- 著者: Mazzaschi G, Madeddu D, Falco A, Bocchialini G, Goldoni M, Sogni F, Armani G, Lagrasta CA, Lorusso B, Mangiaracina C, Vilella R, Frati C, Alfieri R, Ampollini L, Veneziani M, Silini EM, Ardizzoni A, Urbanek K, Aversa F, Quaini F, Tiseo M
- Corresponding author: Federico Quaini (Hematology and Bone Marrow Transplantation, University of Parma, via Gramsci 14, 43126 Parma, Italy; federico.quaini@unipr.it)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2018
- Epub日: 2017-10-26
- Article種別: Original Article
- PMID: 29074606
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) によるPD-1/PD-L1軸の遮断は、非小細胞肺がん (NSCLC) の一部で顕著な抗腫瘍効果を示し、標準治療を変革した。具体的には、ニボルマブ (nivolumab) やペムブロリズマブ (pembrolizumab)、アテゾリズマブ (atezolizumab) などの第III相試験がその有効性を確立している Brahmer et al. NEnglJMed 2015、Borghaei et al. NEnglJMed 2015、Herbst et al. Lancet 2016。しかし、奏効を予測する信頼性の高いバイオマーカーの確立は依然として重要な課題である。PD-L1発現は免疫チェックポイント阻害薬の奏効と相関する可能性が示唆されているものの、抗体や評価法の違い、腫瘍内不均一性のため、一貫した予測バイオマーカーとしての地位は未確立である Herbst et al. Nature 2014。
腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) は、腫瘍の生物学的挙動と治療反応性に重要な役割を果たすことが繰り返し示されている Hanahan et al. Cell 2011。特に、PD-1/PD-L1軸の主要なプレーヤーとして、PD-1阻害受容体がTIL上に発現することは既知である。しかし、PD-1をTILのサブセット解析と組み合わせて免疫微小環境を包括的に評価し、予後および治療予測バイオマーカーとして検証した研究は限られていた。PD-L1とTIL数に基づく四分類 (type I: 適応的免疫耐性、type II: 免疫無視、type III: 固有誘導、type IV: 免疫寛容) が提唱されていたが (Teng MW et al. Cancer Res 2015)、NSCLC切除例での詳細な組織解析は不足していた。
免疫チェックポイント阻害薬の成功は、腫瘍の増殖と退縮が免疫によって制御されるという概念を強化する。しかし、異なる組織免疫微小環境がNSCLCの臨床転帰にどのように影響するかは未解明な部分が多く、PD-L1発現とTILの包括的な解析を通じて、このギャップを埋めることが求められていた。特に、PD-1阻害受容体の発現が免疫関連細胞に与える予後および予測効果の程度については、さらなる詳細な検討が必要であった。PD-1発現は腫瘍微小環境におけるT細胞の疲弊状態を示すマーカーとして認識されているが、その発現レベルが細胞傷害性T細胞の機能的状態や免疫療法への反応にどのように影響するかについては、まだ多くの未解明な点が存在する。また、PD-L1発現は腫瘍細胞だけでなく、免疫細胞にも認められるため、その発現パターンと予後・予測の関連性を詳細に解析することが重要である。本研究は、これらの不足している知見を補完し、より精緻なバイオマーカー戦略を構築することを目的とする。
目的
本研究の目的は、外科切除されたNSCLC患者および進行期ニボルマブ治療を受けたNSCLC患者において、PD-L1発現とTILサブセット (CD3、CD8、CD4、PD-1、CD57、FOXP3、CD25、Granzyme B) の包括的な免疫組織化学的解析を実施することである。特に、細胞傷害性CD8陽性T細胞におけるPD-1発現の割合を示す「PD-1-to-CD8比」が、NSCLCの予後およびニボルマブ治療奏効の予測因子となりうるかを検証することを目的とした。本研究では、PD-1-to-CD8比が、PD-L1単独や他のTILサブセットの数よりも優れた予測力を持つという仮説を検証する。これにより、PD-1/PD-L1免疫チェックポイントに関わる個々の組織パラメーターおよび統合された組織パラメーターと臨床データとの潜在的な関連性を、両患者群で詳細に調査し、免疫学的に定義されたNSCLC組織微小環境が臨床転帰およびICIへの反応に影響を与えるかどうかを明らかにすることを目指す。最終的には、本研究の成果が、NSCLC患者の個別化医療を推進するための新たなバイオマーカー開発に貢献することを目指す。
結果
PD-L1発現と臨床病理学的特徴: 切除コホート92例のPD-L1解析において、SCCの平均H-scoreはADCよりも有意に高く (SCCはADCの約2.5倍高値、p<0.05)、ADCの60%超が全体平均以下の値を示した。喫煙者ではPD-L1発現が非喫煙者・元喫煙者よりも有意に高値であった (p<0.001)。N0腫瘍はN2腫瘍と比較して約2倍高いPD-L1発現を示した (p<0.001)。EGFR変異例 (n=7/36 patients) とPD-L1発現の間に有意な相関は認められなかったが、KRAS変異例 (n=5/27 patients) ではPD-L1レベルが有意に低かった (p<0.001)。ALK転座は検出されなかった。PD-L1は単変量解析においてOSの統計的有意な予後因子ではなかった。これらの結果は、PD-L1発現がNSCLCの組織型や喫煙歴、リンパ節転移状況によって異なることを示唆している (Figure 1)。
TILサブセットとNSCLC組織型・臨床病理学的特徴の関連: ADCではSCCに比べてCD3+細胞が約2倍高く、CD4+細胞が約3分の1であった (p<0.05)。CD8+細胞密度は両組織型で有意な差は認められなかった。CD57+ NK様細胞およびCD25/FOXP3+制御性T細胞はSCCで有意に高値を示した (CD57: 約3倍高値、p<0.01; CD25/FOXP3: わずかに高値、p<0.05)。Distal (三次リンパ組織および浸潤辺縁部) のPD-1+ TILはSCCでADCより約1.5倍多かった (p<0.05) が、proximal (腫瘍内・周囲) のPD-1+ TILは組織型間で有意差はなかった (Figure 2)。EGFRおよびKRAS変異例では、CD8+およびPD-1+細胞が有意に少なく、腫瘍内でのPD-1+細胞密度が低かった (p<0.05)。T1腫瘍はT2腫瘍よりCD8+細胞が多く (p<0.001)、PD-1+細胞が少なかった (p<0.001)。N0症例はN1およびN2症例に比べてPD-1+細胞が有意に少なく (p<0.001 各)、病期の上昇に伴いPD-1+細胞が増加する傾向が認められた。KRAS変異例 (n=5 patients) ではPD-1+細胞が有意に減少しており、これは変異状態が免疫微小環境の構成に影響を与えることを示唆する。
PD-1-to-CD8比の独立した予後的意義: 切除コホートにおいて、PD-1-to-CD8比はOSの強力な予測因子であることが示された。単変量Cox回帰解析ではOSのハザード比 (HR) が1.952 (95% CI 1.34-3.12、p=0.001) であり、多変量Cox回帰解析でもHR 1.943 (95% CI 1.38-2.86、p=0.009) と独立した予後因子であることが確認された。DFSでは単変量解析のみで有意な関連が認められた (HR 1.537、p=0.007)。Kaplan-Meier曲線では、PD-1-to-CD8比が低値の群でOSが有意に延長した (HR 2.268、95% CI 1.056-4.871、p=0.03)。CD8-to-CD3比も高値群でOS延長傾向を示したが (HR 0.542、p=0.096)、多変量解析では有意ではなかった。N statusは多変量解析でもOSと独立して相関し (HR 1.863、p=0.015)、N0かつ低PD-1-to-CD8比の組み合わせが最も良好なOSを示した (HR 1.624、95% CI 1.148-2.296、p=0.006)。この結果は、PD-1を発現する細胞傷害性TILの組織含有量が、N statusの予後予測値を制限する可能性を示唆している (Figure 3F)。低PD-1-to-CD8比の患者群 (n=53 patients) は、高比群 (n=31 patients) と比較して有意に長いOSを示した。
ニボルマブ治療コホートでの予測的意義: ニボルマブ治療コホート23例中9例 (39%) が臨床的有益群 (CR、PR、または6ヶ月以上持続するSD) に分類された。臨床的有益群の100%が低PD-1-to-CD8比を示したのに対し、非奏効群では21.4%のみであった (p<0.001)。低PD-1-to-CD8比群のPFS中央値は12.96ヶ月であったのに対し、高比群では1.84ヶ月と著明な差が認められた (HR 4.51、95% CI 1.459-13.944、p=0.004)。高CD8-to-CD3比群もPFSが延長する傾向を示した (HR 2.728、p=0.047; 中央値4.24ヶ月 vs 1.81ヶ月)。PD-L1発現は臨床的有益群 (55%) と非奏効群 (42.5%) の間で有意差はなかった (p=0.225)。PD-1単独の陽性TIL数も有益群 (66.6%) vs 非奏効群 (64.2%) で有意差がなく (p=0.74)、PD-1-to-CD8比という比率の指標化が絶対数よりも優れた予測力を持つことが示された (Figure 4D)。腫瘍免疫タイプ別分類では、type II (免疫無視型: PD-L1陰性・TIL低値) が最も多く全例の約1/3を占め、最も予後不良であった。type III (固有誘導型: PD-L1陽性・TIL低値) が75パーセンタイル生存期間37ヶ月と最良の予後を示した。しかし、このtype I〜IV分類の統計的検出力は限定的であり、PD-1-to-CD8比に基づく層別化の方が臨床的に意味のある予後・予測性を有していた。
考察/結論
本研究は、PD-L1単独では統計的に有意な予後・予測バイオマーカーとならない一方で、細胞傷害性CD8+ TIL中のPD-1陰性細胞の割合 (PD-1-to-CD8比の逆数) が外科切除NSCLCの独立した予後因子であり、さらにニボルマブ治療例での奏効予測因子となることを示した最初期の研究の一つである。
新規性: 本研究で初めて、PD-1-to-CD8比が外科切除NSCLCの独立した予後因子であり、進行期NSCLCにおけるニボルマブ治療の奏効予測因子となることを示した。特に、ニボルマブ治療でのPFS予測においてPD-1-to-CD8比が極めて強力であった (HR 4.51、95% CI 1.459-13.944、p=0.004) という知見は、PD-1陰性細胞傷害性TILが「免疫特権的微小環境」を形成し、そのような環境でPD-1/PD-L1遮断がさらに効果を発揮するという概念を支持する。PD-1低発現は「疲弊していない機能的なエフェクターT細胞」の存在を反映し、このリザーバーがICI治療に呼応して腫瘍制御に寄与すると解釈される。これは、CD8+CD28+細胞がPD-1遮断後に増殖活性を高めるという先行研究の知見とも整合する。
先行研究との違い: 多くの先行研究がPD-L1発現を単独のバイオマーカーとして評価してきたが、本研究はPD-L1単独では統計的に有意な予後・予測因子とならないという点で、それらの報告と対照的な結果を示した。代わりに、TILsのサブセット解析、特にPD-1-to-CD8比という複合的な指標がより優れた予測力を持つことを明らかにした。また、EGFR変異例とPD-L1発現の間に有意な相関が認められなかった点は、一部の先行研究とは異なる所見であった。SCCとADCのTILプロファイルの相違 (SCC: distal PD-1+、CD57+、Tregが多い; ADC: CD3+が多い) は、両組織型の生物学的・免疫学的背景の差異を反映しており、組織型別のICI効果の差異に免疫微小環境の差が寄与する可能性を示唆する。EGFR/KRAS変異例でのCD8+・PD-1+細胞減少は、変異状態が免疫微小環境の構成に影響することを示しており、EGFR変異NSCLCでのICI単剤効果が限定的であることの免疫学的根拠を一部説明しうる。
臨床応用: 本研究の知見は、NSCLC患者の層別化と個別化医療の推進に重要な臨床的意義を持つ。PD-1-to-CD8比をバイオマーカーとして用いることで、外科切除後の再発リスクが高い患者を特定し、術後補助療法を検討する際の指標となりうる。さらに、進行期NSCLC患者においてニボルマブ治療の奏効を事前に予測することで、治療選択の最適化に貢献し、不必要な治療による患者負担を軽減できる可能性がある。これは、現在のICI治療の適応を拡大し、より早期の病期での介入を可能にするための基盤を提供する。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、切除コホートは主にStage I〜IIIaであり、進行期NSCLCへの外挿は慎重を要する。第二に、ニボルマブコホートは23例と小規模であり、PFSへの統計的有意性は確認されているものの、大規模な外部コホートでの検証が今後の検討課題である。また、機能的アッセイや腫瘍関連マクロファージ、樹状細胞、骨髄由来抑制細胞 (MDSC) などの他の免疫細胞の解析が欠落しており、免疫コンテクストの完全な特徴付けには至っていない。さらに、PD-1は活性化シグナルと阻害シグナルの双方の機能を持つことが知られており、免疫組織化学のみでは「疲弊」と「活性化」の区別が困難である。今後は、より大規模なコホートでの検証、機能的T細胞アッセイとの組み合わせ、CRISPR-Cas9技術を用いたPD-1遺伝子破壊CAR-T細胞療法や早期ステージでの補助ICIとの関連研究が求められる。
方法
患者集団と組織サンプリング: 本研究では2つのコホートを設定した。1つ目は、パルマ大学病院胸部外科で根治切除を受けたNSCLC患者100例 (扁平上皮がん (SCC) 58例、腺がん (ADC) 42例、Stage I/IIが72%) からなる切除コホートである。このコホートは男性74例、女性26例で、年齢は45〜84歳であった。2つ目は、Stage IIIb〜IVの進行期NSCLC患者26例 (ADC 13例、SCC 13例) に対し、2〜3ライン目の治療としてニボルマブを投与されたニボルマブ治療コホートである。このコホートは男性25例、女性1例で、年齢は49〜85歳であった。倫理委員会によって承認され、ヘルシンキ宣言の原則に従い、患者からインフォームドコンセントを得て研究に生物学的サンプルを使用することとした。最終的な解析対象は、臨床情報不備または組織不足により除外された後、切除コホート84例、ニボルマブ治療コホート23例であった。腫瘍病期は第7版AJCC病期分類システムに従ってスコア化された。
PD-L1定量: 5 μm厚のホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 切片に対し、クローン28-8抗体を用いた免疫ペルオキシダーゼ法でDAB染色を実施した。PD-L1スコア (H-score: 0〜300) は、PD-L1染色の範囲と強度に基づいて算出された。また、定量蛍光免疫染色 (QIF: quantitative immunofluorescence) も実施し、統合光学密度 (IOD: integrated optical density) で発現を表現した。両手法の相関は連続切片で確認され、r=0.57の相関が認められた。
TIL定量: 腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) は、CD3、CD8、CD4、PD-1、CD25、CD57、Granzyme Bの免疫組織化学的検出により解析された。免疫ペルオキシダーゼ法は、OptiView DAB IHC Detection Kit (Ventana Medical Systems) を用いた自動染色システムで実施された。Tリンパ球サブポピュレーションは、複数のエピトープを同時に評価するため、二重免疫蛍光法 (共焦点顕微鏡) でも検討された。これにより、CD8陽性細胞の全T細胞 (CD3陽性) に対する割合 (CD8-to-CD3比) と、細胞傷害性T細胞 (CD8陽性) におけるPD-1発現細胞の割合 (PD-1-to-CD8比) が算出された。TILは、腫瘍内および腫瘍周囲 (proximal) と、腫瘍浸潤辺縁部および三次リンパ組織 (distal) に分けて評価された。
EGFR/KRAS変異解析およびALK評価: 切除ADC患者36例でEGFR変異、27例でKRAS変異が評価された。ALK発現は、切除ADC患者27例および進行期ADC患者11例で評価されたが、本研究の患者集団ではALK転座は検出されなかった。
統計解析: カテゴリ変数の差はχ²検定、連続変数の差はWilcoxon rank-sum検定を用いて検出された (Kolmogorov-Smirnov正規性検定で非正規分布を確認後)。無病生存期間 (DFS)、全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS) は、Kaplan-Meier法により推定された。DFSおよびOSデータは5年で打ち切られた。ニボルマブ治療患者は、RECIST基準バージョン1.1 Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づき、完全奏効 (CR)、部分奏効 (PR)、または6ヶ月以上持続する安定病変 (SD) を示す「臨床的有益群」と、それ以外の「非奏効群」に分類された。群間の生存期間の差はログランク検定 (log-rank test) で決定された。DFSおよびOSデータは、Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析でも解析された。CART解析 (Classification and Regression Tree analysis) により、臨床転帰に基づいて患者を層別化する特定のカットオフ値が特定された。P値が0.05未満を統計的に有意と判断した。すべての解析にはIBM SPSS Statistics v 24.0およびStata 13 with Cart moduleが使用された。