• 著者: Petralia F et al.
  • Corresponding author: Petralia F, Wang P
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-02-14
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 38359819

背景

免疫チェックポイント阻害療法は過去数十年のがん治療に革新をもたらしたが、持続的応答を示すのは患者の 10%-20% 未満にとどまる。腫瘍微小環境 (tumor microenvironment; TME) 内の多様な免疫回避メカニズムを同時に抑制する複合的治療戦略の開発が急務であり、そのためには TME の多層的・包括的な理解が不可欠である (Hanahan et al. Cell 2011)。

TME の免疫構成を広く解析する試みとして、TCGA をはじめとする複数のパンキャンサー免疫解析が実施されてきた。Thorsson ら (Thorsson et al. Immunity 2018) は TCGA 30 癌種のデータから 6 種類の免疫サブタイプを同定し、パンキャンサー免疫分類の基盤を築いた。しかしこれらの既存研究はゲノム・転写レベルの解析が中心であり、タンパク質発現や翻訳後修飾レベルでの免疫調節機構は手薄であった。また各癌種内の免疫不均一性の捕捉も不十分であり、特に IFNγ シグナルが活発でありながら T 細胞浸潤が低い cold サブタイプは識別されていなかった。PD-1 阻害薬への応答予測において CD8+ T 細胞浸潤と IFNγ シグナリングの組み合わせが重要なバイオマーカーとして示されており (Tumeh et al. Nature 2014)、これら分子特性をプロテオゲノミクスレベルで精密に規定する gap in knowledge が存在した。

NCI が支援する CPTAC (Clinical Proteomic Tumor Analysis Consortium) は 10 癌種にわたる大規模プロテオゲノミクスデータ (全ゲノムシーケンス・RNA-seq・定量プロテオミクス・リン酸化プロテオミクス) を構築しており、タンパク質・リン酸化レベルでの新たな免疫制御機序の探索を初めて可能にした。本研究はこのリソースを活用し、RNA のみでは同定できない免疫制御機構と治療標的を同定することを目指した。

目的

CPTAC パンキャンサープロテオゲノミクスデータ (10 癌種 1,056 腫瘍) を用いて腫瘍免疫ランドスケープを包括的に特性評価し、癌種横断的な免疫サブタイプを同定する。各サブタイプのゲノム・エピゲノム・転写・タンパク質発現特性を解析し、リン酸化プロテオミクスによるキナーゼ活性解析でサブタイプ特異的な治療標的候補を提案する。さらに組織病理学的 H&E 画像の機械学習解析との統合によるサブタイプ形態的検証と、第 III 相 OAK 試験データへの適用による臨床的意義の評価を目的とする。

結果

7 免疫サブタイプの同定と TCGA 分類との対照:コンセンサスクラスタリングにより 10 癌種横断で 7 つの免疫サブタイプが同定された (Fig 1E)。CD8+/IFNG+ は全 10 癌種に分布し、CD8+ T 細胞高浸潤・インターフェロン経路の活性化・T 細胞受容体シグナリングの活性化を特徴とする最も免疫応答性の高い (hot) サブタイプである。Eosinophils/endothelial は PDAC・LUAD・LSCC に多く、好酸球的細胞の存在を特徴とした。Fibroblast/TGFβ は TGFβ (transforming growth factor beta)・線維芽細胞・EMT (epithelial-mesenchymal transition)・focal adhesion 関連パスウェイの上昇を特徴とし、低酸素シグナルの上昇がプロテオミクスデータのみで同定され RNA では検出されなかった点が注目される (Fig 2C)。CD8-/IFNG+ は CD8 T 細胞・B 細胞浸潤が低いが IFNγ シグナルが活発なサブタイプ、CD8-/IFNG- は全免疫・間質細胞が最も少ない cold サブタイプであり、両者でDNA 損傷・修復・MYC ターゲット等の細胞増殖関連パスウェイが上昇していた。CCRCC/endothelial (マスト細胞・内皮細胞の高浸潤) と Brain/neuro (神経細胞濃縮・酸化的リン酸化の上昇) は癌種特異的サブタイプであった。

TCGA パンキャンサー免疫サブタイプ分類を CPTAC RNA-seq データに適用したところ、各癌種が TCGA の大分類 (CCRCC→炎症型、HNSCC/OV→IFNγ優位型、GBM→リンパ球枯渇型) にまとめて割り当てられ、癌種内の免疫不均一性が見落とされていた (Fig S2A/B)。特に TCGA の interferon gamma dominant サブタイプに混在していた CD8+/IFNG+ (highly immunogenic) と CD8-/IFNG+ (lowly immunogenic) の 2 群が CPTAC 解析では明確に分離され、プロテオゲノミクスアプローチの優位性が示された。

細胞型浸潤・生存と免疫療法応答:細胞型組成の癌種間比較では CCRCC と LUAD が最も高い CD8+ T 細胞浸潤を示し、LUAD では B 細胞浸潤も最高レベルであった (Fig 1B)。Cox 回帰生存解析では CCRCC・LUAD・PDAC で CD8+ T 細胞高浸潤が PFS 改善と有意に関連したが (FDR < 10%)、UCEC では逆の関連が認められた (Fig 1C)。

OAK 試験 (NCT02008227) の RNA-seq データ (n=344) に CPTAC 訓練済みサブタイプ予測モデルを適用したところ、344 例中 75 例 (22%) が CD8+/IFNG+ に分類された。この群はアテゾリズマブ治療 arm で有意に優れた PFS を示した (log-rank 検定、Fig 2A 左)。一方、ドセタキセル arm (n=355) では同様の関連は認められなかった (Fig 2A 右)。独立した CCRCC コホート (n=112) での検証でも CPTAC で同定された全サブタイプが再現され、CCRCC/endothelial が最大サブタイプとして維持された。IHC 検証 (LSCC; n=17) では CD8/CD4/CD163 IHC スコアと対応する細胞型分画の間に Spearman r > 0.55 (p < 0.05) の強い一致が確認された。また MRM 実験で CD8+/IFNG+ で上昇していた 5 タンパク質の有意な発現増加が HNSCC (n=59) で独立して確認された。

ゲノム変異・CNV・DNA メチル化の免疫サブタイプへの影響:470 遺伝子の変異プロファイルと免疫形質の elastic-net 回帰解析により 102 遺伝子が少なくとも 1 つの免疫形質と有意な関連を示した (Fig 3B)。STK11 変異は CD8-/IFNG+ と正相関し、LUAD での STK11 の RNA・タンパク質発現を有意に低下させた (p < 0.05、Fig 3C)。STK11 タンパク質は CD8-/IFNG+ サブタイプで他サブタイプより有意に低く (Fig 3D)、IFNγ シグナルが活発でありながら T 細胞浸潤が乏しいという矛盾した免疫状態への STK11 の関与が示唆された。BAP1 変異 (CCRCC での最頻出変異) と CASP8 変異は CD8+/IFNG+ と正相関し、BAP1 変異はBCCRCC での CD8+ T 細胞浸潤増加と関連していた。KEAP1/NFE2L2 変異は IFNG モジュール・内皮細胞・CD8 T 細胞と負相関した。

CNV 解析では Chr3p が最も多数の遺伝子 (n=467) で CD8+ T 細胞・マクロファージ浸潤との有意な関連を示し (p < 0.001)、CCRCC での Chr3p 欠失と T 細胞低浸潤の関連が支持された (Fig 3E)。9p21 領域 (CDKN2A/B・MTAP) の欠失は wound healing proliferation モジュールと相関し (Fig 3F)、免疫抑制 TME の形成への寄与が示唆された。DNA メチル化解析では PYCR1 が喫煙シグナチャーとの関連で最も高い有意性を示し (LUAD・HNSCC)、ANOVA 解析で CD8+/IFNG+ で DNAm が高く CD8-/IFNG- で低いパターンが確認された (Fig 4F)。喫煙誘導性 PYCR1 低メチル化が免疫抑制 TME を促進するメカニズムが示唆された。

リン酸化プロテオミクスによるキナーゼ活性と治療標的候補:Kinase Library 解析では CD8+/IFNG+ で MAPKAPKs (MAPK activated protein kinases)・IKKβ・TBK1 の基質が有意に富化されており (GBM・LSCC・PDAC で一貫、Fig 5A)、TBK1 は PD-1 ブロッケード応答増強に関わる免疫回避遺伝子として既報で独立同定された標的と一致した。AKT1・AKT3 も CD8+/IFNG+ で活性化され、PI3K-AKT-mTOR 経路の広範な活性化が示された。CDK1・CDK2 を含む細胞周期キナーゼは cold サブタイプ (CD8-/IFNG- および CD8-/IFNG+) で活性化されており、高増殖性の cold 腫瘍という特徴と一致した (Fig 5A)。

KEA3 解析では LYN・HCK・SYK などの Src ファミリーチロシンキナーゼが CD8+/IFNG+ で複数癌種にわたり一貫して活性化されていた (Fig 5B)。キナーゼ-TF モジュール解析では、LYN/SYK → STAT1/STAT5A/CEBPB の免疫促進シグナルモジュールと、PDK1/3/4 および MYO3B → CEBPB 抑制の解糖系キナーゼモジュールという相反する調節回路が同定された (Fig 6A)。CRISPR-Cas L1000 ノックアウトデータの検証では PDK1/3/4・MYO3B のノックアウトが自然免疫関連遺伝子発現を誘導し、CEBPB の下流標的と有意な overlap を示した (Fig 6B)。細胞型特異的解析では hot 腫瘍細胞で CDK19・CDK20・PTK2 (focal adhesion kinase、FAK) の活性が高く、特に LUAD・LSCC で FAK 活性が腫瘍細胞に有意に富化されていた (FDR < 10%、Fig 6C)。FAK は LSCC での CD8+ T 細胞消耗・Treg 動員に関与することが既報で示されており、PTK2 阻害剤による免疫療法応答改善の可能性が示唆された。

考察/結論

本研究はゲノム・転写レベルの既存解析にタンパク質・リン酸化修飾レベルの情報を統合することで、腫瘍免疫ランドスケープの理解を新たな次元へ拡張した。特に、低酸素シグナルの上昇が RNA データには現れずプロテオミクスデータのみで Fibroblast/TGFβ サブタイプで検出された事実は、プロテオミクスが RNA を補完する独自の情報を提供することの明確な証拠であり、これまでの研究では見落とされてきた生物学的現象の実態を示している。PPARA 活性化シグナルが CD8-/IFNG- でプロテオミクスデータのみで検出された点も同様であり、プロテオゲノミクスアプローチが免疫制御メカニズムの全体像把握に不可欠であることを裏付ける。

先行研究である Thorsson ら (Thorsson et al. Immunity 2018) の TCGA 6 サブタイプ分類と比較して、本研究の 7 サブタイプはパンキャンサーの共通分子指紋を示すとともに重要な差異を持つ。本研究で初めて明確に定義された CD8-/IFNG+ サブタイプ (IFNγ 活性が高いが CD8 T 細胞浸潤が低い) は、これまで報告されていない形態の免疫回避機構を体現しており、特に STK11 変異を介した KRAS 変異 NSCLC での PD-1 阻害薬耐性の分子基盤を提供する。STK11 タンパク質発現の低下が IFNγ シグナルを保ちながら T 細胞浸潤を阻害するというメカニズムは、新規な免疫回避経路として臨床的意義が大きい。BAP1・CASP8 変異が CD8+/IFNG+ と正相関するという知見は、これら変異が免疫応答性増強の潜在的マーカーとなりうることを示す。

リン酸化プロテオミクスによるキナーゼ活性プロファイリングは、cold 腫瘍を hot 腫瘍へ転換するための治療標的探索に有力なアプローチを提示する。TBK1・AKT ファミリー・FAK (PTK2) は既に臨床開発が進む分子標的でもあり、免疫サブタイプに基づく患者選択が試験デザインの精度向上につながる可能性がある。特に FAK 阻害剤による Treg 動員抑制が免疫療法奏効率を改善しうるという仮説は、LSCC・LUAD 等における bench-to-bedside 研究の具体的方向性を与える。PDK1/3/4・MYO3B という解糖系キナーゼが CEBPB を介して免疫関連遺伝子発現を抑制するという新規な回路は、免疫療法との組み合わせ標的として未探索の可能性を秘めている。

組織病理学的 H&E 画像解析では、CNN pan-cancer モデルが hot vs. cold の識別で CD8+/IFNG+ AUC = 0.80 を達成し、細胞形態 (面積・径・周囲長) とサイトカイン発現経路の逆相関が示された。免疫形態学的な「共通分子指紋」がパンキャンサーで汎化できることは、将来的な組織像ベースのサブタイプ予測に向けた重要な基盤を提供する。

限界として、CPTAC コホートでは詳細な治療情報が得られないため生存解析の解釈に制限がある。リン酸化シグナルはバルク腫瘍からの混合シグナルであり、細胞型特異的解析にはデコンボリューションの精度依存という残された課題がある。また今後の検討として、neoantigens・cancer testis antigens 等の抗原提示と本サブタイプの関連、より広い癌種・独立コホートでの検証、および single-cell プロテオミクスデータによるキナーゼ活性の高精度化が求められる。本研究のデータは ProKAP および PhosNetVis ウェブポータルを通じて公開され、研究コミュニティへの資源提供が実現している。

方法

CPTAC パンキャンサーコホートとして治療前の 1,056 腫瘍サンプルを対象とした:乳癌 (breast cancer; BC, n=113)、腎明細胞癌 (clear cell renal cell carcinoma; CCRCC, n=103)、大腸癌 (colon adenocarcinoma; CO, n=96)、膠芽腫 (glioblastoma multiforme; GBM, n=99)、頭頸部扁平上皮癌 (head and neck squamous cell carcinoma; HNSCC, n=110)、肺扁平上皮癌 (lung squamous cell carcinoma; LSCC, n=108)、肺腺癌 (lung adenocarcinoma; LUAD, n=110)、卵巣癌 (ovarian cancer; OV, n=82)、膵臓管状腺癌 (pancreatic ductal adenocarcinoma; PDAC, n=140)、子宮体癌 (uterine corpus endometrial carcinoma; UCEC, n=95)。全ゲノムシーケンス (whole genome sequencing; WGS)、RNA-seq、定量プロテオミクス、リン酸化プロテオミクスの 4 層オミクスデータを各腫瘍に取得した。

細胞型組成の推定には BayesDeBulk アルゴリズム (RNA-seq とプロテオミクスを統合するベイズデコンボリューション法) を用いた。免疫関連パスウェイ解析では文献から収集した 427 シグナチャーを GSVA (gene set variation analysis) でスコア化し、プロテオミクスデータ由来の単一サンプル遺伝子セット濃縮スコアに基づいて 10 個の免疫モジュールにグループ化した。細胞型分画スコアと免疫モジュールスコアを統合した ConsensusClusterPlus によるコンセンサスクラスタリングで免疫サブタイプを同定した。

各サブタイプと変異プロファイルの関連には 470 頻出変異遺伝子を対象とした elastic-net 回帰を使用し、遺伝子発現との関連は Mann-Whitney U 検定 (両側) で評価した。コピー数変異 (copy number variation; CNV) の免疫形質との関連は線形回帰で評価した。喫煙と免疫サブタイプの関連を DNA メチル化を媒介変数とする mediation analysis で評価し、喫煙シグナチャーは COSMIC 体細胞変異シグナチャーから算出した。生存解析は Cox 比例ハザード回帰モデルで実施した。有意水準は Benjamini-Hochberg 法で FDR (false discovery rate) 10% に調整した。

リン酸化プロテオミクスからのキナーゼ活性推定には (1) Kinase Library (実験的に導出したセリン/スレオニンキノームの基質特異性アトラス) と (2) KEA3 (kinase enrichment analysis 3; 20 データベース統合) の 2 ツールを使用した。転写因子 (transcription factor; TF) 活性スコアは ChEA3 を RNA-seq データに適用して推定した。細胞型特異的キナーゼ活性解析は BayesDeBulk デコンボリューションで腫瘍細胞と免疫・間質細胞を分離した後に各癌種個別に解析し、一貫したパターンを示す 33 キナーゼに絞り込んだ。

IHC (immunohistochemistry; IHC) 検証として CD8/CD4/CD163 染色 (LSCC n=17 例) の IHC スコアと細胞型分画を Spearman r で比較した。MRM (multiple reaction monitoring) 実験で HNSCC n=59 例の 5 タンパク質を定量検証した。TMA (tissue microarray) 多重免疫蛍光解析で LSCC 64 例における FAP・α-SMA の発現を確認した。臨床的検証として第 III 相 OAK 試験 (NCT02008227; アテゾリズマブ vs. ドセタキセル、NSCLC (non-small cell lung cancer)、n=344 / n=355) の RNA-seq データにサブタイプ予測モデルを適用し、log-rank 検定で PFS を比較した。組織病理学的解析では H&E デジタルスキャン画像を用いた畳み込みニューラルネットワーク (convolutional neural network; CNN) モデルを構築し 4-fold 交差検証で AUC (area under the curve) を算出した。