- 著者: Yost KE, Satpathy AT, Wells DK, Qi Y, Wang C, Kageyama R, McNamara KL, Granja JM, Sarin KY, Brown RA, Gupta RK, Curtis C, Bucktrout SL, Davis MM, Chang ALS, Chang HY
- Corresponding author: Howard Y. Chang, MD, PhD (Center for Personal Dynamic Regulomes, Stanford University School of Medicine, Stanford, California, USA); Anne Lynn S. Chang, MD (Department of Dermatology, Stanford University); Ansuman T. Satpathy, MD, PhD (co-first, Stanford University Department of Pathology)
- 雑誌: Nature medicine
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-07-29
- Article種別: Original Article
- PMID: 31359002
背景
免疫チェックポイント阻害療法 (ICI) は、T細胞上の抑制性受容体を阻害することで、非小細胞肺がん (NSCLC) などの進行固形がんにおいて臨床アウトカムを劇的に改善してきた Sharma et al. Science 2015。しかし、抗PD-1抗体などの治療に対するT細胞応答が、既存の腫瘍浸潤リンパ球 (TIL; tumor-infiltrating lymphocyte) の再活性化 (reinvigoration) によるものか、あるいは腫瘍外からの新規T細胞の動員 (recruitment) によるものかという根本的な疑問は、これまで未解明のままであった。
これまでの研究において、慢性ウイルス感染マウスモデルなどから、高度に分化した枯渇型T細胞 (TEX; exhausted T cell) はエピジェネティックなプログラムによって固定化されており、PD-1阻害を行っても機能的な再活性化能力には限界があることが報告されている Pauken et al. Cell 2016。また、先行研究である Riaz 2017 らは、抗PD-1抗体である nivolumab 治療前後のメラノーマ患者においてバルクのT細胞受容体 (TCR; T cell receptor) シークエンスを実施し、治療応答例でTCRのクローナリティが増加することを示した Riaz et al. Cell 2017。しかし、これらのアプローチでは「単一細胞レベルでの遺伝子発現プロファイル」と「ペアとなるTCRクローン情報」を同時に追跡することができなかったため、どの細胞状態 (cell state) にあるクローンが治療前後にどのように動態変化しているかを解明するには情報が決定的に不足していた。
すなわち、従来のバルク解析や単一の単一細胞RNAシークエンス (scRNA-seq) 解析における最大の課題は、治療前後の同一腫瘍部位 (site-matched) において、細胞状態特異的なクローン動態を直接追跡するデータが不足していた点である。この学術的ギャップを埋めるため、本研究では治療前後のペア検体採取が比較的容易である進行皮膚基底細胞癌 (BCC; basal cell carcinoma) および扁平上皮癌 (SCC; squamous cell carcinoma) をモデルとして、単一細胞解像度での paired scRNA-seq + scTCR-seq 解析を体系的に実施した。
目的
本研究の目的は、抗PD-1抗体治療 (pembrolizumab または cemiplimab) を受ける進行BCCおよびSCC患者の治療前後における同一部位の腫瘍生検検体を対象に、以下の点を明らかにすることである。 (1) 5’ droplet-based scRNA-seq および scTCR-seq を用いて、数万個の腫瘍浸潤T細胞の転写プロファイルとTCRクローン情報を単一細胞レベルでペアとして同時に追跡する。 (2) 治療後に腫瘍内で著しく拡大するCD8陽性 (CD8+) T細胞クローンが、治療前から存在していた既存のTILの再活性化によるものか、あるいは治療後に末梢などから新たに動員された新規クローンへの置換 (clonal replacement) によるものかを定量的に判別する。 (3) 腫瘍微小環境 (TME; tumor microenvironment) における免疫細胞および腫瘍細胞の不均一性 (heterogeneity) を解明し、治療応答を規定する細胞状態の遷移モデルを構築する。 (4) 全外現子体シークエンス (WES; whole-exome sequencing) による腫瘍遺伝子変異量 (TMB; tumor mutational burden) や予測ネオエピトープ (neoepitope) の治療前後での変化と、T細胞クローンの動態との関連性を解析する。
結果
腫瘍微小環境における細胞集団の不均一性と治療応答: BCC (basal cell carcinoma; 基底細胞癌) 患者11例の治療前後ペア検体から得られた 53,030 cells の scRNA-seq プロファイルに基づき、UMAP (uniform manifold approximation and projection) 解析によって計 19 個の細胞クラスターを同定した (Fig 1d)。これには、腫瘍細胞 (malignant cells)、T細胞 (6クラスター)、B細胞、マクロファージ、樹状細胞、自然キラー (NK) 細胞、およびストローマ細胞 (線維芽細胞、内皮細胞など) が含まれる。免疫細胞クラスターは患者間で共通してマッピングされたのに対し、腫瘍細胞クラスターは明確に患者ごとに分離し、顕著な症例間不均一性を示した (Fig 1e)。腫瘍細胞から推定された CNV プロファイルは、WES 解析から得られたゲノムコピー数異常パターンと極めて高い一致を示した (Fig 1f)。免疫組織化学 (IHC) 解析において、抗PD-1抗体治療後に腫瘍内への CD3陽性 T細胞の浸潤が有意に増加していることが確認された (Fig 1b)。また、WES 解析により、治療後に予測ネオエピトープ数が減少する現象 (腫瘍免疫編集; tumor immunoediting) が観察された (Fig 1c)。
CD8陽性 T細胞における慢性活性化・枯渇状態のランドスケープ: T細胞およびNK細胞 33,106 cells を詳細に再クラスタリングした結果、9 個の機能的サブセットを同定した (Fig 2a)。CD4陽性 T細胞は制御性T細胞 (Treg)、濾胞性ヘルパーT細胞 (Tfh)、および Th17 細胞に分類された。CD8陽性 T細胞は、ナイーブ、メモリー、エフェクターメモリー、活性化 (activated)、慢性活性化/枯渇 (chronically activated/exhausted; TEX)、および中間移行状態 (intermediate exhausted/activated) の各クラスターに分化した。拡散マップを用いた擬時間解析により、CD8+ T細胞はナイーブ状態からメモリー状態を経て、最終的に慢性活性化/枯渇状態へと一方向性に分化する軌跡が示された (Fig 2c)。この TEX クラスターは、PDCD1 (PD-1)、LAG3、HAVCR2 (hepatitis A virus cellular receptor 2; TIM-3)、TOX、および ENTPD1 (ectonucleoside triphosphate diphosphohydrolase 1; CD39) などの慢性活性化および機能枯渇マーカーを高発現していた (Fig 2b, 2d)。さらに、TCRシークエンスデータの統合により、Gini係数を用いたクローナリティ解析において、この CD39陽性 CD8陽性 TEX クラスターが最も著しいクローン増殖 (clonal expansion) を示していることが明らかになった (Fig 2e)。
主要知見 — 治療後に拡大するクローンの新規置換 (Clonal Replacement): 治療前後の同一腫瘍部位におけるペア TCR 追跡により、抗PD-1抗体治療後に腫瘍内で有意に拡大した CD8陽性 TEX クローンの大多数が、治療前の腫瘍内には検出されなかった「新規クローノタイプ (novel clonotypes)」であることが実証された (Fig 4a)。BCC患者11例の集計において、治療後に著しく拡大したトップクローンのうち、中央値で 84% (範囲 55-100%) が治療前には腫瘍内に存在しなかった新規クローンであり、治療前から存在していた既存の TEX クローンは治療後にむしろ縮小または消失する傾向にあった (Fig 4b, 4c)。この clonal replacement (クローン置換) 現象は、Treg や Tfh などの CD4陽性 T細胞サブセットではほとんど観察されず (新規クローン割合 < 5%)、CD8陽性 TEX クラスターにおいて極めて特異的に生じていた (Fig 4d)。
末梢血における新規腫瘍浸潤クローンの治療前からの存在: 腫瘍内における新規クローンの起源を探索するため、5例の患者から得られた治療前後の末梢血単核細胞 (PBMC) のバルクTCRシークエンスデータと腫瘍内シングルセルTCRデータを統合解析した。その結果、治療後に腫瘍内で初めて検出され、著しく拡大した新規 CD8陽性 TEX クローンのうち、35.5% が治療後の末梢血中に検出され、さらに 11.8% は治療前の末梢血中に既に低頻度 (頻度 < 0.01%) で存在していたことが同定された (Fig 4g)。治療後、これらのクローンは末梢血中と比較して腫瘍内で著しく高い濃縮度 (tumor enrichment) を示し、腫瘍抗原特異的な反応に伴って腫瘍局所で選択的に増殖・保持されていることが示唆された (Fig 4h)。
扁平上皮癌 (SCC) コホートにおける機序の汎用性検証: BCCで同定された clonal replacement 現象が他の固形がん種でも共通して見られるかを検証するため、抗PD-1抗体治療を受けた進行SCC (squamous cell carcinoma; 扁平上皮癌) 患者4例の serial biopsy 検体 (計 26,016 cells) を同様に解析した (Fig 4i)。SCCにおいても、治療後に著しく拡大した CD8+ CD39+ TEX クローンのうち、50% 以上 (50% to 100%) が治療前には検出されなかった新規クローノタイプであり、BCCと同様に治療後の抗腫瘍T細胞応答が末梢からの新規クローンの補充によって担われていることが再現された (Fig 4j, 4k)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究の知見は、従来の免疫チェックポイント阻害療法におけるドグマであった「既存の腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の再活性化 (reinvigoration)」というモデルと異なり、明確に異なるパラダイムを提示している。先行研究である Sade-Feldman 2018 らのメラノーマにおけるバルクTCR解析では、治療応答とT細胞クローンの増殖との関連が示されていたが、単一細胞レベルでの転写状態とTCRのペア追跡が欠如していたため、増殖したクローンが治療前から存在していたものか新規に流入したものかを区別できなかった Sade-Feldman et al. Cell 2018。また、Riaz 2017 らのバルクRNA-seq解析も治療前後の発現変動を示したに留まっていた Riaz et al. Cell 2017。これらに対し、本研究は site-matched ペア検体を用いた単一細胞解像度での追跡により、既存の腫瘍内 TEX クローンは治療後にほとんど増殖せず、治療後に拡大するクローンの大多数が新規に動員されたクローンであることを初めて明確に区別して示した。これは、TEX がエピジェネティックに固定化されて回復不能であるとした Pauken 2016 らの基礎研究の知見と極めて整合するものである Pauken et al. Cell 2016。
新規性: 本研究は、ヒトのがん微小環境において、抗PD-1抗体治療による抗腫瘍免疫応答の主たる原動力が、既存のTILの機能回復ではなく、治療後に腫瘍外から新たに浸潤したT細胞レパトアによる「クローン置換 (clonal replacement)」であることを世界で初めて実証した。特に、治療後に著しく拡大する CD8+CD39+ TEX クローンの平均 84% が新規クローノタイプであり、それらが治療前の末梢血中に極めて低頻度で先祖クローンとして存在していたことを突き止めた点は、これまで報告されていない極めて新規性の高い発見である。
臨床応用: 本研究の知見は、がん免疫療法の臨床現場および bench-to-bedside のトランスレーショナル研究に重要な示唆を与える。 第一に、治療前の腫瘍内 TIL 密度や PD-L1 発現といった局所バイオマーカーの限界を説明するものであり、末梢血中の TCR レパトアの多様性や、治療初期における末梢血中での新規クローンの動員能 (recruitment capacity) が、より高精度な予測バイオマーカーとなり得る根拠を提供する。 第二に、TIL療法などの細胞治療において、培養拡大すべき対象は腫瘍内に長期間存在して疲弊しきった既存の TEX クローンではなく、末梢血などから新たに補充される「pre-exhausted」な新規クローンであるべきという選択基準の最適化に直結する。 第三に、抗PD-1抗体と、T細胞の末梢からの動員やリンパ節からの遊走を促進する薬剤 (例: CCL21/CXCR3 経路作動薬、フィゴリモドなどの遊走阻害薬の回避、あるいは局所放射線治療によるケモカイン誘導) との併用療法の合理性を強く支持する Spitzer et al. Cell 2017。
残された課題: 本研究にはいくつかの limitation があり、今後の検討課題として残されている。 (1) 本研究の主要コホートは皮膚のBCCおよびSCC (計 15例) に限定されており、肺がん (NSCLC) やメラノーマ、尿路上皮がんといった他の高TMB固形がん種において、同様の clonal replacement の寄与度がどの程度であるか、大規模コホートでの検証が必要である。 (2) 新規に補充されるT細胞クローンの正確な起源 (センチネルリンパ節、骨髄、あるいは他の三次リンパ構造など) の特定には至っておらず、今後の動物モデルやリンパ節生検を用いた追跡研究が求められる。 (3) 治療応答例と非応答例における clonal replacement の定量的差異や、長期的な治療耐性獲得時におけるクローン置換の持続性についてはさらなる解析が必要である。
方法
患者コホートおよび検体採取: Stanford大学医学部倫理委員会の承認のもと、組織学的に確認された進行BCC患者11例、および進行SCC患者4例を登録した。患者は pembrolizumab (200 mg、3週ごと) または cemiplimab (350 mg、2週ごと) による治療を受けた。治療前 (pre-treatment) および治療開始後 (post-treatment、中央値 54日後) の同一腫瘍部位から生検検体を採取した。治療効果判定は RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) version 1.1 に準拠して実施した Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。
単一細胞シークエンス解析: 採取した新鮮生検組織を Liberase TL および DNase I を用いて酵素的に単一細胞へ解離した。FACS (fluorescence-activated cell sorting) を用いて、CD45+CD3+ 腫瘍浸潤T細胞、CD45+CD3- 免疫細胞、CD45-CD3- 腫瘍/ストローマ細胞に分取した。10x Genomics Chromium プラットフォームを用いて、5’ droplet-based scRNA-seq および scTCR-seq ライブラリを調製した。BCCコホート11例から計 53,030 cells、SCCコホート4例から計 26,016 cells の高品質なシングルセルデータを得た。T細胞 33,106 cells のうち、86% に相当する 28,371 cells でペアとなる TCR α/β 鎖の配列を同定した。
バイオインフォマティクス解析: scRNA-seq データの配列アライメントおよび定量には Cell Ranger (version 2.1.0) を使用した。データの統合、次元削減、およびクラスタリングには R パッケージの Seurat (version 2.3.4) を使用した Butler et al. NatBiotechnol 2018。コピー数変異 (CNV; copy number variation) の推定には HoneyBADGER を用い、非腫瘍細胞 (線維芽細胞や内皮細胞) を参照群とした。CD8+ T細胞の分化軌跡および擬時間 (pseudotime) 解析には Scanpy (version 1.2.2) を用いて拡散マップ (diffusion map) を構築した Wolf et al. GenomeBiol 2018。TCRの抗原特異性グループの同定には GLIPH (grouping of lymphocyte interactions by paratope hotspots) アルゴリズムを適用した。
全外現子体シークエンスおよびバルクTCRシークエンス: 腫瘍組織およびマッチした末梢血単核細胞 (PBMC) からゲノムDNAを抽出し、Personalis 拡張エキソームプラットフォームを用いて WES を実施した (平均カバレッジ 110倍)。体細胞一塩基変異の検出には Mutect2 を使用した Cibulskis et al. NatBiotechnol 2013。HLAタイピングおよび pVAC-seq を用いたネオエピトープ予測 (MHC結合親和性 < 500 nM かつ野生型 > 500 nM) を実施した。また、腫瘍組織および末梢血から抽出したDNAを用い、Adaptive Biotechnologies 社の immunoSEQ プラットフォームを用いて TRB (TCR β鎖) 領域のディープバルクシークエンスを実施した。
統計解析: 遺伝子発現の差分的解析には DESeq2 を使用した Love et al. GenomeBiol 2014。TCRクローンの治療前後での有意な頻度変化は、Fisher’s exact test、二項検定 (binomial test)、または Student t-test を用いて評価した。なお、本研究はヒト臨床検体を用いたトランスレーショナル研究であり、特定の細胞株 (A549 や H1299 など) やマウス系統 (C57BL/6J や BALB/c など) を用いた in vitro/in vivo 実験は実施していない。