• 著者: Matthew W Rosenbaum, Jacob R Bledsoe, Vicente Morales-Oyarvide, Tiffany G Huynh, Mari Mino-Kenudson
  • Corresponding author: Mari Mino-Kenudson (Department of Pathology, Massachusetts General Hospital, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: Modern pathology : an official journal of the United States and Canadian Academy of Pathology, Inc
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-05-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27198569

背景

がん免疫療法の進展により、PD-1 (Programmed cell death 1) およびそのリガンドである PD-L1 (Programmed cell death ligand 1) を標的とした免疫チェックポイント阻害剤が、多様な悪性腫瘍で劇的な臨床効果を上げている。Pardoll et al. NatRevCancer 2012 は、腫瘍細胞における PD-L1 発現が、浸潤した T 細胞からの攻撃を回避する「適応免疫耐性」の主要なメカニズムであることを提唱した。しかし、大腸癌における初期の臨床試験 Topalian et al. NEnglJMed 2012 では、抗 PD-1 抗体に対する奏効率が他の固形がんと比較して極めて低いことが示され、全症例への一律な適用は困難と考えられてきた。その後、Le et al. NEnglJMed 2015 により、MSI-high (microsatellite instability-high) を有するミスマッチ修復欠損腫瘍においてのみ高い奏効率が得られることが報告され、注目を集めている。

しかしながら、大腸癌における PD-L1 発現の正確な頻度や、MSI、BRAF 変異、および髄様形質 (medullary morphology) といった臨床病理学的・分子遺伝学的特徴との包括的な関連については、既存の報告間で結果が controversial であり、十分な知見が 不足 している。特に、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) の免疫表現型と PD-L1 発現の相関を詳細に解析した研究は少なく、免疫微小環境における適応免疫耐性の実態には未解明な gap が残されている。また、PD-L1 発現が MSI-high 症例において予後良好因子となるのか、あるいは免疫逃避を反映して予後不良因子となるのかという点についても、研究データが 不足 しており、解明すべき重要な 課題 である。本研究は、大規模な患者コホートを用いて PD-L1 発現の臨床病理学的・分子的意義を多角的に検証することを目的とする。

目的

本研究の主な目的は、大腸癌患者 181 例のコホートにおいて、腫瘍細胞における PD-L1 発現の頻度を明らかにすることである。さらに、PD-L1 発現と MSI ステータス、BRAF V600E 変異、KRAS 変異、PTEN 発現消失、TP53 変異などの分子標的プロファイルとの関連を詳細に解析する。また、TIL の量および免疫表現型 (CD8、TBET、GATA3) と PD-L1 発現の相関を評価し、適応免疫耐性の存在を検証する。最終的に、これらの臨床病理学的因子および PD-L1 発現が、患者の無病生存期間や疾患特異的生存率 (DSS: Disease-Specific Survival) に与える予後的意義を、特に MSI-high サブグループに焦点を当てて明らかにすることを目的とする。

結果

臨床病理学的特徴と PD-L1 発現の相関: 解析対象 181 例のうち、PD-L1 陽性 (score 1-2) は 16 例 (9%) であった。内訳は score 1 が 4 例 (2%)、score 2 が 12 例 (7%) であった。PD-L1 陽性群は陰性群と比較して、高齢 (中央値 74.5 vs 61 歳, p = 0.006)、女性優位 (81% vs 53%, p = 0.035)、腫瘍径が大きい (中央値 6.4 vs 4.5 cm, p = 0.013) という特徴を示した。病理組織学的には、PD-L1 陽性例の 87% が低分化型 (poorly differentiated) であり (p < 0.001)、75% に髄様形質 (medullary histology) が認められた (p < 0.001)。また、PD-L1 陽性例は全例が原発腫瘍であり (100% vs 74%, p = 0.014)、臨床ステージは Stage II/III が主体で Stage IV は 6% に留まった (p = 0.001)。これらの結果は、PD-L1 発現が特定の臨床病理学的サブセットに濃縮されていることを示している (Table 1)。

TIL 免疫表現型による適応免疫耐性の検証: PD-L1 発現は、腫瘍内への高度なリンパ球浸潤と極めて強く相関していた。PD-L1 陽性群では、CD8 陽性 TIL の高浸潤 (score 2-3) が 62.5% (10/16) に認められたのに対し、陰性群ではわずか 3% (5/164) であった (p < 0.001)。同様に、Th1 経路の転写因子である TBET (T-box transcription factor expressed in T cells) 陽性 TIL も PD-L1 陽性群で有意に高頻度であった (62.5% vs 3%, p < 0.001)。一方で、Th2 経路の転写因子である GATA3 (GATA binding protein 3) 陽性 TIL は両群ともに認められなかった。多変量解析の結果、CD8 陽性 TIL の高浸潤は PD-L1 陽性の独立した予測因子であることが示された (OR 8.67, 95% CI 1.29-77.93, p = 0.022)。これは、Taube et al. ClinCancerRes 2014 が提唱した、IFN-γ 等の刺激による適応免疫耐性のメカニズムを支持する所見である (Table 2, Table 4, Fig 2)。

分子遺伝学的背景と serrated pathway との関連: PD-L1 発現は、serrated pathway (鋸歯状経路) の特徴である MSI-high および BRAF 変異と密接に関連していた。PD-L1 陽性例の 75% (12/16) が MSI-high であり (p < 0.001)、87% (14/16) が BRAF V600E 変異を有していた (p < 0.001)。対照的に、KRAS 変異は PD-L1 陽性例では 0% (0/15) であり、陰性群の 30% (44/146) と比較して負の相関を示した (p = 0.012)。PTEN 発現消失は PD-L1 陽性群で 37% (6/16) に見られ、陰性群 (18%, 29/162) より高い傾向があったが、統計的有意差には至らなかった (p = 0.09)。特筆すべき点として、HNPCC (Hereditary Non-Polyposis Colorectal Cancer, リンチ症候群) に関連する MSI-high 症例 4 例はすべて PD-L1 陰性であり、散発性 MSI-high との免疫学的差異が示唆された。多変量解析では、髄様形質も PD-L1 陽性の独立した予測因子であった (OR 10.33, 95% CI 1.18-155.17, p = 0.032) (Table 3, Table 4)。

生存解析における PD-L1 発現の予後的意義: 全コホート (n=181) における解析では、PD-L1 発現と DSS (Disease-Specific Survival) の間に有意な関連は見られなかった。しかし、MSI-high サブグループ (n=54) に限定した解析では、PD-L1 陽性例は陰性例と比較して有意に予後不良であった。MSI-high 群における 3 年生存率は、PD-L1 陽性で 72% であったのに対し、PD-L1 陰性では 97% であった (p = 0.0319)。多変量 Cox 比例ハザード解析において、PD-L1 score 2 (強陽性) は、score 0 (陰性) と比較して極めて高いハザード比を示し、予後不良因子としての強い傾向が確認された (HR 16.9, 95% CI 0.96-297.67, p = 0.053)。この結果は、Rooney et al. Cell 2015 が示した細胞傷害性活性と免疫逃避のバランスが、最終的な患者予後を規定している可能性を裏付けている (Table 5)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究の結果は、大腸癌における PD-L1 発現が予後良好因子であるとした一部の報告と 対照的 であり、特に MSI-high 症例において PD-L1 が予後不良因子となることを明確に示した。これは、Le et al. NEnglJMed 2015 が示した MSI-high 腫瘍の良好な治療反応性の裏側にある、免疫逃避メカニズムの重要性を浮き彫りにしている。

新規性: 本研究は、大腸癌における PD-L1 発現が髄様形質 (medullary morphology) および CD8/TBET 陽性 TIL と独立して関連することを 本研究で初めて 明らかにした。特に、BRAF 変異や MSI ステータスを調整した後でも、髄様形質が PD-L1 陽性の強力な予測因子 (OR 10.33) であるという知見は 新規 であり、形態学的特徴が腫瘍免疫微小環境を反映していることを示唆している。

臨床応用: 本知見の 臨床的意義 として、MSI-high、BRAF 変異、または髄様形質を有する大腸癌患者において、PD-L1 IHC が抗 PD-1/PD-L1 療法の効果予測バイオマーカーとして 臨床応用 できる可能性が挙げられる。特に、MSI-high でありながら PD-L1 陽性を示す症例は、標準治療下では予後不良であるが、免疫チェックポイント阻害剤によってその予後を劇的に改善できる可能性がある。

残された課題: 本研究の limitation として、単一施設でのレトロスペクティブ解析であること、および PD-L1 陽性例が 16 例と比較的少数であることが挙げられる。今後の検討課題 として、リンチ症候群と散発性 MSI-high における PD-L1 発現の差異の検証や、MSS (microsatellite stable) でありながら PD-L1 陽性を示す稀なサブセットの生物学的特性の解明が必要である。

方法

本研究は、Massachusetts General Hospital において 1997 年から 2012 年の間に手術切除を受けた大腸癌患者 181 例を対象とした。解析には、各症例の FFPE (Formalin-Fixed Paraffin-Embedded) 組織から作成された TMA (Tissue Microarray) を使用した。TMA は 1 症例あたり 2-3 個の 2mm コアで構成された。PD-L1 の評価には免疫組織化学染色 (IHC) を用い、抗体クローン E1L3N (Cell Signaling Technology) を使用した。スコアリングは腫瘍細胞の膜染色の割合に基づき、0 (<5%)、1 (5-49%)、2 (≥50%) の 3 段階で行い、スコア 1 以上を陽性と定義した。

TIL の評価では、CD8 (clone: 4B11)、TBET (T-box transcription factor expressed in T cells, clone: D6N8B)、GATA3 (GATA binding protein 3, clone: L50-823) の IHC を行い、浸潤密度を 0-3 のスコアで半定量化した。また、PTEN (clone: 138G6) の発現消失についても評価した。分子解析では、PCR および IHC による MSI 判定、ならびに SNaPshot プラットフォーム (Applied Biosystems) を用いたマルチプレックス PCR 法による BRAF、KRAS、PIK3CA、APC、TP53 等の変異解析を実施した。

統計解析には Stata (Version 14.0) を使用した。2 群間の比較には Fisher's exact test または Pearson χ2 test を用い、連続変数の比較には Wilcoxon rank-sum test を使用した。PD-L1 陽性の独立した予測因子を特定するために、exact logistic regression による多変量解析を行った。生存解析では、Kaplan-Meier 法および log-rank test を用い、予後因子の検討には Cox proportional hazards model (コックス比例ハザードモデル) を適用した。統計的有意水準は p < 0.05 と設定した。