- 著者: Pei S, Pan Y, Liang H, Lei L, Lin Q, Mi J, Ravetch JV, Soehnlein O, Karlsson MCI
- Corresponding author: Mikael C.I. Karlsson (Department of Microbiology, Tumor and Cell Biology, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)
- 雑誌: Immunity
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-07-14
- Article種別: Original Article
- PMID: 42296966
背景
腫瘍微小環境 (tumor microenvironment: TME) 内のミエロイド系細胞は免疫チェックポイント療法に対する主要な抵抗性機序を担うことが知られており、マクロファージの極性化が抗PD-1/CTLA-4療法の効果を左右することが示されている (Binnewies et al. NatMed 2018)。好中球はがんにおいて抗腫瘍的・促腫瘍的双方の機能を持つ両義的な免疫細胞であり (Quail 2022)、scRNA-seqに基づくT1/T2/T3サブタイプ分類が確立されてT3シグネチャーが最も腫瘍促進的特性を持つことが示された (Ng 2019)。Gungabeesoon et al. Cell 2023 (Cell 2023) は腫瘍制御に連関した好中球応答を報告し、Benguigui et al. (Cancer Cell 2024) はインターフェロン (IFN) 刺激好中球が免疫療法奏効の予測因子になることを示した (Benguigui et al. CancerCell 2024)。一方、免疫療法施行時の好中球がPD-L1を発現して抑制性に転換するという機序、特にIFN-γを介した誘導軸の存在は未解明であり、この点に関するエビデンスが不足していた。免疫チェックポイント阻害療法はT細胞経路だけでなく複数のミエロイド標的(抗PD-L1・抗MARCO等)を介して効果を発揮するが、それぞれに対する好中球の役割も未整理であった。
目的
免疫チェックポイント療法施行時における好中球の抑制的役割を包括的に評価し、治療誘導IFN-γが好中球のPD-L1発現と老化表現型を形成する機序を解明し、この軸を標的とした戦略の治療的意義を検証する。
結果
好中球欠損が免疫チェックポイント療法の有効性を高め、CD8+ T細胞活性を増強する: 好中球特異的Mcl1条件欠損マウス (Mcl1(fl/fl) × Ly6G-Cre; fl=floxed conditional allele, Ly6G-Cre=neutrophil-specific Cre driver) による好中球欠損 (NP) マウスを用い、B16F10黒色腫およびE0771乳がんモデルで抗PD-1抗体治療の効果を評価した (Fig 1)。無治療下では腫瘍増殖に差がなかったが、抗PD-1治療下では両モデルで腫瘍体積・重量がNPマウスで有意に減少した (3 independent experiments、n=5 mice per group、mean ± SEM、p<0.0001、Mann-Whitney検定)。NP+抗PD-1群では腫瘍浸潤CD8+ T細胞の頻度・絶対数が増加し、活性化マーカー (CD69、CD107a) の上昇、エフェクター機能 (IFN-γ産生・granzyme B [GZMB]) の亢進が認められた。疲弊マーカーのT cell immunoglobulin and mucin-domain containing-3 (TIM-3) およびlymphocyte-activation gene 3 (LAG3) は有意に低下した。scRNA-seqではIfng発現源がCD8+ T細胞であることが確認された。これらの結果は、好中球が抗PD-1療法に対して支配的な抑制機能を担うことを示す。
免疫療法誘導IFN-γが好中球のPD-L1発現と老化表現型を規定する: 抗PD-1治療下のB16F10腫瘍内好中球の表現型解析では、CXCR4↑・Ly6E (Lymphocyte antigen 6 family member E)↑・CD62L↓・CD11b↓・CD101 (好中球成熟マーカー)↓の老化表現型が誘導され、PD-L1をコードするCD274遺伝子の発現が腫瘍内好中球で特異的に上昇した (脾臓では変化なし) (Fig 2)。scRNA-seqではCD274発現好中球が全免疫細胞中で最高のCD274発現を示し、T3シグネチャー・老化スコアと強く相関した。gene set enrichment analysis (GSEA) ではIFN応答関連経路の富化が認められた。in vitroにおいてIFN-α・IFN-β・IFN-γ (各2.5 ng/ml) を比較したところ、IFN-γが最も効果的にLy6EとPD-L1を誘導し、CD62L陰性PD-L1陽性の特有好中球サブセットを形成した (Fig 3)。抗PD-1治療腫瘍のconditioned mediumにはIFN-γが含まれ、anti-gamma receptor antibody (GR20) 添加でPD-L1誘導が阻止された。公開scRNA-seqデータセット (MCA (methylcholanthrene-induced sarcoma)・MC38大腸がん) においても治療後好中球のCD274上昇が確認された。
抗PD-L1抗体は腫瘍内好中球を選択的に除去し、好中球標的性免疫療法効果も好中球PD-L1に依存する: WT対NP比較において、抗PD-L1治療下では腫瘍縮小効果に差がなかった (Fig 3)。その原因として抗PD-L1が腫瘍内好中球を特異的に除去することが確認され(腫瘍では有意減少、脾臓では変化なし)、マクロファージ・単球数は不変であった。一方、抗MARCO(腫瘍関連マクロファージ標的)治療でもNP条件で効果が有意に増強され、好中球がミエロイド細胞標的療法においても抑制機能を担うことが示された。抗MARCO治療後も腫瘍内好中球のPD-L1が上昇し、複数の免疫療法経路でPD-L1誘導が生じることが示された。
好中球特異的PD-L1欠損 (Mrp8-Cre CD274(fl/fl)) が複数の免疫療法効果を増強する: Mrp8-CreとCD274(fl/fl)の交配による好中球特異的PD-L1欠損マウスを用い、複数の免疫療法に対する効果を検証した (Fig 4)。無治療での腫瘍増殖差はなかったが、抗PD-1治療下においてB16F10・E0771両モデルで腫瘍体積・重量が有意に減少した (p<0.001、n=5–8)。抗CTLA-4および抗MARCO治療においても同様の効果増強が確認された。腫瘍内では、CD8+ T細胞の浸潤増加・活性化亢進 (CD69↑、CD107a↑、IFN-γ↑、GZMB↑)・疲弊低下 (TIM-3↓、LAG3↓) が認められた。PD-L1欠損好中球マウスでは治療後にCD62L高発現の成熟型好中球が増加し、活性酸素種 (reactive oxygen species: ROS) およびTNF-α・TNFAR1/2 (tumor necrosis factor receptor 1/2) が増加した (Fig 5)。抗PD-1+抗PD-L1の併用療法はPD-L1欠損マウスでは単剤と同等であり、抗PD-L1の主要な作用機序が腫瘍内好中球PD-L1の排除によることが確認された。また、炎症促進型マクロファージの比率増加も認められ、好中球PD-L1がTME全体の免疫活性化状態を調節することが示された。
好中球特異的IFN-γ受容体欠損 (Mrp8-Cre Ifngr1(fl/fl)) が免疫療法を強化し老化表現型を阻止する: Mrp8-Cre Ifngr1(fl/fl)マウスでは、抗PD-1治療によりB16F10腫瘍体積・重量が有意に減少し (p<0.001、n=5–8) (Fig 6)、Mrp8-Cre CD274(fl/fl)マウスと同様に生存期間の延長が確認された。腫瘍内CD8+ T細胞の浸潤増加・活性化亢進・疲弊低下が認められた。好中球ではPD-L1発現が抑制され (Fig 6H)、CXCR2↑・CD101↑ (成熟指標) の維持とCXCR4↓が観察され、老化表現型への移行が阻止された。5-bromo-2’-deoxyuridine (BrdU) 標識実験では、抗PD-1治療Mrp8-Cre Ifngr1(fl/fl)マウスの好中球が4日後も高いBrdU陽性率を維持し、腫瘍内での持続性向上が示された。循環血中好中球においても、治療誘導の老化変化 (CD101↓、CXCR2↓、CXCR4↑) はIFN-γR1に依存して生じることが確認された。
ヒトNSCLC患者においても好中球がIFN-γ応答性PD-L1+ 老化表現型を形成する: 抗PD-1+化学療法を受けたNSCLC患者のscRNA-seqデータを解析したところ (Fig 7)、全免疫細胞クラスター中で好中球が最高のCD274発現を示した。治療後患者では好中球のCD274発現が未治療患者より高く、奏効例 (partial response: PR) は非奏効例 (stable disease: SD) より高いCD274発現を示した。CD274陽性好中球はCXCR4・IL1RN (interleukin-1 receptor antagonist遺伝子)・LY6E (LY6E, Lymphocyte antigen 6E)・VEGFAと空間的に共局在し、T3シグネチャーが富化していた一方、SELL・CXCR2陽性好中球は対極に分布した。擬似時間軌跡解析でCD274陽性好中球は終末分化側に位置し、老化・免疫抑制的終点であることが確認された。ヒト臍帯血好中球のin vitro実験でも、IFN-γがIFN-βより強くCD274を上昇させSELLを低下させ、マウスデータと一致した。
考察/結論
① 先行研究との違い:免疫療法施行によってIFN-γを介し好中球がPD-L1を発現して治療抵抗性をもたらすという機序は本研究以前に報告されておらず、これまでの好中球研究とは根本的に異なる視点を提供した。先行研究であるBenguigui et al. CancerCell 2024は高IFN刺激好中球が奏効予測因子であることを示したが、本研究はそのIFN-γ駆動が同時に抑制性PD-L1+好中球を形成するという二面性を解明した。Gungabeesoon et al. Cell 2023が示した好中球の腫瘍制御促進機能とは対照的に、本研究は免疫療法文脈では好中球機能が抑制方向に転換することを実証した。
② 新規性:本研究が新規に示したのは、免疫チェックポイント療法が誘導するIFN-γが好中球に作用してPD-L1+ 老化表現型(T3シグネチャー)を形成し、CD8+ T細胞を直接抑制するという治療誘導型フィードバック抵抗性機序である。好中球特異的遺伝子欠損(CD274 KO・Ifngr1 KO)によってこの抵抗性が解除され、好中球の極性が成熟・炎症性表現型に逆転することは本研究で初めて示された発見である。さらに、抗PD-L1抗体が腫瘍内PD-L1+ 好中球を特異的に除去するメカニズムを示したことも新規知見である。
③ 臨床的意義:臨床応用として、好中球浸潤が多い腫瘍では抗PD-L1の単独使用あるいは抗PD-1との併用が特に有効である可能性が示唆される。ヒトNSCLCでの検証は、抗PD-1+化学療法後の好中球CD274発現が奏効(PR vs SD)と相関することを示し、好中球CD274が治療応答バイオマーカーとして機能し得る可能性を示した。IFN-γR1シグナリング遮断や好中球PD-L1標的化は複数の免疫療法経路(抗PD-1・抗CTLA-4・抗MARCO)を増強する共通基盤として機能しうることが示された。
④ 残された課題:本研究はB16F10黒色腫・E0771乳がんの2モデルを用いており、より難治性のがんモデルにおける一般化可能性は今後の課題として残されている。抗PD-L1による腫瘍内好中球除去の詳細なメカニズム(抗体依存性細胞傷害 [antibody-dependent cellular cytotoxicity: ADCC]、ニッチ特異性)、全身的好中球老化の臨床的意義、および免疫療法との組み合わせ戦略における動態の解明が今後の研究として重要である。
方法
動物実験: Mcl1(fl/fl) × Ly6G-Cre(好中球欠損)、Mrp8-Cre × CD274(fl/fl)(好中球特異的PD-L1欠損)、Mrp8-Cre × Ifngr1(fl/fl)(好中球特異的IFN-γR1欠損)マウス(C57BL/6バックグラウンド)を使用。腫瘍モデル: B16F10黒色腫(s.c.フランク)・E0771乳がん(乳腺脂肪体)。抗体治療: 抗PD-1(200 μg)、抗PD-L1、抗CTLA-4、抗MARCO。フローサイトメトリー: CD8+ T細胞(活性化:CD69、CD107a、IFN-γ、GZMB;疲弊:TIM-3、LAG3)、好中球表現型(PD-L1、CD62L、CD11b、CD101、CXCR2、CXCR4、Ly6E)。scRNA-seq: B16F10腫瘍浸潤免疫細胞(10x Genomics)、UMAP、GSEA(IFN応答パスウェイ)、T1/T2/T3 gene signature scoring(Ng・Xie法)、pseudotime trajectory解析。in vitro: 脾臓好中球単離、IFN-α/β/γ刺激(24h)、腫瘍conditioned medium刺激、anti-gamma receptor antibody GR20による遮断、CD8+ T細胞co-culture suppression assay。公開データ: MCA肉腫(抗PD-1/抗CTLA-4)・MC38大腸がんscRNA-seqデータセット。ヒトデータ: 臍帯血好中球in vitro IFN刺激scRNA-seq、NSCLC患者(治療前・抗PD-1+化学療法後)scRNA-seqデータ解析。統計: Mann-Whitney非パラメトリック検定(2群間比較)またはtwo-tailed unpaired t-test、n=3–8。BrdU標識: 1日前および4日前標識により腫瘍内好中球の持続性を評価。データ: ArrayExpress登録済み。