やHLA-DRなどの遊走・活性化マーカーを含む16マーカーが奏効者で高発現していた(Figure 5c)。非奏効者では、低HLA-DR発現を示す未熟顆粒球様集団(CD14+CD16+CD33+HLA-DRlow)が相対的に多く、この集団は骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)様の特性を示した。

CellCnn機械学習による自動シグネチャ検出: 畳み込みニューラルネットワークベースのCellCnnをパネル3のベースラインサンプルに適用した結果、自動検出されたシグネチャ集団の相対頻度は、奏効者で4.8% ± 2.0%(平均 ± 標準偏差)、非奏効者で2.4% ± 1.5%と有意差が認められた(P < 0.01)。このCellCnn検出集団のコアシグネチャは、CD14+CD33+HLA-DRhiICAM1+CD64+CD141+CD86+CD11c+CD38+PD-L1+CD11b+単球であり、tSNE地図上でCD14+CD16-HLA-DRhiクラスターと高い重複を示した(Supplementary Figure 10, 11)。RNAシーケンス解析では、CD14+CD16-HLA-DRhi単球において、癌患者と健常ドナー間で代謝、遊走、炎症に関連する遺伝子の発現亢進が認められたが、奏効者と非奏効者間ではケモカイン遺伝子CXCL2の例外を除き、有意な遺伝子発現差は認められなかった(Figure 6b, Supplementary Figure 12)。これは、単球の遺伝子発現パターンや分極よりも、循環単球の頻度が抗PD-1免疫療法への奏効と相関することを示唆する。

独立検証コホートでの確認とOS予測: 独立した盲検検証コホート(n=31)においても、奏効者でCD3+CD56-T細胞頻度が低く(P=9.52×10⁻³)、CD3-CD19-CD14+CD16-HLA-DR+単球頻度が有意に高いことを確認した(P=1.70×10⁻⁹)(Figure 6c)。単球頻度の最適カットオフ値19.38%を用いて患者を高頻度群と低頻度群に分類すると、高頻度群は全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)が優れていた(12ヶ月OS: P=0.00092 by Wilcoxon test、6ヶ月PFS: P=0.027 by Wilcoxon test)(Figure 6d)。Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析では、53の標準臨床パラメータを全て含めても、古典的単球と未熟顆粒球のみがPFSと独立して関連する予測因子であることが示された(Supplementary Figure 16b)。

考察/結論

本研究は、末梢血CD14+CD16-HLA-DRhi古典的単球の頻度が抗PD-1療法の奏効と生存を高い精度で予測する独立したバイオマーカーであることを、高次元マスサイトメトリーと系統的バイオインフォマティクス解析により発見し、独立したフローサイトメトリーコホートで検証した初めての研究である。

先行研究との違い: 従来の研究では、CD33+CD11b+HLA-DRlow/陰性といった「免疫抑制性骨髄系細胞(MDSC類似)」の高頻度がチェックポイント阻害不応と相関すると提唱されてきたが、本研究ではこの集団に奏効者と非奏効者間で差を認めなかった点が、これまでの報告と対照的である。代わりに、活性化・高HLA-DR発現の古典的単球が奏効者で高い頻度を示すことを同定しており、文脈的な単球サブセット定義の精緻化の重要性を示唆する。また、Topalian et al. NEnglJMed 2012Hamid et al. NEnglJMed 2013などの初期の臨床試験では、T細胞の活性化マーカーが奏効と関連することが示唆されたが、治療前の末梢血単球の頻度が強力な予測因子であるという知見は新規である。

新規性: 本研究で初めて、治療前の免疫状態として、腫瘍内浸潤T細胞の枯渇を反映した末梢T細胞の相対的減少と、活性化単球の増加が対をなすという解釈を提示した。これは、抗腫瘍免疫応答が既に進行中の患者(免疫系が腫瘍に応答しているが不十分な状態)がPD-1遮断により増強されやすいという概念と整合する。NK細胞やT細胞由来のIFNγが骨髄細胞の骨髄からの動員を促し、さらにIFNγが骨髄細胞増殖を増強するという正のフィードバック機構が推定される。古典的単球のPD-L1高発現(奏効者で高い)は、IFNγ刺激によるPD-L1誘導という基礎免疫機構を反映し、免疫応答が既に活性化されているサインであると考える。

臨床応用: フローサイトメトリーで検証された9色パネルへの簡略化は、本知見の臨床移行可能性を大幅に高める点で重要である。治療前の末梢血単球頻度という、簡便かつ低侵襲なバイオマーカーは、従来の腫瘍組織バイオマーカー(PD-L1発現やtTMB)と独立して、抗PD-1療法の患者選択に貢献し、臨床意思決定への応用が期待される。特に、カットオフ値19.38%は、患者の層別化に直接的に利用できる可能性がある。

残された課題: 本研究はメラノーマ患者コホートに限定されており、非小細胞肺癌(NSCLC)や腎細胞癌などの他のPD-1療法適応癌種での一般化は、今後の前向き多施設研究での確認が必要である。また、発見コホートが20例と小規模である点、カットオフ値19.38%がデータ駆動選択のためバイアスを孕む可能性、および腫瘍PD-L1発現との直接的な比較試験が実施されていない点が本研究のlimitationとして挙げられる。しかし、異なるアッセイ(CyTOFとフローサイトメトリー)間での一貫した知見は方法論的ロバスト性を支持し、末梢血単球が免疫チェックポイント阻害療法の動的バイオマーカーとして機能しうるという概念的枠組みを提供した。今後の研究では、これらの限界を克服し、より大規模なコホートでの検証と、他の癌種への適用可能性を検討することが残された課題である。

方法

患者コホートとサンプル収集: 本研究では、51例のメラノーマ患者から凍結保存されたPBMCサンプルを使用した。発見コホート(n=20)では、抗PD-1免疫療法(ニボルマブ 3 mg/kg 2週ごと、またはペムブロリズマブ 2 mg/kg 3週ごと)開始前と12週後のサンプル(計n=40)を採取した。奏効者は治療開始15週以内に部分奏効(PR)、完全奏効(CR)、または安定病変(SD)を示した患者と定義し、非奏効者は同期間中に疾患進行(PD)または進行による治療変更を要した患者と定義した。年齢・性別を適合させた健常ドナー10例(n=20)をコントロールとして含めた。検証コホートは、独立したメラノーマ患者31例(奏効15例、非奏効16例)の治療前PBMCで構成され、盲検下で解析された。全てのヒト生物学的サンプルは、患者からの書面によるインフォームドコンセントと、チューリッヒ州倫理委員会(KEK-ZH承認番号 2014-0425)の承認を得て収集された。

マスサイトメトリー(CyTOF)解析: 凍結PBMCを解凍後、3種類の異なるが部分的に重複するマスサイトメトリーパネルを用いて染色した。

  1. リンパ球表現型/T細胞分化・活性化パネル: 30パラメータの白血球マーカーを含み、主要な免疫細胞集団およびT細胞の分化・活性化段階を網羅的に同定した。
  2. サイトカイン産生パネル: PMA/イオノマイシン刺激後のIL-2、IL-4、IL-10、IL-13、IL-17A、GM-CSF、TNFα、IFNγ、グランザイムBの産生を評価した。
  3. 骨髄系細胞特化パネル: 骨髄系細胞の詳細な特徴付けに特化したマーカーセットを使用した。 データ取得後、各サンプルはデバーコードされ、Booleanゲーティングにより解析された。

バイオインフォマティクス解析: データ前処理後、正規化されたCD45陽性生細胞のメディアンマーカー発現に基づき階層的クラスタリングを実施した。細胞クラスタリングには、主成分分析(PCA)のinformativeness scoreで選択されたマーカーを用い、FlowSOMアルゴリズムとコンセンサスクラスタリングを適用した。視覚化には二次元t-SNE投影を使用し、各クラスターの正規化されたメディアンマーカー発現ヒートマップを用いて手動で7つの主要細胞集団(CD4 T細胞、CD8 T細胞、NK細胞、NKT細胞、B細胞、γδ T細胞、骨髄系細胞)をアノテーションした。さらに、畳み込みニューラルネットワークに基づく機械学習アルゴリズムであるCellCnnを用いて、疾患状態に関連する稀な細胞集団をデータ駆動型で自動検出した。統計解析には、一般化混合モデル(generalized mixed models)を用いて、健常ドナー、非奏効者、奏効者間の細胞頻度の差を評価し、Benjamini-Hochberg法により多重比較補正を行った。

RNAシーケンス解析: 健常ドナー、非奏効者、奏効者の治療前CD14+CD16-HLA-DRhi単球をソーティングし、RNAシーケンス解析を実施した。Salmonを用いてトランスクリプトレベルで定量化し、tximportで遺伝子レベルに集約後、Robinson et al. Bioinformatics 2010を用いて差次的発現解析を行った。偽陽性率(FDR)5%未満、fold change 1.5倍以上を差次的発現の基準とした。

フローサイトメトリーによる検証: 独立した検証コホート(n=31)の治療前PBMCに対し、CD3、CD4、CD11b、CD14、CD19、CD16、CD33、CD56、HLA-DRの9色パネルを用いたフローサイトメトリー解析を盲検下で実施した。FlowJoソフトウェアを用いて細胞頻度を抽出し、一般化線形モデル(GLM)とカットオフ値計算により統計的評価を行った。全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)の予測能は、Cox比例ハザードモデルとログランク検定を用いて評価した。